天ヶ原美月のスキル
「ええ、私、スキルないんですか!?」
……まあ、スキルって言うのがそもそも何なのかよくわからないけど、多分特別な力のことかな。
「ぷぷぷ!ミツにはスキゥってのがないんだって!」
「そういうユビーにだって、なにもないでしょ?」
すると、受付のエリナさんが答えた。
「ええ、そうですね。そちらのドラゴンにも全くスキルがありません。ドラゴンと言えば、一般的には火のスキルを持つことが多いのですが。」
少し間をおいて、エリナさんは何かを怪しむような顔で言った。
「それはそうと、アマガハラさんのステータスを参照したところ、見たことがない不思議な記述がありました。」
「それは、どんなのですか?」
「はい、『悪魔の使徒 : 創世』という文言が浮かび上がったのです。これが何を意味するのか、私にも理解しかねます。」
「そうですか、スキルとは違うんですか?私のソレ。」
「同じかもしれませんし、違うかもしれません。我が国にある文献では判断しかねますね。」
その悪魔の使徒とかいうのが、邪神って人にもらった権能?のことだと、私にはわかった。
スキルとは違うその力を活かして、就ける仕事を教えてもらいたいけど……エリナさんにもわからないならしょうがない。
「もしよければ、アマガハラさんが持っている力について、どんなものか教えていただけますか?」
正直に話すかどうか、悩んだ。
私の能力は、まるで水中に浮かぶ泡みたいな、たくさんある世界を行き来すること。でも、どういうときにその力が使えるかわからないし、その力を、ここでどう生かせばいいのかもわからない。どう言葉にして説明していいかもわからなかった。
「悪魔、と名称に入っていますから、おそらく社会通念上好ましくないものなのでしょう。無理に教えていただかなくても構いませんよ。」
悩んでいると、エリナさんが声をかけた。助かった……のかな?
「なにかあっては大変ですから、人と多く関わるような仕事はご提案できません。『娼婦』、『酒場のドジっ娘』といった職業も、アマガハラ様には難しいと思われます。」
「ええ、本当に何もないんですか?」
「あとは『冒険者』くらいしか残っていません。皇帝陛下のご勅命により、一応募集はしているのですが。当ギルドとしてはあまりお勧めはできない職業です。」
あれ?冒険者ギルドって聞いてたんだけど。
「どうしてですか?私、冒険者になりたくて来たんですけど。」
「そうでしたか、それは大変失礼しました。就業に必要なステータスの制限はありませんが、命の危険もある職業ですし、得られる収入も多くありません。」
「……私、それでも構いません!お仕事紹介してください!」
「承知しました。当ギルドはこの国では珍しく、『冒険者』に対して案件の斡旋をすることを許可されたギルドです。」
「それでは、こちらの用紙に、志望動機をご記入ください。冒険者ライセンスの発行には、志望動機が国家認定ギルドマスターの承認を得る必要があります。」
「志望動機……?」
羽ペンを持った私は少し悩んで、記入した。そういえば、なんで冒険者になりたいんだっけ。
「最強になりたい」と記入して、エリナさんに提出してみた。
「それでは拝見します。はい。却下いたします。」
「ええ、ダメなんですか……」
却下が速すぎてがっかりした。
「この国では、目的意識のない方には冒険者と言えど、いえ、冒険者だからこそ、職業を斡旋することはできません。」
「ええ、なんでですか!!」
「よくいらっしゃるんですよ、冒険者だからと言って、圧倒的な力を自分のためにしか使わない人とか。
町娘から侯爵のご令嬢までをも誘惑し、『ハーレム』とか言って不埒な関係を作る人もいます。力を誇示するためだけに人や魔物を無駄に殺し、破壊を繰り返す人とか、挙げれば切りがありません。
なんの目的意識もなく力を持った冒険者というのは、往々にして国にとっての害となるのです。」
……この世界に来る前に、そんな感じの主人公が出てくるお話を読んだことある気がする。ちょっと羨ましいと思っていたけど、言われてみると確かに酷い。
「まあー……アマガハラ様は仕事に対してかなりやる気があるようですから、私の権限でどうにかライセンスをお渡ししたいとは考えています。一応、連盟が納得のいくような理由を考えておいてください。」
「そェなら、どんなこと書けばいいのー?」
あたふたしている私をよそに、ユビキタスが尋ねた。
「はい、本来は教えない規則ですが、特別にお教えしますね。例えば、家計が厳しいのにご家族が働けず、年齢制限で働き口がないお子さんですとか、連邦が追跡中の特別指定魔物を倒すため、といった動機があります。」
再び、エリナさんは続けた。
「アマガハラ様の場合、『悪魔の力』を理由に、私からは冒険者以外の職業をご提案することができません。冒険者になる理由としては十分ですが、連盟にそれを伝えるわけにはいきませんので……」
私が冒険者になるのに、それっぽい理由を考えないといけないのか。嘘もつきたくないし。
天ヶ原美月、冒険者としての旅立ちはまだ先になりそうです……
今回も世界観の説明回でした。長々と説明スイマセン。
能力が低いどころか、スキルも持っていない、しかも曰くつきの「悪魔の使徒」を持つ美月。当然のように、就ける仕事は冒険者くらいしか残っていなかった。だが、冒険者になるには志望動機が必要で、美月にはそれらしい動機付けができなかった。