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冒険者、サラリーマンに転生

作者: ひよひよ「

 俺の前世の名前はブラウン。D級ベテラン冒険者だ。低ランクの冒険者なので、生きていくのは厳しいがそれも人生の醍醐味として楽しく暮らしている。俺が転生したのは、クエストに失敗して全財産と装備をなくしていた時だった。もう一度薬草の採取からやり直すか~と考えていたら、後ろから馬車に轢かれて死んでしまった。


 馬車に轢かれて、死んじまったと思ったら、やたらとキレイなおねぇちゃんが出て来たと思ったら、女神様とのことだった。なんでも、俺が死んだのはおねぇちゃん女神のミスらしい。そのお詫びとして伝説のスキル“鑑定”と“時空魔法”をつけて別の異世界に転生させてくれるらしい。転生先は、俺と同じく神様のミスで“かろうし”した“さらりぃまん”らしい。俺とは入れ替わりで転生されるとのことだ。おねぇちゃん女神の「いってらっしゃ~い」という軽い挨拶を背に俺は異世界に転生した。



俺の今世の名前は、谷口正樹。元D級ベテラン冒険者のブラウンが転生した人間だ。転生された直後に、谷口正樹の今までの記憶がインストールされた転生者ではあるが、社会的な身分は、ぎりぎり一部上場の“中堅大手企業”㈱アクセルPCに勤めるサラリーマンだ。営業課に所属している新卒5年目の若手社員だ。元の世界ではベテラン扱いだった俺が別の世界では若手というのはなかなか皮肉が効いている。

