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逆賊になった姉弟

 私がここに来た目的……?

「弟さんを捕まえに来ました」

 なんて、言えるわけがない!


 ここは……港町だし、人も多そうだから……

「と、特産品の、()()を……買いに……」

 我ながら、いい言い逃れだと思う。


「特産品?どんなのだっけ、結構あるけど……」

 イレイナさんが私を見て、怪訝(けげん)な顔をした。問題はここからだ……

 何も知らず来たってバレたら、ますます怪しまれちゃう!


 再び、必死に取り繕う。

「特産品って言ったら、アレですよアレ。うーんと、名前がでてこないですが。」

 ……どうしよう、ここの特産品なんて全く知らない……でも港町だから、海産物かな?


「えーっと、あの名前が難しいやつです!」

 手をバタバタと振って、訴えかけてみる。

 ……これは賭けだ!名前が難しければ、「難しすぎて覚えられなかった」と言い訳できる。

 お願い、難しい名前の特産品……イレイナさん……!


「ああ、ハツョンディキャヌャモヌィのことね!」


「え……?な、なんて?」

「だから、ハツョンディキャヌャモヌィよ。珍しいから、一度しか食べたことないんだけどね。」


 ……む、難しすぎて助かった〜!

 こんなの、知ってても言えるわけない!

「そう……!それ!はちょんでミニモニ……!」

「ハツョンディキャヌャモヌィよ。ミツキって、案外グルメなのね。」


「あ、そうなんです〜。それ、どこに行けば食べれるんですか?」

 すると、ロルフさんの声が聞こえた。


「ハツョンディキャヌャモヌィなら、俺が採ってきてやるよ。海岸を探せばいい。」

 イレイナさんは戸惑っていた。

「高級品なのよ?そんな簡単に取れるわけ……」

「いいや、俺はこのあたりの海には詳しい。ハツョンディオオウミウシを倒すんだ。」

「ロルフ……危険よ!だいたいあなた、()()()()なのよ!冒険者が集まるところはダメ!」


 オオ……ウミウシ……?なんだか、会話に置いてけぼりにされたみたい。


「誰も来やしねぇよ。それに俺だけじゃない、ミツキもいるんだ。」

 ロルフさんは、私を見つめて言った。彼は、今日会ったばかりの私を、信じてくれている。

「……なあ、行けるか?お前も冒険者なんだろう?」

 興味はある。是非行きたいけど……

「いいんですけど……私、臭くないですか?」


「そうね。たしかに美月、臭い。香油を塗っておきましょうか。」

「……香油、ですか?私、お風呂に入りたいんですけど。」

「お風呂ォ?あの、水に浸かるやつね。うちにはそんなものないし、病気になるらしいよ?」

 そんなの、迷信だと思うけど。

「でも……」

「まあ、身体拭いてあげるから。ね?」


「ロルフ!ちょっとあっち行ってなさい!」

 そう言ってロルフさんを追い出すと、イレイナさんは私の服を脱がせ、木綿の布で身体を拭った。

「ミツキって肌白いのね、すべすべで、お人形みたい。それに……細いのね。ちゃんと食べてる?」

「ま、まあ。」

「大きくならなきゃだめよ?女はデカいほうが良いんだから。」

「あ、あはは。」

「東洋の女の子は小さいのよね。それに、この腕だって、剣士の腕とは思えない。」

 イレイナさんは、タオルでそーっと、私の腕をなぞる。

「くすぐったいです……」


「ふふ。それじゃ、香油を塗りましょうか。」

 ラベンダーの匂いがする油。

「まずは、首筋ね……」

 イレイナさんが指先に油をつけ、つん、と私の首筋に乗せた。

「ひゃっ!?」

 ひんやり冷たくて、ピクン、と体がはねる。でも、すぐ肌の温度に馴染む。

「アハハ、びっくりした?ミツキは可愛いね。」

 ゆっくり、優しく……塗り拡げていった。

「んっ……あっ、そこ……」

「ふふ。腕も塗ってくね。」

 イレイナさんは、その香油を私の肌にまた塗った。


「ところでさ、ミツキ、冒険者なんでしょ。……知ってる?ロルフのこと。アイツ……」

 イレイナさんは、静かな声でその話題を切り出した。


「……討伐依頼ですよね。指輪の件で。」

 そこまで言われたら、もう誤魔化せなかった。

「知ってるんだ。」

 私の腕に香油を塗り終わったイレイナさんは、次は私の髪に香油を塗り始めた。


「ロルフは、指輪泥棒なんてやってない。」

 イレイナさんから、笑顔が消える。


 やってない……?

