ハローワークにいこう!
優しいボルドー夫妻の家を後にしたミツキとユビキタス。ついにギルドにたどり着き、お仕事を探しに来たのですが…
ボルドー夫妻のお宅から道なりに歩いた。
10分ってところかな?
朝の日差しに、気持ちよさそうに翼を伸ばすユビキタスに、私は言った。
「ねえユビー、あのまま、ボルドーさんちの娘になっちゃうのは、どうかなあ?」
「なんで?」
「だって……私の欲しいものってなんだろうって考えた時にさ、ああいう温かさ?みたいなのも、良いな、と思ったから。」
「わかゥ気がすゥよ、ミツ。でも……」
ユビキタスは何かを言いかけて、やめた。
……何だったんだろう。
「ミツ!ほァ、ここじゃないー?」
赤い屋根の、小さな平屋だった。
看板には、「ギルド・ハローワーク ノルディニア村支部」の文字が。
「入ってみよう。私たちの仕事、見つかるかも!」
カランコロン……
中は意外と広く、手前に受付のカウンター、奥には書類が山になったデスクがあった。
手前には、受付の女の人。30代前半くらいだろうか、黒縁のメガネをかけ、髪を後ろで縛っていて、クールそうな感じ。
「おはようございます。今日はどうなさいましたか?」
受付の女性が、上品に微笑んだ。
「あ、あの…私たちお仕事を……」
「探してゥんですー」
「それでしたら、職業を教えていただければ、いくつか案件をご提案しますよ。」
「……職業?」
その人は、淡々とそう言った。
「私、ギルド・ハローワーク、ノルディニア村支部、受付のエリナ・ブランシュがご紹介いたします。」
ユビキタスに、こそこそと耳打ちした。
「ユビー、私の職業って、なに?」
「高校生……とかかな?」
「職業について、よろしければご説明しましょうか?」
聞こえていたようだ。
「はい、よろしくお願いします……」
「承知しました。
まずこの国では、仕事をする上での条件として、それに適した職業、というものがあらかじめ決められています。
例えば刀を鍛造するには『鍛冶職人』、
魔物討伐を行うには『ハンター』もしくは『冒険者』、
財務処理を執り行うには『経理』、
裁判官になるには『法曹』、
精神的負担を和らげるには『カウンセラー』、といったような、仕事内容に応じた職業に就くことが必要です。」
「ほうほう。」
わかったような、わかってないような。
彼女はまた淡々と続けた。
「ですが、職業選択の自由は法律で認められてはいますが、職業を選ぶにはいくつか条件があります。」
「条件とは……?」
「職業を選ぶ条件、それは主に3つあります。
1つ目は、職業選択の上での最低ステータスを満たすこと。
2つ目は、自身に固有のスキルを活かせそうな職業を選択すること。その判断は我々ギルドが行います。
3つ目は、その職業を得るための資格試験を突破すること。
以上が条件となります。」
ほ…ほう。
「ここまでお話しした内容をまとめると、
人には固有のステータスがあり、それをもとに職業を選べます。
さらに、職業をもとにして、仕事内容を選べる。
そういった仕組みになっております。
もし希望がありましたら、スキルとステータスを測定いたしましょうか?」
ようやくわかってきたぞ。
「はい、よろしくお願いします!」
「承知しました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「ミツキ・アマガハラです!」
「それでは、アマガハラ様のステータスをこちらで測定いたしますので、少々お待ち下さい。」
「はい!」
「恐れ入りますが、お連れのドラゴンについてはステータスの測定ができませんので、ご了承ください。」
「はい……」
「では、こちらの水晶玉に、手をかざしていただけますか。」
しばらくして。
さっきまでのんびりとお茶を飲んでいた奥の二人が、エリナさんから水晶玉を渡された途端に、忙しそうに書類の束を引っ張り出し、何かを紙に書き始めた。
「アマガハラ様のステータスを書き出しておりますので、いましばらくお待ち下さい。」
あっ……いつでもステータス参照できる魔法みたいなのは、無いのね。
「お待たせ致しました。こちらがアマガハラ様のステータス表となります。」
ステータス表には、項目と数字がビッシリ。
HP、物理攻撃力、物理耐久力、魔法攻撃力、魔法防御力、俊敏性、運、金銭感覚、ストレス耐性、絵画、音楽、言語処理、空間把握、筋力、関節可動域、骨密度、継続力、思いやり、コミュニケーション能力、昆虫耐性、法令遵守意識、積極性、数理把握能力、愛嬌、記憶力、美貌、肌の水分量、声質、消化器官強度……etc
頭が痛くなりそうな項目ばっかり!
「このステータス表には、およそ600のステータス項目があります。」
……多すぎない??
「それで、私のステータスはどうですか?」
「どうと言われましても……正直に申し上げますと、全体的にとても高いとは言えませんね。」
がっかりした。
「ええぇ……なんか、良いステータスはありますか?」
「まあ……愛嬌、HP、美貌といったステータスは、平均的な方より頭2つくらい抜けているのではないでしょうか。他は……全て平均以下ですね。」
ええ、そこまで言われちゃうと……
隣では、ユビキタスが言葉に言い表せない表情をしている。
「職業を紹介することはできますが……」
「どんなのがありますか?」
「まあ、最もステータス適正が高く、その中でも報酬が良い職業は……『娼婦』ですかね。配分が近い『酒場のドジっ娘』にはコミュニケーション能力、危機管理能力、筋力……」
「あっもういいですその辺で!!!!」
「というか、それ報酬良いんですか?是非お話聞いてみたいです!」
「ミツ!そェはやめといたほうがいいと思うよ!!!!」
ユビキタスがいきなり飛び出てきた。
「その……うまく言えないけど。ものがたィとしてなんかマズい!」
「……たしかに、そのドラゴンの言う通りですね。」
「では、職業については後ほど考えましょうか。あとスキルについてですが……」
スキル……!?私にはどんなスキルが!?
「……ありません。」
え?
「アマガハラ様には、スキルがないようですね……」
美月がそっちの職業を選んでたら……というIfルートをノクターンノベルズの方に載せたい気がしたんですが、やめておきますね。
スキルがないのは、困りますね。