表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第一章】私とトウフと寿命がない
2/21

【第一章】私とトウフと寿命がない【二話】

 昨日のあの奇妙な子供はなんだったんだ。

 私は帰る道すがら考えるが答えは出ない。


 出るわけもない。


 昨日、出会った人間かどうかも怪しい子供のことを考えて、今日も弁当とスイーツ、それと酒が入ったコンビニ袋片手に今日も帰路についている。

 ついでに、今日のお弁当は生姜焼き弁当だ。

 もう日付が変わるどころか、もうすぐ二時間経とうという時間だけれども、今日も昼食を食べる暇なんてなかったんだよ。

 こっちはお腹減ってるんだよ。糖分が、脂肪分が、栄養が、エネルギーが、まったく私には足りてないんだよ!


 そう言えば、昨日はこの辺であの豆腐を持った子供に……

 あっ、今日もいた。

 同じ場所に居た。

 やはり同じ格好だ。

 昨日と同じ格好のままだ。


 どう考えても人間じゃないよな。

 なら無視して帰ろう。

 それがいい。

 仮に人間の子供だったとして、通報することになるだろ?

 その後、警察のやり取りがあるだろ?

 そしたら、家帰るの三時過ぎに確実になるだろ?

 これ以上睡眠時間削られたら私が死ぬんだよな。


 うん、どちらにせよ、無視無視。

 他人に関わっている余裕はないよ。


 私は無視してその子供の前を通る。

 皿に乗った豆腐を大事そうに持っている。

 そういえば、そんな妖怪がいることを聞いたことがある。

 確か、豆腐小僧とか言う、豆腐を持っただけの妖怪だっけか?


 そんなことを考えていると、昨日と同じく声を掛けられる。


「あの…… お姉さん、と、豆腐の角に頭をぶつけて死んでくれませんか?」

 そう言われた私は思わず、ブッと噴き出してしまう。

 随分と少年らしいかわいらしい声だ。

 まだ声変わりもしていない、そんな声でだ。

「それ、死ねない例え、いや、馬鹿にする表現だったような? 馬鹿にしているのか? 私の事?」

 そう考えると、こんな少年に馬鹿にされたのかと思うと、頭にくるものがある。

 ひどい目にあわすぞ、少年。まあ、妄想の中だけだけどな。

 私ももう大人なんだ。

 子供相手に暴力を振るう様な人間じゃないんだよ。


「い、いえ、そんなことは…… なくて、ボクには豆腐しかないので……」

 豆腐しかない?

 いや、まあ、ビジュアル的にわからなくもないが。

「おまえ、もしかして妖怪の豆腐小僧って奴か?」

 思いついたことを聞いてみる。

 というか、見た目的には、それしか思い浮かばない。

 そうすると、その子供というか少年というか、それは、顔をパッと明るくさせる。

 あっ、かわいい顔しやがって、何だこの生き物は。

「は、はい! そうです! 豆腐小僧です!」

 そう言ってくる豆腐小僧に、ちょっと胸をキュンキュンしながら考える。

 豆腐小僧と言うことは妖怪だ。

 妖怪ってことは人間じゃない。


 つまり、人権はない。


 連れて帰っても犯罪じゃないんじゃないか?

 いやいや、人としてダメでしょう? やっぱり脳みそに栄養が届いてないなー、お腹にはダイレクトに届くと言うのに。


「あー、やっぱり人間じゃないのか。妖怪って、本当にいるもんなんだな」

 連れて帰らない、そのことを選択した私の感想はそんな物だった。

 それ以外の感想は頭に浮かんでこない。

 妖怪に出会えたということよりも、早く家に帰ってご飯を食べて寝たい、そう思ってしまう。

 そんな事しか頭の中に浮かんで来ない。

 私も大分壊れているよな。

「最近では色々と追いやられて大変なんですよ」

 豆腐小僧はそう言って悲しそうに上目使いで私を見て来る。

 なんだよ、こいつ。

 ペットショップの子猫か子犬かっての。

 か、かわいいな、畜生。

 でも、ペットを飼う余裕はないよな、流石に。


「あっ、そう。私も大変なんで他の人をあたってくれ」

 そうだ。

 ペットを飼う余裕は私にはない。

 というか、自分の事すらまともに管理出来ていない。

 他人どころか妖怪の世話なんてしている暇は私にはないんだ。

「は、はい…… ご迷惑をおかけしました」

 私がそう言うと、豆腐小僧は泣きそうな顔をして頭を下げてそう言った。

 悪い奴じゃなさそうだが、私もギリギリなんだ。

 他の人を当たってくれ。

 私はまだ死にたくはない。

「じゃあ、そう言うことで」


 なかなか素直で悪い奴じゃなさそうだ。

 それだけに私の脳内で豆腐小僧が色々とされてしまう妄想がはかどってしまう。

 何も知らない純情な少年が…… んー、相手は誰が良い?

 先輩か? 先輩から熱烈に求められて、断り切れずにっていうパターンか?

 人間の男? それとも妖怪の男? どっちだ? どっちがいい?

 豆腐小僧の外見はほぼ人間だしな。

 異形の妖怪とかもありか?

 いやいや、王道に美青年的な先輩の方が良いか?

 人間の学生あたり? それとも、おじさん…… いや、どうなんだ? ダンディーなおじさんならありか?


 とりあえず、明日もこの妄想だけで仕事を頑張れそうだな。

 少しだけ活力が湧いて来たぞ!

 

 けど、妖怪? 妖怪かぁ、幽霊は信じてないが、妖怪は……

 もっと信じられねぇーよ。

 なんだよ、妖怪って。

 私、疲れているんかな。

 まあ、疲れているよなー、毎日、終電まで仕事漬けだもんな。

 連休で休みたいけど、今週も土曜出勤なのは確定なんだよなぁ、何だよ、それ。

 せめて振替休日を寄こせよぉ……


 先ほど会話をした豆腐小僧が私の妄想が生み出したものなのか、疲れてて幻を見たのか、どちらにせよだ。

 妖怪なんてこの世にいる訳ない。

 存在なんてするわけがない。


 だから私は帰路を急ぐ。

 温めてもらった弁当が冷える前に。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