 「さて、せっかく伝説のスキルをもらったんだ“鑑定”と“時空間魔法”を試してみるか。」

俺は道を歩いている女性を鑑定してみた。


田中祥子(23)職業:准看護師

レベル1

HP1

攻撃力1

防御力1

運動性3

技術力100

スキル なし


「これはすごいスキルだ。でも、この世界で役に立たないような気がする。」

そこで俺は、鑑定のスキル欄にカスタムがあることに気付く。

「なんか急にカスタム欄が出て来たような・・・」

軽い女神を思い浮かべながら、僕は再度鑑定を発動した。

田中祥子(23)職業:准看護師

営業力:10

事務能力:64

行動力:50

魅力:50

スキル:医術 洋裁 


「社会人としての能力がわかるわけか?今は役に立たないけど、将来部下を持った際には便利そうだな。おっと自分にもかけてみるか。」


谷口正樹(27)職業:主任営業マン

営業力:80

事務能力:80

行動力:70

魅力:60

スキル 身体能力強化 爆発魔法 鑑定 空間魔法

「比較対象がないからわかりにくいけど、結構いい線いってるんじゃないか?」


次に、空間魔法を試してみた。


「やはり伝説のアイテムボックスを試してみよう。」


空間魔法の効果は恐ろしく自家用車すら簡単に入ったので、かなりの量が入りそうだ。


「このスキルを使ったら、お金は簡単に稼げそうだけど人間ダメになりそうだな。最低限の使用に留めよう。」


空間魔法を使った商人が身を崩すのは、異世界ではありきたりな物語だ。


スキルチェックが終わった時、遅刻ぎりぎりの時間になっていたので、急いで会社に向かった。



 俺が勤務する会社、アクセルPC株式会社 

元々は勤怠管理用の機材販売から始まり、様々な精密機械やシステムを販売する会社だ。

1部上場だけが自慢の中堅大手企業だ。

俺は、流行りのAIを活用した業務改善システムの販売をしている比較的新しい部署に所属している。

俺が所属している営業課は、課長を含めて4名在籍している。

ステータスの確認とともに、記憶との整合性を確認しよう。

まずは課長だ。 非常に嫌味な性格たで、成功は上司の功績失敗は部下の責任という、嫌われるために存在しているんじゃないかって言うような人物だ。

昔はミスターノミの心臓なんて言われていたけど、そこまで嫌な人物ではなかった。

引っ張り上げてくれる上司が定年退職してキャリアに焦りがでているみたいだ。


佐藤邦夫(47)職業 営業課課長

営業力:30

事務能力:10

行動力:60

魅力:20

スキル ゴルフ バスケ


 次に同僚だ。 かなり適当な奴で仕事よりも後輩とのオフィスラブに、注力している奴だ。

昔は仲が良かったけど、後輩へのセクハラを指摘してからはほとんど会話がない。

こいつがもう少し仕事ができたら俺も楽が出来るんだけどね。


山本俊(27)職業 営業マン

営業力:40

事務能力:30

行動力:70

魅力:10


 最後は後輩だ。

なんでこんな課に配属されたんだっていうくらい、可愛くて優秀なうちのホープだ。

まぁ空気が読めないんで、事務方や客先のお姉さま方には嫌われている。

まだまだ女性差別が蔓延る弊社の総合職で入ったから、同じ課に配属されたんだと予想している。セクハラされたことが理由で、同僚の山本を蛇蝎の如く嫌っている。


樋口綾(24)職業 営業マン

営業力:50

事務能力:50

行動力:50

魅力:90


スキル 日本舞踊 香道 書道 外国語精通


「スキルを見る限りやっぱりお嬢なんだなあ。」

「先輩、人をじろじろ見てどうしたんですか? わたしに見惚れましたかあ。この髪みてくださいよ。SNSで話題のエステに行ってきたんですよ。」


スキルを確認していると、後輩の樋口が話かけてきた。

適当に持ち上げながら、業務の準備をしていると、佐藤課長が不機嫌そうに入ってきた。


 「みんなメールを見たと思うが、昨日の部長会議の議事録が回覧されている。苛立たしいことに弊課の営業成績のことが記載されている。 今月の弊課の目標は売上アップだ。

何としても、売り上げを上げてほしい。」


 因みに弊課の目標が売り上げアップ以外のことだった事はない。


「谷口主任、君は自分の目標は達成しているが、もう少し課の事を考えてほしい。主任なんだから、メンバーを引っ張って課全体の成績を上げて欲しい。 そうだなあ、最近スランプ気味の山本君と同行してみてはどうだ?」


山本と同行か~と考えていると、佐藤課長に絡まれているのを楽しそうに見ていた山本が、顔を真っ赤にして課長に抗議した。


「佐藤さん、私も忙しいので同行は難しいです。そもそも、私はスランプではないですよ。

顧客が注文をくれないだけです。」


有耶無耶になりそうだなあと考えていると、樋口が嬉しそうに発言した。


「はいは~い。課長、同行グッドアイデアだと思います。」

「樋口君、そうだろう。さすがだ。」

「だから、今日は私が同行しますね。」

「樋口君は成せ「そんなことありませんよ。まだまだ改善の余地ありです。顧客との関係に悩んでいたとことなんですよ~。」


佐藤課長の言葉を遮るように、俺との同行の必要性をアピールした。

俺と同行してランチをおごらせるつもりのようだ。


「綾ちゃん、なら俺と同行しようよ。 俺の華麗なテクニックを懇切丁寧に教えてあげるよ。」

「いえ、お忙しい山本さんに迷惑はかけられないので、今回は先輩にお願いします。」


山本が樋口と同行しようとしたが、間髪入れず樋口が断りを入れていた。

当たり前だが嫌われている。

 

 俺は樋口が同行するのが決定事項になっている話の流れのもって生き方に関心しながら、本日の営業戦略を練りつつ、お気に入りの店の限定ランチを予約の準備を行った。


 本日の営業先は倉庫会社だ。倉庫会社というと物を置くだけという印象があるかもしれないが、多くの場合出荷も担っていることが多く、たくさんの客先のシステムが複雑に絡み合っていることが多い。現在うちは複数あるシステムの一部でしかない。うちの新製品はそその複雑なシステムを一元管理するためのものだ。正直ありふれたものなので、営業には苦戦している。フォロー体制を迅速に行うなどして、何とか話は聞いてもらえるようになったものの、契約締結が見えてこない。



