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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Stage15:小春にして君を離れ

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分かりやすく揃う時

「自殺……罪悪感に耐え切れなかった?」

「そうみたいです。最初は普通に警察の取り調べとかも受けていたみたいなんですけど、本人も怪我をしていたから途中で病院に運ばれて……遺書をこっそり書いた後、一瞬の隙を見て窓から飛び降りたって書いてます」


 この記事も、警察の不手際を指摘する意味で書かれたみたいですね、と解説が続く。

 一介の交通事故がそれなりに大きく取り上げられているのは、これが理由なのだろうか。

 確かに、捕まえて罪を償わさせるべき容疑者に突然自殺されたというのは、疑いようもなく警察のミスである。


「でもそうなると、加害者がお供えをするのは不可能……」

「加害者の家族とかも、可能性は無いみたいです。遺書の中に『自分は天涯孤独だから、迷惑をかけるような家族が居なかったことだけが救い』と書いてあるみたいですから」


 要するに、加害者側、被害者側ともに現場にお供えをしているとは考えにくい。

 無関係の第三者が十年越しにお供えをしている、という線は考えなくていいだろう。

 それなら命日にやることが多いだろうし、それ以前に被害者遺族の作った団体にコンタクトを取るはずだ。


「……YAMIさんの見たお菓子が実はお供え物だったという、この考え自体が間違っていたんでしょうか?偶々あの電柱が事故現場だっただけで、貴女が見たお菓子は全くの別件で用意された物だった……?」


 お供え説に行き詰った俺は、代案としてそんな仮説を出す。

 だがその口振りは、自分でも説得力が無いと分かるそれになってしまった。

 これでは、お供えでも無いのなら何の理由でお菓子を野外の地面に置いているんだ、という疑問点が解消されていない。


 YAMIも同じようなことを思ったのか、分かりやすく首を斜めにする。

 そして、「でも、やっぱり事故関連の気がします……」と言って、スマートフォンの画面を死亡事故の記事に戻した。


「私も、あまり記憶力には自信が無いんですけど……このお菓子のラインナップ、見えますか?」

「十年前に設置されたお供え物の方ですか?この、ポテトチップスとかクッキーとかの」

「はい。私が夜に見た大量のお菓子たち、思い返せば()()()()()()()()()()()()()()()()と思うんです……ラインナップが、一切変わって無かった」

「……変わっていない、か」


 それはまた、お供え説を補強する証言である。

 彼女が見たお菓子たちが十年前のお供えと全く同じ様子だったというのなら、関連性を見出さない方に無理があるだろう。

 やはり、これは死亡事故に関連したお供えなのか。


「でもYAMIさんの記憶が正しいなら、それはそれで少しおかしい気もしますね……お供えにしても変っていうか」

「どういうことです?」

「いや、十年経って何者かがお供え物を用意したにしても、普通なら現代のスーパーやコンビニでお菓子を買うでしょう?ラインナップまで完全再現されることは、まず無いと思うんです」


 子どもが好きそうなお菓子を適当に買えば、普通はそうなる。

 そもそも、十年前と今ではスーパーなどに置かれてあるお菓子もラインナップが変わっているだろうから、かつての品物を再現すること自体が難しい。

 だと言うのに、どうして十年前と同じお菓子が電柱周囲に置かれていたのか────。


 そんなことをボソボソと呟きながら、俺はYAMIの反応を伺ってみる。

 すると、黙々と考えていた彼女は少しづつ顔色を悪くして、段々と泣きそうな顔になっていったのが分かった。

 えっ、と驚いていると、彼女はウルウルした目で泣きごとを言い出す。


「や、やっぱり……やっぱり、幽霊の仕業なんでしょうか……?亡くなったこの子が当時のお供え物を再現しているから、十年前と同じお菓子が設置されていたんじゃ……」

「いや、それは結論が飛び過ぎだと思いますけど」


 そう言って宥めるが、YAMIの涙は止まらない。

 本気で怖がっているように、自分で自分の体を抱きしめる。

 いつの間にか体を震わせていたらしく、古い床がギシギシと鳴っていた。


 ──女王様キャラの時も面倒くさい人だったけど……キャラを止めたら止めたで面倒な人だな、この人……。


 酷い感想ではあるが、率直にそう思ってしまう。

 とことん、銀砂書店での印象を壊してくる人だ。

 俺の周囲に居る女性は様々な意味で力強いタイプが多い──姉さんとか茉奈とか凛音さんとか──ので、こういうタイプは逆に印象に残った。


 ──でもその分、対応が分かんないんだよな……慰めれば良いのか?


