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第6話 真っ黒社長

「なんだこの再生数……」


 丈二はスマホの画面を見て、アゴが外れるかと思った。


 会社のオフィス。

 就業前の時間に、昨日の夜に上げた動画をチェックした。

 

 そこに表示されていたのは、とんでもない再生数。

 あと一本ほど動画を投稿したら、収益化も難なく通るだろう。


 どうして急激に再生数が伸びたのか、少し調べてみると。


「そうか、あのおしゃれな女性は有名人だったのか」


 どうやら買い物の途中で出会ったおしゃれな女性。

 彼女が有名なインフルエンサーだったらしく、動画を紹介してくれたらしい。


 それをきっかけにして、一気に拡散。

 一晩のうちに、再生数が爆上がりしていた。


「おはぎ、今晩は昨日よりもおいしいご飯を用意してあげるからな」


 丈二はおはぎに感謝する。

 感謝の気持ちとして、良いお肉を買って帰ろう。

 そう決めた。


 スマホの画面を切り替える。

 家にはペット用のカメラを設置しておいた。

 アプリを立ち上げると、おはぎの現在の様子が映っている。


 座布団の上で、くーくーと寝息を立てている。


 出てくるときは寂しそうにしていたが、とりあえず大丈夫そうだ。

 ほっこりとする丈二。

 

 その耳に、ゾンビのうめき声が聞こえてきた。


「ぜんぱい、おあようございみゃす」


 失礼。まだ生きている人だった。

 丈二が顔を向けると、そこにはスーツ姿の女性。

 目元には真っ黒なくまが出来ている。

 働いている会社の黒さを表しているようだ。


「牛巻、大丈夫か? 休んだ方がいいんじゃないか?」


 彼女は『牛巻恵(うしまきめぐみ)』。

 丈二の後輩だ。


 牛巻はドンと、テーブルに荷物を置く。

 そしてエナジードリンクを取り出した。


 プシ! ごくごく!!

 勢いよく、それを飲んでいく。


 牛巻は缶を持ち上げながら、上を向いていく。

 やたらデカい胸が強調されて、目のやり場に困るから止めて欲しい。

 丈二は気まずくなって目をそらした。


 ガン!!

 力強く缶が置かれた。


「先輩、ここが踏ん張りどころなんですよ。私はVtuberとして成功して、この会社からおさらばするんです!」


 牛巻は最近、Vtuberとしてデビューしたらしい。

 アバターは自費で作った、個人勢だ。

 機材等を含めて、結構な金額がかかったらしい。


「私が有名になったら、先輩のこともマネージャとして雇ってあげますよ」

「ああ、うん、ありがとう」


 牛巻は半ばやけくそになっているように見える

 あまり動画の伸びはよくないらしい。


 コンコルド効果が働いているのだろう。

 損失が出ると分かっていても、投資した金額分を惜しんで止めることが出来ない心理効果だ。


「そろそろ、時間になるから準備しような」


 丈二はなるべく優しく言った。

 これ以上、牛巻にストレスをかけるべきではないだろう。

 なるべく仕事面のフォローはしようと考える。


 しかし、仕事が始まってすぐに、ストレス源がやってきた。


「おう、お前らやってるか?」


 ドシドシと足音を立てて入ってきたのは『社長』だ。

 ギラギラとした、高そうな時計を付けた中年の男。

 社長と言っても、親の跡を継いだだけの人だが。


「お前らは、俺が見張ってやらないと、すーぐにサボるからなー」


 この社長が会社のガンだ。


 丈二たちが働く会社は広告代理店だ。

 特にダンジョンから資源を回収する人々。『探索者』向けの製品宣伝に強い。


 だがこの社長は探索者をバカにしている。

 頭の悪いやつらがやる荒仕事だと差別している。

 その発言を取引先でもしたせいで、優良な取引先をいくつも失った。


 その損失を埋めるように、安い仕事を引き受ける。

 しかし安い分、たくさん引き受けなければいけない。


 結果として、丈二たちの労働時間が伸びて行く。

 経費削減の名目で、給料も上がりづらい。

 

 仕事は大変になっていくのに、給料は上がらない会社の出来上がりだ。

 

「よぉ牛巻、今日も牛みたいな胸だな」


 社長が牛巻の肩に手をのせる。

 牛巻はナメクジに這われたように、うげぇとした顔をした。


 この会社に居る若い女性社員は牛巻ぐらいしかいない。

 若い女性社員は、社長のセクハラに耐えかねて退職していった。


 つい先日も、新卒採用した女の子が辞めた。

 その代わりを求めるように、牛巻に絡んできたのだろう。


 今の牛巻に会社を辞めるほどの余裕はない。

 ちょうど散財した後だ。


 なんとかして、社長のセクハラを止めよう。

 丈二は社長に声をかけた。


「社長、そう言った言動はセクハラに当たりますよ。止めておいたほうがいいんじゃないですか」

「あぁ?」


 ドン!

 威圧するように、社長は丈二の机に手を置いた。


「俺はただ、社員との交流を深めてるだけだぞ? なにを勘違いしてるんだ?」

「勘違いされる時点で問題でしょう」

「お前な――!」

「社長!」


 社長が怒鳴り返そうとしたところで、声がかかる。

 声をかけた上司は電話を片手に持っていた。

 どうやら、なにか連絡がきたらしい。


「なんだ!?」

「いえ、お客様です」

「誰だよ。今日は来客の予定なんて無かったはずだが」

「それが――長塚製薬様でして」

「は?」


 長塚製薬。

 それは大手の製薬会社だ。

 特に健康食品に強い会社だ。

 主力商品は、保存がきく栄養調整食品、栄養ドリンク、スポーツドリンクなど。

 ダンジョンに潜る探索者向けの食料品も多い。


 以前は丈二たちの会社とも取引があった。

 だが社長が変わった後に、契約を打ち切られた。


 それが今になってなぜ。

 オフィスにいた全ての社員に疑問符が浮かんだだろう。


「と、とりあえず、すぐに向かう」


 相手は超大手企業相手だ。

 再び契約を取ることが出来れば、大きな利益になる。

 社長は慌てたように動き出したが、


「待ってください――牧瀬も呼ぶように言われていて」

「は?」


 社長はすっとぼけた顔で丈二を見た。

 『なんでこいつが』と顔に書いてある。


「まぁいい! ともかく一緒に来い!」

「分かりました」


 二人は部屋を飛び出して、応接室に向かった。

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