勇者の剣?
さっきはモモちゃんに助けられた。
次こそは私一人でも、頑張るんだ!そう意気込んで、私はぶんぶんと木の棒を素振りした。
「ねえミツキさん、このカエルってどれくらい倒せばいいの?」
そういえば何匹だっけ。
「んー、あんまりやりすぎてもかわいそうだし、2,3匹くらいかな。」
「そうなんだね!」
「うん、あくまでタコスミレ草を集めるのが今回の仕事だからね!」
何もしていないのに、ちょっとだけ威張ってみた。
そんな話をしていたら、小さな山のふもとでまたタコスミレ草を見つけた。
それなのに、周りにはなぜかデリューナガエルが見当たらない。
「このへん、カエゥ、いないねえ。何があったのかなぁ?」
「そうだね、ユビー。じゃあ、私が抜くよ。モモちゃんはちょっと周り見てて!」
「はーい!」
私とユビキタスは、草木が生い茂った、少し奥まったところに上っていった。
そのタコスミレ草は、思ったよりするっと抜けた。やっぱり少し臭い。
「モモちゃーん!草、抜けたよー!」
……
あれ?声が聞こえない。そんなに離れていなかったと思うんだけど。
「おかしいね、はぐェちゃったのかな?」
私は山の斜面を下って行った。すると、モモちゃんがいる場所に戻れたと思ったんだけど……
見たこともない場所に来た。
その辺りは岩に囲まれた、苔の深いところだった。岩の隙間からは、ざっと見ただけでも12株のタコスミレ草が生えている。
そして、一段と苔が深くむしている岩には……
一本の剣が突き立てられていた。その剣は錆びておらず、黒い鋼で造られているようだった。
もしかして、これがもう一つの依頼の……いやあ、違うと思う。「花崗岩」って言ってたし。
花崗岩がどんなものか知らないけど。苔生えてるから違うでしょ。たぶん。
「これって、あの依頼にあったやつ?」
「違うんじゃない?地図だと、町かァもこんなに近くなかったよ?」
「だよね、これじゃないと思う。」
試しにその剣を握った。上にスルスルと引き抜くと、それは手によくなじんだ。タコスミレ草を抜くのよりもずっと簡単。
「やっぱィこェじゃないよね!」
「ね!」
伝説の剣だったら、こんな簡単に抜けるわけがないよね……
「あ、そういえば!タコスミレ草!」
私は一株のタコスミレ草に駆け寄った。
すると……さっきまでは見当たらなかったはずの、デリューナガエルが押し寄せてきた!
「ミツ!うしォ!カエゥだよ!!!!!」
「うん!次はいける!」
私はその右手に持った剣を、肩に力を込めて、後ろ向きにぶん回した。
後ろを見ると……一匹のデリューナガエルが倒れていた。
不思議なことに……確かに切った感触があったのに、倒れているカエルには傷ひとつ付いていなかった。
さらにその後ろには、デリューナガエルが10匹以上待ち構えている。やばい。
「モーモちゃーん!!たーーすーーけーーてーー!!!!!」
私は剣をぶんぶんと振り回しながら叫んだ。
……シーン。
「まずいよ、ミツ……倒さなきゃ、帰ェないかも……」
そうだよね、私、やらなきゃ、
その剣を両手に構える。私、剣を振るったことなんてない。
でも大丈夫。アンダーソン村のジンさんに貰った棒で、イメトレはちゃんとしてあるんだから!
包丁でお肉切る感覚だよね!いや、それともまた違うか。
その時、左右から2匹のカエルが、同時に飛び掛かってきた。
どうする?右から薙ぎ払って右のカエルにあてる?
それとも上から下に二回振り下ろす?
包丁のときみたいにできる?私の貧弱筋力で?
まずい……!考えなきゃ。
えーと。
私は縮こまっていた。そして取ったのは、野球のバッターがバントを狙う、あのポーズ。目をぎゅっとつぶってしまった。
そして、目の前には2匹のカエルが倒れていた。やはり傷一つついていないし、死んではいないようだ。
まだカエルは残っている。やれる。私は剣を構えた。
「やエゥよ!ミツ!剣をヨうてで握って!上かァ下に!振ィ下ォす時にはおヘソにチカァを入ェて……」
「ちょっとユビー黙ってて!」
でもユビーの言うとおりだ。一つ刃を当てれば、私程度の力でもある程度はダメージが通る。
だから、刃を降ろしたらおヘソに力を入れて……次の一振りにしていくための構えが重要だ。
この剣を、信じる!!
