ユビキタスのかくしごと
今回は、美月ではなく、ナレーターの視点で物語が進みます。
美月が依頼を完了し、報酬を受け取りに行った時のことです。
ユビキタスは、お留守番をしていました。
美月が、
「ねえユビー、私がギルドにいる間、この剣が取られないよう見張ってて。できる?」
と言って、ユビキタスをお留守番させたからです。
「できゥ、けど……でも報酬は、いいの……?」
ユビキタスは困ってしまいました。困惑するユビキタスに対して、美月はこう言います。
「大丈夫だよ、ユビー。あなたがいるから。」
それを聞いて、単純なユビキタスは張り切りました。
美月と一緒に、自分も悪いことをしているんじゃないか。そんな思いはありましたが、親友の美月の頼みです。
しっかり見張るつもりで意気込んで、フンッ、と鼻息を鳴らしました。
ですが、見張るとは言っても、ユビキタスにできることなどほぼないからです。
このドラゴンの翼だって、ただついているだけで飛べるわけじゃない。
それに、この辺りにはあまり人が通りません。暇だなあ、美月、早く戻らないかな。なんて、ユビキタスはぼんやり考えていました。
その時です。木箱の陰に隠れていると、聞いたことのある声が聞こえました。
「おや、君はあの時のドラゴンじゃないか!」
「あ!」
ユビキタスは俯いていましたが、顔を上げると、あの時お世話になったボルドーさん。ヴィクター・ボルドーさんがいました。
「ひさしぶィです!」
「やあ、ユビキタス、と言ったかね?ミツキちゃんはどうしたんだい?」
この時、ユビキタスは悩みました。
……ミツキはギルドに行って、依頼の結果を報告している。そこまでは言ってもいい。でも、どこからは言うとまずいんだっけ。そう心のなかで慌てていました。
「ギゥドに行っています!」
あまり喋りすぎないようにしよう。そう思いました。
「そうかい。ユビキタスはお留守番かい?」
「うん、ボゥドーさんは?」
「ああ、私は村の寄り合いがあってね。」
「そうなんだー。」
ボルドーさんとの再会を喜んだユビキタスでしたが、今はこの場をやり過ごしたいと思っていました。
「おや、これは……?」
ボルドーさんは木箱の裏を見て言います。ユビキタスは慌てました。そして、頭には4つの選択肢が浮かびます。
1. 拾った剣だと正直に言う。
2. 知らないフリをして、剣を見て驚く。
3. 犬のフリをして誤魔化す。
4. 逃げ出す。
そして、ユビキタスが選んだのは……3。
「ワン!ワン!」
ユビキタスはブンブンと尻尾を振って、ボルドーさんに擦り寄っていきました。
「おやおや、どうしたんだい、かわいいねぇ。」
ボルドーさんは、ニッコリと笑ってユビキタスの頭を撫でました。なんとか目を逸らさせることに成功した、そう思った矢先です。
ボルドーさんは、剣に視線を戻しました。
「どれどれ……おお!こりゃあ上物じゃないか!どうしてこんな所に!ユビキタスや、この剣の持ち主を知らないのかい?」
「ワン!ワン!ハッハッハッハッ!」
「知らないのか……それなら、ギルドに届けたほうがいいな。悪い輩に見つかっては大変だからなぁ。」
ユビキタスは、ボルドーさんを止めなきゃいけないと思いました。
「ワン!ワンワン!その剣、見たい!」
「ユビキタスも、興味があるのかい?」
ボルドーさんは剣を持ち上げて、ユビキタスに見せてやりました。その時です。
粗暴な男の声が聞こえました。
「ああん?なんなんだその剣は?」
ボルドーさんは振り返ります。
「おい爺さん、アンタのもんか?」
斧を持った悪そうな男が、声をかけてきました。まるで世紀末でバイクに乗り、「ヒャッハー!」と言っていそうな、モヒカン頭の男でした。
「なんなんだ!君は!」
「よこせってこった!どうせ、アンタみたいなみすぼらしいジジイのモノじゃないだろ!」
「確かにそうだ……だが!持ち主に!」
モヒカンの男は、少し間をおいて言いました。
「あー、それはなぁ……俺の剣だ!!」
「嘘だ!」
ユビキタスにだって、それが嘘だってことはわかりました。
「ああん?……犬が喋った!?いや、コイツは犬とは違ぇ……ドラゴンか?まあいい、おいジジイ!早く寄越せ!!」
男は斧を振り上げました。ボルドーさんに向かって。
「あぶなーい!!」ユビキタスは男の足に体当たりします。男はふと冷静になって、振り上げた斧を下ろしていました。
「……なんなんだ?このヘナチョコは。」
ボルドーさんは、冷や汗をかきながらも、ガッチリと剣を握ってこう言いました。
「これは、力なんだ!素人の私でもわかる……素晴らしいものだ!!だが君には、これを扱うだけの正しい心があるのかね!!」
モヒカンの男は、ボルドーさんが構えた剣の切先をつまみ、自分の頭に近づけて笑いました。そして、
「俺が……正しくないってのか?おいジジイ。その剣を降ろせよ、なあ!!!!」
と言いました。
「ボゥドーさん!!」
ユビキタスには、何もできません。
「そうか……ジジイ、よこさないってんなら……」
一歩後ろに下がった男は、斧をボルドーさんに向かって振り下ろしました。
「くたばりやがれええええ!!!!」
ガキィィィン!!!!
