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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Collaboration Stage:バウムクーヘンと金色の謎解きを

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送り主と受け取り手の関係

 ──そうなると、玲に電話、かな。


 レアに見守られる感じになりながら、アタシはすぐさまスマートフォンを出す。

 勿論、こういう時に一番役に立つ存在をに電話するためだ。


 他力本願って感じもしたけど、アタシには向いていないことなんだから仕方が無い。

 餅は餅屋、謎は探偵屋。

 微妙に言い訳をしながら、アタシはホームボタンを押した。


 当然、パッと明るくなった画面がアタシを迎える。

 そのまま勢いで通話履歴を出そうとして────ゲッとなった。


 ──ヤバ、充電が全然無くない!?……まさか、昨日寝る時に充電器に接続するの、忘れてた?


 自分の見ている物が信じられなくて、アタシは何度もスマートフォンの充電を確認する。

 だけど、何度見ても結果は変わらなかった。

 画面の片隅には、残り十二パーセントっていう不安になる数字が書かれてる。


 ──あっ、そっか。アタシ昨日、絶対に充電器を持ち帰るのを忘れないようにって、夜の時点でコンセントから充電器を外して……それを鞄に入れてから、安心して寝たんだ。そのせいで……。


 混乱している内に無意識に原因を見つけちゃって、アタシはうわあ、と思った。

 思い返せば、心当たりがある。


 というのもアタシは昔、旅行先で充電器をコンセントに差しっぱにしてて、そのまま忘れてしまったせいで充電器を買い直す羽目になったことがあった。

 だから、その対策として昨日は絶対忘れ物をしないように警戒したつもりだったんだ。


 でもそのせいで充電器を取り外してから寝ちゃったから、一晩中スマートフォンを充電無しで放置してて……そのまま、かなり充電が怪しくなった状態で持ってきちゃったんだ。

 しかも今朝は望鬼市に帰るためにドタバタしてたから、それに気が付かなかったっていうオマケ付き。


 ──これから、スマホにお母さんからの確認の電話とかもあるかもしれないし……あんまり使わない方が良いかも、これ。


 現状を認識した後、アタシは当然の流れでそう考える。

 この空港に充電出来るスポットがあるか分かんないし、携帯充電器とかも持ってない。

 空港内のどこかではそういうのも売ってるかもしれないけど、このためだけにわざわざ買うのも手間というか、それ以前にお金が無かった。


 ただでさえ、東京での買い物と諸事情でやった貯金のせいで、お小遣いはカツカツ。

 特に貯金の方のお金は、絶対に使う訳にはいかないし────。


「ああもう、アタシのバカ……」

「ど、どうしたんですか、茉奈さん」

「あ、ううん。いやちょっと、関係ない話……」


 突然自分の頭をポカリと叩いたアタシを見て、レアが驚いたように聞いてくる。

 話すにしてはアホ過ぎる理由だったので、アタシが適当に言葉を濁した。


 レアがもし携帯充電器を持っているのなら、事情を話してそれを借りるという道もあるけど、流石に迷惑かけすぎな気もする。

 だったらこっちから言う必要は無いでしょ、多分。


 そう考えて、アタシは一先ずスマートフォンをしまった。

 少しでも電源を消費しないように、電源まで切る。


 その上で────────。


 ──充電の残りを考えると、玲と連絡は取れない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことかー……推理中の玲の話って長いから、公衆電話なんて使うといくらかかるか分かんないし。


 自覚した瞬間、アタシの肩がずん、と重くなった気がした。

 アタシがさっきやったレアへの提案は、当たり前だけど、玲や葉兄ちゃんに頼ろうと思っていたからこそ言えたことだ。

 あの二人なら謎解きが出来るだろうし、万一二人でも解けないのなら諦めもつくと踏んで、解いてみようって考えたんだ。


 だけど、その協力が無いとなると、話はガラッと変わってしまう。

 だって、今までそんな謎解きなんてしたことが無いのに、アタシが頑張らなきゃいけないんだから。

 最初にこっちから協力したいってレアに言っている以上、今更「ゴメン無理!」なんて言うのも、流石にアレだし。


 ──いやでも、アタシもあの人らの親戚なんだし……やってやれないことは無いはず、多分!


