【第二章】私と傘と美脚でハイヒール【十三話】
言ってしまった手前、私はこの妙に艶めかしい足を持つ唐傘お化けを家に連れて帰らなければならない。
うーん、どうしたもんだろうか。
まあ、あまり深い事は考えないでいいか。
今はあれだ。深く考えず適当に生きよう。
悩んで死相が濃くなりでもしたらたまったもんじゃない。
とりあえず、この艶めかしい傘を持って帰ってから考えよう。
なんか悪さをするようなら捨てればいいし。
近くに色々買い取ってくれるお店あるし、あそこに売ろう。
「どうしたんですか? カズミさん? 早くしないとまた雨降ってきそうですよ」
私が少し考え事をしていたせいで、トウフが心配して私の顔を覗き込んでくる。
心配そうな顔もかわいいな、おまえは。
「そうだな」
また雨が降ってきたら大変だもんな。早く帰ろう。
この唐傘は傘のくせして、役に立ちそうにないしな。
「そのときはあちきを使っておくんなんし」
ただ、唐傘自身は自分に傘としての自覚があるのかそんなことを言ってくる。
いや、無理だろ? まともに傘としてさせる物じゃないだろ?
「いやだから、使えんだろ? どこをどう持てと?」
足首でも持てっていうのか?
どんな握力を私に期待してんだよ。
「足を優しゅう持っておくんなんし」
なんか嫌だな。
実際、この唐傘を傘として使うにはどうすればいいんだ?
足を肩にかけて、かかとを手で持つくらいか?
それも嫌な構図だな。
まあ、小脇に抱えて帰るか。
「いやだよ。まあ、とりあえず脇に抱えて帰るか」
「それでもかまいんせん」
構わないのか。
まあ、今は雨降ってないしな。
けど、こいつ裸足なんだよな。
「というか、靴というか、下駄か? 下駄とか履いてないのか?」
私の記憶では、大体唐傘お化けって下駄履いてたよな。
「あちきには似合いんせんので」
うーん? まあ、似合わないな、下駄。
足袋? それも違うよな。着物着たとき履く様な奴だよな。あれなんつったかな。
成人式の時くらいしか私は履いたことないぞ。
「まあ、確かに。ハイヒールとか似合いそうな足してるもんな。凄い脚線美だ」
逆にハイヒールとか似合いそうだよな。
家に持ち帰って履かせてみるか。
うわ、似合いそうだな。
「カズミさん、ハイヒールってなんですか?」
トウフはそう言ってぽかんとした顔をしている。
まだ早いよ、うん、トウフには早い。
「ああ、ハイヒール…… あちきのあこがれでありんす」
コイツはコイツで憧れがあったのかよ。
なんだよ、妖怪って……
こんな奴らばっかりなんか?
「一応、私もいくつか持ってるから、家帰ったら履かしてみようぜ! きっと似合うぞ! ストッキングとかも履かせようぜ!」
あ、なんか楽しくなってきたぞ。
あれだよな。美人の友達を着せ替え人形に出来るときの楽しさにちょっと似てるな。
この唐傘は足だけだけどな。
でも、まあ、脚線美だけ見るならモデルと遜色ないよな。
凄い脚線美だ。
「なんと光栄な事でありんしょうか」
そう言っている唐傘も傘の部分が見ようによってはスカートに見えなくもない。
いや、流石に無理があるか。
けど、妖怪もお洒落に興味があるのか。
「なんだ、お洒落に興味があるのか?」
「あい、ありんす」
そうか。
妖怪もお洒落に興味があるのか。
うーん、なんだ、この微妙な感じは。
「カズミさん、なんの話をしてるんですか?」
相変わらずトウフはわかってない。
まあ、いいさ。
トウフ、なんせおまえは無知シチュの方が似合うからな。
「とにかく帰ろう、少し楽しみになって来た」
なんだろうな。ここまでの脚線美を見ると飾り付けたい欲が出て来るな。
「あちきも楽しみでありんす」
唐傘も楽しみにしている。
でも改めて、傘に目玉一つと口だけってデザイン、不気味だよな。
さらに足が生えてるし。
「よし、トウフ…… あっ、その前に唐傘、おまえもなんか食うか?」
「あちきでありんすか?」
一つ目できょとんとされても、トウフのように可愛くはないな。
「一応口はあるんだし食えるんだろ? まあ、ラーメンでいいか。追加で買ってくるから、トウフと一緒にここで待ってろ」
そう言って私は持っていたラーメンが入っているビニール袋をトウフに手渡す。
「はい、わかりました!」
トウフはビニール袋を持って嬉しそうに返事をした。
ささっと追加でラーメンを買ってきた私は、それもトウフに手渡す。
「よし、帰っぞ! ラーメンはトウフが持てよ。私は唐傘を運ぶから」
改めて、唐傘お化けを見る。
唐傘の部分は大した重さはないだろうけど、右足一本分の重さは間違いなくありそうだ。
結構重いんじゃないか?
「あちきは歩けんすえ?」
と、唐傘は言ってくるが、
「その美脚の生足で歩くなよ。怪我でもしたら価値が下がるだろ」
そう、こいつ裸足なんだよな。
それに片足だけでピョンピョン跳ねられてついて来られてもだな。
それを近所の人にでも見られたら、どんな噂をたてられるかわかったもんじゃないよな。
「価値とは?」
そりゃ、うっぱらった時の価値だよ。
いや、私も売る気はないよ?
でも、コイツが悪い奴だったら、そりゃ、もう売るしかなよな?
脚線美的に結構高く売れるよな……
流石に売れないか?
そもそも売って良い物なんか?
「良いから良いから、こうやって小脇に抱えれば…… 夜だし目立たないよな? 変じゃないだろ?」
私はそう言ってとりあえず唐傘お化けを抱えてみる。
多少重いが思っていたほどでもない。
「後ろから見ると、足が丸見えですよ」
トウフがそんな事を伝えて来る。
それに対し、唐傘が、
「おまえさん、覗かねえでおくんなんし」
そう言って恥ずかしそうにしている。
やっぱりその傘の部分、スカート的なもんなのか?
「最初におっぴろげていたのに今更何言ってんだよ、雨が降る前に帰るぞ」
とりあえず雨が降り出したら面倒だし、帰るか。
家に帰ってから色々考えよう。
「はい!」
トウフは妖怪仲間が増えたからか、少し楽しそうだ。
その笑顔だけで私は満足だね。




