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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Extra Stage-α:ボヌールの醜聞
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当事者となる時

 俺がこの疑問を覚えてからの現場の流れは、やや錯綜する。

 というか、ちょっと正確に覚えていない。

 落ち着いたようでいて、俺はまだ混乱していたのか。


 だから、とりあえず。

 ここからは、俺が覚えていることをそのまま列挙していこうと思う。

 それがきっと、一番正確な報告になるはずだから。




 まず、俺は火災現場からすぐにつまみ出された。

 天沢が、黙って考え込んでしまった俺を抱えて、無理矢理バスに戻ったからである。


 なまじ推理と状況確認に集中していたため、この時の俺の体は殆ど固まってしまっていた。

 結果、俺は天沢に手首を掴まれて先導してもらい、介助されながら車に乗せてもらうという、幼稚園以来の経験をしてしまったことになる。


 この辺り、天沢には後で謝らなきゃいけない。

 割と、盛大に迷惑をかけてしまった。

 天沢だって、火事が起きたことは怖かっただろうし、混乱もしていただろうに。


 次に、恐らく複数の人が呼んでいたであろう消防車は、普通にすぐ来た。

 主観的には中々来ていないような印象になっていたが、それはあくまで俺の錯覚だったらしく、時間的には平均値ぴったりで来てくれた形になる。


 当然、火事についてもすぐに収まった。

 放水で一発である。


 最終的には、ゴミ捨て場がほぼ全焼、山林に置いては木が三本程犠牲となったが、まあ早い段階で消火出来たといっても良いだろう。

 あれだけ騒いだ割に、かなり迅速に話は終わったのだった。

 見た目こそ派手だったが、所詮はただの小火だった、という言い方も出来る。


 ……ただし勿論、あくまで収まったのは火事そのものについてだけだ。

 何故あんな火事が起こったのか、そもそも放火なのか、或いは自然発火なのか。

 そういうことは、この時点では全く分かっていなかった。


 だから、という訳では無いのだろうが。

 消防車はもう一台、車を引き連れてきた。

 言うまでも無く、パトカーである。


 パトライトを盛大に光らせたその車からは、当然のように何人もの警察官が出てきて、消火がされない内から周囲の人に聞き込みをしていた。

 何が起きたのか、何をしていたのか、どの段階から火事を見ていたのか。

 そんな話を、目撃者全員に細かく聞いているようだった。


 無論、俺たちも、事情聴取を受ける立場になる。

 特に俺などは、猫を抱えてゴミ捨て場に向かった都合上、発火直前の火災現場の様子を目撃していた。

 

