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悪いのはあなた  作者:
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シャーロット・ブラックウェル

初投稿です。お楽しみいただければと思います(^^♪

「見ろよ。レディ・ブラックウェルだ」

「本当だ。ここで何しているんだ?」

「さあ?婚約者に会いに来たんじゃないか?」

「ははっ。婚約者が他の女に恋しているから邪魔しに来たんだろ」

「レディ・ブラックウェルの嫉妬深さは有名だもんな」


廊下に響く嘲笑を聞き、私が彼らの方を向くと会話がピタリと止んだ。


「おおっ、こわっ。俺の婚約者は嫉妬深くなくて良かったぜ」

「お前の婚約者はまだ幼いからだろ。俺の婚約者だって毎朝弁当を届けてくれるんだぜ」

「なんだよ、自慢かよ!」


小声で話ながらそそくさと通り過ぎる男子生徒の会話が頭に残った。


『レディ・ブラックウェルの嫉妬深さは有名だもんな』


私が嫉妬深いですって?

私が婚約者とその恋人に対して何かを行ったということは全くなかった。にもかかわらず、この学校では私が嫉妬深くて有名になっているらしい。


まったく腹立たしいことこの上ないわね。


シャーロット・ブラックウェルがクリス・フォードと婚約したのは彼女が12歳の時だ。シャーロットに釣り合う年齢と身分の男子が数名だったことと、フォード家が金銭援助を必要としていた利害が一致した結果、婚約が決まったのである。


しかし、シャーロットには不幸なことに、クリスにはずっと好きだった幼なじみがいた。その幼なじみは爵位こそ持っていたもののフォード家と同じく金銭に困窮していたため婚約することが出来なかったのだ。そしてその幼なじみはシャーロットと同じくこの学校に通っている。ブラックウェル家がフォード家に援助したお金をクリスが幼なじみに使っているからだ。


ここ、コスモス学園に入学して早3か月。私たちの関係は学園中に筒抜けとなっていた。クリスが常に幼なじみのリリィと過ごしていることと私が噂を否定しなかったからだ。そもそも社交界に出た12歳の時からクリスとリリィの恋愛は囁かれていたため、手遅れだったのだ。噂を放置した結果、リリィは恋人と結ばれない哀れな子、私は二人を邪魔する嫉妬深い女、という立ち位置になってしまった。


そして私は今、婚約者の教室の前に立っている。もちろん、婚約者の邪魔をするためではない。


「フォード卿、お話しがあるのだけれど。少し席を外していただけるかしら」


婚約者のクリスが教室にいることを確認し声をかけると、嫌そうな顔をしながらこちらにやってきた。


「なんだ、話って。忙しいから早く言え」


さっきまで賑やかだった教室が、私が来たことによって重くなったのは気のせいではないだろう。なぜならクリスが座っていた席の向かいではクリスの幼なじみであるリリィが座っていたからだ。


「来月、ブラックウェル家でパーティを開くから参加するように、とのことよ。私は青いドレスを着ていくから、あなたも青色で統一して頂戴」


「まあ、パーティを開くの?素敵だわ」


私が連絡事項を伝え終わる前に軽やかなソプラノ声が響いた。先ほどまでクリスの向かいに座っていたリリィである。私より少しだけ背が低めのリリィは、誰が見ても可愛らしい見た目をしている。ふわふわとした白金の髪とすみれ色の瞳の組み合わせは珍しく、それに加えてリリィ自身の人柄の良さから老若男女問わず好かれる力を持っている。


「レディ・アップルは招待していないわ。これは私とクリスの婚約2周年記念パーティなの」


私が表情を変えずに言うと、周囲から冷たい視線が突き刺さった。特に正面からの威圧を感じる。


「おい、そんな言い方はないんじゃないか?リリィは友達だろ」


「いいのよ、クリス。シャーロットの開くパーティはきっと素敵だろうなと思ったのだけれど、私は行かない方がよさそうね」


行かないのではなくて行けないのよ、と思ったが口に出すと問題がこじれると思ったので言わなかった。ちなみにリリィは思ったことを口に出しているだけだというのは、長年の付き合いからわかっている。クリスと私のお茶会に毎回リリィが一緒にいるからだ。つまり、クリスと会った分だけリリィとも会っている。会った回数分を考えると友達と言えなくもない。私は友達と思ってないけど。


「では、私は確かに伝えたからこれで失礼するわ。ごきげんよう」



**********


私が周囲から受ける陰口や婚約者の『浮気』に心を痛めなくなったのは最近のことだ。ある日突然、いわゆる前世と思われるものを思い出してから、私はこの世界の住人でないということに気づいた。そのことに気づいてから、自然と自分の受けている評価について思い悩まなくなった。私は私の世界に帰る、という目標が出来たからかもしれない。ただし、自分がどのような人間かだったことまでは思い出せなかった。今より優れた文明に住んでいたこと、お祭りに行ったこと、周りよりも少し貧乏だったことまでは漠然と感じることができた。


裕福な侯爵家に生まれ、9割の人から美しいと評価される美貌を手に入れたけれど、前世の方がきっと幸せだったに違いないわ。だって、私はちっともこの世界が楽しいと感じないんだもの。



前世を思い出してからというもの、ファンタジー小説や土着の言い伝え、民話など異世界についての本を読み漁った。しかし、どれもおとぎ話の程度で、実際にあったような文献は残っていなかった。


ファンタジー小説では異世界転生か異世界転移が主流みたいね。私は間違いなくこの世界で生まれたから、異世界転生をしたのかしら。そうすると、帰る時も異世界転生?つまり、一度死ぬ必要があるということかしらね。