 結局アタシは、そんなよく分からない根拠を元にグッと顔を上げる。

 そして、改めてレアが体験した「日常の謎」について考えることにした。


「ええっとおー……確認になるけど、良い?」

「はい!何でしょう?」

「この話の不思議なところ……今から解かなきゃいけないところって言うのは、理由なんだよね?何でレアはバウムクーヘンを受け取る羽目になったのかっていう、その辺りを知りたい感じ?」

「そうです!ミステリで言うところの、ホワイダニットにあたります。ハウダニットは言わずもがなですし、フーダニットから考えても仕方ありませんから」


 ──ほわいだにっと?……はう……ふー?


 一気によく分からない単語が出てきて、アタシは一瞬で首を捻る。

 玲や葉兄ちゃんが昔、似たような言葉を言っていた気がするけど、生憎アタシはその言葉の意味までは知らない。

 そのことはレアにもすぐに分かったのか、親切にも説明してくれた。


「どれも、推理小説におけるトリックの分類について示す言葉です。ホワイダニットというのは、言葉通り犯人が『何故(why)』行動したのか……そういう動機当てになります。犯人の心理を探る作品群、とも言えるでしょうか」

「へー……そういう、推理小説の専門用語なんだ?」

「そうなりますね。同様に、ハウダニットは犯人が『どうやって(how)』トリックを実行したのか、フーダニットは犯人が『誰(who)』なのかをテーマにしていることを指します……そう言う意味では、今回はホワイダニットでしょう?」


 確かに、とアタシは頷く。

 流石にここまで丁寧に説明されたら、アタシでもレアが何を言いたいか分かってきた。


 そもそもこの「日常の謎」は、不思議な手段で何かが起きった、という訳じゃない。

 一行でまとめたら、知らない人が突然バウムクーヘンを渡してきたってだけの話だ。

 だから、ハウダニットとかは考えなくていい。


 フーダニットの方は、その逆で考えようが無い。

 だって、当事者であるレアから見て全く知らない人なんだから、そもそもにして考える材料が無いんだ。

 この空港を利用している人なんだから、監視カメラとかを調べることが出来たら正体も分かるかもしんないけど、アタシたちじゃそんなの見られないし。


 当然、アタシたちが考えるべきことはホワイダニット……その女性がお菓子を渡してきた理由だけってことになる。

 ここを解き明かすことさえ成功すれば、多分レアのモヤモヤは晴れる。

 もしかすると、それが分かれば自然と女性の正体も分かるかもしれないし。


「そうなると、知らない女性から突然プレゼントを貰う理由を考えなきゃいけないってことかあ。そうなるとー……」

「何か、思いつきますか?」

「んーとお……レアがすっごく可愛い子だから、思わずお菓子を渡したくなった、とか?」


 言った瞬間、違うだろうな、と思う。

 推理しているのが玲なら、初手からもっと鋭いことを言うのかもしれないけど、アタシは凡人なので、自分でも違和感があることを口にしちゃった。

 その考えの変さ加減はレアにも伝わったのか、目の前で「うーん……」って感じの顔をされちゃう。


「私、そんなに可愛いとは思いませんけど……それに、見ず知らずの人相手に、そんなプレゼントって渡す物でしょうか?」

「いや、レアはめっちゃ可愛いよ?そこは自信持って?……それにほら、男の人がレアをナンパしてきた、的な状況だったら、見ず知らずの人からプレゼントって言うのも十分有り得ると思うし」


