表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【徒然妖怪譚】私とトウフの奇妙な共同生活  作者: 只野誠
【第一章】私とトウフと寿命がない
10/38

【第一章】私とトウフと寿命がない【十話】

「美味しかったです! スキヤキ、噂通りのおいしさですよ!」

 トウフは部屋に帰って来ても、目の輝きは衰えずにすき焼きの美味しさを語っている。

 ファミレスのすき焼きだぞ。まあ、確かにうまかったけどな。

 ただ、ここまで喜んでくれていると、おごった私としてもなんだかうれしくなる。

「まあ、確かにたまに食うには良いもんだな」

 トウフを見ているともっと高級なすき焼きを食わしてくれる、料亭とか? に連れて行きたくなるな。

 まあ、流石に高いだろうから、そう簡単には連れてけないけどな。

「さて、風呂でも…… トウフ、お前、風呂はどうする?」

 なんだかんだで疲れたな。

 今日は、退職願出して来ただけだけど、安心したせいか、どっと疲れが出て来たな。

 死相も完全に消えたわけじゃないし、今日はもう風呂入って寝るか。

「え? お風呂まで良いんですか!」

 トウフはそう言って目を輝かす。

 そうか、妖怪だもんな。妖怪って普段風呂とか入らないのか?

「湯豆腐になったりしないか?」

 私がそう言ってからかうと、

「だから、ボクは豆腐じゃないですよ! トウフって名前を貰いましたけど!」

 と、少し怒りながらも、トウフという名前を気に入ってるのか嬉しそうに言ってくる。

 こうしてみていると、ただの子供だよな。やっぱり。

 でも、トウフが豆腐を出すところ見たんだよな。

 あれは人間じゃできないよな。


 ん? いや、待て。

 今はそんな事はどうでもいいんだ。

 トウフは風呂に入ったことがない、風呂初心者ってことだ。

 これは、風呂の作法という奴を、誰かが、そう、例えば、私が教えてあげなければならないってことだよな?

「そうか。じゃあ、一緒に入るか? 入り方…… わからないだろ……」

 と、私はできる限り自然にそう言ったつもりだけど、顔がどうしてもにやけてしまう。

 いや、いやいや、わ、そう言う趣味は…… ないよ、ないはずだよ。

 妄想の中だけに留めているはずであって、実際に手を出すのは…… なんか、こう……


 でもさ、教えてあげないといけないじゃん? お風呂の入り方をさ。


「なんか顔が怖いです。そのスマホとか言う機械でなんでも調べられるんですよね。それを貸してください! 自分で調べます!」

 え? トウフ? コイツ、よく見ているな。

 大義名分がなくなった私は、いや、我に返って欲望がしぼんでいく。

 もう、舌打ちをするしかない。

「チッ、ほらよ。じゃあ、私が先に入ってるからな。覗いてもいいし、一緒に入りたくなったら言えよ」

 スマホをトウフに投げて渡す。

 そして立ち上がり、脱衣所へと向かいながら声を掛ける。


 多少なりとも照れてくれるかと思ったが、トウフは手渡したスマホに夢中だ。

 色々といじくりまわしている。

「一緒には入りません! これ、どうやって、こう? こうかな?」

 壊さないでくれよ。

 でも、まあ、仕事を始めてから自分名義で契約したスマホだから、たいしたデータも入ってないんだよな。

 好きにいじり倒していいぞ。

 見られて困るデータもないからな。


「あっ、服はまとめて、このカゴに入れといてくれよ、明日、洗濯しとくから」

 私は脱衣所に置いてあるカゴをトウフに見えるように、脱衣所から出して振って見せた。

 この時、私は既に半裸であり、カゴの中には脱いだ服も入っていたのだが、トウフは全く気にしていない。

「はい! わかりました! なるほど、これをこうして…… ここに文字を……」

 スマホに夢中のようだ。

 本当に、お姉さん相手に子供がドキドキする展開ってあるんか?

