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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Stage21:遠い国から帰ってきた自由人

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前例を見る時(Stage21 終)

「……いやそんな、嘘なんて。俺はただ、普通に文化祭を見に来ただけで」

「もし本当に、お前が連休でもない普通の土日に、宿泊の用意までして文化祭を見に来たのなら……午前中の早い時間に、『面白い展示が無かった』と言って帰ってくるか?明杏高校の文化祭の規模は知らないが、全部回るだけでもそれなりに時間はかかるだろうに」

「ほ、本当にそういう流れになって……」

「それにしたって、せめて昼飯くらいは食べてくるだろう。幹夫君に聞いたが、屋台だってあるそうだしな。それを捨てて、大した寄り道もせずに一直線に家に帰ってきている時点で、お前たちの行動は怪しかった」


 実に淡々と、葉兄ちゃんの苦し紛れの言い訳が解体される。

 こういうところ、本当に父さんは俺の父親だった。

 どうしてこう、あんな小さな発言すら細かく覚えているのか。


「ついでに言えば、葉の行動もおかしい。文化祭当日にこんなに早い時間に帰ってきて、しかも幹夫君がそれをサボりだと叱っていないということは、葉は文化祭中の仕事は特にないし、他のクラスの展示を見に行く気すら無いということ。つまり葉は、最初からこの文化祭に熱意を注ぐタイプじゃなかった訳だ。そうだな?」

「……まあ、それはそうだろうけど」

「だとしたら、葉がお前を文化祭に呼ぶこと自体が変だ。この家に泊まる時、事前に電話くらいはしたはず。普通、自分が楽しみにしていない文化祭に親戚を呼ぶか?お前の方も、葉に文化祭の案内を無理強いするのは気が引けるだろう?」


 んぐ、と言葉に詰まる。

 仰る通りです、としか言いようが無かった。

 現状だけだと、俺は葉兄ちゃん本人がやる気が無かった文化祭に無理矢理押しかけ、しかもいざ来たら、午前中だけで「つまらないから」と言って帰ってきた、超ワガママ男になってしまう。


 いくら俺との交流が少ない父さんでも、これはおかしいと思ったようだ。

 俺と葉兄ちゃんの関係性で、そんな無茶苦茶なことはしないだろうと。


「お前が文化祭を見学しに来たとするのが嘘なら、全て解決する。お前は何らかの理由で葉に会いに来た。だけど向こうが出席確認とかで学校に居たから、まずはそちらで合流した……そんなところじゃないか?」

「……その通り」


 いよいよ言い訳も出来ず、俺は白旗を掲げた。

 姉さん相手もそうだが、俺は身内から推理をぶつけられた時、速やかに諦めることにしている。

 抵抗したところで勝てっこないからだ。


 しかしまあ、自分の父親にこうも理詰めで嘘を暴かれるというのは、実に変な気分だった。

 何にせよ、今は自白するしかないらしい。


「父さんの言う通りだ。俺がここに来たのは、また別の理由があって……ちょっと、葉兄ちゃんたちに相談したいことがあったから」

「それはまた、夏美にいじめられでもしたか?考えさせられることでも言われたとか。それで自分探しの旅をしているとかが、一番有り得そうに思える」

「……何で分かる?」

「電話越しに相談する訳でもなく、わざわざ明杏市まで足を運んでいるところからすると、お前の悩み事は重大なことらしい。そんなに重い悩みがあるなら、普通は遠くの従兄弟よりも先に、実の姉に頼るだろう?夏美が常に忙しいとは言え、弟が真剣に悩んでいるのなら時間は割くはずだ」

「あー……」

「それでも夏美に相談していないということはつまり、悩み事の原因がその夏美にあることを意味する。本人相手に言うことは出来ないからこそ、別の相談相手が欲しかったんだろう?ただの喧嘩とかならそんなに揉めないだろうから、もっと真剣に考えなければいけない命題を背負ったが故の行動だ……違うか?」


 ──……この人、実は全部知っているとかじゃないよな?葉兄ちゃんから全て聞いたとか。


 一瞬そんなことまで思ったが、すぐにそれは有り得ないと察する。

 葉兄ちゃんが初めて父さんを見た時、彼の驚きはガチだった。

 純粋に、俺の態度を推理すれば、このくらいのことは分かるのだろうか。


 姉さんがその推理力を活かして芸能プロデュースに関わっているように、この人は推理力を駆使して海外を走り回っている。

 この人たちにかかれば、「常人」によって推理力が低下している「探偵」など、ただの未熟者に過ぎない。

 改めてそのことを実感しながら、俺は正直に話すことにした。


「ええと、夏休みにちょっとだけ連絡したけど、俺、姉さんの勤めるボヌールでバイトしててさ……」


 細かい事件の内容は省いて、俺はここに来た真の理由を父さんに解説する。

 グラジオラスメンバーとの関係、姉さんに指摘された真相、葉兄ちゃんに暴いてもらった更なる深層、「常人」と「探偵」のこと……。


 内容が内容なので、いつしか随分と込み入った話になってしまった。

 初めて聞く立場では理解しがたいテーマだと思うのだが、父さんはふんふんと簡単そうに頷き続ける。

 そして全てを聞き終わると、さらりと話をまとめた。


「要するに、お前がこれからどういうキャラで生きていくか悩んでいるって話だな?常識人キャラを貫くか、全面的に探偵キャラでやっていくのか。だけどお前としては、どっちを選んでも誰かを傷つけそうで怖い、と」

