魔女ジェシー
『その内の一人があなたを裏切る』
魔女の言葉を聞き、シャーロットの表情は険しくなった。
「どういうことですか?」
婚約者が幼なじみのリリィ・アップルと付き合っているのは裏切りではないの?それとも、専属騎士のオリバー・ロッドが裏切るというのかしら。でも、オリバーだとしたらどうやって?
「うーん、お嬢さんの未来は見えにくいのよね。だからこそ、この世界の住人ではないとわかったのだけれど。断言できるのは、お嬢さんが裏切られたと感じるということよ。近い将来起こることだから、私にもはっきり見えたのね」
近い将来、ね。あと半年ほどで学園生活が終わるわ。そしたら結婚の日取りが決まるだろうから、その時に裏切られたと感じる出来事があるのかしら。
不吉な予感を感じながら、シャーロットは店を後にした。
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「ワ―ハッハ、ワタシが怨嗟の魔女、ジェシーなのだ!」
そう言ってシャーロットの前に立っているのは、つばが広がった黒いとんがり帽子、膝丈まである黒いビロードのドレス、背丈よりも長い杖を持った女の子だった。女の子の身長はシャーロットよりも20センチほど低い、140センチだろうか。肩より少し長めの黒髪はツインテールにし、魔女アリアよりも濃い緑の瞳はクリッとしている。
シャーロットが呆気にとられていると、魔女ジェシーがシャーロットの周りをくるりと一周した。
「くんくん。そなた、呪われているな」
女の子が得意げに腕を組みながら断言した。
何を言っているのかしら?そもそも、この子は誰なの?
シャーロットは魔女アリアから店に来るよう言われたから来たのだが、扉を開けた瞬間自称魔女の女の子から挨拶を受けた。
「あらお嬢さん、いらっしゃい。ごめんなさいね、ちょっとお茶の準備をしていたの。この子が以前言っていた、異世界を研究している魔女のジェシーよ」
「うむ。ワタシに会えるなど、光栄なことなのだぞ。崇めるがよい!」
アリアが店の奥から顔を出し、目の前の女の子を紹介した。女の子、ジェシーは尊大な口調だが、身長が足りないせいか威張って見えなかった。
「はじめまして。私はシャーロット・ブラックウェルよ。ところで、さっき言っていた呪いってなんのこと?」
シャーロットは気になっていた質問をぶつけた。
「うん?そなたからは呪いの匂いがするのだ!最初はそなた自身への呪いかと思ったが、どうやら身近にいる人が呪われているのだな。どれ、集中してみるか」
ジェシーは首を傾げたあと、考え込むように目を瞑った。
「わかったぞ。その店の前にいるヤツだ」
店の前にいる人物、それはオリバー・ロッドだった。
オリバーが呪われている?そんな兆候、なかったわ。
でたらめ言わないで、とシャーロットが言うよりも早くアリアが口を開いた。
「ジェシーが言うなら確かね。私が予言を得意とするように、この子は呪いに特化しているから。ジェシー、どんな呪いかわかる?」
「もちろんなのだ!なぜなら、あの呪いはワタシが作ったのだからな」
「何ですって?どうしてオリバーを呪ったのよ」
予想もしていなかった言葉に、シャーロットは驚き息をのんだ。
ジェシーは首を傾げた。
「いや、彼を呪いたかったわけではなく、強力な呪符が欲しいと言われたから作ったのだ。はて、効果は何だったかの?四肢が腐っていく呪い?1日1回小指を角にぶつける呪い?いやはや、もっと強かったような…?」
「誰がそんなことを頼んだのよ」
「えー?そんなこと、ワタシに言われても…。ええと、確か若い女だったぞ!そなたと同じ年くらいの」
シャーロットとアリアに凄まれ、ジェシーは頭を振り絞って思い出した。
どうしてオリバーがその『若い女』に呪われたのかわからないけど、どうにかして祓ったほうがよさそうね。
効果は思い出せないと言ったジェシーに、通常の3倍の金額を出すから急いで解呪するように言い、シャーロットは家に帰った。