金属と金属が、激しくぶつかる音。
斧を剣で受け止めたボルドーさんは、その衝撃と振動で腕が痺れ、うっかり剣を落としてしまいました。
「しまった……!」
「ジジイ、威勢がいいのに剣を落とすたぁ、とんだ腰抜けだな!もう剣がねぇ!!丸腰でこの俺に挑もうってのか!!」
その瞬間でした。
……ユビキタスはドラゴンの翼をバタバタと羽ばたかせ、飛び出しました。彼は飛べませんが、その翼の動きで素早く動くことができたのです!
「……んん?さっきのヘナチョコ犬じゃねぇか。」
まるでユビキタスは風のように早く、落ちた剣へと一瞬で駆けていきます。
「ボクだって……!やェゥんだああああ!!!!」
そしてユビキタスは剣を蹴り上げると、背中の翼を内側に丸めて、勇者の剣をがっしりと包みました!
「ユビキタスや!どこに行くんだ!」
そのまま、ユビキタスはそこを離れて、美月がいるギルドへと向かっていきます。
「ボゥドーさん!いま、ミツを連ェてくゥよ!ちょっと待ってて!」
でも、翼を畳んで、重い剣を背負っていては、あまり早く走れません。
トボトボと歩くユビキタスを、ボルドーさんとモヒカンの男は、ただ呆然と眺めてました。
「あれ……?なんか、遅くね?」
トボトボ、トボトボ……
ユビキタスは、ちょうどギルドのドアを開けて美月がでてくるのを見つけました。
「ねえミツ!こっちきて!」
「ユビー!どうしたのそれ!剣を持ってるの!?すごいよユビー!」
「いいから!ミツ!早く!」
美月は急いで駆け寄ると、ボルドーさんがモヒカン頭の男に詰め寄られているのをみました。
そして……
「ボルドーさんを……!!離しなさい!!」
「ああ?バカ犬が行ったと思ったら次はガキかぁ?」
男が斧を構えようとした瞬間でした。
全速力で走りこんだ美月は、ユビキタスの背中の剣を両手で握り、身体の右側に剣を構えます。
右足を一気に踏み込んでは、周囲の風を巻き込む、鋭い斬撃を繰り出したのです。その太刀筋は、モヒカン男の斧を跳ねのけ、確実に男の肩と胸を斬っていました。
ですが、その剣に確実に斬られた男には、傷がありません。それでも剣の効果はあり、男が頭を抱えて言いました。
「クソ……めんどくせぇ。帰るか。」
「あれは……」
この女性は、ギルド・ハローワークのギルドマスター、エリナ・ブランシュです。彼女は、美月がその剣を構えて男を斬りつけるのを見て、呟きました。
「ミツキ・アマガハラ。やはり、あなたは……」
そして、小さく唱えます。
「こちらハローワーク。ギルド本部へ緊急信号魔法を入電。依頼番号71148、連邦指定重要案件にて、受託冒険者の逃亡を確認。『伝説の剣』奪還依頼の発布を要請します。」
淡々とした男性の声が聞こえました。
「こちらギルド本部……了解しました。冒険者ミツキ・アマガハラ、並びに種族不明ドラゴン、ユビキタスの討伐依頼をゴールドスタイン領全域に発布します。同時に、該当冒険者の依頼受注権を取り消しました。依頼内容は追って連絡します。」
「討伐……?……はい、承知しました。」
ミツキは、いったいどうなるのでしょうか。
美月がギルドにいる間、ユビキタスは剣を守っていました。そこには恩人のボルドーさんと、剣を狙うモヒカン男が。
美月はその剣でモヒカン男を追い払いますが、勇者の剣を献上しなかったことが、エリナさんにバレてしまいました。
勿論そんなことは知らない美月なのでした。
今回はナレーション形式でした。いきなりの形式変更で混乱を与えてしまい、すみません。次回からは再び美月の一人称視点です。