 現場責任者の石倉さんは、フォロー体制が迅速なうちに頼みたいようだが、社長がワンマンなため、上司に提言したくないらしい。


石倉秀樹(31)職業 倉庫会社職長

営業力:10

事務能力:80

行動力:20

魅力:30


スキル 大型機械運転 情報処理 


「うーん、うちはアクセルPCさんにお願いしたいけどねぇ。社長は昔の人だから厳しいよ。」


今日もこれだ。興味津々ではあるみたいだが。

とりあえず雑談でもして帰ろうとしていた時だった。


「しかし今日は偉い別嬪さん連れて来たね~。うちも常に求人をだしているのだけど、ろくなの来ないよ。こないだなんて、特技を聞いたらありませんだよ。受かる気あるんかねぇ。

そういえば、谷口さんって何が得意なんですか?」

「身体能力強化と爆発魔法です。」


しまった! 石倉さんのステータスを確認してたら、自分のスキルをこたえてしまった。

石倉さんはニヤッとした。


「爆発魔法とはなんですか?」

「魔法です。」


石倉さんに便乗した。


「え、魔法?」

「はい、広範囲を爆発する魔法です。」

「それって何に役立つんですか?」

「敵を攻撃できます。」

「帰れ」

「せっ先輩何言ってるんですか。」


有名なくだりを知らない樋口を無視して、石倉さんとの言葉遊びを続けた。


 「いやー。谷口さん楽しかったですね。有名なネタやっちゃいましたね。

こんな機転の効く人が来てくれたら良いのだけどね。」

「それがうちの一番の売りですから。石倉さんもご存じだと思いますが。」

「わかったわかった。契約するよ。」

「ありがとうございます。社長にはいつ話していただけますでしょうか?」

「いまから話そうか。話は任せてもいいかな?僕が全面肯定したら反対できないから安心してくれ。社長は昔のやり方しかしらないから。社長~ちょっといいですか、応接室にきてくださ~い。」


石倉さんの予想通り、社長は石倉に任せるといい契約書にハンコだけ押して早々に退出した。


 契約が決まり、樋口と悠々自適にランチを食べている時だった。

「先輩、びっくりしましたよ。」

「何が?」

「爆発魔法ですよ。真面目な顔でいきなり爆発魔法ですよ。驚いた~。」

「たまにはいいだろ、こういう営業もさ」


俺がそう言うと、樋口は少し考えたような顔をした。


「先輩この土日、何かありました? 爆発魔法は置いておいて、なんか雰囲気が変わったような気がするのですが?」


樋口の言葉にドキッとした。実は別人が入っている事がばれたのか?