 自然、消火後の現場を捜査する警察としては、俺の話は是が非でも聞きたい証言だったらしい。

 それなりにしつこく、話を聞かれた聞かれた記憶がある。


 尤も、どれだけしつこいにしても、あくまで火事直後の話を一先ず聞いておきたい、というだけだったらしく、ある程度話したところで俺は解放された。

 どういう経緯があったかは知らないが、脅迫状の件も含めたより詳しい話は、下山して事務所に戻ってからで良い、という流れになったのである。


 どうやら警察の方も、「どうせ凛音さんも含めて出演者サイドの人間はそこに集まるのだし、撮影後は疲れているだろうから、休憩してからで良い」と考えてくれたらしい。

 要するに、事情聴取は一回事務所に帰ってから、ということだ。


 かくして、俺たちは消火を見届けてから改めてロケバスに乗りこみ、一旦下山。

 麓の駐車場で、やはり天沢に引きずられるようにして碓水さんの運転する車に乗り換え、俺はそのままボヌールに戻ったのだった。


 途中で朝食を買いがてらコンビニに寄ったが、基本的にはボヌールに一直線に帰還した形となる。

 時刻としては、いつの間にか午前九時前くらいになっていたが、何とか俺たちは出発地点に戻ったのだった────。






「あー、疲れたー……!」


 絞り出すようにして声を発しながら、天沢がぼふん、と休憩室のソファに体を放り投げる。

 そのまま、「ああああー」などと意味のないことを言いながらゴロゴロと転がった。


 彼女には珍しい、リラックスしたというか、砕けた姿。

 その姿は、全身で「一先ず休みたい」という意思を表現しているようにも見える。

 詰まるところ、疲労のあまりごねているのだ。


 ──でも本当に、今回は滅茶苦茶疲れただろうな、天沢……。初めての撮影で緊張するわ、火事が起こるわ、色々と起こりすぎたし。


 それを見ながら、流石に時間経過によって推理への集中状態から現実に戻った俺もまた、休憩室に入る。

 ソファを彼女に使われているので、代わりに会議机に付属している椅子に向かった。


 そのまま俺は、流れるような動きで、手に持った袋からがさがさとコンビニで買った食べ物を取り出す。

 事情聴取のために呼ばれるまで、とりあえずここで休んでおいてください、というのが碓水さんの指示だった。

 なら、呼び出される前にここで食べておいた方が良いだろう。


 そんなことを考えながら、俺はとりあえずおむすびとお茶を机上に並べて、椅子に座った。

 すると、一気に腰から力が抜け、同時に太ももが新鮮な痛みを感じ始める。


 何だか、今までの疲労が一気に押し寄せてきた感じだった。

 筋肉痛が早くもやってきたかのような感触がある。

 精神よりも先に、肉体が限界を迎えたようだった。


「まあ、総合的に見て……災難だったな、俺たちは」


 だからなのか、一つため息を吐いてから、しみじみ俺はそんなことを口にする。

 爺臭い感想な気もしたが、本心だった。

 夏「休み」だというのに、どうして普段以上に気を張らなくてはならないのだろうか、本当に。


 そんなことを考えて、俺は意味も無く虚空を見つめる。

 すると、ソファの方から不意に、「そうかもね」という声が聞こえたのが分かった。


 声の方向に首を動かすと、いつの間にかゆっくりと天沢が状態を起こし、ソファ前の机に自分の朝食──彼女はパン派なのか、菓子パンが多かった──を並べていた。

 いつ呼ばれるかも分からない以上、彼女も朝食を手早く食べておくことにしたらしい。


「……いただきます」

「ん、ああ……いただきます」


 どちらともなく、そんな言葉を言い出した。

 さらに、何故かタイミングを合わせるようにして、俺たちは一口目を口にする。


 ……結果、何となく俺たちは、同時に食事をするような形となった。

 昼食や夕食ならともかく、朝食を家族でも無い誰かと共有するというのは、俺にしては中々珍しい。

 普段なら、多少は緊張した場面なのだろうか、こういうのは。


 しかし、黙々と食べるにしても、緊張するにしても。

 残念というか当然というか、俺たちの間には話題が多すぎた。


 そうでなくとも、互いに疲労した影響で、躊躇いもてらいも無くなってしまっている。

 どちらともなく────例の火事について、話題を出した。


「……さっきの火事、凄かったな。小火でも、火ってあんなに勢いがあるんだなって思ったよ」

「それ、私も同じこと思った。火柱って、あんな感じなのかしら」


 まず出てくるのは、怖かったね、という感想。

 同じことを経験した分、同じ感想を共有する。


「でも、最初のロケがこれ、なのよね、私……何かこう、しばらくは思い出しちゃいそう」

「あー、それはまあ、ドンマイ」


 次に口から飛び出したのは、初めてのテレビ撮影でこんなことが起きるなんて、という愚痴。

 アイドルである天沢の生々しい危惧と、一般人である俺の軽い気休め。


 そして、最後に。

 ────当然の帰結として生まれる疑問が、俺たちの会話のテーマとなった。




「でも、あの火事、本当に何だったのかしら?」


 モソモソとパンを口にしながら、天沢がふと質問をする。

 見喘げて見れば、彼女の表情はいつしか、見事なまでの悩み顔になっていた。

 例えるなら、難しい宿題でも解いているような。


 その顔のまま、彼女は何かを思い出すようにして語り始める。


「もし季節が冬だったら、ちょっとしたことで発火したり、静電気で酷いことに、みたいなこともあるらしいけど、今は夏だし。本当に何が原因になって、あんな火事が突然起きたのか……松原君、本当に分からない?」

