焼肉Kingdom ―炙りの王たち、焼肉戦争―
何となく短編書きました
東京近郊、武蔵台の片隅にある小さなバー「KAGEROU」。
木の温もりが漂う内装に、ジャズが流れる夜。そこに男が二人、カウンターで向かい合っていた。
「お前さ、それ焼きすぎなんだよ」
「は?ギリギリまで火通すのが一番脂乗るって知らねーのかよ」
大学4年の焼助と、その親友・鉄火は、グラス片手に小皿のカルビを見ながら真剣に議論していた。
「理論的に考えてみろ。脂の溶け出す温度は60度前後。焦げたらタレが活かせねえ」
「お前、肉を理屈で食ってどうすんだ。肉は…炎との語らいだ」
火花が散る議論の最中、その隣で静かにハイボールを飲む女性がいた。
香炉。新宿のカフェで働く24歳。店の常連としてふらりと入ったバーで、彼女は妙な熱量を持った二人の男に耳を傾けていた。
「スミミ、見て。あの人たち…肉の焼き方で言い争ってる」
「え、なにそれ怖い」
炭美。カグラの職場の後輩で22歳。炭火の管理に命をかける、静かなる火の使い手。
「焼肉の匂いがする男たち…これは、当たりかも」
カグラの目が輝いた。
そして、店を出る直前。テッカとカグラの視線がぶつかった。
その夜、偶然は導かれる。
――合コンという名の、焼肉戦場へと。
⸻
数日後、新宿。炭火焼肉店『紅炎』の個室。
集められたのは、男女4人。テーブルを挟み、火がともる。
「カンパーイ!」
「肉の神に感謝!」
男サイド:
・テッカ:炎と肉を愛する熱血漢。語尾に“うっ…”が多い。
・ヤキスケ:冷静沈着な合理派。食べる順番を重視しすぎて浮くタイプ。
女サイド:
・カグラ:策略家。焼肉における“間”を最も大切にする。
・スミミ:火力調整の天才。炭を操るのが趣味。
「じゃ、まず牛タンからいこっか?」とスミミ。
「当然だな。タンから始まるのが流派の王道だ」
…その瞬間、テッカの脳内には“戦場”が広がる。
≪召喚:牛タン・初段!攻撃力1800、防御1000!≫
≪装備魔法:レモンブレード≫
スミミの手元が静かに動く。
≪炭火の結界 発動。効果:火力を均等化し、焦げを防ぐ≫
網の上で肉が踊り、脳内では斬撃音が鳴る。
実際には誰もしゃべっていないが、空気は明らかに変わっていた。
「なあ…お前ら、今なにと戦ってんの…?」とカグラが苦笑する。
「うっ……俺の牛タンが…スミミの炭結界で…無念……」
「もうやめて、タンのHPはゼロよ!」
ギリギリの攻防が続く中、ヤキスケが冷静に動く。
「さて、そろそろ≪戦術的タン塩リセット≫かけよう。塩キャベツ、投下」
≪速攻魔法:塩キャベツ 発動≫
効果:満腹ゲージを初期化し、胃袋に空間を生む!
「おい、今言ったの脳内か?実際に声に出したのか?」
「いや、俺たち…どっちかもうわかんねえよ…」
会話とバトルが交錯する焼肉空間。現実と想像が網の上で融合していく。
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その夜の山場は、突如訪れた。
「出すしかねぇか…」テッカがつぶやく。
「和牛・最終形態――解放ッ!!」
店員が運んできた高級和牛の皿。光を浴びて脂が煌めく。
≪伝説の切り札:和牛・クライマックスver≫
攻撃力:∞/満足度:極/価格:ヤバイ
一同、固唾を飲む。スミミが囁いた。
「ダメだよ…これ出されたら、こっちも最終奥義を出すしかない…!」
「頼むスミミ…お前しかいない…!」
≪召喚:鬼おろし×おろしポン酢 合体魔法!≫
和牛の脂がキレよく流れ、さらなる旨味へと昇華する――。
「こんなの…反則だよ……」
カグラがつぶやいた。「私も食べる…それ、ください…」
網の上はまさに“戦国”。
だがこの戦、勝敗などない。あるのは、ただ“うまい”の圧倒的暴力だけ。
⸻
そしてラストフェーズ。
全員が満腹に近づくそのとき――ヒビ(店員)が登場した。
「本日のおすすめデザート、焼きパインです〜」
「え、焼きパイン?」
「待って…それ私めっちゃ好き」
軽く炙られたパインの香りがふわりとテーブルに漂う。
一口食べた瞬間、全員の脳内がフラッシュする。
≪フィニッシュアタック:焼きパイン・サンクチュアリ≫
効果:すべての焼肉ダメージを浄化し、天に昇る旨味へと導く。
「ああ…胃が…救われた……」
「これ、焼肉界の天使やん…」
スミミがそっと言う。「…また来よう、ここ」
テッカはうなずいた。「うん。今度は…もっと強くなってな」
その言葉に、スミミの表情がふわっと柔らかくなる。
カグラとヤキスケは視線を交わし、小さく笑った。
焼肉は戦争じゃない。けど、戦わなきゃ旨くならない。
そして、時には恋の火種も炭火の中に生まれるのかもしれない――
⸻
焼肉Kingdom――完。