「そ、そんなことはないぞ。気のせいだ。」

「う~ん? やっぱり違いますよ。何かワイルドになった気がします。まさか彼女が出来たとか?」

「違う、違う。もう二年以上彼女が出来てないよ。」

「本当ですか~?」

「そこまで疑うのかよ。どうしたら信じてくれる?」

「つきあってください。」

「どこに行きたい?」


“付き合ってください”と言われた瞬間、告白されているじゃないかと思ったが、樋口が俺に惚れている様子はないため、どこかに行きたいのだろうと思いなおした。

俺はデキル男であろうとしている。ハニートラップには屈しない。


「ん~。手強い。」


樋口はモテる。山本はもちろんのこと、社内でも樋口のことを気になっている人は多い。

抜群の見た目はもちろん。話しやすさや気が利く性格でたくさんの男を落としている。


「先輩、それではですね。今度の日曜日、わたしの好きなブランド香水の新作発売イベントがあるんですよ。連れて行ってください。」

「わかったよ。その香水は幾らする?」

どうせ、せがまれるので金額を聞いておく。

「おねだんお得な、3万円です。」

「用意しとくよ。」

「流石先輩。ありがとうございます。先輩になら抱かれてもいいですよ。初物ですよ~。」


平均より慎ましい体をアピールして、お礼を言ってくる。


「必要な金額の桁が変わりそうなので遠慮しとく。 さて、そろそろ会社に戻ろうか。」


「は~い。大きな契約もとれましたし万々歳ですね。課長さんにいつ報告するんですか?」

「課長会議は来週か・・。 明後日だな。課長会議の資料はゆっくり作成できそうだ。」

「課長さんが作成した資料だと、会議でスルーされてしまいますもんね。 どうせ課長さんが成果を奪うでしょう。また、課長が社長賞か、いつものことながら悔しいなあ。」

「はは、そうだね。俺たちも課長賞もらえるから我慢してくれ。」

「課長賞?そんなものありましたっけ?」

「社長賞の半分をくれんだよ。佐藤課長なりに成果を奪っていることに罪悪感があるのだろう。」

「半分も中抜きするってケチ臭い。」


樋口がおちゃらけながら不満を口にする。


「そんなことないさ。半分くれるだけ良心的だ。佐藤課長が中抜きは公然の事実だから、社内で余計な嫉妬を買わなくて済む。自分一人だけなら社長賞なんて応募しないしね。」


佐藤課長は嫌な奴だが、上司としては扱いやすいのだ。樋口には嫌な奴も上手に操縦する強かさを身に付けてほしいので少し、説教じみたことを言ってしまった。


「なるほどね。損して得取れってやつですね。」

「まあ、そういう考えもあるってこと。」



 「先輩やっぱり変わりましたね。良い方向に変わりました。前までの先輩はどこかに消えてしまいそうなところがありましたから。より魅力的になりましたよ。」


鋭いなこの娘は。。

本当の谷口正樹は自殺している。記憶を引き継いだ俺だけと、自殺した理由は納得がいかないものだった。

偽物とはいえ、本物の俺がわからない理由を、樋口は見抜いている。かわいい顔して賢い奴だ。





 それからの俺のスキルを活し、大小様々な成功を重ねいていき絶好調だった。

鑑定スキルで顧客すら気づいていてない、要望を提案できた。

空間魔法は、鍛錬の結果アイテムボックス以外にも、瞬間移動ができるようになったので、交通手段いらずになった。

身体能力強化で、疲れ知らずなので他の常に全力で仕事に取り組むことができた。


 その結果、俺は以前の5倍以上の契約件数、金額では20倍以上の成績をコンスタンスにあげ続けた。


 仕事に熱中し樋口への想いを隠そうとしていた俺は周囲への配慮を忘れていた。

“好事魔多し”という言葉を知ってはいても、対応することができなかった。




俺がやりすぎていた事に気付いたのは、佐藤課長とは比較にならない社内の有力者である。常務にランチミーティングに誘われた時だった。


常務の目的は、他に類を見ないほどの営業成績を上げる俺の取り込みだった。俺の営業課長への昇進。常務の手駒、部署との交流。ゴルフのお誘い。俺の成績が有名になりすぎて、佐藤課長の立場が悪くなっている事だった。


サラリーマンにとって、突出した結果を出すことは良いことばかりではない。どうしても、周囲の嫉妬を買ってしまうし、足を引っ張っられることも多くなる。

特に今回は、部署全体が嫉妬されるほどの成績をあげているにも関わらず、俺は関係部署への配慮を行った。元々社内で嫌われている佐藤課長と山本への風当たりの悪さは想像が用意だ。


 俺は大急ぎで会社に戻り1日営業資料を作りながら状況の確認を行った。

結果から言うと課内の雰囲気は最悪だった。


佐藤課長は、明らかに焦っており、山本と樋口に厳しく詰め寄っていた。山本は連日の詰めに疲れ果てておりやる気を失っている状況だった。樋口は詰めに関しては影響が無いようだが元気が無い。時折、こちらを見ているのだが目が合う度にどこかに行ってしまう。

 

 この雰囲気はまずい。課が崩壊寸前だった。早急に手を打つ必要がある。

そこで俺は、佐藤課長を「相談したいことがある。」と呑みに誘った。


作戦は単純だ。佐藤課長の抉られた自尊心を盛り立ててやればいい。本当は仕事の話が良いのだが、今の状況では嫌味でしかないので、色恋話だ。相手は適当に総務部の人にしておこう。



