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悪いのはあなた  作者:
6/12

ケリー・キキ

ジェシーから連絡があったのは、1か月が過ぎてからだった。


『必要な素材を取りに行ってくるから、2・3週間後に呪いが解けるはず!』


という手紙が送られ、シャーロットは安堵のため息を吐いた。


ふぅ、良かったわ。これで四肢が腐っていくのか、毎日小指を角にぶつけるのかわからないけど、悪いことは起きないでしょう。


肩のこわばりを解き、腕を伸ばしていると扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


入ってきたのは、専属騎士のオリバーだ。今日はまだ顔を合わせていなかった。


シャーロットは彼の顔がいつもより優しく、嬉しそうな様子に気づいた。


呪いは解けていないはずなのに、何か良いことがあったのかしら。


「…何だか嬉しそうね?」


オリバーはまっすぐシャーロットを見つめた後、咳払いをして恥ずかし気に言った。


「私事となりますが、シャーロット様にご報告があります」


少し緊張している様子のオリバーを見て、シャーロットの胸がざわついた。


普段、私生活のことなんて何も言わないのに、わざわざ報告することって何かしら?


シャーロットは聞きたくない気持ちを抑えて続きを促した。


「実は、昨日結婚いたしました」


「えっ」


脳が理解を拒むように、世界が色あせていくのを感じた。


「出来れば、来月にでも妻を紹介したいと思うのですが…」


「そうなの、おめでとう。事前に言ってくれればよかったのに…。来月ね、予定を開けておくわ」


自分でも声が震えているのがわかったが、照れていたオリバーは気づかなかった。


私を愛してると言ったのに、他の人と結婚するのね。


シャーロットは拳を強く握りこんだ。



**********


シャーロットは机の上の瓶を転がした。シャーロットが転がしている瓶のラベルには、ストリキニーネと書いてある。他の瓶には、トリカブト、ヒ素、青酸カリと書いてあり、どれも数滴で死に至らしめることが可能な毒物ばかりだ。


ふふふ。あなたが悪いのよ?私を裏切るから。


シャーロットは満足そうに瓶を眺め、棚の奥へとしまった。



**********


とうとう顔合わせの日がやってきた。


場所は、大切な従者のお祝いだからとシャーロットがレストランを貸し切った。


店内は白を基調とし、ところどころに金が差し込まれているため、シンプルながらもお祝いにちょうど良い内装となっていた。


一体どんな女性なのかしら?オリバーの身分を考えると平民の可能性が高いけど、侯爵家の専属騎士になっているから、貴族とも結婚可能ね。私よりもきれい?リリィ・アップルみたいな女性だったらどうしましょう。


シャーロットは様々な女性を想像してみたが、全く見当もつかなかった。


「お嬢さま。ロッド卿たちがいらっしゃいましたよ」


シャーロットは恐る恐る入り口を振り返った。



「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます。ケリー・キキと申します、あ、昨日からはケリー・ロッドでした」


ころころと笑いながら挨拶したのは、シャーロットが想像したどんな女よりも平凡だった。艶のない黒髪を後ろで一まとめにし、顔にはそばかすが浮かんでいる。瞳の色も最もよく見る茶色だ。


オリバーはどうしてこんな女を選んだのかしら。私の方が何倍も美しいわ。…きっと、年上が好きなのね。


シャーロットは現在16歳、オリバーは19歳になったはずだ。しかし、目の前の女は20代後半か30代にも見える。


シャーロットはケリーの腹部を見た。視線を感じてか、ケリーが照れくさそうに口を開いた。


「お気づきになりましたか。実は、妊娠5か月なんです。彼と初めて会った時に出来たみたいで」


はああ!?


シャーロットは思わず下品な声を上げるところだった。最低ね!


オリバーを睨むと、珍しく目が泳いでいた。


しかも、5か月前って私とお祭りに行った頃じゃないの?私に告白したのが先か、彼女と会ったのが先か知らないけど、最低だわ。


しばらく考えた後、シャーロットはこう言った。


「…親戚の方がいらっしゃらないのよね?一人で出産するのは大変だろうから、我が家に居るといいわ。何か得意なことはある?おなかに響かない範囲で働いてもらう必要があるけど」


「まあ、良いのですか?どうしようか迷っていたのです。2人で住むにはお互いの家が狭くて…。住み込みで働けるのでしたら大助かりですわ」


侯爵家の使用人部屋にいくつか空きがあったから一人や二人くらい何の問題もない。来週から来るように言い、顔合わせが終了した。



**********


顔合わせの1週間前、シャーロットが毒薬を準備し終わった後、憂鬱感やイライラがなくなり、自分がどうしてこんなに憤りを感じていたのかわからないほどすっきりした気分になった。


頭の中のもやが消え去ったように視界が明瞭になり、眉間のしわも消えた。


まるで、魔女の店で紅茶を飲んだ後のようだわ。


シャーロットが不思議に思っていると、魔女から数日後に手紙が届いた。


『解呪に成功したぞ!ワタシを褒めるがよいのだ!』


オリバーの呪いが解けたのね。でも、どうして私の憂鬱感がなくなったのかしら。まるで、私に対する呪いが解けたみたいだわ。



そんなことがあり、シャーロットはケリーに毒物を使わず、殺そうと考えた罪悪感から屋敷に住まわすことに決めた。


ヘアメイクが得意だということで、ケリーにはシャーロットのセットアップ担当となってもらった。


私のイメージ通りの髪型にしてくれるし、話しも面白いから雇って正解だったわね。


これなら3か月後の卒業パーティも任せられるわ。


鏡越しに目が合ったケリーににっこりと笑い、シャーロットは学園へと向かった。

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