荷馬車での帰路で
用意してもらった寝床から起きた。そして枕元のこれは、昨日苔むした場所で見つけた不思議な剣。
依頼にあった例の剣なのかもしれない。いや、地図の位置が違うから、違うものだとは思うんだけど。とにかく誰にも見つからないように持っていこう。
もしかしたらヤバいものかもしれないし。
私とユビキタスは、都に向かう行商人の馬車に乗せてもらっていた。
というのも、昼頃にはノルディニア村に戻り、必要なものを、お店が開いているうちに揃えておきたいから。
「ねえユビー、目的地まで、あとどれくらいかかりそう?」
「うーん、1時間くァい?」
「そっか。それなら、多分もうそろそろ、次の分かれ道で降りたほうがいいね。」
「ノゥディニァ村に戻ゥの?」
「そう。報酬はもらわなきゃ。」
「ね。」
馬車の荷台に乗せられて進む。お金がないのに無理を言って乗せてもらったのは、早朝のことだった。
「あのー、おはようございます。」
馬小屋で栗毛の馬をブラシで撫でているおじさんがいた。
「おお、おはよう!君は昨日大活躍だった冒険者だね!」
明日都に行くんだ、昨日の宴会でそう話していたのは、この人だった。
「それで、今日はどちらに行かれるんですか?」
「ああ、都に特産品の麦を売りに行くところでな。」
「その、もし嫌じゃなければ、なんですが。に、荷台に乗せてもらえませんか……?私たち、全くお金なくて。」
勇気を振り絞って尋ねてみた。
「おう、いいぞ!お嬢ちゃん!いいんだが……」
良いと言われるとは。
「載せるのはいいんだが、売り物の上に乗せるわけにもいかないしなぁ。」
「そう、ですよね……」
「まあ、乗る場所を自分で作って、売り物を踏まないようにしてくれればそれでいい。」
「そんなのでいいんですか?」
「あとは……ここいらで盗賊が出るって噂もあるしな。途中まででも構わないから、用心棒として荷馬車の警護を頼みたいんだ。」
「が、頑張ります……」
盗賊、遭わないといいなあ。
そんなこんなで、無一文の私たちは、村への移動手段を手に入れたのだった。私たちは荷台の隅っこで、体に身に着けていた鎧と分けてもらった麻袋で壁を作って、麦を潰さないように縮こまっていた。
警護するにも、周りなんて見えない。麦の中に隠れているようだった。
「分かれ道まで、荷馬車を護衛すればいいんだよね。まあ、この感じだと何も起こりそうにないね。」
「でも、もうすぐ森の中の道を通ゥね、気をつけなきゃ。」
私たちの馬車は、昼間でも薄暗い森に入って進んだ。ガラガラと、車輪がデコボコの道に引っかかってよく揺れる。
そんな時、前から行商人の声が聞こえた。
「盗賊だ!嬢ちゃん!頼む!」
……まさか!嫌だなあ。でも、やるしかない!
剣を取った。鎧は……面倒だからいいや!なんで脱いだんだろ、私のバカ!
私は飛び出した。ユビキタスは置いていくことにした。
敵の盗賊は3人。子供の剣士が2人、後ろの1人はフードを被って、魔法の杖を持っている。
「嬢ちゃん気をつけろ!奥のそいつは雷の魔法を使う!」
荷馬車を引いていた馬は、魔法にやられたのか前足をたたんで地面に這っていた。
「やー!!食料をよこせ!」
貧相な剣を構えた盗賊の男の子たちが斬りかかってきた。左から振り下ろされる単純な剣を、切っ先で引っ掛けて外側に弾く。
なんか、上手くいった。右側からの剣は……見える。右側に体を動かして流し、彼の首を剣の柄で小突いた。
簡単だった。それにしても、なんで私はこんなに戦えているんだろう。たまたま、だよね?
いや、相手が弱すぎただけか。問題は後の一人、雷の魔法使いだ。
「おうおう、荷馬車からー、何だいー?年頃の娘じゃないかー?薄着だねー。娼館に身売りでもー、ん、するのかなー?」
やけに間延びした、中年の声だった。
「お願い!ここから立ち去って!じゃないとこの子たちも!」
私は剣を右手に持ち、左に倒れた少年を捕まえた。
「脅すってのかー?ん、ナンセンスねー。」
その男は1メートルほどもある杖を構えた。来る!