 「佐藤課長、本日はありがとうございます。ささっ、まずは一杯。」

「ありがとう、谷口君。 ああ~、仕事終わりの一杯は格別だな。相談があるみたいだけと、何かな?」


機嫌の悪い佐藤課長は、さっさと終わらせようと、話題の催促をしてきた。

旗色が悪いな、なんとか和やかな空気に持ち込めればいいんだけど。


対応方法を考えていると店内に、山本と樋口がそれぞれ、こちらの様子を伺っていることに気がついた。二人にとっても今回の呑みが、課の今後に重要な場であることを知っているらしい。気合を入れなおさねば。


 「佐藤課長、それが個人的な相談で申し訳ないんですが、恋愛相談なんですよ。」

「そうか、ついにか。いつかは来るとは考えていたが、遅かったな。いつ式を挙げるんだ?」

「ちょっちょっと待ってください。まだ告白をするべきか迷っている段階なんですよ。」

「どういうことだ?」

「社内に気になっている娘がいて、どうにか付き合えないかという相談ですよ。」

「?? そうなのか? なら、付き合えば良いだろう?彼女も待ってる?」

「いやいや、接点もろくにないので、世間話もろくにしたことないんですよ。」


俺は、無理矢理話の流れを修正を試みた。佐藤課長は、困惑した顔で言った。


「谷口君、君はいったい誰のことを言っているのかね?」

「総務部の今む「ドコッ」なんの音?」


 大きな音がした方向を見ると樋口だった。目が合った瞬間樋口は逃げ出すように店を出て行った。


「樋口?どうしたんだ?」

「谷口君、君は仕事ができるが、男としては最低だ。」


課長に説教された。隠れていた山本もいつの間にか出てきており、チャンス到来とか訳の分からないことを言っていた。

 その日は終始有耶無耶のままお流れとなった。



 先日の佐藤課長との呑み以降、課の雰囲気は輪をかけて悪くなった。

佐藤課長は焦りが増した。山本は元気になったが樋口に絡んでさらに嫌われている。

樋口は、俺が会社に戻った瞬間に外回り営業に出かけていくため、あれ以降一度も話ができていない。

最悪の事態は、その一か月後に起こった。

 

 始まりは、地方出張中に来た、樋口からのショートメッセージだった。一言“助けて”と書かれていた。胸騒ぎがした俺は、瞬間移動を使って会社に戻り、佐藤課長と山本に詰め寄った。


「佐藤課長、樋口はどこですか?助けを呼ぶメールが来ました。」

「谷口君?君出張先にいたのでは?」

「た、谷口少し落ち着けって。」

「そんなことはいいです。樋口はどこですか?」


言いながら、外出簿を確認すると、樋口と山本の行き先が同じになっていることに気が付いた。


「樋口君かい?山本君と一緒に営業にでていたのだが、そのね。」


佐藤課長は言いにくそうに言った。


「佐藤課長、何を隠しているんですか?」


俺はさらに強く詰め寄った。

佐藤課長はしどろもどろになりながらも説明した。


 佐藤課長の話はこうだった。

新規開拓した、取引先だが反社会的勢力だったらしい。

いつものように責任を山本と樋口に負わせたらしい。山本と樋口は取引先に謝罪に行ったが先方は激怒、樋口は監禁されてしまったらしい。先方は取引中止にかかる解決金を要求しているらしい。