「どういうことですか……?」


「指輪は、私達インノケンティウス家のものだった。お母様のだったのに……!!」


「ええ、それって……」

「その指輪は、盗まれたの!!私達の失脚を目論み、お母様を連れ去った、()()()()()()に!!」

「それって、依頼主の……!?」


「依頼主……?依頼を受けたのって、あなただったのね。」

 イレイナさんが、私を見て安心したように微笑むのがわかった。さらに香油を手に取ると、私の髪に塗りながら言った。


「1年前。お父様の失脚で地位を失い、冒険者になったロルフは……指輪を取り戻すため、ベルモット家からの捜索依頼を受注したの。

 その時は、母さんから指輪を盗んだベルモット家から、さらに指輪を盗んだ人間がいるんだ……って、思ってたから。

 私とロルフは、指輪泥棒に奪われた指輪を見つけて、ギルド本部でベルモット家の悪事も暴けば……お母様が……私達のもとに戻ってくる、そんな妄想を信じてた。」 


 イレイナさんの声は、涙に濡れた。

「信じてた、なんて……馬鹿だよね。」


 そんなことない、と言うのは簡単だ。

 でも、指輪を見つけたって、それは悪事の証拠になんかならないことくらい、私にだってわかる。 

 それでも、正しいことも悪いことも……いつか明らかになるって信じないと、二度と立ち直れないことも……私にだって、わかる。


「指輪、見つからなかったってことですか……?」

「……そう。それどころか……」


「それどころかロルフは、指輪を見つけてそのまま……逃亡したことにされてたの。」


「その捜索依頼は1年も経たずに……討伐依頼に切り替わった!」

 イレイナさんが、深く俯く。


 その後の沈黙が、重かった。


 油まみれの細い指が、私の髪を滑らかに撫でた。


「私たちは、指輪を見つけられなかったと同時に、()()()()()()()()()()も、示せなかったの!!……これは、()()()()()。」

「イレイナさん……」


「……目撃証言がね、たくさん出てきた。私達が盗んだということを、見たという人が。」


「指輪、見つかってないのに……?なんで目撃者が……?」

「そう。私達は、見つけてすらいない!それなのに、ロルフが持っていたという証言があったの!」


「そんな……」

 私は、何も言えなかった。

「ハメられたのよ、私達は。」

 イレイナさんは私の髪に香油を塗りながら、涙で声を震わせた。


「だから……今も街の外れで、隠れて暮らしてる。それでも、他に行けるなんてない。……いつか戻れるって、信じてるから。」


「イレイナさん……」

「ごめんね、ミツキ……こんなこと、あなたに関係ないよね。ロルフを捕まえに来た、あなたには……」


「……なくない。」


「関係、なくないです!私!」

 冤罪じゃなくて本当に剣を盗んだ私には、同情する資格なんてない。……それでも!


「それでも……指輪、取り返させてください!()()()()()()()ですから!!」


「そうね、気持ちはうれしい。でも、探す宛てなんて、ないのよ……」

 イレイナさんは続けて言った。


「まだ、私たちにできることは何もない。だからミツキ。歯がゆいだろうけど……今はここ、港町ミルファの滞在を楽しんでね。」


 ……確かに、今の私にはどうすることもできない。

「はい、そうします……」


「……じゃあ散策がてら、ロルフとハツョンディキャヌャモヌィでも探してきなよ。」

 ……とりあえず今は、この街のことを知っておこう。

 そしてすぐにでも、指輪の手がかりを見つける。


「……ハチョンなんとかですね!すぐ支度します!」

 早速ワクワクしてきた。いてもたってもいられない!

「ねぇちょっとミツキ、待って!!」

 イレイナさんの静止する声もお構いなしに、バタン、とドアを開けて部屋を出る。


 ……そこには、ロルフさん。

「あっ、ごめんなさい!!」

 ロルフさんは一瞬固まって、そのまま私の目を見ていた。

「あ、……あ…!」

「……ん?」


「ちょっとミツキ!!()()()!!!!」

 イレイナさんの声で気がついた。


 ()……?


 あ……。


 ひいゃやああああああああああああ!!!!!!!!


この街に来た理由を尋ねられ、誤魔化す美月。このミルファの特産品、ハツョンディキャヌャモヌィの存在を、姉のイレイナから聞く。

香油を塗ってもらう美月は、インノケンティウス家と、ベルモット家の因縁についての話を聞いた。2人の母親がベルモット家に連れ去られたこと、サファイアの指輪がベルモット家に盗まれたこと、指輪の捜索任務を受注したものの、指輪を見つける以前に指輪盗難の犯人に仕立てられたことを。

 姉弟の壮絶な過去を聞いた美月は、指輪の捜索を決心するが、手掛かりは全くない。

 美月はひとまず、街の散策も兼ねてロルフと共にハツョンディキャヌャモヌィの採取に向かうことにした。が、ロルフにうっかり裸を見られてしまい、絶叫するのだった。

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