6 祈り
サチには、何のためらいもなかった。
「先輩、この前はありがとうございました」
笑顔で言うと、先輩は心配な目を残したままで言った。
「サチは大丈夫か?」
「大丈夫になりました。色々吹っ切れたんで」
サチは本当に吹っ切れた表情をしていた。
「結局は、自分ができることをするしかないんですよね」
「そうだと思う」
サチの表情に、先輩は少し安心したようだった。
「また何かあれば、話を聞くことくらいはできるから言って」
「ありがとうございます」
サチは心の底から言った。
しばらく二人はもくもくと星のカケラを拾った。
――これは、人が燃えたもの。
焼却炉にゴミ袋を入れる時、サチは祈るようになった。
この願いをかなえた人が安らかに眠れていますように、と。
サチはその日、崖の上に登った。
カイトと話した日々を振り返る。ゆっくりと目を閉じると、彼の顔が浮かんでくる。
初めて会った時の楽しそうな顔。穏やかに「お疲れ様」とサチに微笑む顔。咳き込んで苦しむ顔。手術を目前にした辛そうな顔。覚悟を決めた顔。
早かったな、カイトと過ごした時間は。
「カイトの病気が治り、幸せな人生が送れますように」
サチは心の底から言った。
サチは両腕を伸ばす。指先に視線をやった。遠くに綺麗な星が浮かんでいるのが見える。
カイトが色んなところに行って、色んな景色を見て、友達がたくさんできて、好きな人と一緒に笑える日が来ますように。
体が熱くなっていくのをサチは感じた。
――おい、サチ!
誰かの声が聞こえた気がした。それは現実か、妄想か。
しかし、その声を認識する前に、サチは姿を消した。
その水曜日、遠くの世界のひとりの青年の難しい手術が成功した。
ヨルの世界の崖の上には、サチの着ていた服と星のカケラだけが残っている。
これにて完結です。ありがとうございました。
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