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悪いのはあなた  作者:
8/12

テオドール・ロッド

「とても美しく成長したのう、レディ・ブラックウェル」


ワイングラスを片手に隅に立っていると、横から声をかけられた。


「もったいないお言葉にございます、国王陛下」


声の主はこの国の国王だった。赤い布地に金の刺繍が施されたマントを羽織り、頭上には王冠が輝いている。濃い金髪と紺青の瞳を持つ国王は、今年で45歳になる。まだまだ精力にあふれた中年だが、言葉遣いは老獪さを醸し出していた。


「わしがあと20年若ければなぁ」


「その言葉はセクハラですわ、お父さま」


国王は残念そうにひげをなでていたが、隣にいた第一王女にたしなめられた。


「そうですよ、父上。僕があと10年遅く生まれていればなぁ」


「お義姉さまに言いつけますわよ、お兄さま」


第一王女とは反対に立っていた第一王子が呟くと、第一王女が睨みつけた。


「ごめんなさい、レディ・ブラックウェル。ですが、本当に美しく成長されましたわ」


第一王女がにこりと笑ってシャーロットを見つめた。第一王女も第一王子も、王家の特色を受け継いだ眩しい金髪にやさしい水色の目を持っている。


「そうおっしゃっていただけて、光栄にございます」


第一王女がお世辞ではなく心から思ってくれていることを感じ、シャーロットは自然と笑みがこぼれた。


第一王子はシャーロットより10歳年上の26歳、第一王女は8歳年上の24歳になる。王家と近づくべく、貴族たちは王家の出産に合わせて自分たちの子どもを産んだため、シャーロットの世代に子供が少なくなった。


私と釣り合う年齢の子どもがいれば、私は王家と婚姻を結んだでしょうね。


「そういえば、レディ・ブラックウェルとクリス・フォード卿の結婚が決まったと聞きましたわ。おめでとうございます」


「ありがとうございます。決まったと申しましても3年後ですので、まだ実感はありませんが」


学園を卒業したらすぐに結婚が決まるのかと思っていたが、両侯爵家の業務手続があるため3年後に決まった。フォード侯爵家の跡取りはクリスに、ブラックウェル侯爵家の跡取りはシャーロットの2番目の子どもになる。


しかし、シャーロットの子どもが生まれるまでは父が、亡くなった後はシャーロットが代理侯爵となるため、シャーロットも侯爵家の業務を覚えなくてはならない。


3年間が長いのか短いのかわからないわ。ジェシーは異世界について聞く前に消えてしまったし、何を目標にすればいいのかしら。



**********


王家主催のパーティが終わり帰宅すると、家の中が慌ただしかった。


何かあったのかしら?


「そこのお前、一体何があったの?」


「出産が始まります!」


目の前を通り過ぎた一人の下女に声をかけると、よほど急いでいたのか言い終わらないうちに走り去っていった。


出産ってケリーの?まあ、大変だわ!


慌てて下女の後を追い、使用人が集まっている廊下に出た。


廊下には一種の緊張が漂っており、その中には落ち着かない様子のオリバーもいた。


「申し訳ございませんがお嬢さま、衛生を保つため最小限の人数のみを入れております」


アンがシャーロットの姿を見つけ、声をかけてきた。


シャーロットも無理に入れてもらおうとは思っていなかった。


お母さまも私を産んだ後に身体を崩されたと聞いたわ。あまり大勢が押しかけたらケリーに負担がかかるわね。


「はい注目!心配する気持ちはわかるけど、必要ない人は部屋へ戻りなさい!!それから、わかっていると思うけど万全を尽くすように」


シャーロットの言葉に廊下に集まっていた人が散り、シャーロットも部屋へと戻った。


どうか無事に出産できますように。



出産が終わったのは昼の2時だった。シャーロットが帰宅したのが夜中の3時だったため、およそ11時間の出産となった。


「母子ともに健康です」


その言葉にシャーロットは安堵の息をついた。


「それから、ケリーがお嬢さまに来ていただきたいそうです」


「まあ、私が行ってもいいの?まだ大人しくしておいた方が良いのではなくて?」


「ふふ。他のものは面会禁止ですが、お嬢さまには赤ちゃんを見てほしいそうです」


お医者様が止めないのであれば問題ないだろう。シャーロットも早く赤ちゃんを見たかったのだ。


「わかったわ。すぐに準備する」


洗い立ての簡易なドレスを着用し、化粧やアクセサリーも念のためにはずした。


ドキドキするわ。赤ちゃんを見るのって初めてなのよね。小さくて可愛らしい生き物だって、誰かが言っていたけれど。


部屋へ入ると、ケリーがクッションを背中に敷き詰めおくるみに巻かれた赤ちゃんを抱いていた。


そのクッション、一つ50万するのだけれど…。やだ、私ったら、神聖な場で何を思っているのかしら。そんなこと、気にするものじゃないわね。


「おめでとう、ケリー。無事に終わって安心したわ」


「ありがとうございます、お嬢さま。侯爵家のサポートのおかげです。でも、終わったのではなくてこれからが戦いですから」


くすくすと笑ってケリーは抱いていた赤ちゃんを見せてくれた。


赤くて小さくて、思ったよりもかわいくないわ。でも、不思議な感じ。


すやすやと眠る赤ちゃんを見てシャーロットは思った。微妙な表情のシャーロットを見て、ケリーは更に笑った。


「あら、生まれたての赤ちゃんは真っ赤ですけど、1週間もすればとってもかわいくなりますよ。抱いてみますか?」


「えっ?とんでもないわ!落としたらどうするのよ。怖いから見てるだけにする」


シャーロットがじっと赤ちゃんを見つめていると、薄っすらと目が開いた。


「目が開いたわ!私のことが見えているのかしら?」


「いいえ、まだ目は見えていないはずですよ。ですが、目に見えないものは見えているかもしれませんね」


「ふーん、不思議ね。ところで、名前はもう決めたの?」


シャーロットが尋ねると、ケリーが赤ちゃんを揺らしながら答えた。


「いえ。実は、シャーロット様に決めていただきたくて、まだ付けてないんです」


私?事前に言ってくれれば、世界最高の名付け師を呼んで決めたのに!名前はこの世と自分を定着させる大事なものだわ。名前によって今後の人生が決まるとまで言われるのに、今言うなんて。


「名付けてくれませんか?」


ケリーがやさしく問いかけた。


「…その役目、引き受けたわ」


シャーロットはケリーに抱かれている赤ちゃんをじっと見つめた。


この子の人生はどうなるのかしらね?


その瞬間、オリバーとよく似た顔立ちの少年が花を摘んでいる光景が脳裏に思い浮かんだ。


きっと、父親似の外見と、母親似の性格を受け継ぐでしょうね。


「この子の名前はテオドール。どうかしら?」


不安気にケリーを見つめると、ケリーは微笑んだ。


「素敵な名前です」


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