 最初とは別の意味で、推理が中々進まない。

 困った俺は、注意を逸らす意味でも質問を変えた。


「YAMIさん、最初の方で聞いたことをもう一回聞きます。このアパート、他にはどんな方が住んでますか?」


 今のところ、お菓子塗れの電柱を見たというのはYAMIだけだ。

 だが彼女以外にその光景を見た人が居るのであれば、その人から新たな証言を得ることが出来る。


 普通に考えれば、その証言者の候補はこのアパートに住む人たちだ。

 YAMIが話にならないのであれば、そちらから話を聞きたかった。


「え、ええっと……私以外だと、ここに住んでるのは一人だけです。あまり顔を合わせないですけど」

「一人?……たった二人しか住んでいないんですか、このアパート」


 流石に驚いて、俺はなんとなく部屋の扉をじいっと見つめる。

 ここに入った時の印象では、一階と二階を合わせて十部屋くらいはあった印象だったのだが。


「一応、他の部屋も契約者は居るそうなんですけど……大体がセカンドハウスだって言ってました。他に家がある人が、休憩所や荷物置き場として借りているみたいで」

「ああ、なるほど。荷物置き用の倉庫なんかを借りるよりも、ここの家賃を払う方が安いんですね?」

「そうみたいです。だから、ここで寝泊まりしているのは私を含めて二人だけになっていて……」


 ──だからこんなに寂れていても文句が出ないのか、このアパート……。


 ボロいアパートだとは思っていたが、ボロさにも理由と言うのがあるらしい。

 元よりきちんと住む場所として利用していない入居者が多いから、このような外観でも放置されているのか。

 ある意味需要と供給がマッチしているんだな、と俺は変なところで感心する。


「因みに、そのもう一人の居住者について知っていることはありますか?」

「さあ……挨拶もしたことが無いので、よく分かりません。すれ違った感じでは、五十歳くらいの地味なおじさんだったと思いますけど」


 確か一階の隅に住んでいたと思いますよ、と付け加えられる。

 彼女もここに長く住んでいる訳でもないせいか、それ以上は本当に知らないようだった。

 怖がりな性格から、挨拶をしなかったというのもあるだろうが。


 ──でも、定住しているのが他にその人しかいないのなら……聞くしかない、か?下に住んでいる以上、容疑者でもあるんだし。


 YAMIの話に頷きながら、俺は内心でそう考える。

 今日は休日だし、遠出などをしていないなら普通に家に居るだろう。

 一階に行けば、彼に会うこと自体は出来るはずだった。






「……はい、どちらさま?」


 一階に降りてすぐに壊れかけのインターホンを鳴らすと、間を置かずに小柄な男性がぬっと姿を見せた。

 薄い頭頂部と老けた横顔、かびたパジャマによれた靴下。

 なるほど確かに、五十歳くらいの地味なおじさんである。


「お休みの日にすいません。二〇三号室に住む八乙女さんの知人なのですが……ちょっと、お時間貰えますか?」


 不愛想な彼の顔を確認しながらも、俺はにこやかな対応。

 突発的に訪ねてきているのはこっちなので、可能な限りへりくだる必要があった。

 YAMIが「知らない人に会うのは怖いので……」とこの訪問に参加してくれなかった以上、信頼されなかったらそこでアウトなのである。


「今日は仕事が無いから、別に良いが……何の用?」

「ありがとうございます。実は八乙女さんの方が最近、このアパートの近くで妙な物を見つけたらしくて、その正体を探るために話を聞きたいんです……原田さんも最近、妙な物を見ませんでしたか?」