「ああ、全然分からない。ここに来るまでにちょっと考えていたんだが、見当もつかなかった」


 即答すると、そう、とやや残念そうに天沢が口にする。

 少し申し訳なくなって、俺は情報を付け足した。


「警察にも言ったことだけど、発火直前に、俺はあの場所を訪れている。だけど、火事が起こりそうな物なんて、何も無かったしな。勿論、滅茶苦茶じっくり見た訳じゃないが、少なくともガソリンが撒かれているとか、煙草のポイ捨てがあったとか、そんなことは無かったはずだ」

「つまり、本当に一切火の気がない場所から発火したのね……どうしてそんなことが?」


 俺が答えると、ふーむ、と天沢が唸った。

 同時に、菓子パンの欠片を口の中に放り込む。

 もっきゅもっきゅとそれを咀嚼しながら、彼女は不可解なあの火事について考えているようだった。


「自然に火がつかないとしたら……あまり考えたくないけど、誰かが放火した、とか?でも、何の意味があって……」

「……ああ、本当にな」


 少し、暗い声で返事をする。

 何も聞いていない天沢としては、放火というのは、自然発火よりも余程考えにくい可能性なのだろう。

 いくら何でも、そんなことをする人間がそうそう現れるはずが無い、という常識的な思考をしている。


 しかし、色々と聞いている俺としては、放火の方は彼女よりも真剣に考えざるを得なかった。

 というより、十分に有り得る、と思ってしまう。

 しかしそんなことは天沢には言えないので、こうして黙るしかないのである。


「本当に、見当もつかない。仮に放火だとしても、誰が起こしたのか……」


 演技臭くならないようにしながら、ダメ押しにそんなことまで言う。

 すると、天沢が俺の顔を見て、何かに気が付いたかのように目を瞬かせた。


 どうした、と一瞬疑問に思う。

 だが彼女は俺から視線をずらさず、そのままこんなことを言った。


「ねえ、松原君、ちょっと良い?撮影終わりくらいから気になっていたんだけど」

「え、何だ?」

「松原君……()()()()()()()()()()?」


 真正面から突然核心を問われて、内心ギクッとなる。

 どこかで勘付かれていたのか、その表情には迷いが無かった。


 ──不味いな。流石に、演技が過剰だったか?


 どうやら天沢は、脅迫状の件を言っていないことについて、薄々察しているようだ。

 これを誤魔化すのは無理か、と即時に判断出来てしまうくらいの迫力で、彼女は俺に見つめてくる。


 なまじ、天沢は普段からデフォルトで真面目な顔を維持しているタイプの人なので、その問いかけには変な圧があった。

 生真面目な人の生真面目な問いかけというのは、どうしてこう逸らしにくいのか。

 いつの間のか、俺は金縛りに掛けられたかのように天沢の前で固まっていた。


 ──あー、これは、もう……。


 碓水さんとの指示を破ることになるが、疲労もあってか、俺は早々に白旗を上げてしまう。

 何というかもう、隠す方が疑われそうだったのだ。

 結果、俺は自然と口を開く。


「……ちょっと、言ってないことはある」


 少しだけ濁したが、ほぼ答えを口にした。

 即座に、天沢が「やっぱり」とでも言いたげな顔をする。

 そして、立て続けに質問を重ねた。


「それは、火事に関係のあること?」

「かも、しれない……まだ分かって無いけど」


 そこまで言ってから、とりあえず俺は食いかけのおむすびを机に置き、代わりに以前渡されたタブレットを取り出す。

 というのは、この件について話して良い物かどうか、確認したかったのだ。


 元々、天沢にこの辺りの事情を話さないでくれ、と言ってきたのは碓水さんだ。

 だったら、事務所関係者相手ならすぐに連絡が取れる──予め電話帳に登録されている──この端末で、碓水さんに開示しても良いかどうかを聞いておくのが、一番無難だろう。

 天沢に「ちょっと待て」というジェスチャーをして、俺はタブレットを操作し始める。


 ──ええと、メールで良いか。これを……ん?


