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悪いのはあなた  作者:
4/12

裏切者

予約できていなかったようです(><)

あっという間に2年が過ぎた。


ついこの間入学したばかりなのに、もう今年卒業するのね。結局友達は一人もできなかったし、異世界へ行く方法もわからないままだわ。魔女は焦らないことが肝心と言っていたけれど、卒業したら結婚の日取りが決まるでしょうね。それまでには方法だけでも知っておきたいわ。


シャーロットが現在気を許せる人物は3人だ。一人は専属侍女のアン、もう一人は秘密を共有している魔女アリア、そして専属騎士のオリバーである。


アンは昔から私のことを世話してくれているし、扱い方も上手いわ。私の周りで唯一好意を持ってくれているのはアンね。


魔女アリアは超越した存在だからか、常に泰然としていて私も落ち着いて話せるのよね。知識も豊富だし私を導いてくれる存在だわ。


シャーロットは最後にオリバーについて考えた。


オリバーは寡黙で無表情だから何を考えているかわからないわ。でも、よく気が付くし私のして欲しいことを先回りして行ってくれるのよね。私の指示に逆らったり疑問を口にしたりしたことがない、騎士の鑑のような人。


シャーロットがもの思いに耽る姿は儚く、消えてしまいそうだった。


そのため、部屋の片隅に立っていたアンの胸には一抹の不安がよぎった。そんな思いを払拭すべく、気分転換になるように明るく切り出した。


「お嬢さま、部屋に籠っていては鬱々とした気分になるものです。今日、とても珍しいお祭りが開かれると聞いたのですが、行ってみてはいかがです?なんでも、りんご飴やわたがしと言ったものが売っているそうですよ」


アンの言葉に俯いていたシャーロットの顔がまっすぐアンを見つめた。


「わたがし…?」


「はい、どういったものなのでしょうね?知人の話によると、白くてふわふわして甘いそうです」


アンの説明をシャーロットは聞いていなかった。


前世の記憶の中に、お祭りに行った記憶があったわね。


赤い提灯。屋台が並んでいて、浴衣を着た人たちが通り過ぎる。手にはうちわや食べ物を持っていて、恋人や家族で来ている人が多かった。


そう、そして私の隣にも誰かいたの。その誰かが私の名前を呼んで微笑む顔が好きだったのだわ。


その瞬間、シャーロットは自分がどうして異世界へ行きたかったのかわかった気がした。


私は孤独なのだわ。アンは良くしてくれるけど侍女だし、魔女は相談には乗るけど楽しんでいる風さえある。オリバーのことは信頼しているけれど、常に一歩退いているものね。でも、前世の世界には私が愛して私を愛してくれる人がいる。


暗くなったシャーロットの表情に気づき、アンが心配そうに声をかけた。


「お嬢さま…?」


「そのお祭りに行くわ」


再び顔を上げたシャーロットには陰りがなく、毅然とした面持ちになっていた。


くよくよしていても仕方ないわね。



**********


お祭りはシャーロットが想像していたとおりだった。正確に言うと、前世の記憶にあるお祭りにそっくりだったのだ。


祭りは貴族のお忍びとして人気の高い噴水公園の近く、ブラックウェル侯爵家からは馬車で40分ほどの場所にて行われていた。


公園の入り口から噴水までの道の両側にヨーヨー釣りや射的、ホットドッグや回転焼きといった屋台が並んでいる。


「さあさあ、こちらではユカタという服を用意しています!祭りの雰囲気を楽しむためにもぜひ試してみてください!!」


ハッピを着たお兄さんがメガホンを口元に当てて客寄せを行っている。


「あら、あの方が着ているのがユカタかしら?なんだか面白そうね。私も着てみようかしら」


更衣テントから出てきた人を見て、周りの人たちが興味を持ったようだ。


この世界にも同じような文化があるのかしら?一体どうやって用意したのか気になるわね。


「シャーロット様もお召しになりますか?」



『なんだこれは?』


『平民の間で流行っている遊びでございます』


『そんなものを私の娘にさせたというのか!シャーロット、お前は貴族だ。わかるな?レディとして相応しくないことはするな。あとお前はクビだ』


父の冷たい眼差しと、仲良くしてくれた乳母との別れを思い出した。



「平民と同じものなんて着たくないわ」


シャーロットは気になる気持ちに蓋をしてオリバーに返事した。


「あら、展示もあるのね」


何気なく呟いたシャーロットの言葉に、近くにいた少女が話しかけてきた。ハッピを着ているところを見ると、この祭りの運営スタッフだろう。


「そうなんですよ、物にも魂が宿るという付喪神や人が突然消える神隠し、妖怪や妖鬼といった不思議な文化や思想を紹介しています。でも、馴染みがないからか誰も入ってくれないんですよね。もしよろしければ見ていってくれませんか?」