 まあ、トウフは見るからにエロガキじゃないもんな。そもそも妖怪だし。




 なんだかんだでトウフは一人でお風呂に入って行った。

 一応、心配、という大義名分で脱衣所から話しかけてみてたが、邪魔者扱いされてしまった。

 その後、トウフも寝間着というか、部屋着を兼ねたジャージに着替えさせる。

 その間に、布団を引いて置く。


 トウフは布団の上でスマホを興味深そうに弄り回している。

 既に操作方法は大分マスターしているらしい。学習能力は高そうだな。

「で、そろそろスマホ返してくれないか?」

 と、声を掛けると、トウフは素直にスマホを返してくれる。

 なんて聞き分けの良い子だ。

「あっ、すいません! でもすごいですね、本当になんでも調べられます!」

 そう言って、トウフは目を輝かせている。

 本当に素直でかわいいやつだな。

「予想外だった。ここまでスマホをすぐに使いこなせるとか……」

「あ、この寝間着もありがとうございます! お揃い? ですか?」

 今は私もトウフもジャージ姿だ。

 トウフが着ているのはファッションショップしまおかで買ってきたやつだが、私の着ているジャージは高校時代のものだ。

 なんか着心地が良くて、大学時代も、就職してからも部屋着として使ってしまっている。

 お揃い、というわけではないが、多少似ているかな?


「寝間着というか部屋着も兼ねたジャージだけどな。うーん、やっぱり下は短パンにしておけばよかったか? まあ、セット物なんで仕方なかったけども。いっその事ブルマとか履かせてみるか?」

 ちょっとだけトウフのブルマ姿を想像してみる。

 あっ、なんかいいかも。

 私もブルマなんて履いたことないんだけど。

 トウフは絶対に似合うぞ。


「なんか良からぬことをブツブツと言ってませんか?」

 私がにやけ顔で言ったことに対し、トウフは冷ややかな目を向けて行ってくる。

「いや、まあ、気にするな。でも、着やすいだろ?」

 私はそう言ってごまかしつつ、トウフをどうにか女装させられないものかと考える。

 トウフなら似合いそうだぞ。

 トウフが現代の知恵をつける前にどうにか騙して女装させるか?


「はい、とっても柔らかくて動きやすいです!」

 そう言って、トウフは体を捻るように動かしている。

 だからだろうか、腰のあたりから、紐のような物が飛び出している。

「ん? 紐が出てるぞ?」

 そう言って私は手を伸ばす。

「え? あっ、こ、これは……」

 トウフが白い顔を真っ赤にさせて慌てて、その紐を隠そうとするが、私は既にその紐を掴んでいる。

 これは…… ふんどしの紐か?

 それをひっぱるとトウフが顔を真っ赤にして黙り込む。

 なんて、かわいい表情を見せてくれるんだ、おまえは!


「おまえ、ふんどしなんか履いて! それ今まで着てたたやつだろ? 洗ってやるから籠に入れて来いよ、替えのパンツも買ってやっただろ!」

 いや、ふんどしか。ふんどしも悪くはないが、今は白ブリーフだ!


「だ、だって、どうも…… その…… は、履きなれなくて……」

 まあ、そりゃそうか。

 でも、ダメだ!

 私はこう見えて綺麗好きなんだ。

 部屋だって、なんだかんだで綺麗に使っているんだ。


「じゃあ、履きなれるまで履けばいいだけだろ! ほら、お姉さんが着替えさせてあげるよ、へへへっ……」

 と、私はふざけてそう言ってトウフに襲いかかる。

「ヒィ! じ、自分で、着替えます! 着替えますから!!」

 そう言ってトウフは逃げるように脱衣所へとかけていった。

 本気で怯えてるな、あれは。

 やりすぎちゃったか?