 しかし、画面を開いてすぐに。

 俺は、三通のメールが自分のアカウントに届いてあることに気がつく。


 マナーモードにしていたので気が付かなかったが、誰かがメールを送っていたらしい。

 いつもの癖で、俺は碓水さんを呼び出す前に、それらをすぐに開封した。


 最初に目に映ったのは、約一時間前に届いていたメール。

 ボヌールの事務員から一斉送信されているもので、「[重要]情報流出について」という件名のメールだった。


 ざっと文面を確認して、俺は手早く概要を把握する。

 どうやら文章を読む限り、前に姉さんが言っていた、社長のメールアドレスが漏れていて云々、ということを社員に報告するメールらしい。


 姉さんから聞かされた時点では、混乱もあって対応しきれていなかったようだが、朝になるのを待って、社員に情報を伝えるべく一斉送信したようだ。

 本当に情報流出しているのなら、こういうメールを送ることすら危険なはずだが────一々電話するのも手間だし、こちらに頼ったのだろう。

 ある意味では、予想出来る内容のメールだった。


 次に目に入るのは、十分ほど前に届いたメール。

 こちらもまた、送信元はボヌールの事務室。

 タイトルは、「『ライジングタイム』撮影中の火災について」だった。


 ──今朝の件、もう周知されているのか……。


 先程と違って、このことが既に送信されている、という事実に俺はまず驚く。

 メールの文面によれば、事務所に警察が事情聴取をする前に、火事について周知しておくべくメールをしたらしいが、それにしても早い対応だ。


 碓水さん辺りが、事務の人にメールをするよう、頼んだのだろうか。

 概ね俺たちが経験したことが、メール内にはそっくりそのまま書かれてあった。

 驚きながらも、俺はその内容に誤りが無いことだけを確認し、画面を閉じる。


 そして、最後に届いていたメール。

 丁度数分前に届いていたそれは、丁度良いというか何というか────俺の目的の人物から来ていた。

 内容は簡素で、こんな物である。


『松原君へ 脅迫状の件について口止めしていましたが、もう話して大丈夫です。グラジオラスメンバーが気にしているのなら話してあげてください。警察の事情聴取前に安心させておいてくれると助かります。 碓水心海』