私は剣を下に下げたまま走り出した。下からの振り上げ。……早速考えてたことを忘れていた。
まず1匹。
いきなり変な振り方しちゃった。剣を手元に戻して、静止する。飛び掛かってきたカエルが刺さった。
ラッキー2匹。
ちょ、近い!なんかヤダ!!顔の前に剣を構えて縮こまると、構えた刃が少しカエルに当たっていた。
びっくり3匹。
体勢を整えよう。剣を上に振り上げて……あ、後ろに振り上げすぎて当たった。なんかごめん。
うっかり4匹。
後ろから180度振って、地面に叩きつける。命中した。
しっかり5匹。
「ハァ、ハァ、ハァ……」なんだか戦う準備をする前に、カエルを倒していた気がする。あと3匹残っている。
「すごいよ!ミツ!こんな一瞬で……!」
自分でも驚いていた。
「まだ、やる……?この草を抜いとかないと、町のみんなが困るから、分けてほしいんだけど。」
私はすごく得意げに言った。カエルたちは逃げていくかと思ったら、ただ私をじっと見ていた。
ただ、襲ってはこなかった。
「倒ェた仲間を、置いていかないんだねぇ。」
ユビキタスが呑気に語っていた。私はせっせと一帯のタコスミレ草を抜き、麻袋に詰めた。
そして私は、下ってきた坂を上って、切り株の上で待っていたモモちゃんを見つけた。
「あ!!ミツキさん!遅すぎ!一体なにやってたの!?……って、どうしたのその大量のタコスミレ草は!!」
「ごめんなさい……すごい生えてるところを見つけたんだ。」
「危ないよ!心配したんだから!それに……そんな剣どこで見つけたの?」
黒光りの剣。派手な見た目ではないし、美少女冒険者のミツキちゃんにはちょっとイカツすぎるかな。
「なんか……拾った。あまりにもカエルが多かったから、焦って。」
剣についてはもっと突っ込まれるかと思ったけど、案外流してくれた。
「もう……危ないことしちゃダメだよ!!帰ろ!!」
「はーい。」
年下のモモちゃんに小言を言われながら、私とユビキタスは、とぼとぼと町に戻って行った。
剣は、麻袋の中に隠しておいた方が良さそうだね。
町に到着したら、私とモモちゃんの麻袋に入ったタコスミレ草の量を見て、皆が驚いていた。
「おかえりなさい、モモ、ミツキさん。こんなにたくさん持ってきてくれるなんて。さ、夕飯を用意したわよ。」
町のおばさん達が料理を振舞ってくれるそうだ。
「ありがとうございます!ちょっと部屋に荷物を置くので、あとで行きますね!」
「荷物って……まさかその麻袋もかい?置いていきなって!」
「あ、いえいえ、良いんです!ちょっと記念に!!」
「記念?おかしな子だねえ。」
ちょっと誤魔化しきれなかったけど、あとで、「東洋人はタコスミレ草の臭いが好きだから、持って帰りたい。」とでも言っておこうかな。
用意してもらった寝床の下には、麻袋から取り出した剣を、布にくるんで隠しておいた。
寝室を出ると、焚き火を囲んだ町の広場に20人ほどが集まっていた。さすがに何か手伝おうとしたけど、町長さんにもおばさんにも、モモちゃんにまで、「お客様なんだから座っててくださいな。」と言われてしまった。
席に着くと、パイとスープと、野イチゴが振舞われた。ホクホクのパイは、不思議な風味がする。こってりとしたクセの強い味付けが、ジャガイモの柔らかさと調和しているのを感じた。
「このパイの中身って……」
酒に酔ったおじさんが答えた。
「ああ、タコスミレ草だよ!嬢ちゃんには刺激が強いか!!ハッハ!」
うわあ……でも意外とおいしい。
あっさりとしたキノコのスープもおいしかった。野イチゴは酸っぱくてダメだった。
ユビキタスは、タコスミレ草の臭いに終始顔をしかめていた。
草むしりの途中で山の中に迷い込んだ美月は、不思議な剣を見つける。
剣を抜いたら突如現れたデリューナガエルの群れに襲われてしまう非力な美月だったが、その剣を振るってあっけなく突破する。
花崗岩にも苔は生えますよ、美月さん。