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【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第二章】私と傘と美脚でハイヒール
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【第二章】私と傘と美脚でハイヒール【十七話】

「なあ、カラカサ」

 私はそう言ってカラカサを見る。

 相変わらずの脚線美だ。

 ストッキングもハイヒールも良く似合っているし、本人も気に入ってくれている。

 だが、だがな、ここは室内なのだ。

 しかも、カラカサは一本足しかない、唐傘の妖怪なのだ。

 結果、歩くとき、ケンケンのように飛び跳ねる。

 室内で、ハイヒールを履いてだ。

 正直、やめてほしい。この部屋は賃貸なんだ。

「なんでありんすか?」

 と、カラカサは私が怒っていることは理解できても、理由は理解できない。

 当たり前だ。

 相手は、カラカサは妖怪なんだから。

 妖怪が敷金のことを知っていたら逆に怖いよ。


「部屋の中でハイヒールを履くのはやめてくれないか?」

 なので、私は怒りながらも優しい口調でそう言ってみる。

「あちきは大変気に入ったのでありんすが、似合いんせんか?」

 そう言われたカラカサはその一つしかない眼で自分の足元を、悲しそうな目で見ている。

「いや、似合ってるよ。物凄く似合っている。私なんかよりも似合ってるよ。だが、だがハイヒールで部屋の中をケンケンで飛び跳ね周れるとな、色々と困るんだよ」

 まず床を傷つけちゃうよね。

 あと、騒音もな。この部屋は二階だし。

 あれ? 下の階人住んでたか? 覚えてないな。


「そうでありんすか」

 そう言って、カラカサは少し残念そうな表情を見せる。

 いや、分かっている。

 わかってるよ?

 少しの間だが、共に生活して来て、おまえが気遣いのできる優しい奴だってことは、私には理解できているんだ。

 だが、それとはまた別問題なんだ。


「履かせたのはカズミさんじゃないですか、カラカサさんがかわいそうですよ。こんなに気に入っているのに」

 そこへトウフが参戦してくる。

 そんな怒った顔で見ないでくれよ、トウフ。

 いや、カラカサの面倒を見ろって言ったのは私だが、今、面倒見なくて良いんだよ。

「いや、まあ、そうなんだけどな。この部屋は借り物でな傷つけると敷金がな……」

 敷金が返って来ないんだ。

 そんなこと妖怪には理解できないんだろうけどもな。


「ようわからねえでありんすが、ならしかたねえでありんすね」

 そう言ってカラカサは残念そうにハイヒールを自ら脱ごうとする。

 ただ、カラカラには手がないので、脱げはしないけども。

 それを見かねたトウフがカラカサからハイヒールを脱がしてやる。

 うんうん、よく面倒見れてるじゃないか。


「そのうち部屋用のサンダルを買ってやるから。ほら、こういう奴を」

 そう言って適当に検索したスマホでサンダルの画像を見せてやる。

 室内サンダルで検索した割にはお洒落な奴で、足首のところで足を固定できる、足が一本しかなくケンケンで移動するカラカサでも平気そうなものを選んで見せる。

 ついでに足首を止めるところに花の飾りがついている。

「これもまた素敵な履物でありんすね」

 それを大きな一つ目で見たカラカサは、うっとりとその画像を見る。

 気に入ってはくれたようだな。

 その画像が通販サイトのだったから、そのままそのサンダルを購入。

 少々高かったが、私の貯金はたまってた一方なので、余裕はまだある。


「確かにこのハイヒールって奴はかかとがとんがってますもんね」

 ハイヒールを脱がしたトウフはヒールの部分を見てそう言った。

 ある意味凶器だよな。

 視線をカラカサに戻すと、ふと気づく。

「けど、こうやって見ると、傘の部分がスカートに見えるな」

 カラカサの傘の部分がスカートに見えなくはないのだ。

 特にストッキングを履いている今、余計にそう見えてしまう。


「スカートとは何でありんすか?」

 ただカラカサはそんな事も知らない。

 知ってたら逆に嫌だが。

「えっと待ってな。これこれ」

 スマホで新しく画像を検索して見せたやる。

「ああ、人間がよう着ている召し物のことでありんすね」

「確かに、この画像のとよく似てますね」

 トウフもスマホを覗き込んできて同意する。

 ついでに見せたのは紺色の制服を着ている女子高生の画像だ。

「これは学生がよく着ているスカートだよ。縦の折り目が傘の骨組見たいだろ?」

 色は違うが見た目はそれなりに似ている。

 遠目で見れば…… だけど。


「確かに。あちきの傘もそう言う風にできねえでありんしょうか?」

 ただ、カラカサとしてはそちらに乗り気のようだ。

 流石花魁が使っていた唐傘。

 お洒落が好きなのかもしれない。


「え? その傘はカラカサさんの正体ですよね? そんな事して平気なんですか?」

 トウフは心配そうに唐傘に話しかける。

「どうせ儚いこの身、ならば好きなように生きとうござりんす」

 儚い? 儚いのか?

 確かトウフは江戸時代とか言ってたよな、生まれたの。

 カラカサはそれよりも先輩って話じゃなかったけか?

 どこが儚いんだよ。


「儚いって、トウフよりも先輩なんだろ? そんなことよりも絵具、いや、油性のインクの方が良いのか? それを上から塗ってみたら?」

 どの程度弄って良い物なんだ?

 相手が妖怪だけにまるで判断が付かないよな。

「上から服みたいに着たらどうなんですか?」

 一瞬、なるほど、とそう思ったけど、目も口もある相手にそれはどうんだ?

「それだと、目と口がふさがるだろ」

 そう言いつつも、目と口の部分だけ丸く穴を開けるのか? と想像してみて笑ってしまう。

 でも、マントを羽織るように前だけ開けておくのはありかもしれない。


「ああ、そうですね」

「というか、これ紙だろ? 張り替えたらまずいのか?」

 恐らく唐傘の傘の部分は紙製だ。

 これであの豪雨の中、自分をさせとか言ってたのか?

 自殺行為じゃないのか?


「まだあちきが妖怪ではのうござりんしたころ、何度か張り替えたことはありんすが」

 それに対してカラカサはそんな事を言っている。

 もしかして張り替えたいのか?

 いやいや、おまえの目と口があるのはその傘の部分だろ?

 張り替えて良いもんなのか?


 わ、わからん、お洒落はさせてやりたり気はするが、傘を張り替えるのはどうなんだよ?

 妖怪ってわかんねぇー、わかるはずもないか。







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