ボルドー夫妻
自らの能力によってファンタジーの世界に飛び込んだ美月と、ラ行が言えないユビキタス。
二人は自由気ままな冒険を始めるのであった。
ちょっと歩き疲れた。
夕方になると、小さな村にようやくたどり着いた。
人々が荷馬車に小麦を積んでいるのが見えた。
……お腹、空いたなぁ。
そうだ、私たちは仕事を探しに来たんだった。
はやく、ハローワーク……いや、「ギルド」に行くことにしよう。
「もしかして、貴方は旅のお方ですかな?」
彫りの深い顔をした、穏やかそうなおじいさんに声をかけられた。
「あ、はい!どうしました?」
「見たところ、このあたりの人ではないようだね。君は東洋から来たのかい?小さなドラゴンとは、珍しいね。」
「東洋?……ああ、はい。」
多分、私が住んでた日本は東洋と言われるエリアなんだろう。私は勉強ができないから、正直わからなかった。
「東洋の人とは!大変だったでしょう。
もう日も沈むし、もしよければ泊まっていってくださいな。
そちらのドラゴンにも、寝床を用意しよう。」
ママには知らない人の誘いに乗っちゃダメだって言われたけど、きっと私なら、大丈夫だよね。
「はい、お言葉に甘えてもらいます!」
ユビキタスがクスッと笑った。
「私は、ボルドーと言うんだ。ヴィクター・ボルドー。君は?」
「ミツキっていいます!ボルドーさん、ありがとうございます!」
村の少し外れ、小高い丘の上にボルドーさんの家はあった。
大きくはないが、よく掃除されている木造の家。
「おかえりなさい、旦那さま。おや、かわいいお客さまですね。東洋人かしら。そちらは……ドラゴン?」
「私、ミツキ・アマガハラといいます。今日はよろしくお願いします!この子はユビキタスって言います。」
「ミツキちゃん、よろしくね。私はミランダ・ボルドー。」
「ボク、ユビキタス!ふたィとも、本当にあィがとう!」
「おや、しゃべれるのかい。」
ボルドー夫妻は驚いていた。
「夕飯の支度ができていますよ。多めに作ったから、是非食べていきなさいな。」
ミランダさんが用意してくれたのは、クリームシチュー。具はじゃがいもと玉ねぎしか入っていないけれど、牛乳の優しい匂いがとっても美味しそう。
ヴィクターさんがパンを焼いてくれた。こんがりといい匂いがする。
ユビキタスはパンが好きみたいで、小躍りしていた。
私たちは食卓につく。ヴィクターさんが手を合わせた。
「神様、今日の糧をありがとうございます。おかげで今日も、お客さまと共に食事をすることができます。」
……柔らかいじゃがいもと、見た目に反してこってりと味のついたシチュー。崩れたじゃがいもの舌触りと、玉ねぎから溶け出した甘みが心地良い。
ミランダさんがかなり時間をかけて煮込んでいたのが感じられた。
「今朝取れた牛の乳を使ったんですよ。」
「うん、やっぱり、ミランダの料理はこの村1番だ。」
「このパンは、私が作ったんだよ。こだわりがあってね。」
ヴィクターさんが誇らしげに言った。
パンは……ボソボソとして、硬かった。ユビキタスは喜んで食べているけど、私にとっては初めて食べる食感だった。
シチューによく染み込ませて、よく噛んで食べた。
「ミツキちゃんがいた所は、どんなところだい?」
ヴィクターさんが言った。
「日本ってところなんです。」
「ニホン…知らないところだね。東洋にある国なのかね。」
この世界にはない国なのかもしれない。
「私は……東洋って所から来たんでしょうか。」
「おや、知らないのかい。東洋から来た人は似たような顔の造りをしているからね。」
「この国では、東洋人を毛嫌いしている輩も多いのよねぇ。ミツキちゃんも、気をつけてね。」
「東洋……いったい、どんな所なのでしょうか。」
「あそこには、魔術、という恐ろしいものがある。そのせいで争いが絶えない場所なんだよ。」
「そうなんですね…」
魔術。いったいどんなものなんだろう。
「明日は、どこに行くのかい?」
ミランダさんが訪ねた。
「ハローワークに行きます!」
あ、間違えた…
「ああ、ハローワークか!この村の冒険者向けギルドのことよね。」
間違えてなかった……
「そうか!冒険者なら行ってみるといい。」
「それにしても、どうして私達にここまで親切にしてくれるんですか?」
「なあに、神様の教えさ。旅の人は、丁重にもてなすように言われている。村の年寄りはみんなそうする。」
「とにかく、今日はもう遅いからよく休んでくだされ。寝床は用意してあるぞ。」
「ありがとうございます!おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
夜が明けた。
ボルドー夫妻が用意してくれた藁のベッドは、ちょっとゴワゴワしたけど……とても寝心地が良かった。
私もユビキタスも、ぐっすりだった。
こんなに熟睡できたこと、なかったかも。
「おはようございます!おかげさまでよく眠れました!」
「おはよう、ミツキちゃん、ユビキタス。」
「今日はもう出発するの?朝食の用意ができたから、食べていくといいわ。」
「ありがとうございます!」
パンと、イチゴ……に似た何かのジャムだ。
荷物をまとめて、夫妻に見送られて玄関を出た。
「ほんとうに、親切にしてくださってありがとうございました!」
「いいのよいいのよ、気をつけて行ってきてね。」
「ミツキちゃん、頑張ってなあ!」
私は開けた道を、ヴィクターさんにもらった地図に従って進んだ。
ここが、「ハローワーク」。
よし、お金稼ぐぞ!
冒険者ギルドに行こうとしていたが、優しい老夫婦、ボルドー夫妻のお世話になった美月とユビキタス。
次回、冒険者ギルドで仕事を受注します。