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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Stage22:見知らぬ先客

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彼女に会いたいと思う時(Stage22 終)

「因みに、この腕時計もその時に買ってもらったものだ。仲直りの証として、旅行中に拓斗さんが買ってくれて……」


 俺が色々考えている内に、母さんが何気に聞いたことがなかった時計の出どころを教えてくれる。

 買ってもらったのは三十年近く前のはずだが、つい昨日買ってもらったかのような口調で話していた。

 どうも新婚旅行の話を聞いてしまったせいで、母さんの脳が完全に「浮かれポンチモード」に入ってしまったらしい。


 一度こうなると他者からの呼びかけが通じなくなるので、俺はうんざりとした顔で母さんを見つめることになった。

 本来は俺が向こうに相談しようと思っていたのだが、何だかそれどころではなくなってしまったようである。

 銀婚式まで済ませた旦那相手にここまでの感情を抱ける母さんが凄いのか、実際に会う機会が少ない中でそこまで思わせる父さんが凄いのか……。


 ──ある意味、母さんがこういう性格で良かったのかもな。そうじゃなかったら、あの父さんと夫婦を続けるのって難しかっただろうし。


 浮かれ続ける母さんを見ながら、再びそう思う。

 自分で言うのも何だが、我が家の親子関係は一般常識から考えればかなり歪だ。

 家の外で「父親はいつも海外を飛び回っている、家族四人で食事をした機会なんて人生で数回しかない」みたいな話をすると、大抵同情的な目で見られる。


 しかしそれでも、俺たちは家族として関係性を維持し続けている。

 それはきっと、何だかんだ言いつつ送金を忘れたことはない父さんの妙な律儀さとか、姉さんが保護者代わりをしているとかだけでなく、母さんのこのスタンスも一因だろう。

 一年の殆どで会えなかったとしても、それでも家族であり続けようとするほどに、この人は現在進行形で父さんのことが好きなのだ。


 機械よりも機械らしいと評される母さんを、そこまで変えてしまう激情。

 恋愛という感情が併せ持つメリットを、目の前で見せられている。

 その事実に疲れながらも、俺は何となく分析を進めた。


 ──父さんみたいにアレな行動理念をしていようが、母さんみたいに過度に理性的な性格をしていようが……強い恋愛感情があれば、そんな不調和を吹き飛ばすくらいに上手くやれるっていう実例だよな、これ。アホみたいな事例だけど。


 本当に馬鹿みたいな解決法だが、事実でもある。

 父さんも母さんも、息子の俺から見ても十二分に変人と言うか、普通なら社会で上手くやっていくのが難しそうな性格をした人たちだ。

 そんな二人が家族を作り、意外とまともにやっていけてるのは、間違いなくそういう感情がエネルギー源になっているからだろう。


 ──だったら俺も、そういう恋愛をしたら今の悩みが吹っ飛ぶのか?別に「探偵」としての部分を気にせずに、普通にやっていける……っていうことになるか?


 最終的にそんな考えに至り、俺はうーんと悩んでしまう。

 何だかこう、母さんの事例を参考にし過ぎて変な結論に陥りかけているような。

 根本的には、「白馬の王子様が来てくれたら何もかも上手く行くのに!」と言っているようなものだぞ、これ。


「……上映スケジュールからすると、そろそろだな。行くか、玲。拓斗さんと合流しよう」


 そんなことをしていると、不意に母さんは冷静な口調に切り替わって伝票を手にする。

 こっちが悩んでいる内に、「浮かれポンチモード」は脱したらしい。

 相変わらず二重人格染みた変化を示す母親に呆れながら、俺ははいはいとその後について行った。




 この後、父さんたちと合流した上でてんやわんやあったのだが、特に変わったことは無かったので描写を省略する。

 基本、久しぶりに集まった親戚同士で宴を開いただけだ。

 夕方には一枝叔母さんも仕事から帰ってきたので、相川家で派手に飲み食いしたのである。


 この宴では、大人組が実にうるさかった。

 年齢が年齢なので全員酒が入っているし、海外帰りの父さんはよく食べるし、母さんもテンションが高いし。

 俺と葉兄ちゃんが大人しく鍋をつつく隣で、ずっとぎゃあぎゃあ言ってた。


「いやあ、しかし義兄さんが突然来ると連絡してきた時は、勘で薄々察していたにしても驚いた……丁度、一枝が休憩がてら帰宅する時だったから、その道中でお茶菓子を買ってと頼んで……」

