はじまりの森
自らの能力によってファンタジーの世界に飛び込んだ美月と、ラ行が言えないユビキタス。
二人は自由気ままな冒険を始めるのであった。
光と、泡と、水。
まぶしくって、目が開かない。
キラキラして、ふわふわして……
私、なんだか最高に楽しい!
そして体が大きくなったような、そんな感覚があった。
まぶしい光がようやく弱まって、体の感覚が戻ってきた。
なんだか、すごくいい天気。
私は目を開ける。
そこは、木々の隙間から暖かい日差しが差す、美しい森だった。
木には小鳥がさえずり、赤いキノコが生えていて、草の生えていない小道があった。
まるで、ファンタジーの世界にある、森にやってきたみたい。
そういえば、少しだけ体が重い。
これは、鉄でできた鎧だ。頭をヘルメットみたいに覆っていて、胸、腕、腰、脚にベルトのようなものでプレートが巻き付けてある。
でも、なんでおヘソが出てるのかな……?
あまり強そうじゃないけど、ま、これはこれで可愛いからいいよね。
「ミツゥ~!おォして~!!」
手前の木の上から、聞き慣れた声が聞こえた。
そちらを見ると、
ん?ユビキタス?
ポメラニアンみたいなモコモコと、ウサギみたいな顔。
でも、背中から黒い翼?みたいなのが生えてるし、なんか一回り大きくなってる。
「ボク木から降りられなくなっちゃった!」
「ユビー、あなた木登りなんかできないでしょ?」
「できないけど、木の上にいた。」
「なんで?」
「さあ。」
「……よいしょ。重くなったね。」
「ボク、ミツに抱っこさェたことなんてあったっけ?」
「なかったかもね。」
ドラゴンみたいな翼の生えた、デカユビキタスがなんだかすごく可笑しかった。
二人で顔を見合わせて、ゲラゲラ笑った。
「ミツもずいぶん変わったよね!なんだか5歳くァい大人に見えゥし、かっこいい鎧を着てゥね!」
そう見えてるのかぁ。
「かわいくてカッコいい勇者って感じだよ!鏡があェばいいのに。」
「ふふ、褒めたって何にも出ないよ。」
……と言って気が付いた。
何にも出ない。
そう、出せないことに。
何も持っていないからだ。
それはしょうがないか。
「ミツ、もしかして何ももってないの〜?」
「うん。なにか拾いに行こう。」
ユビキタスは「きのえだ」を拾った。
「なにそれ。要る?」
「要ァないね。」
「ねね、私に貸してみて。」
「いいよん。」
「やっぱり要らない。」
また顔を見合わせて笑った。
木の枝1本で、なんだか楽しいと思えた。
それでもお腹は空くから、遊んでないでなにか食べるものを見つけよう。
きのこは死んじゃうかもしれないし。
そうだ、ご飯を食べるにはお金が必要だ。
ああ、「世知辛い」っていうのかな。
食べるためにはお金が必要で、お金のためには仕事が必要だ。
「そうだユビー、仕事を探そう!」
「ずいぶん急だね。めんどくさいなぁ。」
「いいから仕事探すの!ほら、ハローワークに行こう!」
「ハォーワーク?そんなのあったっけ?」
「確かそうだったはず!職業安定所のことだよ!」
「職業安定所かあ。誰か知ってゥかもしェないね。」
そして私たちは、道に沿って歩いた。
私たちの進む方向の遠くには、煙突の煙らしきものが見えた。
そして、一つの看板を見つけた。
「冒険者ギルド この先 2フィヌト」
フィヌト…たぶん距離の単位のことなのかな。歩いて何分くらい…?いや、ここでは時間の単位も違うのかも。
「ねえユビー、ギルドって…ハローワークとは違うの?」
「さあ。でも、似たようなとこォなんじゃない。」
「行ってみよう。」
私たちは、冒険者ギルドを目指して再び森を歩き出した。
次回、美月とユビキタスは冒険者ギルドへと向かいます。
どんな冒険が二人を待ち受けているのでしょうか。
ヤードポンド法を滅ぼすために日々奮闘しましょう。