次の依頼
荷馬車を降りた私たちは、道なりに歩いていた。
ノルディニアの村には、ここから1時間くらい歩けばたどり着く。道順なんて覚えてないから、もし迷ったらやばいけど。
チラ、とユビキタスの方を見た。
「僕にだって道順はわかァないよぅ……」
上目遣いで私を見ては、その役に立たない翼をばたばたさせる。
……本当に頼りない奴だと思ってしまった。
「でもさ、こェだけ見晴らしがよけェば、もう盗賊に襲わェないね!」
「そうだね。このままゆっくり進もう。」
よく晴れた天気。私たちはあたたかな日差しと爽やかな風が心地いい、美しい草原を歩いていた。
……本当に何事もなく、私たちは村にたどり着いた。途中で行商人とすれ違ったくらいだ。
ここはノルディニアの村。私たちの度が始まった場所だ……別に、ずっと離れていたわけでもない。それでも、以前ここに訪れた時とは、違う自分になっているように思えた。
だって私は一つ、いや二つ?依頼をこなしたんだから!
草むしりの依頼、あとは……領主様からの、伝説の剣の依頼。
草むしりの依頼は、40リューズの報酬がもらえる。これだけあれば、3日くらいは生活できるはず。そしてもう一つ、伝説の剣の報酬……確か……
「20万リューズ、だね。」
「うん、大金だ。」
それだけのお金があれば、しばらく遊んで暮らせる。その条件は……私が腰に差している、この剣を献上すること。
でも、この剣が……
この剣がなければ、私はここまでたどり着けなかった!草むしりの依頼だって……
それに、この剣は私が見つけたんだ!私の剣なんだ!!お金は欲しい!でも……私は……
「ねえミツ、その剣、どうすゥの?」
「わからない。」
「そっか……」
私たちは顔を見合わせた。
「ねえユビー、もしも私が、この剣を引き抜かなかったら?」
「ずっと、あそこに刺さっていたか……そうじゃなけェば、誰かが引っこ抜いていたか。」
「そうなるよね。……ねえ、誰にでも抜けたと思う?」
「いやあ、伝説の剣だよ?だェでも抜けゥとは思えないよ。」
「そうだね。」
「じゃあ、領主さまなら……その剣を使えると思う?」
ユビキタスは、少し考えこんでいた。
「……ねえミツ、それってどういう意味?」
「いいから。」
「……使えないと思う。」
ユビキタスは不機嫌そうに答えた。
対して、私は勝ち誇ったように言う。
「だよね。あの剣は、領主さまに渡してもただのお飾りになるだけ。」
ユビキタスは、どこか疑い深そうに答える。
「いや、危険なモノだかァ、領主様が保管しておきたいのかもしェないよ?」
そうなのかな。
「人を斬れない剣だよ?どう危険なの?それなら私が持ってても良くない?」
「……でもミツ、あの剣は、盗賊の魔法を吸収したんだよ。そェってさ。」
「それって?」
ユビキタスの煮え切らない態度が、なんとなく嫌だった。
「それは、その、うーん……」
「ユビー。私はね、あの剣が欲しいの。」
ユビキタスは、
「でも……」と言ったきり、口を開かずにそっぽを向いていた。
「じゃあさ、この剣のことは、報告しないでおこう。ね、ユビー。」
「……ねえミツ、ほんとに、いいの?」
私は一つ、静かに息を吸って言った。
「この剣が、私を選んだんだから。」
ユビキタスは、しばらく何も言わなかった。そして静かに、私にこう尋ねた。
「ボクは、なにをすェばいい?」
「そうだね……ギルドのエリナさんに見つかったら、これが例の剣だってバレちゃうよね。」
「うん。」
「ねえユビー、私がギルドにいる間、この剣が取られないよう見張ってて。できる?」
「できゥ、けど……でも報酬は、いいの……?」
20万リューズの大きすぎる報酬。今になって気持ちが揺らいでしまった。でも……
「構わない。あの剣があれば……もっと報酬が多い依頼だって、やれるんだよ。」
「た、確かに。でも……大丈夫、なんだよね?」
ユビキタスは怯えているようだった。意気地なし、と言いたかったけれど、彼の思いは伝わってきたから、何も言わなかった。
ありがとうユビキタス。それでも、私は進むよ。
「大丈夫だよ、ユビー。あなたがいるから。」
言ってしまった。もう、後には退けなかった。