「谷口君。あとは君に任せてもよいかね。関係者に重々配慮した対応を頼むよ。」


佐藤課長は、こんな時でも責任回避に余念がない。一言言い返したかったが、今は状況確認が大切と考え山本に詰め寄った。


「山本、なぜ樋口だけが監禁されているんだ。」


山本には一番指摘されたくなかった部分のようで、一瞬からだを震わせて答えた。


「いや、そのよぉ。俺もそんなことはしたくなかったよ。だけど、やっぱり自分の命って大切じゃんか?だからね。」


山本の要領の得ない回答に、俺は激高した。


「樋口を見捨てて自分だけ逃げて来たのか。」

「谷口、落ち着けって仕方ないじゃんか、ありゃヤクザだぜきっと、ぐええええ。」


山本の言い訳を聞きたくなかった僕は山本をぶん殴った。


「惚れた人間を守れない人間が言い訳をするな。」


僕は瞬間移動と身体強化を使用して、樋口が監禁されている会社に向かった。


 住所を頼りに着いたのは会社というよりは屋敷だった。いかにもな雰囲気に佐藤課長への怒りが募った。


「明らかに反社(反社会的勢力)じゃねーか。なんでこれで騙される。」


俺はキレながら、屋敷の前に立っているサングラスをかけた黒服二人に話しかけた。


「アクセルPCの谷口だ。弊社の社員を解放してもらいに来た。」

「お持ちしておりました、谷口様。まずは解決金をお預かりしてもよろしいでしょうか?」


黒服は丁寧に対応してくれたが、目が猛禽のように獲物を見据えていた。

久しぶりに鑑定を先頭モードで使用してみる。

門野雑魚

レベル1

HP1

攻撃力13

防御力7

運動性5

技術力20

スキル 刀術


 学生よりはましってところか。しかし、“カドノゾウギョ”酷い名前だ、ヤクザになったのって、名前が原因なんじゃないのか?


