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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Collaboration Stage:バウムクーヘンと金色の謎解きを

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アタシと変人たちの関係

※松原茉奈視点です。

※このエピソードは拙作「バウムクーヘンと彼女と謎解きと」とのコラボエピソードとなります。

 アタシの従兄弟は、根本的な点で常識から外れた多い人たちだと思う。

 いや本当に、友達に話しても実在を疑われるレベルで現実感が無い。

 まあ、従兄弟に限らずアタシの親戚は変な人が多いのだけど、その中でもとりわけ、だ。


 実例を挙げていくと、この変さ加減は極まってくる。

 例えば、年上の従兄弟である葉兄ちゃん。

 この人は、ちょっとどうかしているんじゃないかというレベルで勘が鋭い。


 前にちょっとしたケアのため、一ミリだけ髪を切ったことがあったんだけど、葉兄ちゃんに見られた瞬間に秒で気づかれた。

 それも、完全にメイクをバッチリ決めた状態で、髪の長さがパッと見は分からない時に。


 葉兄ちゃんはファッションには興味が無い人だし、髪型にも全く詳しくないはずなんだけど、それでも「何となく」で当ててくるんだ、あの人は。

 現代に生まれたからこそ勘が良い人で済んでいるけど、もしもう少し昔に生まれていたら、きっと予言者とか祈祷師とかで名をはせていたと思う。


 それと、もう一人の従兄弟である玲。

 同い年だし、一緒に居ることが特に多い従兄弟だからアタシとしては弟みたいな物だけど、こっちもまあまあ変わっている。


 普通の人は、倉庫の中で砕け散ったスイカのことをあんなにも真剣に考えやしない。

 あの一点だけでも、変人認定しても過言じゃないと思う。


 玲や葉兄ちゃんには他にも変わっているところは色々あるのだけど、突き詰めていくと、この人たちの奇妙さの理由は一言に集約されると思う。

 何というか、日常生活に対して妥協を許さないんだ、いつでも。


 と言ってもそれは、几帳面で細かいところに執着する、という感じじゃない。

 何なら、普段は寧ろボーっとしていたり、暇そうにしていることが多い。

 だけど、ふとした瞬間に気になったことをじーっと研究し始める、というか。


 つまり、一度気にしたことを、簡単に「まあいっか」で済まさないんだ。

 ほんの些細な不思議──葉兄ちゃんは「日常の謎」と言っていた──を見つけたが最後、彼らは自前の勘やら推理力やらでひたすらにそれを考え始める。


 ここで、アタシの正直な感想を言うと。

 彼らの妙に真剣な様子を見て、「別にその謎が解けたところでお金がもらえる訳でも無いんだから、さっさと忘れて別の趣味にでも励めばいいのに」と思ったことは一度や二度じゃない。

