【第一章】私とトウフと寿命がない【一話】
私は…… なんなんだろう?
そう考えるときがある。
好きでもない仕事を朝から晩まで、それこそ終電までやり続ける。
もちろん残業代はつかない。
一応、みなし残業とか言う雀の涙ほどの金額が給料明細の項目に追加されるくらい。
それでも暮らしていくには仕事を続けなくてはならない。
終電で帰り、一時の休息の為に自分の部屋に帰る。
特に何もする時間もなく寝て、朝起きたら仕事へ向かう。
そんな生活をもう二年も続けている。
学生の時好きだった創作活動も、もうやっている暇も気力もない。
とはいえ、脳内だけなら今も現役なんだけどね。ははっ。
さて、コンビニに寄って夜ご飯を買って帰ろう。
食べて、お風呂に入って、寝る。
本当に、仕事以外ではそれだけの生活している。
休みの日?
土曜日は大体仕事で出勤。日曜日は目覚めるともう夕方で、ぼぉー、とテレビを見て、そして、寝る。
後は仕事、仕事、仕事、仕事、仕事……
本当にそんな生活を送っている。
なんで、そんな生活に耐えられているのかって?
そりゃ、同僚の男たちを脳内で絡ませて…… それを、それだけを活力源にして……
いや、まあ、そんな事はどうでもいい事で。
ああ、はい、私は俗にいうところのOLですが、隠れ腐女子って奴ですよ。
隠してはいるが否定はしてない、つもり。
と、夜ご飯、何食べようか。
甘いもの…… デザートは外せない。
後は…… カロリー、カロリーが欲しい。
太るとか痩せるとか、それ以前にカロリーが足りないんだよ!
頭にも、体にも。
そもそも、お昼だってまともに食べてない!
お昼を食ってる暇もないんだ。
夜くらい多少多めに喰わないとやってられないんだ!
あー、あと酒も飲もう。酒飲んで酔っているうちに寝ないと。
素のまんまで寝てもあれこれ考えて、疲れているのに寝れなくなるからな。
そもそも、いくら稼いでも、その金を使う暇すらないのだから、夜ご飯くらい多く食べても罰は当たらないよ。
と、言う訳で目についた甘いものを数点、それと唐揚げのお弁当を手に取る。
もうこれから帰ってこれ食べて寝るだけ、と考えると躊躇するんだけど、今日も忙しすぎでお昼を当然のように食べてないので手に取った弁当を棚に戻すことは私にはできなかった。
もう飢えていると言っても良いかもしれない。
豆腐がたくさん入ったゴーヤチャンプルの弁当も気になったけど、豆腐では今の私の欲望を満足させることはできやしない。
だから、私はこの唐揚げ弁当を選ぶ。
唐揚げとご飯だけ。
とってもシンプルな弁当だ。
おろしのタレもポイントが高い。
レジで温めてもらって、代金を払う。
コンビニスイーツ数点に唐揚げ弁当とお酒で、軽く千五百円を超える。
まあ、他にお金を使う場面もないし、高いとも思わない。
金は使えずたまる一方。本当になんで働いているかわからない。
でも、その使えない金で、今は私の欲望を少しでも満たしてくれれば、それだけでいい。
さてと、麗しの我が家、ボロアパートに帰りましょうね、暖めてもらった弁当が覚める前に……
そんなことを考えて、道をふらふらと歩いていると、真夜中に、もう十二時を過ぎるどころか夜中の一時も過ぎているような時刻だと言うのに視界に入る。
子供だ。
しかも、多分、普通の子供じゃない。
肌は白く綺麗。素足が出ている。そこはなにかとポイントが高い。
簡素な着物、単衣って奴だよね。
お腹に巻いた赤い帯だけがやたらと目立つ。
けど、白い素足は、まだすね毛が生えてない綺麗な足だ。
なによりも、おのこだ。
しかも、どこか中性的な男の子だ。
私的にポイントが高い。
ただ、頭の上で髪の毛をまとめている髷だけは微妙に思える。
そこはマイナスポイント。
後は、まあ、美少年の範疇にある。
いや、美少年というよりは愛くるし少年、愛嬌のある子供と言ったところかな?
少年と言うよりも子供と言うイメージの方が先に来るくらいの年齢。
ただ、人間かどうか怪しい。
そんな時代劇で見るような恰好の子供がこんな夜中にいるとか信じられないし。
だって、深夜に少年が道の隅に立っているんだぜ?
しかも、両手でお皿に乗った、あれは豆腐か? それを大事そうに持っている。
人間というには、ちょっと奇妙だ。
じゃあ、なに? 幽霊? 幽霊とでもいうの?
んなもんいんのかよ。いるわけないよな。
なら、やっぱり人間の少年か?
なんでこんな時間に? どうして?
まあ、どちらにせよ、私とは関係がないか、帰ろ帰ろ。
そんなことを考えて、その子供の前を通る。
「あの、お姉さん……」
白い少年に話しかけられた。
ちょっとドキッとしてしまう自分が嫌になる。
相手は子供だ。
いや、子供だから、別の意味でドキッとも、してしまったわけだが。
にしても、かわいい声だな。
「なに?」
少し距離を取りながら私はそう答える。
「あの…… その…… し……」
その子供は、なにか言い辛そうに、少し舌っ足らずで、私にたどたどしく話しかけて来る。
「し?」
まさか、してくれって?
いやー、中々かわいい顔しているが、私にそう言う趣味は大ありなのだが、実際にそう言われると、嬉しいより引いている自分がいるだよな。
意外と常識的なんだよ、私は。
妄想の中なら、ごちそうなんだけども。
それに私が、いうよりも、適切な相手がいるだろう?
この少年になら…… 誰が似合うか?
少し気が弱そうだし、先輩か、それとも、逆に年下のヤンチャな少年もありか……
少年の容姿をしっかりと脳内に刻み込んで頭の中だけで妄想させていただきます、それだけで私は十分です。
そういう訳で帰るよ、私は。
唐揚げ弁当も冷めてしまう。
後は、私の妄想に存分に使わさせていただきますので。
それだけで明日の仕事は乗り越えれるよ、ありがとう、人間かどうかも怪しい子供よ。
妄想の中だけに留めて、表には出すつもりはないから、許してね、と。
私はそう思って子供を無視し、歩くのを再開する。
「あっ、待ってください、し、死んでくれませんか!?」
その愛くるしい子供らしい声に似つかわしくない言葉で投げかけられる。
思わず私も足を止めてしまう。
死んでくれだって? やっぱりなんかやばい奴か?
「はぁ? 嫌だけど?」
けど、しっかりの自分の意見を言う。
最近会社に流されがちではあったが、私は嫌な物は嫌と言える人間だったはずだ。
会社でそれが言えればなぁ、でも、先輩たちも上司も、社長ですらギリギリの生活をしてるんだよな、あの会社。
もう潰れちゃえよ、と言いたくなるような会社だよ。
誰か一人でもギブアップすれば、そこですべてが破綻してしまうような、そんな会社なんだよ。
はぁ、なんであんな会社に就職してしまったんだか。
「そ、そうですよね、すいません……」
私がきっぱりと答えると、その子供は少し残念そうな表情を浮かべる。
死んでくれという割には、随分と簡単に引き下がる。
なんなんだ、この子供は。
まあ、私は無視して帰るんだけどな。
けど、これが私、森田和美とトウフの出会いだった。