「私、兄さんのためとは知らなかったのよ、あの時。何でこんなのをって思ったわ。だけど道中で偶々兄さんを見つけたから、ああそのせいか、と思って……」

「あー、そこで見ていたのか。だから春瑠さんに連絡が行ったんだな」

「ごめんなさい、一枝。お菓子代は払うから……」

「良いわよ、別にこれくらい……」


 今朝、父さんが突然出現した時の話まで色々言っている。

 元より仲の良い人たちなので、話のネタが尽きることが無いようだった。

 結局、息子組二人は適当なところでその場を離れ────宴の熱気を冷ますように、どちらともなくベランダに出ていた。




「星が綺麗だね、ここは……望鬼市には流石に及ばないけど、東京よりはずっと見える」

「まあ、夜中に開いている店も少ない場所だからな」


 ぼんやりと秋の夜空を見ながら、俺と葉兄ちゃんは力を抜いて雑談する。

 庭に残る枯草が秋の夜風に揺れて、さらさらと微かな音を立てていた。

 そしてそれらを消し飛ばすように、リビングの喧騒がここまで響いてくる。


「父さんたちも何時までやるんだろうな、アレは……この近くは民家が少ないから、別に近所迷惑にはならないだろうけど」


 一階の様子を思い出すようにして、葉兄ちゃんは苦笑を浮かべた。

 彼としても、父親たちのどんちゃん騒ぎに多少の呆れはあるらしい。

 しかし葉兄ちゃんは俺よりも優しいので、「まあ、ああなる理由も分かるけど」と続けた。


「母さんも春瑠伯母さんも忙しいし、拓斗伯父さんが帰国するのは本当に珍しいからな。四人揃うなんて、それこそ次は何時あるか分からない。だから、目一杯楽しみたいんだろう」

「かもね……例えば、俺や葉兄ちゃんが未来で歳を取って再会したら、あんな感じになるのかな?」

「そうだと思うぞ、勘だけど。まあその時は、それぞれ結婚しているかも……」


 そこまで告げたところで、不意に葉兄ちゃんは言葉を切る。

 不思議に思って横を見てみると、何故か彼は口元を手で覆っていた。

 何かに対して恥ずかしがっているように見える。


 どうしたんだ、と疑問に思ったのは一瞬のこと。

 すぐにその理由は察しがついた。


 ──ああそうか、未来では結婚してるなんて言ったから……自分の彼女との結婚生活でも想像したのか?それで、一人で恥ずかしがっている。


 なまじ勘なんて便利な物があるから、それはそれはリアルな未来予想図を妄想したのだろう。

 こういうところ、葉兄ちゃんも立派な男子高校生である。

 しかしそれでも、人との会話中に変な妄想をするなよ、と俺はかなり呆れる。


「……ねえ、葉兄ちゃん。恥ずかしがっているところ悪いんだけどさ」

「な、何だ?」

「聞き忘れていたけど、本当に今日は彼女さんと一緒に居なくて良かった?普通、恋人がいる高校生って、文化祭を一緒に回るんじゃないかって気がするんだけど」


 良い機会だったので、明杏高校を訪れた時から思っていたことを聞いてみる。

 すると葉兄ちゃんは「何だそんなことか」という顔になった。


「大丈夫だ、ウチの高校の文化祭は二日間ある。それで、明日は一緒に回る約束になっているから……今日はちょっと向こうも忙しかったからな。元々、明日だけの予定だったんだ。記念日でもあるから」

