【第二章】私と傘と美脚でハイヒール【十六話】
しかし、なんだ。
このカラカサの足、いや、神の脚線美は。
そこはかとないエロスを醸し出しつつも、芸術品のような優美さを持っているぞ。
なんか本当に一種の芸術品だな、ここまでくると。
飾りとして優秀かもしれないが、私の部屋には不釣り合いなくらいだよ。
まあ、足だけなんだけも。
「うーん、なんでこんな綺麗な脚線美なんだよ」
自分の足と見比べてみる。
比べると少し悲しくはなる。
だって、相手は傘の妖怪だぞ?
それに脚線美で負けるってなんだよ。
「わかりんせんが、今は心がときめいてやす」
一つしかない目を輝かせてカラカサは嬉しそうにそう言った。
こうなってくるとこの一つ目に付けまつ毛とかしたくなるな。
こんなでっかい一つ目に合う付けまつ毛なんてあるか知らんけど。
目が野球ボールくらいの大きさだぞ。
それと口。どうなってんだよ。
ラーメンを食べて、裏側から出てこないと言うことはこのペラペラの傘の中に胃があるってことだよな。
いや、まあ、妖怪に常識を考えても意味はないか。
トウフだって無からトウフを作り出してるんだし、気にするだけ無駄だよな。
「そりゃ…… よかったな。いや、良かったんか? まあ、トウフが面倒を見るんだぞ」
まあ、ペットみたいなもんよな。
うんうん、それに妖怪の飼い方なんて私にわかるわけないし、トウフに全部放り投げよう。
「え? ボクがですか?」
と、トウフは驚いた顔をしている。
「なんだ、嫌なのか?」
「あっ、いえ、ボクからしたら唐傘さんは先輩なので……」
カラカサの方が先輩なのか。
トウフの先輩…… 先輩…… か。
いや、ダメだ。足しかないし、しかも、脚線美的にカラカサは女に思えてしまう。
それじゃあ、私の妄想ははかどらんのよ。
どこかにちょうどいい相手はいないもんかね?
トウフにあう様な、美少年の妖怪が!
まあ、とりあえず、その辺の話は一旦考えないことにしよう。
「で、えーと、なんだっけ、キミら妖怪連合とか言うところを抜けるんだっけ?」
そんな話だったよな。
危険な団体じゃないよな? 妖怪に襲われる様な事は勘弁だぞ。
「はい、ボクがいても仕方がないですし」
確か人を怖がらせるための集まりだったっけか?
トウフに人を驚かせるとか無理だろ。
ただの純粋無垢な少年だぞ、ついでに心優しく、割と美少年だぞ。
「あい、そもそもあちきは時代に合いんせん」
うん、まあ、だよな。
今時、唐傘なんてもの自体が珍しいもんな。
出現場所自体が限られるよな。
人を脅かすにしても無理があるよな。
「確かにな。トウフはただただ愛くるしいだけだし、今更、唐傘とか言われてもなぁ」
「愛くるしいだけ!?」
私の評価に、トウフは不満がある様な顔をしている。
いや、トウフ。おまえは愛くるしいだけだぞ。
「せめて、あの明るいコンビニで売られているようなビニール傘でありんしたら」
「ただのスケスケ足になるだけじゃないか。エロさしか上がらないぞ」
確かにそれならありふれているから活躍の場はありそうだけど……
この脚線美でコンビニのビニール傘のような透明な傘になったら、あれだよ。
なんかエロいし犯罪になるよ。
驚かした後、我に返ったなんかそっちのマニアな人にお持ち帰りされるって!
あれ? お持ち帰りしたのは私か?
「そうでありんすか」
「ああ、まあ、もういいよ。うちに居なよ。妖怪が一匹二匹増えたところで変わらないからな。その代わり悪さするなよ?」
こんな奴らの集まりだろ?
妖怪連合ってところも大したことないよな。
うん、そもそも人を恐れさせられない妖怪の集まりだもんな。
「感謝いたしんす」
そう言ってカラカサは器用に傘の分を下げて、お辞儀して感謝を伝えて来る。
中々律儀な奴だな。
けど、一応調べておくか。
「そもそも唐傘お化けって何する妖怪なんだ? 調べてみるか……」
「そのスマホっていうの凄いですよね、なんでも調べられます」
私が唐傘お化けについて調べ出すと、トウフも私の隣に寄って来て、スマホを覗き込んで来る。
カラカサだけはスマホの存在がわからないのか、きょとんとした目をしている。
だが、調べ出したことで私に衝撃が走る。
「あっ、唐傘お化け、別名唐傘小僧!? お前、男じゃないか!」
男!? しかも、小僧!? おまえもショタだったのか!?
それ何この美脚!?
女装男子ってことだろ?
トウフの相手は女装男子だったってことか!?
これは…… ありよりありか?
私が内心スンスンと盛り上がっているところを、
「いえ、あちきの持ち主は花魁でありんしたので」
と、言うカラカサの言葉が突き刺す。
それと同時に冷静にもなる。
「あー、だから、そんな言葉遣いなのか。じゃあ、女物の傘だから性別も女なのか?」
でも、こいつの花魁言葉? なんか胡散臭いよな。
聞きかじりだからか?
「わかりんせん」
と、少し悲し気にカラカサは返事をする。
本当に自分でもわからないんだな。
本人的には女が良さそうな感じはしているが。
「まあ、足だけ出しな。でも、その足はどう見ても女だよな。男のなら…… トウフ、おまえの足も見せて見ろよ」
そうなんだよな。
足だけだけど、その足が完成された女の脚線美なんだよ。
トウフのと見比べてみるか?
「え? はい、どうですか?」
そう言ってトウフは半ズボンから生える白い綺麗なあんよを私の前に投げ出す。
これもまた美しい足だ。
少年の、まだすね毛の生えていない、美しい足だよ!
んー、でも、トウフは子供過ぎて脚線美もなければ男女の違いもまるでない。
参考にはならんな。
「あー、だめだ。トウフだと子供過ぎて男女の区別がそもそもないな」
「そもそも妖怪に性別なんて意味ないですよ」
と、トウフは少し不満そうにそう言った。
「そうなのか?」
雌雄同体なのか? それとも無性なのか?
「はい、伝承によってコロコロ変わるので」
「そんなもんなんか、妖怪って」
なるほど。
伝わる話によって、その正体までもが変わっていくのか、妖怪って……
なら、カラカサは美少年だとそう言う伝承を流せば……
いや、無理だ。この美脚だぞ。
噂を流すにしても絶対女ってことになるだろ。
「あちきは付喪神で物に縛られんすが、あんさんは肉体に縛られはしんせんから」
カラカサはそう言って一つしかない瞳でトウフを見つめる。
なるほど?
カラカサは花魁の使ってた唐傘そのものが妖怪化したもんなのか。
あれ? でも、トウフも似たようなもんだよな。
「でも、トウフの正体はその皿だろ?」
私がそう聞くと、トウフは驚いた顔を見せる。
「え? 何で知っているんですか!?」
バレてないと思ってたのか……
「いや、だって豆腐の方は食っても出て来るし、皿を後生大事に抱えてるし、トウフの肌が白くて綺麗なのも皿由来だろ?」
「そ、そうですけど…… なんか最後のだけちょっと気持ち悪いです」
「グッ…… その言葉は私に深く刺さるからやめてくれ……」
トウフのような純粋無垢な奴に気持ち悪いとか言われると、心に来るものがある……
「す、すいません…… カズミさん」
私が想像以上に、トウフの言葉が心に深く刺さっていると、トウフも慌てて謝って来た。
本当にかわいい奴だな、トウフは。