5 覚悟
残酷なものが苦手な方はご注意ください。
細かな描写はありませんが直球です。
家に帰ったサチの視線が捉えたのは、図書館で借りてきた本だった。
そういえば、流れ星のところ読んでいなかったな。
そこを読もうと思って借りたのにな、とサチは笑った。レモンソーダを淹れて、机の前に座る。そういえば、閲覧注意と書いてあったっけ。
本を開き、サチは閲覧注意の意味を知った。
――流れ星は、人が燃えて出来ています。願いをかなえるために、自らの綺麗なところを燃やしたものが流れ星です。自分を犠牲にしてでも願いをかなえたければ、流れ星になるのが一番です。
戦慄が走った。
――流れ星になるのは、とても簡単! 崖の上で両手を伸ばして願い事をとなえてみよう。
ポイントは、願い事を強く思うこと。それを忘れたら、流れ星になる意味がなくなっちゃうからね。でも、それさえ忘れなければ、必ず願いをかなえられるよ!
「いや、いや。文章が軽すぎるでしょ」
わざと軽い言葉を並べた。あまりにひどい真実だ。
だけど、サチはその内容を疑うことはなかった。なにせ、この本でサチはカイトと出会ったのだ。
ふと、サチにある考えが浮かぶ。
――私が流れ星になれば、カイトの病気は完治するのでは?
「いや、いや、いや。ちょっと待て」
サチは激しく混乱した。
何、自分で自分を犠牲にしようとしているんだ?
自分が好きだったでしょう? 自分が大事だったでしょう?
そこまで私はカイトが好きだったんだ、とサチは自覚した。
自覚した気持ちは急激に加速する。
その次の日、サチはカイトに会った。
「手術は二週間後の水曜日の午後になったんだ」
カイトは覚悟を決めた口調で言った。
「リスクは大きいけど、この手術が成功すれば大きいよ。できることが、だいぶ増える」
「応援してる」
サチはカイトの目を見つめた。
「近い将来、カイトは色んな所に行って、色んな景色を見て、色んなものを食べるんだよ」
「そうだと良いな。僕もそんな未来が来ると信じてる」
カイトは微笑んだ。
「そしたら、新たな僕の体験はサチにも話したいな。今までサチが色々とヨルの世界のことを教えてくれたみたいに。今まで伝えられなかったヒルの世界の素晴らしいところや綺麗なものを、サチにも伝えられたら良いって思ってる」
「うん、私も知りたいな」
サチは正直に言った。
「カイトが大好きだよ。いつでもカイトのそばにいるつもりだから」
「世界を越えているのに?」
「うん、世界を越えていても」
――カイトのために何かできれば良い。
サチはカイトと話すたびに思う。
次で最後です。