「記念日?」

「前に言わなかったか?俺は去年の文化祭の一日目に手紙を受け取って、その翌日に返事をして彼女と付き合い始めたんだ。だから文化祭の一日目じゃなくて、明日の方が特別な日みたいな感覚があるというか」

「あー……丁度付き合って一周年ってこと?」

「去年と今年じゃ文化祭の日程がズレているから、厳密には一周年は終わっているけどな。それでもやっぱり、大事な思い出だから」


 だからこそ、明日にお楽しみは残しておいたんだと言葉が続く。

 文化祭その物には興味が薄くても、二日目だけは特別なのか、と話を聞いた俺は納得する。

 道理で、葉兄ちゃんがさっさと帰宅したはずだ。


「まあしかし、今日ほったらかしにしたのは確かだからな。明日はまずプレゼントを渡すところから始める」

「へー……買ってるの?」

「ああ、サプライズで」


 そう言いながらはにかむ葉兄ちゃんを見て、俺はケッと妙な悪態をついた。

 昼間の母さんもそうだが、どうも今日は周囲の人間が色気づいている。

 別にそこまで興味はないはずなのだが、自然と自分のことがいたたまれなくなってくるのは何故だろう?


「しかし、葉兄ちゃんもプレゼントか……皆、考えることは変わらないんだね」

「……何だ、俺『も』って」


 何となく皮肉を口にしてみると、葉兄ちゃんには不思議そうな顔をされた。

 それを見た俺は、自分も似たような顔を浮かべることになる、


「あれ、葉兄ちゃん、気が付いてなかった?俺の父さんの今日の行動について。実は、ちょっと変なところがあったんだけど」

「何も思ってなかったが……何かあるのか?」

「いやまあ、そんな大した話でも無いんだけど」


 それでも、説明しないと会話が続かない。

 仕方なく、俺はいつも通り推理で解説することにした。




「さて────」




「最初にも父さんが言っていたけど……父さんは今日、唐突に相川家を訪問した。それを最初に知ったのは、元々仲が良い幹夫叔父さんだった」

「ああ、そう言っていたな」

「そしてその後、一枝叔母さんからウチの母さんに連絡が入った。だからこそ、母さんが明杏市に来た訳だけど……不思議に思わない?何で幹夫叔父さんは、いの一番に母さんに連絡をしなかったのか?」


