表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

ドラマが終わるまでのしばしの時間が経過した。その間にわずかな変化が起きた。

 アパートの外、瀬賀の住んでいる部屋のまえにダンボール箱が置いてある。しかしそこには「おかえしします」と書かれている。

 (へい)のうしろに隠れて、瀬賀たちは駐輪場の周囲を監視(かんし)していた。こちらが受け取りを拒否(きょひ)すれば、送り主がなんらかの反応をみせると瀬賀は考えたのだった。

 思っていたより早く犯人らしき人物は姿をみせる。そわそわと人目を気にしながら、段ボールのほうへと、忍び寄ってくるのがわかった。

「そこまでだ!」

 瀬賀の声と、飛び出してくるのにおどろいて犯人は硬直(こうちょく)する。

「かくほー!」と楽しそうに叫んで、ノマエがタックルするかのように標的をつかまえた。

 犯人はノマエに押されて、尻餅(しりもち)をつく。はた目には一般人と変わらない、茶髪のかわいらしい女性だった。

「な、なにするんですか!」と女性は慌てて言う。

「『な、なにするんですか』はこっちのセリフだ! あなたですよね! この子たちを送りつけたのは」

「そうですが……」

 女性は悪びれる風もなく、特に顔色を変えない。

「動物……いやモンスターだろうと捨てるなんてひどいだろ! こういうのは専門的な機関に……」

 瀬賀の言葉をきいているのかいないのかわからないが、女性は腰についた泥を手ではたきながら立ち上がる。

「専門的な機関、ね。……それがあたしです」

「え!? お……おお!?」

 意表をつく答えに瀬賀は面くらい、怒る勢いを失ってどもってしまう。

「部屋にあがってもよろしいでしょうか。ここだと目立つので」女性は落ち着いた(たたず)まいで言う。

 自分が責め立てるはずだったのに歴戦のベテラン兵士のような有無を言わさぬ気迫に圧倒され、すごすごと瀬賀は了承して玄関に向かう。

 仕切りなおして、部屋の中にあがってもらった。とりあえず居間で椅子にかけてもらい、ノマエとウルオンには(はし)っこで待っていてもらう。

「改めて……はじめまして、セガハルヤさん。特殊生物の保護を目的とした機関ルーハ。私はそこの職員でアミネといいます。身寄りのないモンスターや絶滅(ぜつめつ)危惧(きぐ)(しゅ)などを保護(ほご)しています」

 気の強そうな女性、アミネはそう言って続ける。

「しかし予算や世論の関係で施設はごくわずか。職員になりたいという人もいない。モンスターの受け入れ先もない。だからテストをしたんです。……実験(じっけん)を」

「実験、てまさか」

 瀬賀は昨日からの一連の出来事を思い出す。アミネはうなずいて、

「そう、モンスターを拾ってくれた方こそが受け入れ先となってくれる可能性が最も高い。あなたはウルオンを助け、自分の家で世話をした。すばらしいことです」

「いや、きのうは雨宿りをさせただけで」

「それに見事な対応……ルーハにスカウトしたいくらいです。うちで働きません?」

「……いきなりなんなんですか。はいやりますってならないでしょ。それにさっき職員がいないって言ってましたよね。激務(げきむ)なのが、目に見えてますよ」

 瀬賀は好きで本屋にいる。それがわざわざ忙しいところに転職したいとはならなかった。

「そ、それは置いといて。一時的に(あず)かっていただくだけでもお願いできませんか? ちょっと手伝ってくれるだけでもいいんです。引き受けてくだされば国から補助(ほじょ)(きん)がでます。遊んで暮らせますよ」

「遊んで暮らせる? ……今日一日モンスターに振り回されてばっかりでまったく休めてませんよ」

「でも動物たちにいやされるってよく言いますよ」

 アミネはだんだん焦って苦しくなってきているのか、それが表情にでてくる。

「むしろ疲れてるんですが……」と瀬賀は目を細めた。

「よ、よく映画であるじゃないですか。心温まる……みたいな。いやしをもたらしてくれるんですよ。病気をなおしてくれたり、元気にしてくれる。動物セラピーというやつです」

 引き下がらないアミネ。

「……セラピー……」

 なにか気にひっかかったか急につぶやくように言って、瀬賀はわずかに表情に影を落とした。

「必要ありません」

 モンスターの子どもたちを見捨てたいわけではない。ただ自分の状況を考えたときに無理だという結論にしかならなかった。

「申し訳ないけど、現実的に言って無理です。こんな街中でモンスターと暮らそうなんて。アミネさんが言ったとおり世間はモンスターに厳しいです。モンスターが媒介(ばいかい)する寄生(きせい)(ちゅう)・病気、彼らの未知の力、魔法(まほう)、生態。みんなあぶないからって怖がってきらってます」

 語気を強めたわけではなかったが、はっきりと言われたアミネは目線を落とす。

「すみません」ととっさに瀬賀は気をつかう。

「……いえ、しかたありません」アミネは真面目な顔つきになって、「ご迷惑でしたね。申し訳ありませんでした。彼らは引き受けます。車をとってくるので十分ほど待っていてください……少ないですが、謝礼(しゃれい)としてこれを……」

 茶色の封筒を差し出し、頭を下げてくる。

 金と引き換えに子どもたちを引き渡すようで、瀬賀はにわかにうしろめたい気持ちを抱えるも、早く忘れようと目を閉じた。

 アミネが出て行き、玄関のドアの閉まる音がする。

「ハルヤ、どうしたのら?」

 ウルオンとノマエが心配して、瀬賀のそばまで来る。

「なんでもない。部屋の掃除ついでにお前らの荷物もまとめておくよ」

「ええーー!? お掃除!? おそとで遊びたいのら!」

「なに言い出すんだよ。メシ食ったらやるって話したろ?」

「おそといきたいー!」

 だだっ子のように床に倒れて、ジタバタするノマエ。

 困った顔で瀬賀が「あとすこし待ってれば外に出られるよ」と説得をこころみるが、まるで聞かない。

「やらー! きょうずっとおうちにいたのらー! 外でたいのらー!」

「……やれやれ。じゃあそのへんうろつくだけならいいよ。あと、俺のそばを離れないこと、あばれないこと」

 瀬賀はそのへんの棚にかけてあった野球帽をノマエの頭にかぶせ、

「帽子をはずさないこと、いいね?」

 やさしさというより、どうせ最後だからという心だった。

「はーい! ハルヤはやさしいのら!」

 その一言に瀬賀は表情をくもらせる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