表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2 ヒルの世界との通信

 今日は仕事が休み。ダラダラしていても、誰も文句は言わない。

 ゆっくりと起きて図書館に行ったサチは、家に帰ってくるなり部屋にエアコンのスイッチを入れた。シャワーを浴びて出てくると、うん、ちょうど良い温度。サチはタオルを頭からかぶって、借りてきたばかりの本を取り出した。

 サチは本が好きだ。今日借りてきたのは、まじないの本。

「流れ星、流れ星っと」

 元来、好奇心旺盛な性格だし、ファンタジーな話だって嫌いじゃない。先輩から聞いた流れ星の話は、サチの心をくすぐるには十分すぎた。

「えっと、ここかな」

 ウキウキしながらページを開く。

 ――流れ星にお願いをしてみよう。もしかしたら、叶えてくれるかも!

 ピンクの文字の見出しは、何とも可愛らしい。

 サチは思わず笑顔になった。小さい頃にやっていた、おまじないみたい。

 ――流れ星は必ず一つのお願いを実現させてくれます。ただし、それにはある条件が必要なの。ここから先は、閲覧注意!! 覚悟して読んでね。

 なにこれ、ちょっと怖いんですけど。

 サチは笑って、席を立った。冷蔵庫からレモンソーダを取り出し、お気に入りのコップに注ぐ。

 うん、これで良し。腰を据えて、閲覧注意に取り掛かろうではないか。

 本の前に戻ったサチは、あれ、と首を傾げた。さっきとは別のページになっている。

 冷たい風が、サチの顔に当たった。

 ああ、エアコンの風量が強かったのか。

 サチはピッとエアコンの風量を下げる。それから気を取り直してさっきのページを開こうとして、ふと手を止めた。

「ヒルの世界との通信方法……?」

 え、待って。そんなもの、あるの?

 サチはそのページに目が釘付けになった。せっかく持ってきたレモンソーダすら飲まずに、立ったままで本を読む。

 ――ヒルの世界とヨルの世界は、決して交わることがないと思っていませんか? 実は、ヒルの世界とは、鏡を使って通信することができちゃうんです。鏡を南南西の方向に向けてセットし、呪文を唱えながら右手の人差し指と薬指を鏡に触れさせる。ほら、簡単でしょう?

 うん、簡単だね。だけど、そんな簡単で良いの?

 半信半疑で、サチは書いてあるとおりに呪文を唱えた。

 すると次の瞬間、鏡に知らない男の子が映った。

 綺麗だけど青白い肌、色素が薄い茶色の瞳、ほっそりした体。いや、ほっそりというよりは痩せすぎている。パジャマの隙間から見える鎖骨は、くっきりと浮かび上がっていた。

 え、本当だったんだ。

「えっ、本当だったんだ!」

 サチが思っていたことを、彼が口にした。

「もしかして僕、夢見てる? これ、現実?」

「えっと、現実なんじゃないかな」

 サチはおっかなびっくり言った。

「私こそ、夢、見てない?」

「見てない、見てない。ほっぺたつねってみなよ」

「……痛っ!」

 サチが声をあげると、彼は楽しそうに笑った。

「僕はカイト。ヒルの世界に住んでいるんだ」

「私はサチ。ヨルの世界で、掃除屋さんしてるよ」

「掃除屋さんなんだ。そっちには、そんな仕事があるんだね」

 カイトは感心しながら言った。

「まさか本当につながるとは思わなかった」

「私も」

「やってみて良かった。まさか、異世界とつながる方法が本に載ってるなんてね」

 自分と同じだ、とサチは嬉しくなった。


「ねえ、サチちゃん」

「何?」

「僕にヨルの世界のことを教えてくれないかな」

 カイトは言った。

「せっかく異世界とつながれたんだ。情報交換しようよ、お互いの世界のことを」

「それ、賛成」

 サチは目をキラキラとさせた。

「私も知りたかったの、ヒルの世界のこと。タイヨウのこととか、空が青いってこととか」

「そんなことなら、いくらでも」

 まかせてよ、とカイトは胸にこぶしを当てた。

「僕もツキとかホシとかのこと、知りたいな」

「うん、もちろん。いっぱい話すよ」

 自分の仕事のことを話そう、とサチは思った。星を集めてると聞いたら、楽しんでくれそうだ。

「あと、僕と友達になってくれたら嬉しいな」

 カイトはそっと付け足した。

「僕、実はあんまり友達がいないんだ」

「どうして?」

「あんまり体が強くなくて。今も、病院の中にいるんだ」

 カイトは困ったような顔で笑う。

 と、次の瞬間、激しくむせた。

 サチは焦って、手元のレモンソーダをこぼした。

「ちょっと、大丈夫!? お医者さん、呼ばないと」

「ごめん、大丈夫。大丈夫だから、ちょっと待って」

 カイトはペットボトルの水を飲み、深呼吸した。

「ごめんね、心配かけて」

「大丈夫?」

「うん。このくらいは慣れてるから」

 カイトは「何でもない」というように笑った。

「僕が病気なのは気にしないで友達になってくれると嬉しいな。この体のせいで、外にあんまり出られなくて。病院には同年代の人は少なくて、けっこう寂しいんだ」

「私で良ければ、もちろんなるよ」

「ありがとう」

 穏やかにカイトは微笑んだ。


 それから、サチは毎日のようにカイトと話すようになった。

 話せば話すほど、カイトが素敵な人だとわかる。きっと人と会える機会が多ければ、すぐにカイトは人気者になるんだろうな、とサチは思った。


応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