新たな旅立ちの灯火(閲覧注意)
注意書き
このエピソードには、汚物に関する記述があります。お食事中の方、苦手な方は閲覧をお控えください。
このエピソードを読み飛ばしていただいても、問題なく次の話をご覧いただけます。
次回前書きにて、今回のあらすじを掲載いたしますので、ご安心ください。
ギルド・ハローワークを後にした私たちは、村の西側に向かっていた。たしか、こっち方面だったような……
私、天ヶ原 美月は、サファイアの指輪を盗んだという冒険者の討伐依頼を受注した。
本当は、こんなこと望んでいない。でも、仕事を選べるような立場じゃない。
さて、討伐とは言っても、どの辺りに行けば良いんだろう?
「ユビー、依頼の場所ってどこだっけ?海沿いだったような。」
「依頼票、見てみたァ?」
「あ、そっか。」
依頼票は受け取ったから、ここで目を通しておく。
さっきは、なんだかギルドに長くいるのが嫌だったから、エリナさんの説明をちゃんと聞かず、急いで出てきちゃった。
どれどれ……
・依頼種別 盗品の押収並びに窃取者の引き渡し
・依頼概要 逃亡した冒険者 ロルフ・インノケンティウスより、指輪「デリュージョニアン・サファイア 識別No.32」を奪還すること。
・達成条件 ギルド本部へ盗品及び窃取者を引き渡し、依頼主の承認を得ること。
・報酬 500リューズ
・発生場所 ゴールドスタイン領西部 ミルファ市
・依頼主 ダイアナ・ベルモット
なんか、他にもいろいろ書いてあったけれど、私は文字を読むのは得意じゃないし……これだけわかれば十分だと思う。
「行こう!ミルファ市へ!」
できれば馬車に乗りたい。荷馬車の事情に詳しそうな、街の商人に聞いてみることにした。
ちょうどそこで馬の世話をしている、気の良さそうな夫婦に声を掛ける。
「すいません、ミルファに行きたいんですけど、馬車はありますか?」
「あー、ちょっと待ってな、嬢ちゃん!」
馬車の手入れをしていた夫妻は、快く応えてくれた。
「いま、商人ギルドの運行表を持ってくるわね!」
私たちは、藁の上の馬を眺めながら、2人が片付けるのを待っていた。
「人参、馬に上げてもいいわよ!」
と奥さんが言ってくれたので、すこし申し訳なく思いながら、人参を与えた。
ついでに、ユビキタスにもこっそり分けてあげた。
「硬。」
「文句言うな。」
「嬢ちゃん、おまたせ!」
「ここノルディニアから、ミルファまで直接行く馬車はない。ゴールドスタイン都を経由しなきゃならねぇ。
都に向かう馬車なら、次にくるのが早くても4日後だな。」
……4日。そんなにのんびりしている余裕ない。
報酬の20リューズだって、食べ物や野営道具でほとんど残っていない。
「そうねぇ。歩いたら……ええと、お隣の息子さんの話だと、まっすぐ行って1日もあれば、いけるんじゃないかしら。」
「そうだな。急ぐなら歩いて行ったほうがいい。」
歩くのか……ちょっとやだな。
「そうなんですか。ありがとございます!」
「まあ、歩いて行ったほうが早いんだが、気をつけるんだぞ。夜は魔物が出るって話だからな。」
え……?魔物?
「そうよー!お隣の息子さん、苦労したって言ってたわよ!あんなに逞しい男が!」
「そうだな、気をつけるんだぞ。しかし嬢ちゃん、東洋人だろう?その剣と、従えてるドラゴンと……さては、相当の手練れか?」
「いえいえ、私はそんな強くなんか……」
「ハッハッハ!そうかい!謙虚なのはいいこった!!」
「ミツは手練ェなんかじゃないよー!ポンコ……」
私がユビキタスのお尻をつねったと同時に、2人は声を合わせて言った。
「おや、喋るのかい、そのドラゴン。」
「ははは……なんか、はい、賢い子なので。」
「それは頼もしいねぇ。気をつけて行ってくるのよ。」
2人は行商ギルドの運行表を分けてくれた。盗賊に見つかると大変だと言うので、大事に持っておこう。
「はい、行ってきます!本当に、ありがとうございます!!」
私たちは村の外れに来た。
「ユビー、あまり喋りすぎないように言ったでしょ。あなたが喋るとみんなちょっとびっくりするんだから。」
「でも、だェもこまってないよ?」
「私が困るのー!あなたのこと説明するの、いつだってうまくできないんだから。」
「そうなんだ。ボクなァ、偉大なゥ神の祝福をたまわィし究極の……」
「ダルくない?そういうの……クドいよ。」
「こういうのが受けゥんじゃないの?」
「私は嫌い。」
「ああ、そう。」
いつものようなくだらないやりとりをしている間に、村の外にでていた。
さっき買ったコンパスで、西の方に行けば、いつか海に出る。道は不安定だけど、森の中を通ってまっすぐ進んでいけばいいはずだ。
薄暗い、湿った森の中を進む。ノルディニア村とミルファ市を行き来する人たちが足跡を付けてきたのか、かなり歩きやすい道だった。
夕方になると、ランタンに蝋燭を入れて、火を付けなきゃいけない。
夜の暗闇の中では、進むことも、留まることもできないから、備えか必要なのだ。
背嚢から火打石を取り出してみる。確か、こうやって、擦り当てて……
カチン!カチン!と、買ったばかりの火打石を鳴らす。
カチン!カチン!