 レアくらいの美少女に「自分はあまり可愛くない」とか言われると、アタシみたいな人の立場が無くなっちゃう。

 だからこそ、最初にそこを否定した。

 ついでに、話しながら思いついた根拠も話してみる。


 そうだ、お菓子を渡してきたのがナンパ男とかだったなら、まだ説明はつくんだ、これ。

 ナンパのためにお菓子とかを奢るなんて言うのは手口としてテンプレだろうし、アタシが男だったとしても、レアみたいな美少女を口説くためならいくらでも貢ぐと思う。


 ……でも当然、これは差出人がナンパ男だった場合だけ成り立つ話だ。

 今回のお菓子を出してきた人は女性で、話を聞く限りはナンパ男とは程遠い。


 勿論、女性が女性をナンパしても良いとは思うけど、それならもっとレアに色々言い寄っているだろう。

 お菓子だけ渡して即逃走っていうのは、ナンパにしては弱気すぎる。


「だったら、次の仮説は……パッと思いつくのは……一つあるかな?」

「どんな仮説です?」

「ええっとね……もしかしてレア、実はフランスでモデルや俳優の活動をしているとか、ある?」

「いえ、特には……一度、留学プログラムの一環でイメージガールのようなことをしたことがありますけど、それだけです」

「そっかあ……なら、弱気なファンが推しにプレゼントをしたって線も無いか」


 レアの容姿なら有り得そう、と考えて思いついた仮説だったんだけど、即否定されてしまう。

 さっきのナンパ説よりは可能性があると思っていたから、ちょっとがっくり来た。


 実際、もしレアがグラジオラスみたいなアイドルだったなら、話は分かる。

 例えばアタシだって酒井桜様に街中で突然出会って、しかも手元に美味しいお菓子があったなら、後先考えずに手渡すかもしれない。

 だけど現にレアがアイドルじゃない一般人である以上、この考えには無理があるっていうのはアタシでも分かった。


「そうなると……シンプルな可能性としては、人違いってことになるかなあ」


 うんうん唸って、最後にアタシはそんな仮説を絞り出す。

 途端に、レアが大きな瞳をパチンパチンと瞬かせた。


「人違い、ですか?……つまり私は、誰かに間違えられたのだと?」

「うん。本当はここに、その女性がプレゼントを渡すはずだった相手が居た。だけど、女性は何かの理由で人を間違えた。だからこそレアに渡してすぐに去ってしまった……そうじゃない?」


 言いながら段々と、「もしかしてこれじゃね?」感が出てきて、アタシはやや高揚する。

 苦し紛れに出した仮説だったのだけど、口にするとこれしかないような気がした。

 というか、これ以外にあり得そうな状況が無い。


「ねえ、レア。確かその人、旅行帰りみたいな様子だったんだよね?荷物を一杯抱えていた、とか何とか言ってなかった?」

「はい、そうです。私がそれに気が付いたのは途中からですけど……多分、見た目からして空港の利用客の一人だったんだと思います。それで、旅行帰りだったのかもしれないと考えたんです」

