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第27話 ナメクジには塩

 謎の男がやって来た次の日。

 朝ごはんを終えた丈二たちは、のんびりと朝の時間を過ごしていた。


 丈二の膝の上で、おはぎはお腹を上にしてのんびりと体を伸ばしている。


「ぐるぅ♪」


 そのお腹をなでると、嬉しそうに喉を鳴らす。


 ぜんざいは丈二の隣で、ゆらゆらと尻尾を揺らしていた。

 見た目こそのんびりとしている。

 だがピンと立った耳を見るに、周りを警戒しているようだ。


 いつものような平和な日常。

 昨日のことが夢だったのではと感じる。


 しかし、割れた窓から入ってくる暖かい風が、昨日の事件が現実だったことを主張している。


「結局、アイツはなんだったんだろうな」


 あの後、警察を呼んで調べてもらった。

 しかし、加賀と言う男についてはなにも分からなかった。


 少なくとも『酸漿(かがち)商事』なんて会社は実在しなかった。

 顔の特徴なども伝えたが、幻を見せるような魔法を使っていた。

 あの顔が本物だったかも怪しい。


 しかし加賀が置いていったアタッシュケース。

 その中に入っていた、大量の現金は本物だったらしい。


 落とし物として届けたら、一割貰えるのでは!?

 そう丈二は期待したが、今回は遺失物ではなく押収物として預かるらしい。

 せめて、窓の修理代くらいは貰いたかった。


「……今後も同じようなことが続くのかな」


 丈二はおはぎを見る。

 おはぎは強いが、まだまだ子供だ。

 万が一のときにはしっかりと守ってあげなければ。

 丈二が決意を固めていると。


「ぼふ」


 ぜんざいが玄関を見た。

 警戒している様子はない。


 ぴんぽーん!

 呼び鈴が鳴った。

 ぜんざいの様子からすると、知り合いだろうか。


 牛巻ではないはずだ。

 牛巻には事情を話してある。

 謎の男に狙われているかもしれないと。

 巻き込まないためにも、しばらく家には近づかないように言ってあるのだが。


 丈二は不思議に思いながら、玄関に向かう。

 ガラガラと扉を開けると。

 そこには半蔵が立っていた。


「丈二さん、おはようございます」

「あ、おはようございます。どうされたんですか?」


 前回、護衛してもらった後。

 半蔵には住所を教えていた。


 はたして、何の用事だろうと丈二は不思議に思う。

 とりあえず家に上がってもらった。

 居間に通して、お茶を出す。


「今日はどうされたんですか?」

「丈二さんが怪しい男に襲われたと聞きましたので」


 心配して様子を見に来てくれたらしい。

 なんとも義理堅い人だ。


「それと、一つ丈二さんにもお伝えしたいことがあったので」

「伝えたいことですか?」


 半蔵は難しい顔をする。

 そして秘密の話をするように、トーンを落とした。


「人狼の死体が盗まれました」

「えぇ!?」


 なんでも、ギルドはナメクジについての研究を進めようと思ったらしい。

 その研究材料として、人狼の死体と、その中に詰まったナメクジを保管していた。

 

 ギルドとしても貴重な研究材料。

 警備は厳重にしていた。

 だが昨日の夜。

 警備員のほとんどが意識を失い、気づいたら死体は無くなっていたとか。

 犯人の姿も全く分からないらしい。


 半蔵は眉を寄せた。


「あくまでの俺の勘ですが、死体を盗んだ奴らと、丈二さんを襲った奴は何らかの関係がありそうな気がします」

「どちらも昨日の夜ですから。何らかの関係性は疑ってしまいますね」


 ギルドの施設を襲うほどの何者か。

 あるいは集団。

 そんな奴らがおはぎを狙っているかもしれない。


 現状では警備面はぜんざいに頼り切りだ。

 少しの間だけでも、どこかに避難するべきだろうかと考えていると。


 丈二のスマホが震えた。

 手に取ると、発信元は『河津動物病院』。

 おはぎがお世話になっている病院だ。


「少し失礼しますね」


 丈二は電話に出る。


「もしもし、牧瀬ですが」

「もしもし河津です。早い時間からごめんね。今は時間あるかい?」


 河津先生の、のんびりした声が聞こえる。


「実は半蔵さんが家に来ていまして」

「それならちょうどいい、二人で話を聞いてくれないかい?」


 そう言われたので、丈二はスマホをスピーカーモードにした。

 これなら二人に声が聞こえる。


「聞こえてるかい?」

「大丈夫です」


 半蔵が答えた。


「ぐるぅ?」


 おはぎは不思議そうにスマホに鼻を近づけて、クンクンと鼻を鳴らす。

 スマホから河津先生の声が聞こえるのが不思議なのだろう。


「おはぎ、こっちにおいで」


 おはぎを抱き寄せて膝に乗せた。

 おはぎはテーブルの上に手をちょこんと乗せて立っている。

 話が気になるのだろうか。


「実はね。おはぎちゃんの魔力に特殊な力があることが分かったんだ――」


 河津先生は疑問に思っていたらしい。

 なぜ他の狼にはナメクジが付いていたのに、ぜんざいには全く付いていなかったのか。


 それに関して検証している分かったことがある。

 検査のために採血していたぜんざいの血。

 その余りをナメクジに与えたら、急に苦しみ出したらしい。

 調べていると、どうやらぜんざいの魔力に苦しんでいることが分かった。


 最初はぜんざいの魔力によるものかと思ったらしい。

 しかし、試しにおはぎの血を与えてみると、ナメクジは溶けるように消えていった。

 ぜんざいの魔力以上に、おはぎの魔力を苦手としているようだ。


「僕の仮説としては、おはぎちゃんと牧瀬くん、そしてぜんざいちゃん。君たちの精霊の間に、何らかの繋がりが出来た。それによって、三人の間である程度の魔力が共有されているんじゃないかと思うんだ」 


 魔力が共有されている。

 それによって、おはぎの魔力がぜんざいの中に紛れていたため、ぜんざいの血にもナメクジは苦しんだ。

 

 ……どうして、おはぎの魔力がナメクジに有効なのか。

 丈二はおはぎを見る。

 おはぎは、どこか自身に満ちた表情をしていた。

 ドヤ顔だ。


「ぐるぅ!」


 『ほめて!』おはぎは丈二のアゴに頭を擦り付ける。


「よく分からないけど偉いぞ! ぜんざいさんが健康なのは、おはぎのおかげかもしれないからな」


 丈二がおはぎの頭を撫でる。

 それに合わせるように、ぜんざいが尻尾でおはぎをなでる。

 ……固い鱗を舌で舐めるのは痛いのだろうか。

 おはぎは嬉しそうに目を細めた。

 

 半蔵がスマホに顔を近づける。


「河津先生、もうお聞きになったかもしれませんが、人狼の死体が盗まれました」

「……そうか。今は、悪用されないことを願うしかないね」


 河津先生は悲しそうに言った。

 だが、驚いてはいない気がする。

 どこか、納得したような。事件を予測していたような声に聞こえた。

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[一言] ドラゴンだから強いとか?(´゜д゜`)
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