 父さんが母さんに帰国の連絡を入れなかったこと自体は、そんなに不自然でもない。

 何というか、さもありなん、という感じだ。


 しかし、幹夫叔父さんは違うだろう。

 勘を超えた天啓を持つ彼は、元々父さんの帰国を何らかの手段で察していたらしい。


 加えてその予感が的中して、父さんが自宅に来たのだから────自分の妻にお茶菓子を買ってくるように頼むよりも先に、母さんに連絡を入れるのが筋じゃないだろうか。

 拓斗義兄さん帰国してますよ、一応知らせときます、みたいな感じで。


 だが、実際にはそうならなかった。

 幹夫叔父さんは母さんに連絡を入れておらず、電話したのは一枝叔母さんの独断。


 その一枝叔母さんにすら、幹夫叔父さんは父さんについて説明をしていなかったらしい。

 先程の宴会の中で、何も分からずにお茶菓子を買うように頼まれたという愚痴があった。

 一枝叔母さんが父さんの来訪を知ったのは、買い出しを頼まれた後なのだ。


「つまりさ、何故か幹夫叔父さんは父さんの帰国を周囲に隠していた訳だ。父さんの妻である母さんにも、買い物を頼んだ自分の妻にも言ってない」

「そうなるな……父さん、勘が良いからそういうのは寧ろ率先してやるんだけど」

「だろう?それなのに何も言っていないということは、考えられる可能性は一つ……口止めされていたってことだよ」


 詰まるところ、父さんが帰国した時に幹夫叔父さんに頼んだのだ。

 ついでだから相川家に立ち寄るが、そのことは春瑠さんには伝えないで欲しいと。

 現実には一枝叔母さんが偶発的に連絡したため、その口止めは無意味になってしまったが、きっと父さんは最初はそれを隠しておくつもりだった。


「でも、それは何故だ?明杏市には行くのに東京に寄らないのはちょっと気まずいから、隠しておきたかったとか?」

「いや、そうじゃない。父さんも母さんも、そういうのはあまり気にしないタイプだし……」


 そう言うのを気に病む性格なら、俺と顔を合わせた時にちょっとは気まずそうな顔をするだろう。

 父さんが口止めを頼んだのは、もっと別の理由だ。


「もう一つ、思い出してほしい。昼間に葉兄ちゃんたちが映画館に行った時、父さんがカメラを俺に預けたでしょ?」

「あったな、そう言えば」

「でもその時、父さんは全部の荷物を俺に渡した訳じゃない。商売道具のカメラまで預けた割に……何かこう、しっかりした箱みたいなのを自分の鞄に残していた」


 父さんが持ち歩かなそうな物だったし、正体不明だったのではっきり覚えている。

 高価なカメラまで息子に預けるのに、あれは持参するのかと疑問を抱いた記憶もあった。

 あの謎の物体と、父さんが帰国を隠そうとしたことを踏まえれば、真相は見えてくる。


「発想としては、葉兄ちゃんが明日やることと一緒だよ。ほったらかしにしておいたのはアレだから……プレゼントでも渡して、仲直りするというか」

「じゃあ、拓斗伯父さんは……」

「母さんに対してサプライズプレゼントを渡す気だったってことだよ。そのために帰国を隠していたんだ。多分、写真展に参加した後は密かに映玖市に戻って、母さんにいきなり会うつもりだったんじゃない?東京に戻る予定が最初から無かったなんて言っていたのは、照れ隠しの嘘だ」


 そう考えれば、父さんの行動も腑に落ちる。

 この辺りが分かっていたからこそ、幹夫叔父さんも口止めに応じたのだろう。


「じゃあ、拓斗伯父さんが大事に持っていたのはプレゼントの箱か。海外で買ってきた妻への贈り物……中身、何だろうな?」

「確かめてはないけど、時計かもね。父さん、昔も母さんに時計をプレゼントしたことがあったらしいから。その時の母さんの時計も、いい加減古くなっているし」


 三十年前も、仲直りの証に時計を贈ったらしい。

 多分父さんの中で、ここぞという時のプレゼントは普段使いする物にしよう、というルールみたいな物があるのだろう。

 母さんが大事に時計を使っている様子からすると、正しい対応でもある。


「夏休み、俺が事件に巻き込まれた時、姉さんが父さんと連絡を取っていた。父さんから珍しく連絡が来たから、よく覚えている……多分だけど、そこで母さんの話題が出たんじゃないかな。時計が古くなっているから、いい加減新しいのをあげたらどうだ、みたいに」

「そうか、それで拓斗伯父さんは新しいのを買ってきたのか」

「そう。でも、普通に渡しても面白くない。父さんって姉さんと同じで、変な悪戯を無意味に仕掛けることがあるから……それで考えたんじゃないかな。こっそり帰国して、サプライズで渡したら喜んでくれるんじゃないかって。だから、今回みたいなことになった」


 こうして話していても、子どもみたいな話である。

 やっていることは殆ど、遠距離恋愛中のカップルのそれだ。


「まあ結局、事情を知らない一枝叔母さんが知らせちゃったから、帰国自体はバレたけど……プレゼント自体はバレてない。だからまあ、あの宴会が終われば適当なタイミングで渡すんじゃない?」