「だから、多分……その女の人、旅行帰りに空港で知り合いと落ち合う予定だったんじゃない?それで、互いにお土産を交換する気だった、とか」


 つらつらと、アタシはそれが有り得そうな状況を必死に考案する。

 すると、概ねこんな感じじゃないかっていうシチュエーションが思い浮かんだ。

 思いつくまま、アタシはそれをレアに説明した。


 まず、飛行機で東京にまで戻ってきた旅行客のAさん(レアに話してきた女性)と、今から飛行機に乗って東京からどこかに旅行に行こうとするBさんの存在をイメージ。

 その上で、この二人が実は友達同士だったとする。


 さらに、AさんはBさんのためにバウムクーヘンのお土産も買ってきていたと考えよう。

 二人は丁度同じ日に、同じ空港を使う気だったってことだ。


 この場合、Aさんが普通に家に帰ってしまうと、お土産をBさんにすぐに渡すのは難しい。

 だってBさんは、これから旅行に行ってしばらく帰ってこないからだ。

 AさんはBさんの帰りを待ってからお土産を渡さなくちゃいけなくなって、ちょっと手間になる。


 だったらいっそのこと、同じ空港で落ち合ってそこでお土産を手渡ししよう、と考えてもおかしくはないんじゃないかなって思う。

 どうせ同じ空港を使うことは確定しているんだし、BさんはともかくAさんはこれから家に帰るだけだから、時間に余裕もある。

 空港でちゃちゃっとお土産を渡してしまえば、Aさんは家に持ち帰る荷物が一つ減るから、メリットもある訳だ。


 これでお土産が消え物じゃなかったら、Bさんは荷物が増えて困っちゃう。

 だけど、渡すのがバウムクーヘンみたいなお菓子なら、旅行中に食べるって言う手もある。

 要するに、互いにwin-winってことだ。


「それで、AさんとBさんはこの空港で落ち合う予定になっていて……その上で、AさんはレアとBさんを間違えたんじゃないかな。本当はBさんにバウムクーヘンを渡したかったのに、急いでいたとか、慌ただしかったとかでレアに渡しちゃった。それで用が済んだと思って、すぐに帰っちゃった……どう?」


 一息に言い終えると、おおー、とレアがパチパチと拍手した。

 レアの視点で見ても、納得出来る推理だったらしい。

 そのことに勇気づけられたアタシは、へへーん、と一気に鼻の下を伸ばす。


 だけど、すぐにレアは何か、疑問を抱いたような顔をした。

 そしてすぐに「あの、良いですか?」と声が掛けられる。


「その推理だと……私は彼女から見て、Bさんと非常に良く容姿が似ていた、ということになりますよね?そうじゃないと、間違えないでしょうし」

「まあ、そうなる……かな?」

「でも、バウムクーヘンを渡されたすぐ後、私は彼女を見つけるためにも周囲を観察したんですけど……丁度その時は余り周囲に人が居なくて、似たような人は居なかった気がします。僅かに居る人たちも日本の人ばかりで、外国人は居なかったような」


 そう言われて、アタシはウッと言葉に詰まる。

 一瞬で、アタシの名推理が破綻しちゃった。


 レアに似た金髪美少女が近くに少なくとも一人居ない限り、この人違い説は成立しない。

 いくら何でも、レアみたいな目立つ子と普通の日本人女性を取り違えるような人は居ないだろう。


「それに……」

「ま、まだある感じ?」

「その女性が慌てていた、或いは急いでいたっていうのも、ちょっと変な気がします。だってその人、私が電話が終わるのを待っていたんですから」


 ──……確かに。


 これまた一瞬で論破されて、アタシは玲みたいに頭をボリボリ掻いてみる。

 だけどすぐ、頭皮が傷むと思って止めた。

 お風呂以外でここを弄る機会は少ないから、用心した方が良いだろう。


 そんなどうでもいい話は置いといて、レアの指摘したことは、話の中にちゃんと出ていた要素だった。

 彼女の言う通り、その人が話しかけてくる直前、レアはお母さんと電話で話をしている。


 この通話が終わった直後に話しかけてきたってことはつまり、電話が終わるまで近くで待っていたということだ。

 つまりその女性は、電話終了を待つだけの時間があり、しかもその待機時間にレアの顔をじっくり見ているってことになる。


 これで人違いをした、というのはちょっと厳しいだろう。

 だって、AさんとBさんは土産物を渡し合う程度には親しい友人のはずだからだ。

 そこまでじっくり見ても人違いする、というのは流石にうっかりすぎな気もする。


「……因みに、レアはどう思う?」


 あっという間に言葉に詰まったアタシは、空気に耐え切れずにレアの考えを聞く。

 するとレアは、意外にも「良いんですか?」という顔をした。

 どうやら、思いついていることがあるっぽい。


「実は一つ、考えている推理があります……話していいですか?」

「良いよ良いよ、やっちゃって?どんな感じ?」

「……オホン、それでは」


 ちょっと芝居がかった感じでレアは息を整え、指をピン、と立てる。

 そして、聞き慣れないフランス語で前置きをした。




Maintenant(さて)……」

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