託した剣は、ユビキタスの鼻先から尻尾の先までと同じ長さ。
私はそれを、民家の木箱の裏に隠しておいた。ユビキタスには、剣を見張っておくように言いつけた。
そして、ギルド「ハローワーク」の扉を開ける。
「こんにちは。今日はどうなさい……アマガハラ様!随分早く戻られましたね。おや?お連れのドラゴンは……?」
流石はギルドマスター、エリナ・ブランシュ。早速、嫌な所に目をつけられた。
「ゲフン!ええと、医者に!あの子、拾い食いする癖があって!」
「は、はあ、そうですか……では、今日は依頼の関係ですね。」
「はい、依頼をこなしたので報酬を貰いに来ました!」
「お疲れ様でした。それでは依頼票をお見せください。依頼主から依頼完了印はもらいましたか?」
依頼票に、依頼主からサインをもらうことが達成の証拠らしい。
「はい、あります!」
「……依頼主様のサインを確認しました。草むしりの依頼達成、おめでとうございます。それでは、報酬の40リューズをお支払いします。」
ギルドの奥でお茶を飲んでいた2人が動き出し、金庫からお金を取り出して渡した。
「ところで、アマガハラ様はもう1件依頼を受注されましたね。あちらはいかがですか?」
………あの剣のことだ。
やっぱり、ちゃんと言わなきゃいけないかな……?
この人に、嘘なんて通用するのかな……?
いまなら、まだやり直せる。私……!
正直に……!正直になるんだ!!
「あー、あの剣でしたら、地図から外れたところで発見したのですが、これがまあ〜硬くて、非力な私では全然抜けなかったと言うか……いやー、失敗しました!」
……口が滑った!最低だ、私!!
エリナさんは一瞬、鋭い目線を向けた。
「地図とずれることなんてよくありますからね。やはり……あの依頼は難しいのですね。」
「それじゃ、ほかの依頼を教えてもらえますか?」
「お待ち下さい、アマガハラ様。」
エリナさんは依頼一覧を手で覆い隠して言った。
「伝説の剣……もしも依頼主様に報告されなかったら……」
「されなかったら……?」
きっと、見抜かれている。変な汗が流れた。
「契約不履行。その場合ギルドには、どんな手段を用いても依頼主に剣を献上する義務があります。」
「どんな手段……?」
「それに、依頼主は四大諸侯の一角。その強力な軍隊から逃れられる冒険者はおりません。」
「ええと、つまり……その……」
エリナさんは、私の目を見て真っ直ぐ言った。
「剣を持ち出して逃げ出す……そうなれば、ギルド連盟の精鋭たちと、ゴールドスタイン領の軍隊の両方から狙われるということです。」
心臓がバクバクして手が震える。でも私、もう退けない……!
「もしもアマガハラ様が剣を引き抜くことに成功したら、の話です。宝物の献上依頼については、行方をくらます冒険者が多いですからね。その追跡のために、不特定多数ではなく個人に依頼しています。」
良かった……気づかれてないのかな?
「逃げ出した冒険者を倒すのもまた、冒険者の仕事ですよ。こちらの依頼も受注してみてはいかがでしょうか。」
エリナさんが1枚の紙を差し出した。
「指輪の捜索依頼でした。大きなサファイアがあしらわれたもので、推定時価30万リューズの逸品です。依頼主はゴールドスタイン領でも有力な貴族、ベルモット家です。」
でした……?
「指輪は……冒険者に盗まれました。」
「なんで、冒険者が指輪を盗んだって分かったんですか?」
少し食い気味に、私は質問した。
「詳しいことは存じ上げませんが、重要な依頼については、受注者は1年ごとに、ギルド本部に行って進捗報告する義務を負います。だいたいはそこで発覚します。」
進捗報告……?
「じゃあ、進捗報告?をしなければ。」
「……ええ。盗んだ、として処罰対象となります。」
「現在、アマガハラ様が唯一受注可能な依頼ですが……受注なさいますか?」
私には、他に選択肢もないし。
「……やらせてください。」
討伐依頼。今度は……人。
2つの依頼を達成した美月は、葛藤の末に、伝説の剣の獲得に成功したことを隠す。そのことを知ってか知らずか、エリナは美月に、指輪を横領した冒険者の討伐依頼を出すのであった。