「お前たちに払う金はない。無理やり押し通らせてもらうぞ。」


俺は門野雑魚ともう一人の腹を殴って気絶させた後、門を開けて大声で宣言した。


「おい雑魚ヤクザども、荒波に揉まれたサラリーマンの怖さを教えてやる。死にたくない奴は泣いて逃げるがいい!」

「カチコミだ~。ぶち殺せ。」


俺の宣言を聞いて、屋敷内は大騒ぎとなった。

ただ、やる気は充分だが動きは悪い。これでは、小さな町の自警団のほうがまだましだった。


 俺が正面玄関から屋敷に入ると、10名ほどのヤクザに囲まれた。

2階にはさらに10名くらいがニヤニヤしながら、こっちを見ていた。


「兄ちゃんよ~。今自分にカチコミとはいい度胸してるな、遊んでやるよ。」


大柄な男が胸倉を掴もうとしてきたので、逆に腕をつかんで骨を折り、喉ぼとけを殴って気絶させた。


 「こいつ、格闘技経験者か?おい、2階にいる奴らは武器持ってこい。1階にいる奴らはなんでもいいから物を投げて、動きを止めろ。」


幹部っぽい仕立てのよいスーツを着た、白髪の男が指示を飛ばした。


 「野郎ども、ぶっ殺せ!」


白髪の男の号令とともに、ヤクザどもは攻撃を始めた。


 俺は念のため、身体能力強化を使用し2分ほどで全員気絶させた、武器を取りに行ったヤクザどもを追い、武器があるだろう部屋に入る前に気絶させた。


 部屋に入ると、ヤクザの武器がたくさん置いてあったので、すべて破壊した。


「これで危険性は減ったはずだ。ボスの部屋はどこだ?」


5分ほど、屋敷を探し回ったが見つからず、少し焦り始める。


「落ち着け。こういうときほど、冷静に考えるべきだ。屋敷から逃げた様子はないから、隠れているはずだ・・・。ようし、落ち着いてきた。」


少しだけ冷静さを取り戻した俺は、一番偉そうだった白髪の男を殴ってたたき起こした。


「痛ぇ、あの後どうなった? げっ!兄ちゃん他の奴はどうした?」

「全員倒した。あと2時間は目を覚まさない。聞きたいことがある。この屋敷のボスはどこに隠れている。」


白髪の男が目を覚ましたので、威圧しながら尋問する。


「親父を売るわきゃないどうが、おととい来やが、、痛ぇ。」

俺は気絶しない程度に殴った。

「なら交渉しようか?」

「それはありがたいね。親父は安くはないぞ、何をくれるという気だ?そもそも、何が目的でカチコミに来た?一体どこの組の奴だ?」


白髪の男は、こんな状況にも関わらず錯乱しながら交渉してくる。

とりあえず、殴っておき交渉を開始する。


「ボス、、いや親父か。お前たちの親父の場所をおしえたら、お前や親父を含めて命は助けてやる。」

「交渉になってねぇだろが!」


白髪の男は怒り出したので、殴って静かにさせた。


「まぁ聞けって。俺の目的はこの屋敷の爆破だ、お前達と親父が逃げる時間をやる。これが情報への対価だ。」

「噓つくんじゃねぇよ。なら親父を探す必要ないじゃないか!」

「後々脅すために、生き残っていたほうがいいからだよ。どうする?命買うか?」

「はん、屋敷を爆破しても親父はしなねぇよ。交渉には応じない。」

白髪の男が嘘を言っているようには見えなかった。本当に爆破しても死ぬはずがないと思っているらしい。

「なるほど、シェルターか、契約成立だ。入り口は場所は不自然に地下にあったキッチンだな。」

「感の良い奴だ。備蓄庫の中に隠し階段があるよ。パスワードは知らないからな。せいぜい右往左往するがいい。」


白髪の男は悪態をつきながら、気絶しているヤクザたちを屋敷の外に脱出させ始めた。

俺がシェルターを開けられないと思っているらしい。


 備蓄庫に入ると床が不自然な場所があったため、調べてみると白髪の男が言っていたように、隠し階段があった。

隠し階段を警戒しながら降りると鋼鉄製のドアがあった。

 身体能力強化を強めに発動させて、ドアを破壊してシェルターに入った。


「化け物め、何が目的だ。」


銃を突きつけながら、50歳手前ほどのインテリヤクザっぽいのが声をかけてきた。


「先輩!なんでここにいるんですか?夢?幻覚?いや、助けにきてくれたんですか、逃げてください。」


 樋口も状況を呑み込めていないらしく、混乱した様子だった。


「樋口、無事だったか。助けに来たぞ、一緒に帰ろうか。」


樋口の顔を見て安心した俺は自分でもびっくりするような優しい声で樋口に声をかける。


「えっ、その・・・。私を助けに来てくれたんですか。」

「ああ、それ以外に目的はないよ。」

「夢みたいです。先輩とってもかっこいいですよ。」


調子が戻ってきたみたいだ。


「2人の世界に入って無視してんじゃねー。殺してやる。」


樋口が無事だったのでどうでもよかったインテリヤクザっぽい人が怒鳴りつけてきた。


「まだいたのか?樋口の無事を確認できたから、もう用事はないぞ。命が惜しかったらどっかいっとけ。」

「堅気の人間が喧嘩強いくらいで調子に乗るな!お前の会社も家族も滅茶苦茶にしてやるからな!」

錯乱しているインテリヤクザは、いかにもテンプレな脅し文句を口にした。