さすがに死んでも確実に元の世界に戻れるかわからない以上、死ぬのは最後の手段だろう。


私は開いていた本を閉じ、書斎を後にした。



**********


「お前もそろそろ専属騎士を選びなさい」


夕食の席で父が珍しく私に声をかけた。


母は幼い頃に事故でなくなり兄弟姉妹はいないため、父が唯一の肉親と言える。ただ、父も侯爵領の仕事と王宮勤めの仕事が忙しく、数回ほどしか会話をしたことがない。


「結構ですわ。私は家の騎士で十分ですし、専属の騎士が必要なほど重要な人物ではありませんので」


「専属の騎士がいた方が何かと便利だぞ。お前の指示に何も言わず従う駒は早めに持っておきなさい」


決定事項だと言うように、ナプキンで口を拭った後護衛と共に食堂から出ていった。


専属の騎士、ね。元の世界に帰る私に騎士がいるのかしら。でも、私の秘密を守ってくれるという騎士は魅力的だわ。異世界の調査も私一人では限度があるし、どこかへ行くのも専属騎士と一緒だと言えば行動範囲が広がるでしょうね。

良い人がいればその時考えましょう。



「お嬢さま、おっしゃられていた魔女についての噂を調べて参りました」


夕食後の紅茶を飲んでいると、専属の侍女であるアンがお辞儀をして入ってきた。


「ご苦労。居場所はわかったの?」


「はい。ここから馬車で20分ほどの平民街の裏路地に店を構えているようです。それにしてもお嬢さま、魔女にお会いになっていかがなさるのです?もしかして、婚約者様との今後について占ってもらうのですか?」


「お前は知らなくて結構よ。当たると評判なのよね?その魔女について詳しく教えて頂戴」


「まあ、お嬢さまったら。照れていらっしゃるんですね。恋愛事については百発百中、未来も見通せるそうですので、もし相性が悪くても良くする方法を教えてくださるそうです。あとはそうですね、異世界から来たという噂を聞きました」


『異世界』という言葉を聞き、持っていたティーカップとティーソーサーがカチリと音を立てた。幸い小さな音であったためアンは気に留めることなく話を続けた。


「それだけ当たるということなのでしょうけれど、そのせいで神殿から目をつけられ魔女は定期的に居住を変えているようです。お会いになるのでしたら、早めの方がよろしいかと思いますわ」


「そう。では明日にでも会ってみようかしら」


「そうおっしゃると思って、予約しておきました。たまには息抜きも大事なことですわ。近くに人気のレストランがありますので、そちらにもぜひお立ち寄りくださいませ。デザートのガトーショコラが絶品らしいですよ」


「あら、お土産を買ってこいと言うのね?他の人には秘密よ」


「ふふっ。バレてしまいましたか。お優しいお嬢さまにご配慮いただきうれしゅうございますわ。では、他の者にも明日の予定を伝えて参りますので失礼いたします。おやすみなさいませ、お嬢さま」


「ええ、おやすみ」


アンはそう言って茶器を片付け出ていった。


明日が楽しみね。そう思ったシャーロットの口元は弧を描いていた。



**********


「おはようございます、お嬢さま。さあ、身支度の時間でございますわよ」


久々の外出とあって、アンは気合が入っていた。学園に行く時は最低限の化粧しかできないが、休日は違う。


お美しいお嬢さまは薄化粧でも輝いていらっしゃるけど、やっぱり全身を着飾った方がより輝いて見えるわ。はあ、月に数度しか腕を振るえないなんて残念。


「お嬢さま、今日はこちらのブレスレットをお召くださいませ。お嬢さまの瞳と同じ色のアメジストでございます。先日買い付けたものですの」


腰まで届く黒髪を緩くカールさせ、紫色のドレスに身を包んだシャーロットは美しかった。白いレースの手袋とアメジストのブレスレットのコントラストも調和がとれており、シャーロットの雰囲気に合っていた。他にも数点の宝石をあしらい帽子を被れば準備完了だ。


「さあ、お嬢さま。準備が整いましたわ。いってらっしゃいませ」



笑顔で手を振るアンに見送られ、シャーロットは馬車に乗り込んだ。数人の護衛が一緒だが、彼らは全員馬車の外から警護している。専属侍女か専属騎士のみが馬車に同席できるからだ。


最初に魔女を訪ねて、その後にアンの言っていたレストランに行くのよね。美味しい食事がとれるかは魔女との話次第だわ。


アンが事前に目的地を伝えていたためシャーロットが着席したのを確認し、馬車が動き出した。


20分後、目的地近くの大通りに馬車が止まった。


「お嬢さま。裏路地は狭いため馬車が通れる道はないようです。申し訳ございませんが、ここからは徒歩でご移動願います」


「わかったわ。お前たちはここで待っていて頂戴。あの道を曲がった先にあるワインの看板の店に行けばいいのよね?」


「お一人では危険です。一人だけでも護衛を連れて行ってください。店の前で待機しておりますので」


軽く睨んでみたが、強い眼差しで返されただけだった。


「わかったわ。お前が付いて来なさい」


「承知いたしました」


護衛の手を取り馬車を降りると、思っていたよりも多くの人が通りを歩いていた。


「お嬢さま、こちらです」


「思ったよりも人が多いのね」


「こちらは平民街でも人気のエリアですから。警備員も多く巡回していますので、治安の良さも人気の一つです」


護衛の案内に従って裏路地に入ると、表通りの喧騒が遠ざかり薄暗く静かになった。


通りを一つ奥に入っただけでこんなに雰囲気が変わるのね。いかにも魔女の店がありそうな場所になったわ。


「私はこちらで待機しておりますので、何かありましたらお呼びください」


扉を開けて待機した護衛に頷き、魔女の店に足を踏み入れた。


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