「おおー……助かる」


 求めていた時に求めていた物が手に入って、俺が思わず感嘆の声を漏らす。

 碓水さんとは車から降りた時点で分かれていたのだが、どうもその後で口止めのことを思い返し、メールしていてくれたらしい。

 まさか俺の状況を察した訳ではないだろうが、これで一々聞く手間は省けた。


「……どうしたの?」

「いや、丁度良いタイミングで天の助けが来て……何にせよ、話しても大丈夫らしい、と分かった」


 メールについては話す必要も無いので、俺はそれだけ告げる。

 そして、改まって話を続けた。


「まず、謝っておく。ごめん。俺は確かに、とある話を隠していたというか、敢えて耳に入れなかった。それは事実だ」

「うん……まあ、何か理由があるんでしょうけど」


 割と物分かりの良いところを見せながら、天沢が一つ頷く。

 さらに、恐る恐る、という感じで詳細を聞いてきた。


「それで……どんな話なの、それは?」

「簡単に言えば、ややこしい話だ。まあ、本当に今回の撮影に関わっているのかはまだ分からないが……それでも、関わっていてもおかしくなさそうな話でもある」


 そう、軽く前置きして。

 俺は脅迫状の話を、今度こそしようとした。


 ……しかし、その瞬間。

 タイミングが良いのか悪いのか────休憩室の扉がバン、と空いた。


 同時に、実に聞き慣れた声が、連鎖するように俺たちの耳に響く。

 概ね、以下のような流れだった。


「あ、ここに居た!」

「え、本当ですか?」

「そっか、休憩室に戻っていたのね」

「……ねむい」


 音に続くのは、ぞろぞろと入室する四人分の人影。

 会話の雰囲気があまりにもいつも通りだったので、姿を見ずとも一瞬で理解できた。

 休憩室の入口には、見慣れたメンツが────天沢を除く、四人のグラジオラスメンバーが来ているのだ、と。


「皆……どうしたの?」


 最初に、天沢が驚いてそう質問する。

 すると、位置的に近いメンバーからめいめい返答をした。


「どうしたも何も……」

「ロケの最中に、火事やら何やら、色々凄いことが起きたって松原プロデューサー補に聞いて、心配だったから来ました!あと純粋に好奇心!」


 軽く長澤が受け答えをして、さらに何故か敬語口調で鏡が断言する。

 さらに、軍人のように敬礼までした。

 それを軽く酒井さんが手で軽く宥めつつ、こちらをチラリと見た。


「……元々、『ライジングタイム』内の撮影のコツや感想を聞きたかったから、茜には言ってなかったけど、撮影終わりに話を聞く予定だったの。だけど、何か騒ぎになっているって聞いたから、猶更全員で集まろうって話になって」

「ああ、なるほど」


 おおよその目的を察して、俺は得心する。

 そう言えば、今日は天沢の撮影だったが、グラジオラスメンバー全員がサブレポーターとなっている以上、「ライジングタイム」にはいずれは全員が出演するのだった。


 そんな彼女たちが、最初の出演者となった天沢相手に、撮影の流れやコツを聞くのは、自然な流れと言えた。

 天沢に行っていなかったのは、変に「最初の一人」ということを意識させないためだろうか。

 だとしたら、酒井さんらしい気遣いだが。


 しかし、姉さんからのメールなり電話なりで、その最初の撮影で色々と起きたことを彼女たちも知ったのだろう。

 結果、尚の事詳しい事情を知りたい、ということで、今まで天沢を探していたらしい。

 その捜索の末、休憩室を見つけたのか。


「ねえねえねえ、何が起きたの!?というか、今どんな感じ?下に警察居たよね!?」

「……あさ、はやすぎー。聞くけど」


 四人の中でもとりわけ、元来の噂好きかつゴシップ好きな鏡が、ズイッと身を乗り出す。

 対照的に、帯刀さんはブツブツ言いながら真っ先に天沢の隣に座り、軽く寝そべった。

 話を聞きたいんだか聞きたくないんだか分からないが、まあ寝そべった位置的に興味はある、ということだろうか。


「ええと、私も良く分かっていないのだけど……というか、丁度松原君に全てを聞こうとしていたところで」

「え、松原君が?」

「そうなんですか?」


 困ったように、天沢がこちらに視線をやる。

 ほぼ同時に、酒井さんと長澤も俺のことを見ながらそれぞれ適当な椅子に座った。


 結果、俺は事情の説明を求める視線に射抜かれながら、グラジオラスメンバー全員に取り囲まれる構図になる。

 さっき話そうとしたことも含めて、ちゃんと説明してくれ、ということか。

 変に大人数が揃ったことに軽く驚き、俺は首の後ろを意味も無くバリボリと掻く。


 ──でもまあ、この件は、俺が説明するのが筋か。天沢の場合、撮影中はそっちに集中していて、他のことは知らないだろうし……脅迫状の件は、他の四人にも伝えていないとか言ってたし。


 つまりこの場で、現時点での事件の全貌について知っているのは、俺だけ、ということだ。

 そうなると、説明責任は自然と俺に課されるだろう。


 結果、俺は五人のアイドルを前にして、注目を集めるようにしてパン、と一度手を叩いてから、小さな演説を行う羽目になった。

 年上のメンバーも居るので、口調は敬語である。

 本当に何かのプレゼンでもしているかのような態勢で、俺は語り始めるのだった。


「……分かりました、俺から説明します。話の始まりとしては、姉さんがいつものように俺に無茶振りしたところから始まるんですが────」

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