「それはそうでしょうね。異教徒になれと言われているように感じるもの。教会の許可はとってあるの?」


「もちろん、教会から許可は頂いています。勧誘しようとしているわけではなくて、こういう考え方もありますよ~、って知ってもらいたいだけなんです。でも、やっぱり難しいですかね。せっかくお守りやお札も用意したのに…」


「美術鑑賞のようなものなのね?だったらあなたが案内して頂戴」


シャーロットがそう言うと、少女の顔が明るくなった。


「ありがとうございます!」



「ふーん、岩にも神様が宿るという考え方は斬新だわ。それに、妖怪の話も面白いわね」


一通り展示を見終わったシャーロットの言葉に少女は笑顔になった。


「そんな風に言っていただけて、嬉しいです。あ、これ、お客様第一号という記念に差し上げます!護符といって、悪いものから守ってくれるそうです。まあ、迷信なのですけれどね」


そう言って少女が木の札のようなものを差し出してきた。


「自分が預かっておきます」


安全のためにシャーロットではなくオリバーが護符を受け取り、懐にしまった。


あら、今舌打ちが聞こえたような気がしたけれど、気のせいかしら?


シャーロットが音の方に顔を向けたが、少女がにこにこと立っているだけだった。



展示施設を出て噴水の方に向かっていると、人混みで押されたのか子どもが怪我をして泣いていた。


魔女が、神殿は治癒能力を持っていると言っていたから私の傷口が塞がった要因はそれかと思ったのだけれど、わからないのよね。ただ、この前偶然近くにいた人が怪我をしていたから他の人にも使えるか試したところ、効果はなかったわ。自分だけに効くようね。


残念だけど、私にできることはなにもないわ。



「さあ、祭りも終盤にかかってきました!最後の催しはこちら!太鼓と笛の音に合わせてご自由に踊ってください。さあ、前の方からどうぞ」


「もうそろそろ終わるみたいね。帰りましょうか」


シャーロットが促したが、オリバーは動かなかった。不思議に思って振り返ると、提灯の光を反射してきらめく緑の瞳と目が合った。オリバーはいつもの無表情ではなく、優しく微笑んでいた。


「シャーロット様。愛しています」


少しの間、時が止まり静寂に包まれた。


シャーロットは顔を背け、何も言わずに馬車のある方向へと歩き出した。


一瞬、記憶の中のあの人と重なった気がしたわ。


前を歩くシャーロットの頬は赤く染まっていた。



**********


祭りの翌日、オリバーが珍しく護衛を休んだ。


「ロッド卿は体調不良とのことですので、本日は他の騎士が護衛を担当します」


アンの報告にシャーロットは空返事をした。


きっと照れているのね。


『愛しています』


昨日のオリバーの言葉を思い出し、シャーロットは頬が緩むのを感じた。


私を愛してくれる人がいるのだったら、前世の世界にこだわる必要はないわね。



数ヶ月が過ぎたが、オリバーはよそよそしいままだった。シャーロットの行動を先回りして行ってくれるのは変わっていないが、接する回数が少なくなった気がする。


まだ気まずく思っているのかしら?私も何か言った方が良かった?でも、婚約者がいるのに返事なんかできないわよね。


よそよそしい態度に不満があったものの、シャーロットは気に留めていなかった。


今日は久しぶりに魔女の店を訪れる予定である。もともと恋愛相談を得意としていたから、オリバーの態度について相談してみよう。


「あら、お嬢さん。お久しぶりね。ちょうどこちらからも連絡しようと思っていたのですよ」


「お久しぶり、マダム」


いつもの紅茶をセットすると、シャーロットが何か言う前に魔女アリアが話し始めた。


「私の知り合いに異世界を研究している魔女がいるのだけれど、先日連絡がついて来月あたりにこちらに来るそうなの。時間があるなら会ってみたらどう?」


本当は異世界への調査を止めるつもりだったけれど、話しは聞いてみたいわね。


「わかったわ。約束を取り付けて頂戴」


「言っておくわね。それから」


アリアは一度言葉を切り、真顔になった。アリアの緑の目が何かを見通すように深い色合いになった。


「最初に会った時に言った言葉を覚えているかしら?お嬢さんに大きく関与する2人の男についてよ」


シャーロットは記憶を辿り、頷いた。


「あの時は誰かまでわからなかったのだけれど、最近わかったわ。一人はあなたの婚約者、もう一人はあなたの専属騎士よ」


オリバーが私と大きく関わっているのはなんとなくわかるけど、婚約者も関わってくるのね。婚約者とはあまり会話することがないから意外だわ。


「その内の一人があなたを裏切る未来が見えたの」


その言葉を聞き、シャーロットは言葉に表せない不安を感じた。


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