 私も、少しやりすぎたと反省しながら、脱衣所にむかい声を掛ける。

「そうだぞ。子供は素直なのが一番だぞ」

 そうすると、

「素直なのと違いませんか? カズミさんは言う事聞かせたいだけですよね?」

 と、反論される。

 正論で返すのやめてくれないか。

 お前がそう言う事言うなら、こっちだってこうだぞ。

「なんだ、トウフ。私の金ですき焼き食べて、服まで買ってもらって、そんな口を利くのか?」


 そうすると、トウフはしばらく黙り込み、少しだけ涙声で、

「うっ、ず、ずるいですよ! そう言うの!」

 と、返して来た。

 所詮、この世の中は金よ。金持っている方が強いんだよ、トウフ。

 ふざけるのはこのくらいにして、寝よう。私がもう眠い。

 夜ご飯食べた後、大体風呂入ってすぐ寝てたからな。

 飯食って風呂入ると、眠気がな。

「まあ、古い服を着っぱなしはよくないぞ。早く着替えて来いよ」

 真面目にそう声を掛けて、私は布団の上にに横になる。


 そう、一つしかない布団の上にな。


 トウフが着替えて出てきたところで、私は、わざとらしく、

「よしよし、うーん、というか布団が一つしかないなぁ」

 と、声を上げる。

 そうすると、トウフは少し遠慮したような顔をして、

「あの、ボクは妖怪なので……」

 そう言った。


「だからって、子供に布団を使わせないとか、できるわけねぇだろ? 今日だけだぞ、一緒に寝てやるからな」

 そう言って掛布団をめくりトウフを誘う。

「いや、ボクはこう見えて、カズミさんよりも年上なんです!」

 まあ、妖怪だしな。

 妖怪なんだよな? うーん、未だに信じられん。

「すき焼きごときで、あんなにはしゃぐのが年上なわけないだろ? 見た目も精神年齢も私より下だろうに」

 だよな。

 まあ、私からすれば見た目が全てだから、どうでもいいことだけどな。


「そ、そう言われるとそうかもしれませんが……」

 クククッ、そうやって言いくるめられていくといい。

 そして、私はトウフを脳内で…… 相手は誰にするかなー

 仕事が忙しすぎて少し離れすぎてたかな? トウフにぴったりの相手が思いつかん。

 仕事場の男性陣…… うーん、今は思い出したくないな。


 そんなことを考えつつも、布団の前で立ちっぱなしの少し怯えたトウフはかわいそうなものがある。

 まあ、私はかわいそうはかわいい、と思うタイプだけどな。

「安心しろ、私に直接手を出す趣味はないから。明日にはトウフの布団を一緒に買いにくぞ」

 それはそれとして、もう眠い。

 今日は妄想する間もなく寝てしまいそうだ。

「は、はい……」

 トウフは私が眠そうにしているのを察してか、おずおずと布団の中に入り込んでくる。

「なんだかんだで、今日も疲れたし、もう寝るぞ」

 そう言って、リモコンで部屋の電気を消す。

「はい」

「ほら、ちゃんと布団に入って」

 トウフが布団の中で私から離れようとするので、

「こうですか…… って、なんで抱き着いてくるんですか!」

 私は無理やりトウフを抱き寄せる。

 風呂上がりのトウフはちょっといい香りがする。

「一人用の布団だしな。トウフ、お前抱き心地が良いな。妖怪なのにぬくもりあるんだな」

 そんなことを私は口走りながら、すぐに夢の世界へと落ちていく。

「え? えぇ!!」

 慌てているトウフの顔を見たいが、瞼が重すぎる。

「じゃあ、おやすみ……」

 と、だけ言って私は眠りに落ちる。

 なんとなく今日はよい夢が見れる気がする。

「カズミさん? カズミさん? もう寝ちゃった……」

 そんな言葉が私の耳には届いたが、反応することはできなかった。


 まあ、こうして私とトウフの共同生活が続いていくわけよ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