少しでも優位に立ちたいだけなのだろうが、この手の人間は本当に実行するから厄介だ。


「こちらも有言実行と行こうか♪」

「は?」「きゃっ。」


右手で樋口を大事に抱きかかえる。右手はインテリヤクザの首根っこを掴んだ。

屋敷上空へ瞬間移動した。

すると暴れていたインテリヤクザは、空にいることに気が付くと絶句していた。


 炎の魔法陣を展開し、ゆっくりと魔力を注ぎ込んでいく。


「爆発魔法発動。」


呪文とともに吹き上がった爆炎は屋敷を跡形もなく吹き飛ばした。

爆風や衝撃を上方向に逃がしたため、上空数キロまで立ち上るやたら派手な爆発になった。



 インテリヤクザを爆破した屋敷に置き去りにした俺は樋口を家に送り返そうとしていた。


「ひとつ聞いてもいいか?」

「何ですか?先輩?」


樋口はニコニコですごく機嫌がいい。


「俺の魔法を見ても驚かなかったよな?なんで?」

「知ってましたよ。私ずっと先輩のことをみてましたから。」

「・・・・」


気恥ずかしい雰囲気になってしまった。


「そんなことより先輩。他にいうことあるじゃないですか?」

「え?」

「囚われのお姫様を救い出した勇者様に言うことは一つですよね?」


困惑する俺に樋口は告白を催促する。

俺は何とかごまかそうとする。


「いやしかし、この雰囲気は販促じゃないか?何を要求してもOKだろう?」

「先輩ならいつでも何を要求してもOKですよ。」


樋口は俺を逃がす気はないらしい。


「そうか。そうだね。

よし、樋口結婚しよう。今から役所にいって婚姻届けを提出しよう。」

「はい。・・・えっ結婚?」

「断らせないぞ。答えはイエスのみだ。結婚しよう。供に人生を歩むのはお前以外には考えられない。」


覚悟を決めた俺は樋口に逃がさないと暗に告げた。


「・・はい。よろしくお願いします。先輩いえ「ブラウンだ。」え?」

「俺の本当の名前はブラウンだ。樋口にはブラウンと呼んでほしい。」


俺は樋口を抱きかかえて、唇を奪った。



俺がヤクザの屋敷を爆破して、樋口と結婚して2年がたった。


 あの後、ヤクザは物理的に解散した。インテリヤクザを含めてほとんどが、PTSDにかかっているらしく、精神科に入院しているらしい。

唯一ピンピンしていた白髪の男は、馴染みのキャバ嬢と立ち上げたネイルサロンがセミヒットした。ヤクザをやっている暇もないらしく、店に人生をかけているようだ。


 佐藤課長は相変わらずだ。樋口が監禁された事件の責任をとらされそうになったが、物理的に吹っ飛んだため有耶無耶に終わった。ただ、無能なのは上層部にも判明したため、出世コースからは完全に外されてしまった。本人は悔しそうにしていたが、いい感じで肩の力が抜けて幸せそうだ。今も嫌な奴だけと割といい上司をやっている。

・・元に戻ってよかったよ。


 一番変化があったのは、山本だ。完全に課で孤立してしまい退職した。独立したが直ぐに倒産してしま。い、逆恨みして俺を刺し殺そうとしたけど簡単に無力化した。同情して白髪の男のネイルサロンを紹介した。最初はうまくやっていたみたいだけど、セクハラで首になった。それからなぜか催眠術師として活動をはじめ、あまりにも怪しい出で立ちから、SNSの人気者になっており、幸せそうだ。

人生万事塞翁が馬という言葉はこいつのためにあるのかもしれない。




 樋口は俺と結婚後ほどなく㈱アクセルPCを退職した。

学生時代の夢だった自分の香水を作るために会社を立ち上げた。

ネット販売だけの小さなブランドだが、着実に売上が上がってきている。

主婦業と社長業うまく折り合いをつけてやっている。


本当に優秀な奴だ。こいつと一緒になれたのが俺の人生で一番の幸運だ。



 俺はというと、プライベートでは大きな変化が盛りだくさんだった。結婚式だったり、家を買ったり、妊娠が発覚したり一般的な忙しさだけでなく、前世の幼馴染が転移してきたり、

本当の谷口正樹の代わりに魔王を討伐するはめになるなど大忙しだった。


 仕事面でも、変化があった。

営業マンとして社外でも有名になった俺は、㈱アクセルPCでの仕事もそこそこに、営業コンサルや講師など社外での活動が増えていった。㈱アクセルPCを辞めて独立しようか迷っているところだ。


 ひょんなことから転生してチートを得た以来、トラブルに巻き込まれてばかりの俺だけど本質は何も変わっていない。生きていくのは厳しいけれどそれも人生の醍醐味として楽しく暮らしている。

俺の人生はまだまだこれからだ。




愚作ではございますが、読んでいただき誠にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サラリーマン目線が楽しかったです。 [一言] チートスキル欲しいですねぇ。 もしくは現代を生きる成功者は、チート並みのスキルを持っていると感じましたね。
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