「ねえなにこれ、つらい!」
カチン!カチン!
「ミツ、もっと勢い良く……」
……えいっ!
カチン!
「あ!ちょっと火花出た!」
「おお!なんか燃えゥもの持ってこなきゃ!」
「燃料、忘れちゃった……。この辺の木とかは……?」
「いや~、この辺の木は湿ってゥね……」
「なんか、燃えるものあるかな?……私の服とか?」
「うーん、そェくァい?ちょっと試してみようよ。」
袖口を少し破いた。
「……少なくない?」
「……しょうがないでしょ!」
私は破いた服を、石の上に置いて、カチン!と鳴らす。
「やった!点いた!」
……あ。
その火は、1秒も持たなかった。
「これじゃダメだね。」
「ね。」
どうしよう。さっきよりも日は落ち、もう手元もよく見えていない。まずい……はやく、明かりを!!
ああ、火の魔法使い、モモちゃんがいればなぁ〜!!
私はあてもなく、ひたすら、カチカチ、カチカチと火打石を鳴らしていた。ユビキタスも、飽きてフラフラ歩き回っている。
どれくらい経っただろう。私の頭のなかに、一筋の閃き。
……言ってはいけないとは、思った。でも、私にはもう……これしか思いつけなかった。
「ねえ、ユビーってさ、うんち、出た?」
ユビキタスはあっけらかんとして答えた。
「あ、ボクのうんちなら、夕方からミツがカチカチしてる間に、そっちに。……まさか、ミツ?」
「ハハハ〜、あるわけないよね……って、ええ!?どこ!?どこに!!!!」
「うーん、うーん、でもそェはダメなんじゃ……」
「臭いで探して!大丈夫、やれるって!」
「そんなぁ……」
周りは見えていない。ユビキタスのお尻の感触を頼りに、案内してもらう。
くっっさ!!臭いでわかった。
「ええと、確か、乾き具合を見るんだよね……」
……覚悟を決める。私には、捨てるものなんてない!
息を呑む。視界はない。指先の神経に集中する。
これが、今日の命をつなぐ、灯火なのだから……!
もう少し。この場所……!
ぴと。
ひぃやあああああああああ!!!!ああああ!!!ああああ!!!あああ!!!!!!!
「あああ、あ、ああ、あー……あーー!!!あ!」
「ミツ!しっかィ!!ただのうんちだよ!!」
「ああああ!!!!い、言わないで、ユビー……」
涙が出てきた。指に残る、あの冷たい感覚。
「ねえミツ、使えそう?」
思い出したら、声が震えてきた。
「い、いける、かも……」
でかした。ユビキタスを撫でようとする。
「うわ!その手で触ァないで!!」
「アンタのでしょ!!」
「やだ!!!」
石の上のうんちは、多分半分くらい乾いていた。勇者の剣で拾い取ってランタンに入れる。
「え。」
ユビキタスがドン引きしている。
火打石を出して、再び裂いた布に火をつけた。
その火が消えないうちに、半乾きの、ユビキタスのうんちに。
……点火。
……点いた!
「点いたよ!ユ……お゛えっ!!」
「ミツ!火だよ……ぶシュ!」
「……ゔぉおぉああっ!うっわ!くっっさ!うっゔぇ゙っ!臭い臭い臭い臭オロロロロ!!」
火で燃えたソレは、この世のものとは言い表せな……
あ、ダメだ、耐えられな
「オロロロロ………!!!!」
うんちのランタンは、燦々と夜の道を照らしていた。臭い。
私もユビキタスも、何回吐き戻しただろうか。
……地獄のランタンを提げて、私たちは夜の先に進む。またえずく。
もう、鼻が壊れてしまった。それでも、眠るわけにはいかなかった。
気絶すれば死んでしまう、そう思ったから。
サファイアの指輪を横領した冒険者の討伐に向う美月。目的地となる港町ミルファ市に行くには、徒歩で森を抜ける必要があった。
森の中で夜を迎える美月とユビキタス。しかし燃料を用意していなかった美月は、苦肉の策としてユビキタスの糞を燃やすのだった。




