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第32話 カエルと蛇

 クシナダにあるダンジョンの入り口。

 そこは多くの人であふれていた。


 逃げてきた観客。

 その中には転んだりして、ケガをした者もいる。

 それを応急処置する店員。

 ダンジョン内に入っていく警備員。


 そんな人ごみの中からスルリと抜け出す男が居た。

 男は何事も無かったかのように、平然と歩く。

 そして従業員専用の通路に入っていった。

 人気のない通路をカツカツと進んでいく。

 どこか不気味な口笛を吹きながら。


「グルァ!!」

「おっと」


 男に、加賀にぜんざいが飛び掛かった。

 しかしスルリと避けられてしまう。


「惜しかったで――!?」


 まだ終わりじゃない。

 ぜんざいの体から、ぬるりとした触手のような物が伸びる。

 それは加賀に絡みつく。


「これは、スライム!?」


 ぜんざいの体に薄く張り付いていたのは水色のスライムだ。

 さきほどまで、丈二たちが戦っていた。

 そして加賀がナメクジを取り付けて放ったモンスター。


「驚きました。スライムが倒されたことは察していましたが、まさか手懐けているとは」


 ぜんざいと加賀がにらみ合う。

 そこにドタバタと丈二が走って来た。

 丈二の腕の中にはおはぎが居る。


「ぜんざいさ――うぉ!? 加賀!?」

「先日はどうも、牧瀬さん」


 いきなりスライムを連れて走り出したぜんざい。

 丈二はそれを追いかけてきた。

 今回の事件に加賀が関与している可能性は考えていた。

 だが、ぜんざいが加賀を捕まえているとは思っていなかった。

 

「ずいぶんと賢い番犬を飼ってらっしゃるようですね」

「……ええ、いつもお世話になってますよ」


 ぜんざいのことは頼りにしている。

 丈二よりも賢いだろう。

 いや、今はそんな世間話をしている場合ではない。


 とりあえず加賀をどうにかしなければならない。

 半蔵に連絡を取ろうとスマホに手を伸ばしたが。


「俺は必要なかったようですね」


 通路の先。

 丈二たちが入ってきたのとは逆の、出口のほうから半蔵がやってきた。

 彼も加賀を捕まえるために待っていたらしい。


「ぼふ」


 『私の勝ちだな』ぜんざいのドヤ顔が炸裂する。

 半蔵にもその意思が伝わったのだろう。


「今回はぜんざいさんの勝ちですね」


 半蔵は肩をすくめながら歩く。

 そして加賀に近づくと、刀を抜いた。

 加賀の首元に刀を添える。


「ギルドの犬もやって来ているとは……犬が嫌いになりそうですよ」

「お前のくだらない世間話に付き合うつもりはない」


 半蔵はぴしゃりと言い捨てる。

 いつもクールな彼だが、いつも以上に冷たい印象だ。


「お前は死体を盗んだ事件に関係しているな?」

「そうですよ」


 質問に答える加賀は、どこか余裕そうだ。

 なぜこの状況で笑っているのか。

 丈二はうすら寒いものを感じる。


「なぜ盗んだ?」

「それは答えられません」


 この期におよんで、ふざけた答えだ。

 半蔵もそんな答えは予想していなかったのか、沈黙が流れる。


「……なぜ丈二さんたちを襲った?」

「ドラゴンは貴重な研究サンプルですから」


 研究サンプル。

 加賀はモンスターを研究している組織の一員なのだろうか。


「今後も丈二さんたちを襲うつもりか?」

「それは無いんじゃないでしょうか。別にドラゴンに固執する理由がありません。こんな狼が居てはわりに合わないでしょうし」


 加賀はぜんざいを見た。

 ぜんざいが加賀を捕まえたのは、良い方向に転がる材料になるかもしれない。

 さすがはぜんざいだ。

 丈二は心の中で感謝して、帰りに高級ジャーキーでも買っておくことを決める。


「……とりあえず、加賀は俺のほうでギルドに突き出しておきます。丈二さんたちは休んでください」


 半蔵はスライムの隙間に手を入れる。

 そして加賀に手錠をかけていた。


「分かりました。あとはよろしくお願いします」


 とりあえず、加賀に関する事件は解決しただろう。

 だが、加賀は最後まで薄ら笑いを浮かべていた。

 丈二はその笑みに不気味なものを感じた。

 




 夜景は文明の光だ。

 男はその光を眺めるのが好きだった。

 人類の進化によって作られた絶景。

 自然ではありえない、その光景がなによりも美しいと感じていた。


 ビルの屋上。

 涼し気な夜風が頬をなでる。

 どこか不気味な口笛を吹きながら、男はその明かりを眺めていた。


 男のスマホが鳴った。

 その画面を確認する。

 自分たちで開発したメッセージアプリから通知が来ていた。


『加賀17番ロスト』


「また、一人失ったか」


 男はそう呟いて、スマホをしまう。


 ガチャン。

 屋上への扉が開かれた。

 チラリと目線を向けると、そこに居たのは白衣の男性。


 どこか両生類じみた、のんびりとした顔つきの男。

 河津動物病院院長『河津(かわず)蛙水(あすい)』だ。


 河津が歩いてくると、ビルの隅から影が飛び出した。

 白い、小さなネズミだ。

 ネズミは河津に飛びつくと、その手のひらに上った。


 河津がネズミの頭を軽くなでると、袖から白衣に潜り込んだ。


「久しぶりだね。今はなんて名乗っているんだい?」

「お久しぶりです。今は『加賀』と名乗っています」


 男は、加賀はいつものように余裕の笑みを浮かべていた。

 対する河津先生は悲しそうな眼を向けている。


「……加賀くん。今さら僕が何を言っても、君は止まらないだろう」

「ええ、その通りです」

「なら、せめて、丈二くんたちを巻き込むのは止めてくれないか。彼の飼っているおはぎちゃんは僕の患者だ」


 河津先生にとって、おはぎが巻き込まれるのは納得できなかった。

 自分の患者を。

 まだ幼い命を殺されるのは我慢ができない。


「……別にドラゴンに固執する理由もありません。我々の目的にはナメクジがあれば、それで良い」


 カツカツと加賀は歩く。

 屋上の出口へと。


「あのドラゴンには手を出しません」


 そして、河津先生とすれ違った。

  

「恩師の頼みですから」

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