 確かに世の中には不思議なことや、ちゃんと考えないと分からない謎が一杯あるけれど、そんなの気にしてしまうときりがない。


 一体、「日常の謎」の何が、彼らをこれほどにまで駆り立てるのか。

 ずっと彼らの行動を見てきたアタシも、この理由はよく分かってない。


 ある意味では、彼らが延々謎解きに情熱を向けているというこの事実こそ、アタシにとっての些細な不思議で、ずっと分からない謎で、「日常の謎」と言えるかもしれない。

 勿論、アタシはあの二人よりもずっと妥協を知っているので、この謎を解いたことは無いけど。


 何にせよ、そんな不思議な従兄弟に囲まれて育ったものだから、アタシはずっと、同世代でアタシの親戚を超える変人は中々居ないだろうな、と思ってた。

 全国を探し回れば、まあそれなりには変わった人は他にも居るのかもしれないけど、それでも少なくともアタシの人生で彼ら以上の変人に出会うことは無いだろう、と。

 そんなことを考えていた。


 ……だけど、世の中は広い。


 長いようで短かった夏休み後半の東京旅行が終わって、望鬼市へと帰るために空港に向かっていた八月末のある日。

 東京に行ってすぐにちょっと関わっちゃった猫ちゃんも、鏡さんのお友達に引き取ってもらうことが決まって、安心して帰ろうとしていた時。

 アタシは、彼らに勝るとも劣らない変人たちにまた出会うことになった。


 葉兄ちゃんや玲のケースと同じように特徴を並べてみると、こうなる。

 その子は、モデルやアイドルになっていないことが不思議なくらいにすっごく可愛くて。

 ついでに言えば、ビックリするくらいに明るい人。


 しかも、日本語がめっちゃ上手で。

 だけど何だか、不思議な部分もあって。

 そして何よりも、推理小説をすっごく愛しているフランス生まれの少女だった────。






「……しかし、振り返ってみると短かったな、茉奈がウチに泊まっていた期間」


 意外と空いていた電車の中で、アタシの隣に座った玲がふとそんなことを言う。

 突然の言葉に振り返ると、そこでは玲が年に似合わないしみじみとした表情をしていた。

 東京の地理に詳しくないアタシのために、玲に空港へと向かう電車に同乗してもらってからちょっと経った時のことだ。


「確か、こっちに来たのが八月半ばで……今がもう八月の終わりだから、二週間近く居たのか。その割に、意外と早く終わった感じがある」

「何、不満?」

「いや、どんな事も終わってみればあっという間だなあって思って」


 俺だって、長かったはずの夏休みがもう終わっちゃうし、とそこで玲は軽くいじけたような顔をする。

 それを見て、ああ、と察しがついた。


 どうも、学生特有の「夏休みがもう終わっちゃうよー、新学期始めたくないよー」という感覚に陥っているっぽかった。

 そのついでに、夏休みが短かったようにアタシの滞在期間も短かったな、と連想したのかもしれない。


「まあ、そもそもアタシ、東京に居る間あんまり外出しなかったしねー。最初に買い物行って、次にボヌール見学して、その後買い物の残りをやって……それでもう、予定していたことをやりきっちゃった」

「だよな?もっとこう、他にも観光地とか行くんじゃないかって思ってた」

「いやー、アタシ、そういうのは別に興味無いんだよね。別に綺麗な景色みたって、アタシの服が綺麗になる訳じゃないし」

「……本当にお洒落特化だな、茉奈は」


 呆れたように言葉を零す玲を見ながら、仕方ないじゃん、と思う。

 昔からアタシは、景色を見るためにどこかに行くとか、歴史的な観光名所を巡るとかいうことを趣味にしてない。

 基本的にそーいうの全般に興味が無いから、何を見ても「フーン」としか思わないんだ、いつも。


 それこそネットとかで良く言われる話だけど、観光名所を見るなら写真で十分だと思う。

 玲のお父さん──つまり、アタシの叔父さん──がカメラマンだから、猶更そう思うのかもしれないけど、アタシとしては写真の方がまだ興味がある。

 いつでも見る時間が自由だし、場合によっては本物より綺麗だし、人ごみに並ばなくても良いし。


 アタシの気質がそんな感じだから、今回の東京旅行でも特に東京っぽいところは行かなかった。

 東京タワーも見てないし、柴又タイシャクテン(漢字が分かんない)とかお台場とかも見てない。

 そもそもどれも、映玖市からちょっと遠いし。


 どんなに素晴らしい観光名所でも、興味の無いアタシからすれば、それはただの物の塊だ。

 アタシは、そんな塊に時間を使う程暇じゃない。


 だから今回の東京旅行での時間は、服とか化粧品に特化させたと思う。

 強いて挙げるなら、長澤ちゃんと鏡さんが猫ちゃんの引き渡しをするのに付き添ったくらいだ。


「ある意味、この空港に向かう道のりが一番観光旅行っぽいかもね。こっちに来る時は電車を乗り継いできて、あんまりおっきな駅は通らなかったし」

「あー、確かに……でもお前、何で帰りは飛行機にしたんだ?東京から望鬼市までだと、飛行機を使うにしては微妙な距離だろ?向こうでも、空港から茉奈の家に向かうまでちょっとかかるし」

「いや、それは単純に空いてたから。今の時期だと帰省ラッシュがあって、新幹線とか電車は一杯だし……寧ろ、飛行機の方が楽だったんだよね」


 望鬼市は元々、東京から見ると滅茶苦茶遠い訳でも無く、凄く近い訳でも無いっていうアレな位置にある。

 当然、この間のために飛行機を利用する人自体が少ない。

 だから日にちによっては、飛行機を使った方が新幹線とかよりスイスイ帰れることもある。


「でも、言われてみればアタシが飛行機乗るの、すっごい久しぶりな感じするー……玲もそうじゃない?」

「まあ、そうだな。父さんを迎えに行くために空港に行くこと自体はよくあるけど、飛行機には……姉さんとかは、仕事でよく使うらしいけど」

「あ、やっぱそうなんだ?」

「アイドルの公演会場は全国にあるから、ボヌールに居ると自然と地方への出張も増えるらしい。例えば碓水さんっていうグラジオラスのマネージャーさんは、昨日まで兵庫に出張していたはずだ。何か、イベント関連で行かなくちゃいけなくなったって鏡に聞いた」

