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第3話 ドラゴンが居る生活

「やっと帰ってこれた……」


 丈二はガラガラと家の玄関を開ける。

 そこは古い一軒家。

 寂しい一人暮らしだ。


 母は幼いころに事故で他界。

 父も丈二が働き始めたころに、急な病気で亡くなった。


 残されたのはある程度の遺産と、この古い家だけだ。


 女性と付き合えるような度胸もない。

 このまま一生、一人で暮らしていくのかと思っていた。


 だが、今日からは違う。

 

 丈二は腕の中で眠っているドラゴンを見る。

 可愛らしい同居人ができた。


 丈二はいそいそと布団を用意して、その上にそっとドラゴンを寝かせた。


「ぐる?」

「おっと、起こしてしまったか」


 ドラゴンは目を覚ますと、丈二の膝に乗ってこようとする。


「ごめんな。俺も着替えなきゃいけないから」


 ドラゴンの頭を撫でて、そっと布団の上に戻す。

 ドラゴンは寂しそうな眼をしたが、理解してくれたようだ。


「そういえば、名前も付けてあげないとな」


 丈二はジッとドラゴンを観察する。

 全体的に薄黒い鱗におおわれている。

 首の下からお腹の周辺までは白っぽい。


 さて、どんな名前が良いのか。

 丈二は頭を悩ませる。


 ドラゴン、黒、黒っぽいもの――

 ふと、幼いころに母に作ってもらったお菓子を思い出した。


「キミの名前は『おはぎ』だ。いいかい、おはぎだぞ」

「くるる!」


 おはぎは嬉しそうに鳴いた。

 気に入ってくれたらしい。


「よし、じゃあ良い子にしててくれよ」


 丈二はおはぎを置いて、着替えをすませる。

 そして、おはぎに出会う前に買っていたコンビニ弁当を食べようとしたのだが、


「くる?」

「そうだった、おはぎのご飯も用意しないと……でもなにを食べるんだろう」


 丈二はあまり自炊をしない。

 単純に時間がないからだ。

 だから生肉などのドラゴンが食べそうなものがない。


 おはぎに何を与えたらよいのだろうか。


「唐揚げとか、食べさせていいのかな」


 丈二は試しに『ドラゴン 食事』で検索してみる。

 当然ながら分かるわけがない。

 人類で初めてドラゴンを飼育しているのが丈二なのだから。


「たぶん大丈夫なのか?」


 だが検索結果によると、野生のドラゴンは雑食性。

 わりとなんでも食べるらしい。


 もしも、犬に唐揚げを与える場合は、油が問題になるみたいだ。

 だがドラゴンなら大量の油を含んだモンスターも捕食するらしい。

 唐揚げくらいは大丈夫なのだろう。


 丈二は弁当に入っていた唐揚げを何個か取り出す。

 小皿に移すと、水を入れたおわんと共に、おはぎの前に置いた。


「くる♪」


 おはぎは嬉しそうにガツガツと食べだす。

 おいしいようだ。


「俺もご飯食べちゃうか」


 丈二もモソモソとご飯を食べ始める。

 いつもと変わらないコンビニ弁当のはずだが、一緒に食事をしてくれる存在が居ると、よりおいしく感じられた。





「よし、風呂に入るか」


 食事が終わったあと、丈二は風呂場に向かう。

 ちょうどお湯が炊き上がっていた。


「くるる?」


 『なんだなんだ?』と言うように、おはぎが付いてくる。

 お湯は平気なのだろうか。

 犬猫は嫌がるイメージがあるが。


「ちょっと、薄汚れてるな……」


 よく見ると、おはぎの鱗には血が付いている。

 元が黒いから目立たなかったが。


「とりあえず、一緒に入ってみるか」


 丈二は桶にお湯を入れる。

 おはぎを抱き上げると、その中にゆっくりと入れてみた。


「くるるー」


 おはぎは平気らしい。

 むしろ気持ちよさそうだ。


「お湯が平気なのはありがたいな」


 丈二は石鹸を泡立ててる。

 そしてスポンジで、おはぎの体をこする。


 おはぎの黒い鱗が光沢を取り戻していく。

 まるで高級車のような輝きだ。


「すごい、つぶあんのおはぎが、こしあんに変わってるみたいだ」

「くる!」


 おはぎは自慢気に鳴いた。

 こしあんでいいのだろうか。

 

「よし、洗うのはこれくらいで良いだろう。一緒に湯船に入るか」


 おはぎを抱き上げて、共に湯船に入る。

 

 すると、おはぎはジタバタと離してほしそうにする。


「な、なんだ。泳ぐのか?」


 そっと手を離す。

 おはぎはバタバタと犬かきを始めた。


「おお! おはぎは泳げるのか」

「くるる」


 ひとしきり泳ぎ回ると、満足したのか丈二の腕に戻ってくる。


「よしよし、今日はもうゆっくりしような」

「くるぅ……」


 少しすると、おはぎは眠そうにウトウトとし始めた。

 遊び疲れた子供のようだ。


「もう上がって眠ろうな」

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