 横目で「一〇三 原田」と書かれた表札を見つつ、俺は器用に質問を続ける。

 すると、原田さんというこの男性は眠たげな目を一度擦って、「知らないね」と言った。


「私は基本、仕事場とここを往復するだけの暮らしでね……正直なところ、道端に何があるかなんて興味無いよ」

「ははあ……因みにお仕事、何をされているんですか?」

「塗装工場の作業員」


 ぶっきらぼうに告げた後、彼は補足するようにその工場がある地名についても教えてくれた。

 俺の記憶が正しければ、神舵区からはそれなりに離れた場所である。

 ここから通勤するのは大変だろうに、と俺は意外の念を抱いた。


 ──逆に言えば、大変な通勤をしてでもここに暮らしたいってことか……よっぽど経済的に余裕がないのか、或いはかなりの倹約家か。


 かなり失礼なことを考えつつ、俺は質問を続ける。


「差し支えなければ教えてください。そのお仕事、いつも何時くらいに終わります?」

「何時って……残業が無ければ、午後六時くらいだが」

「その帰り道に、何か気になることがありませんでしたか?」

「いや……さっきも言っただろう。帰り道で周囲なんて一々見ていない。電柱がどうなろうが気にしないよ」

「……」


 ──……おいおい。早いな、話し始めて二分だぞ。


 俺はそこで、一度苦笑を漏らした。

 ちょっとばかり、彼の話には分かりやすすぎるところがあったのである。

 帯刀さんなどと話しているから感覚がバグるが、そう言えば普通の人ってこんなんだよな、と不意に思う。


 彼も容疑者でもあるという認識は既にしていたが、こうも分かりやすいと拍子抜けだ。

 どうも今回、犯人探し自体は速攻で終わるらしい。

 もうちょっと泳がせても良かったが、引っ張る必要性も特に無いのですぐに指摘してみる。


「原田さん……今、電柱って言いましたよね?」

「言ったが、どうかしたかね?」

「いえ、何で電柱って分かるんだろうなあ、と思って」


 俺は彼との話の中で、電柱にお菓子が置いてあったとまでは言っていない。

 ただ、YAMIがアパートの近くで変な物を見つけたと言っただけだ。

 それがどうして、電柱の話だと分かるのだろうか。


「その前にも、『道端に何があるか』とかも言ってましたね?どうして俺たちが気にしているのが、道端に限定されるんですか?変な物を見たというだけなら、壁の落書きについて話しているのかもしれないのに」


 初対面の相手にズケズケ言うのは性に合わなかったが、強く言わないと話が進みそうにない。

 だからこそはっきりと指摘してみると、彼は少しだけ顔色を変えた。

 しかし、すぐに落ち着きを取り戻したようで冷静にこんなことを言ってくる。


「……聞こえていたからだよ」

「え?」

「だから、聞こえていたんだ。このアパートは壁が薄い。上の階や玄関前の会話なんて、中の住人には筒抜けなんだ。だから……」

「……俺たちの会話も、もう聞いていたと?だから電柱のことを話していると分かった?」


 その通りだと頷く原田さんを前に、ほんとかよ、と思ってしまう。

 確かに防音がしっかりした構造では無いだろうが、そこまではっきり聞こえるのだろうか。


 少なくともYAMIの部屋に居た時、俺は彼の生活音は特に聞こえなかった。

 そもそも、彼が事前に話を聞いていたというのであれば先程顔色を変えたのがおかしくなる。


 ──多分、嘘だよなこれ……でも厄介だな。アパートがボロいのは事実だから、揚げ足を取れない。偶々聞こえたんだから仕方が無いだろう、で言い逃れられる。


 しまった。

 失言を咎めて一気に決着をつけるつもりが、普通に論破されてしまった。

 まさかこのアパートのボロさが、こんなところで足を引っ張るとは。


 恐らく、最初に睨んだ通り彼が犯人で間違いない。

 今の一言だって、単に口を滑らせたのだ。

 しかし失言だけでは、この疑いを詰め切れない。


「……もう良いか?最近忙しいんだ。あと少しで引っ越しだから、荷物も纏めないといけない」


 うんざりしたような顔で告げた後、彼はそれが事実だと示すようにほら、と自分の部屋の一画を指さした。

 その先には、彼の言う通り引っ越し用の段ボールが積まれている。


 納まりきらなかったのか、何かの古い箱がはみ出ているのが変に目についた。

 玩具か何かのように見えるが、遠くて判別までは出来ない。


「……引っ越されるんですか?」

「ああ、職場が不景気だの何だので移転することになってね。流石にここから通うのは無理になった。移転自体もバタバタしていたから、こんな変な時期に引っ越しする羽目になったんだ」

「それはまた、大変ですね」

「まあ、大変だが……前の仕事をクビになって、食うや食わずの生活をしていたかつての私を拾ってくれたのはあの工場だけだったからな。これくらいは付き合うよ」


 最後の方は虚飾も何もない本音だったのか、かなり温かみのある口調だった。

 素っ気ない印象だったけど、こういう話し方もする人なのか。

 本人も自分らしくないと思ったのか、コホン、と咳払いが入る。


「まあそう言う訳だ。悪いが帰ってくれ」

「分かりました……ただ、最後にもう一つ」


 昔の推理ドラマみたいな質問の仕方をすると、原田さんは分かりやすく顔をしかめた。

 相手にこんな顔をさせるところからして、俺は意外と、粘着質な問い詰め方をするタイプだったらしい。

 我ながらそのしつこさを意外に思いつつも、引き際に十年前のことを聞いておいた。


「俺たちの話が聞こえていたというなら、知ってますよね?十年前、ここのすぐ近くでで死亡事故がありました……その時期、原田さんは既にここに住んでましたか?」

「……ああ、もう住んでいた」

「じゃあ、その事故について何か覚えていませんか?」

「いや、悪いが何も。その頃はまだ、今の工場に就職出来ていなかった。毎日の生活が大変過ぎて、周りのことに気を配る余裕は無かったよ」

「なるほど……」

「どちらかと言うと、その後に来た台風の方が印象に残っているくらいだ。このアパートが倒れるんじゃないと思うような台風が、事故のすぐ後に来てな……気が気じゃなかったよ」


 これで良いか、と原田さんが目で問いかける。

 良いですよ、とこれまた目で了承すると、彼はすぐさまバタンと扉を閉めた。

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