「ふーん。兵庫県かあ、行ったことないなあ……」


 ぼんやりと雑談を続けながら、アタシは頬杖をつく。

 そして、段々と本筋からずれてきた会話にそこで区切りをつけた。


「まあ、この計算だとかなり早く空港に着くし……空港近くでの買い物は、ゆっくりやろっと」


 それだけ言って、アタシは会話の区切りとする。

 すると、アタシへの道案内のためにかなり早くに起きた玲は、これ幸いと目を閉じた。




 結論から言うと、空港に辿り着くのはそれから約一時間後だった。

 どうしても夏休み終盤ということで空港を利用する人が多かったみたいで、かなりの人混みを超えなきゃいけない。

 そのせいで、結構時間が経っちゃった形になる。


 まあでも、元々こういう事態も含めてかなり早くに家を出ていたから、問題は無かった。

 寧ろ、搭乗時刻の二時間近く前には空港に辿り着いちゃったくらいだから、早すぎたかもしれない。

 因みに、玲とは空港の前で別れたんだけど、別れ際に話した内容はこんな感じだった。


「……じゃあ、俺の見送りはここまでだ」

「OK。案内ありがと」

「俺はバイトがあるから、もうボヌールに行くけど……一人になったからって、変な人についていくんじゃないぞ?お菓子をくれるって言われても、無視するように」

「……玲、アタシのこと、馬鹿にしてる?」

「どっちかと言うと、心配してる」


 ……玲の目はマジだった。

 アタシから見ると玲は弟みたいに見えてるんだけど、玲から見たアタシは、目を離せない妹みたいに見えているんだろうか。


 ──まあ確かに、メイクのせいで結構声かけられることが多いけどさー。


 空港の中を適当に歩きながら。アタシは内心でそんな愚痴をぶつくさと漏らす。

 これ自体は、前から感じていたことだ。


 アタシ好みのメイクをするとどうしても周囲の人からは派手な感じに見えるらしく、遊んでいる子だと思われて、チャライ感じの人に声をかけられることはよくある。

 それこそ、今回の東京旅行の最初、駅でずっと待っていた時──玲が約束をすっぽかしたアレ──にも、何度か声をかけられた記憶がある。


「でも、あんな小学生みたいなことを言われる必要なくない?……玲ったら、もう」


 ちょっと拗ねながら、アタシはカツカツと足を進める。

 事前に調べた限り、この辺りには土産物屋さんとかカフェとかが色々あるとの話だった。

 だから、この苛立ちを紛らわすためにも、まずはそこに行こっかな、なんて考えて────。


「……あっ」


 小さな、だけど確かに耳に残る音。

 人の多い空港の真ん中で、明らかに「不意を打たれた」って感じの言葉がアタシの耳に届いた。


 くるり、と振り向いたのは反射的な行動だったと思う。

 別に何か気になった訳じゃないんだけど、ついつい反応しちゃった、的な。


 だけど、アタシは振り返った瞬間に目を見開くことになった。

 ちょっと、ビックリする状況が目に入ったから。


 まず、振り返った瞬間にアタシの目に映ったのは、一人の女の子の姿。

 人ごみに紛れて分かんなかったけど、いつの間にかアタシの後ろをこの子が歩いていたっぽい。


 その子自身は、小学生くらい。

 さらに後ろには、両親みたいな夫婦の姿と、夫婦が引きずっているキャリーケースがある。

 見るからに、「夏休みに東京旅行をしていたけど、それも終わったので飛行機で家に帰る途中です」みたいな風景だった。


 それだけなら、微笑ましい話。

 だけど────その子が満タンのジュースが入った缶を手に持っていて。

 ついでに何かに躓いたのか、地面と体の角度がぴったり四十五度になっている、となると話は別。


 要は、アタシの後ろで小学生くらいの女の子が転びかけてた。

 しかも、満タンのジュースをぶちまけつつ。


 一瞬、アタシの中で損得勘定が動く。

 避けるか、受け止めるか、どっちにしよっかって。

 宙を舞うジュースがアタシの体に到達するまでのほんの数秒間、アタシは高速で思考した。


 ここでアタシがこれを避けたら、どうなるか?

 その時はまあ、アタシはこの満タンのジュースからは逃げられる。

 今着ている服も汚れないし、仮にちょっと引っ掛かっても被害は薄い。


 でも当然、アタシが避けた瞬間、この子がジュースを浴びながらすっ転ぶことになる。

 見た感じかなりの勢いがついているし、顔から床に激突するから、かなり痛いだろう。

 目立つ傷が残るかもしれない。


 じゃあ、避けなかったから?

 この場合、この子はアタシがクッションになるから怪我はしないだろう。

 一方、アタシは────。


 ──……まあ、いっか。


 傍目には、反応できずに棒立ちしたように見えたかもしんない。

 だけどアタシは、はっきりと自覚してその場に留まった。

 そして、女の子を受け止めて────見事に、ジュースを頭から被った。


 パシャンって感じの、明るい音。

 それと一緒に、頭のてっぺんから顎先までが一気に冷えた。


 ──あー、冷たい。


 鼻を通った香りからすると、オレンジジュースっぽかった。

 メイクが一気に崩壊しているんだろうなあ、と思いながらアタシは甘んじてそれに耐える。


 周囲に、ざわっと音の波が生じたのが分かった。

 うわあ、ヒサンー、みたいな声も聞こえる。

 その中で、女の子の両親が血相を変えて駆け寄ってきたのも見て取れた。


 ……だけど、それよりも早く。

 少しだけイントネーションが違う日本語が、突然、アタシの耳に届く。


「大丈夫ですか!?た、タオル持ってます、渡します!」


 声に釣られて、アタシは目を開く。

 そしてまた、アタシはさっきとは全然違う理由で目を見張った。

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