「んー、まあ、簡単に言えばそうだけど……」


 何だか問題を矮小化されたような気がして、ちょっと微妙な顔になる。

 ここだけ聞くと、それこそキャラ付けに困っているアイドルみたいな悩みだ。

 俺の悩みってこう、もうちょっと真剣な物だった気がするのだけど。


「しかし正直、『探偵』が周囲に冷淡過ぎるから迷惑をかけてどうのこうのと言うのは、私にはよく分からない感覚だな。興味が無い相手を冷たくあしらうことって、そんなに悪いことか?」

「いやほら、相手はグラジオラスメンバーだから。半年以上もやってきた、本来なら親しくなってしかるべき相手なんだし」

「長く付き合った相手だからと言って、絶対に興味を持たないといけない理屈は無い。私なんか、『本来親しくなってしかるべき相手』の筆頭である家族を……つまりお前たちをほったらかして殆ど海外に居るが、それでも案外何とかなっているだろう?」

「……」


 自分を指さしながら、真顔でとんでもないことを宣言する父さん。

 彼の顔を見ながら、俺はちょっとの間呆れた。

 確かにそうではあるのだが、俺たちの親子関係は特殊例というか……本人に明言されると反応に困る。


「個人的には、周囲への迷惑を気にしすぎだと思うけどな……人間、他人に迷惑をかけたりかけられたりしながら生きるものだ。確かにお前は周囲の人間に混乱を招いたかもしれないが、同時にお前に謎解きを頼んでくる周囲の人間だって、お前に迷惑をかけている。そう言う意味では、立場はフェアだ」

「そうかもしれないけどさ……こう言うのがエスカレートしたら、もっと多くの人を傷つけそうで怖いなって。そんな犠牲を踏み台にして、笑いたくないと言うか」

「大丈夫だと思うがなあ……私がこの前撮影した武装勢力のリーダーなんか、軍事組織の襲撃で百人くらい殺した奴だったけど、毎日楽しそうに笑っていたぞ?世界中の人間を傷つけている人間がああして笑っているんだから、お前が多少周囲に迷惑をかけようが別に……」

「いやいやいや……それはちょっと例が極端すぎるって」


 殺人犯よりも罪は軽いから自分は免罪、なんて理屈はこの世には無い。

 そんなことを許してしまえば、この世から軽犯罪者なんていなくなってしまうだろう。

 そう思ってのツッコミだったが、父さんには届いたのか届いていないのか、彼はニヤリと笑って腰を上げた。


「まあ、お前の悩みはお前の手でケリを付ける物だから、これ以上は言わないが……折角ここまで来たんだから、好きにやることだな。大丈夫、何とでもなるさ。葉の言う通り、お前は()()()()()()()()()()()()んだから」

「……軽く言うなあ」

「以前、カメラを渡した時に言っただろう?好きな物を好きなように撮れって……お前が好きなようにやっていけば、撮りたいと、見続けたいと思う物を追っていけば、その内解決策だって浮かんでくるさ。カメラが無くても、それは変わらない」


 一方的にそれだけ言うと、父さんは服を直しながら玄関の方へと歩いて行った。

 そろそろ、幹夫叔父さんが車を出してくる頃だと踏んだのか。

 とりあえず、息子の悩みについてはこれで興味をなくしたらしい。


 ──一度興味をなくしたら、もう関わらない……徹底しているよな、本当に。


 やれやれと思いながら、俺は彼の言葉を咀嚼する間もなく立ち上がろうとする。

 だがその瞬間、ふとこんなことも思った。




 ──でも、俺も……傍から見ると、ああいう風に見えているのか?




 一度興味を持った対象については調べまくるが、その一件が終わるとすぐにサヨウナラ。

 コミュニケーション能力が無い訳ではないが、人付き合いは良い方ではなく、推理の時だけ妙に雄弁。

 ちょっと黙っているかと思えば、相手の話の細かい部分を正確に覚えていて、その一言から相手の行動を読み切る。


 だからこそ、およそ組織とか社会とかには馴染んでいないけれど。

 その実、有名人を一発で破滅させられるかもしれない機密情報を平然と握っていて、有名人サイドからも警戒されている。

 今の父さんの姿は、「木馬」やら「タロス」やらと関わっていた時の俺に似ているように思えた。


「……こういう感じか」


 ははあ、と思う。

 ドン引きするとか、苦々しく思うとか、そういう感じは一切無くて。

 何というか、いくつかの収穫があった。


 これは確かに不気味がられるだろうなあ、という納得と。

 父さんのように、このスタンスのままでずっとやっている人も居るんだな、という感心。


 良い悪いではない。

 模範でもないし、反面教師でもない。

 一つの前例として、俺は父親の背中を見た。


 このスタンスのまま生きていると、こういう弊害があるのか。

 その辺りを気にせず、あの状態のままでやっている人も、居るには居るのか。

 そう考えると、余り父親のことを変な人だ、理解出来ないとは言えないような気がしてくる。


「……どうした?葉も下りてきたぞ。昼飯、行かないのか?」


 ある程度歩いたところで、父さんは不思議そうにこちらを見返した。

 相変わらず、こちらの心情はお構いなしに。

 すぐ行くと言いながら、俺は彼を追いかけた。

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