「そうだな。春瑠伯母さんは明日にでも映玖市に帰らないといけないだろうから、その帰り際とかだろう。ただの勘だが」

「どちらにせよ、俺のいないところでやって欲しいけどね」


 実の両親のそういうのって、何だか気恥ずかしすぎて見ていられない。

 どうして俺は、両親の会話と行動で胸焼けしてしまっているのだろうか。

 普段会えていないのは事実でもあるのだし、別に偶の再会でそういうことをしちゃいけない理由はないのだけど。


「しかしそう考えると、拓斗伯父さんも春瑠伯母さんのことを凄く大切にしているな。多分だけど、買ってきたプレゼントは結構高価な物だろうし……それこそ、肌身離さず持っていないと危ないくらいの」

「確かに、自分のカメラよりは高いかもね」


 先程、俺は母親のことを浮かれポンチと評した。

 でも今日の行動を見ると、父親も父親で中々である。

 興味が無い物にあれだけ冷淡に接する父さんが、母さんに対してここまでしているというだけで、その特別さが察せられた。


 勿論、彼らが子どもである俺や姉さんのことを蔑ろにしている訳ではないだろう。

 しかしそれでも、父さんや母さんにとって、やはり配偶者という存在は特別なのだ。

 当たり前と言えば当たり前のことだが、実の両親でそれを知るのも随分と変な気持ちになるものだった。


 というか、本音で言わせてもらえば────。


「どいつもこいつも、恋愛脳が過ぎるな……」


 葉兄ちゃんに聞こえないくらいの音量で、ぼそりと呟く。

 途端に、姉さんの言葉が再び脳裏をよぎった。

 俺がアイドルたちと恋愛関係に陥らないことを、「日常の謎」だと評した、あの推理が。




「ところで玲、明日はどうする?さっき言ったけど、明日は彼女と過ごす予定になってて……」


 そこでふと思い出したように、葉兄ちゃんは明日の予定を聞いてくる。

 自分は彼女との予定があるので、俺のことが心配になったらしい。


「本当にすまないな。こっちに来て良いって言ったのに、二日目で放り出して。元々、コンビニで言ったあの推理だけを伝える気だったから……」

「いやいや、無理に押しかけたのは俺の方だから。自分の彼女さんを優先するのは当然だよ」


 人の良い彼の謝罪の言葉を慌てて遮る。

 いくら何でも、ここでクレームを入れられる立場にない。

 それに────実を言えば。


「……大丈夫だよ、葉兄ちゃん。俺も、明日の予定はもう決めてあるから」

「あれ、そうなのか?誰かと会うとか?」


 流石に予想外だったのか、彼は目を丸くする。

 しかし少し考え込むように目を閉じると、即座に何かを思いついたような顔になった。

 やがて開いた両瞳は、どこか蒼く光っているように見える。


「その予定の相手、当ててみようか?」

「どうぞ?」

()()()()だな?……まあ、ただの勘だが」


 相も変わらず、神懸った勘だ。

 図星を当てられた俺は、首の後ろをバリボリ掻いた。


 そう、葉兄ちゃんの言う通り。

 俺は彼女に会おうとしていた。


 ……今日一日かけて、自分の中の異常性について考えた。

 そして、父さんと母さんという実例を目にした。

 彼らこそ、色々と異常な側面を持っていながら、出会って三十年以上経っても続く恋愛によって関係が維持され、結果的に社会的にもそこそこ上手くやれている前例だった。


 ならばやはり、自分探しの一つとして、そちらの分野も多少は確かめた方が良いだろう。

 可能なら中学時代の彼女とも会いたかったが、あちらは俺にも行方が分からない。

 近場で済ますと言うと聞こえは悪いが、そう言うことに詳しそうなあの人に頼らない理由は無かった。


 映画のポスターを見た時とは態度が百八十度変わっているが、これはもう不可抗力みたいなものだ。

 菜月とも顔を合わせにくい現状、これしか無いのだから。

 本気か冗談かは知らないが、俺に好意を示したあの人に────凛音さんに会いたいと、思ってしまったのだから。

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― 新着の感想 ―
そういえば玲くんの「善人」ってどこからきてるんだろう。 両親とも姉とも、そこは明確に違うような気がするんですが。 自分探しというならそこにも目を向けるべきかなと。
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