「どうせー、ん、お前にゃ、殺れねーよ。」
「電光小砲。」
プラズマのような球が射出された。
ちょっと手を掠ったようで、ジンジンと痺れる。
「……痛っ!」
「チッ。狙いがー、ん、なかなか定まらねえなー。」
再び、敵は電気の球を射出する。もう一発。まともに当たれば致命傷だし、売り物の麦が燃えてしまうかもしれない……!
咄嗟に剣を構えた。すると、たまたま剣に当たった電気の球が、すうっと消えていくのが見えた。
そうだ!この剣を当て続ければ、身を守れる……はず!幸い、次の雷の球を打ち出すまでに、たぶん2秒は間がある。考えなきゃ……
バッティングセンターにも行ったことない私が、確実にこの剣を高速の電気球に当て続ける方法を!
扇風機みたいに回す?いや、私にそんな筋力ない。心の目?的なヤツが使えるようになるまで「頑張って」みるのは?……もし覚醒できなかったらそのままおしまいよ!どうする?
「どうしよう、ユビー?」
「ミツ、いまはとにかくその剣を信じてみたァ?」
「こんな時になに適当こいてんのよぉー!」
信じる……信じる?カエルの時みたいに、剣を振れば当たるってこと?
ユビーはそういうことが言いたかったんだろう。全く、口下手なんだから。
でも私には……わかるよ。
「くらえええええ!!!」
私はその剣を右手で握って、精一杯の力で、前に投げた。
それと同時に、打ち出された雷の球が私の肩に直撃してしまった。痛みで体の力が……一気に抜ける。
……電撃の痛みをこらえてようやく顔を上げると、敵のおなかの部分に、その剣は突き刺さっていた。
「信じゥって、そういうことじゃなくないか!!!!」
え、違うのか……違うなら先にそう言ってよ。バカ犬。
「なるほどねー、この剣、ん、欲しいねえー。刺されているのに傷がつかないー。不思議だねー。」
……効いてない!
というか、投げたのがまずかった、相手は盗賊だった!
「もしかしてー、ん、勇者の剣、とかいうやつかい?伝説の。まさか持ち主がいるとはねー。」
「そう。それ!私の剣なの!だから、返して!」
「そっかー、君が持ち主なのねー。剣投げるなんて剣士失格だねー。ん、それじゃー、そんな奴に返すのもアレだし……死んでもらおうか。」
「……!」
さっきよりも大きな、槍のような光だ。この男、さっきまでは本気じゃなかったみたい。
「電撃槍穿。」
周囲の光が集まる。強大な稲光。私に向かって、一直線に伸びる……ように思えた。
すると、巨大な雷の槍は、ぐにゃりと湾曲しては、その男の胸に刺さっていた剣の方に吸い寄せられていった。
「ん?俺は、何をー?」
ええと、どうすれば……その剣は雷を吸い込んでは、光輝いているのが見えた。
「ねえ、もしもあの剣が、雷を取ィ込んでいたとしたァさ……」
「そうだね、試してみる価値はあるかも。」
私は左側で剣を構えてぼんやりしている男の子に声をかけた。
「ねえ君。魔法使いに刺さった剣、抜いてきてあげてよ。なんか辛そうだし、自分じゃ抜けないみたいよ?」
「なんなんだ、お前!盗賊にも優しいのか?わけわかんねえ!」
「何を話しているー!ん、さっきはたまたまだ!もう一度、電撃……あっ」
再び電撃の槍は剣に取り込まれた。
「お頭!まずはこの剣抜きましょう!俺にお任せを!」
「あ、おいー、ん、気を付けあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」
その少年が両手で剣の柄を握った途端、その剣から一気に稲光が放たれた。
魔法使いの男は、気絶していた。
盗賊の子供たちが慌てる。
「おい、その剣抜いて退散だ!」
「でもお頭は!」
「確かに!お頭、連れて帰らないと!剣はまだ刺しとけ!」
「そうだな!じゃあ足の方持って。」
「了解!俺は肩の方を持つ。」
今だ。
「うん!私は胸の剣を持つよ。」
「3人で持ち上げれば大丈夫だ!せーの、よいしょ!!」
「おい、3人って???」
……いまだ!ダッシュ!!
「あ!待て!この盗っ人!!追いかけるぞ!一旦お頭は置いてけ!」
……盗っ人はどっちよ!私は剣を抱えて荷馬車へと駆けていった。
「片付きました!急いでお願いします!」
「親玉は片付いたか、ありがとな嬢ちゃん……!」
行商人はパシンと鞭を打って、馬車を走らせた。
行商人の荷馬車に乗せてもらう無一文の美月。当然のように盗賊に襲われるも、剣の力と、敵の間抜けさによって撃退に成功する。