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7話 始まる(4)

学園の入学する時の年齢をあげます。

10歳→12歳

よろしくお願いします。







シークと出会ってから4年。


私は10歳になろうとしていた。いつもどおり魔の森のシークの家で暮している。

身長もかなり伸びて、可愛さも磨きがかかってきた。長く真っ直ぐに伸びた髪の毛は染めていてもなお、美しく、どんなに外で走り回っても白くて綺麗な肌は健在だ。本当に不思議である。流石、クローディアちゃんといったところか。










家の中は私の朝ごはんを食べる音しか響かない。


実はシークとはつい1年前、別れることになったのだ。

王都で住み込みでしか働けない仕事が降ってきたということだった。そりゃ、お人好しで優秀なシークのことだもん。引っ張りダコにされているに違いない。断れなくなっても仕方がないと思う。貴族が相手なら尚更だ。


私はもうシークから学ぶことは全部学びとって、私はこの魔の森で生きていくに充分な技量を身に付けていた。1人で生きていくには何もシークの手は不要になった。


だから安心してシークを見送った。もちろん悲しかったし、メアリーの時といえシークの時といえ、なんで私ばっかり大切な人と別れないといけないのか、悔しかった。それでも笑顔で見送ったつもりだ。いつ会えるかも分からないけど、また会えることを信じて。









そうして別れたシークとは1年経った今も会っていない。たまにギルドを通じて手紙とペディニアを送ってくれたりするけど、会うまでには至れない。手紙で安否が確認できるだけでも救いだった。










シークの弟子から卒業してからの1年間は毎日冒険者ギルドに通っていた。

シークの手紙が恋しかったのもあるが、1人であの静かな森にいるのが嫌で、少しでも寂しさを紛らしたかったというのもある。



シークと別れて、悲しいことだけではなかった。私は元気に楽しくやっていた。憧れのほのぼの異世界生活だ。嬉しいに決まっている。

稽古のせいで森から滅多に出なかった私はその日を境に毎日街に出かけるようになった。

午前中に魔の森の魔物たちを狩って、昼までにギルドに持っていく。狩ってきた魔物は依頼とは関係なく、食堂のおばちゃんにあげたり、ギルドに売ったりして過ごしていた。ラティアさんとは長い付き合いとなっていて、他の冒険者さんたちともよく話す。皆面白くて親しみがあって、毎日が楽しかった。街の人達とも仲良くなって、街の子供達の中では立派なお姉さんだ。

時間が経つのは本当に早いなと思う。








今日も元気よくギルドの扉を叩いた。



「たのもー!」


「いらっしゃい〜!! 私の妖精ちゃん〜!」

「おっ。来たかい、今日は何を狩ってきたんじゃ?クロ。」



私は妖精じゃなーい! そしてラティアさんの物でもなーい!

私はそう思いつつも、ラティアさんとギルドマスターのカミラ爺が暖かく迎えてくれることに感謝している。





「今日も妖精の登場だぜ。」

「あんな可愛い嬢ちゃんが、毎日よくあんな高位ランクの魔物を狩ってこれるもんだ。」

「嬢ちゃん〜! 今日は何を狩ってきたんだ〜!?」


馴染みの冒険者たちにも声をかけられ、とても気分がいい。さあ、今日もやりますか!










「今日はね〜! フェンリル五体〜!!!」








そう宣言してラティアさんの前に狩ってきたフェンリル五体をドンっと置く。

忘れず血抜きもしている。




それを見た瞬間、ギルドの中はピタッと音が止む。

次に聞こえるのは私を讃える歓声と感嘆の声。辺りはわーっと盛り上がって見物人でごった返す。



「まじか、やばくね…。フェンリルってAランクの魔物だよな? 自信なくすわ…。」

「五体も狩ってくるなんて…。 森の妖精の噂って本当だったんだ…。」

「俺絶対に真似できねーわ。」

今日もギルドに訪れた旅の冒険者たちが騒めき始める。




「こんなのいつものことよ〜。この子は本当に強いんだから〜。」

「そうだよな〜。ガキに負けてるとか思ってたらキリがねーしな。」

「そういうのは早く割り切ったほうが身の安全ってわけだぁ。」



一方常連さんはいつもこの調子である。

買い被りすぎだと初めは抗議していた。こんなの冒険者ランクがSのシークに比べりゃ普通だ。シークの方がもっと速く多く狩れる。

そう言っていたが、毎日のようにシークと比べるのは論外だと笑い飛ばされ、慣れてしまった。

私のことを自分のことのように言うのもどうかと思うが、それだけ慕われていると思えば自然と顔が綻んでしまう。





今日もいい仕事をしたな! ご飯食べよー。

背中を伸ばしながら、足早にギルドの中にある食堂に向かった。



「あらあら、クロじゃないか。今日もお昼食べていくかい?」


「おばちゃん、こんにちは! いつものをお願いするよ!」


「あいよ!」




街に出るようになってから、昼食はいつもここでとっている。

私が席に座ると、とある冒険者がわたしの隣の席についた。



「噂の妖精ちゃん、今日も凄いの狩ってきたんだって?」


「噂の妖精ちゃんとなんですか、ギノフォード。それに私は噂して欲しい訳ではありません。」


「釣れないなぁ。君の功績はどれも素晴らしいものばかりだ。胸張って噂の妖精ちゃんですって言ってもバチは当たらないと思うぞ? 

おーい! おばちゃん!俺にもクロと同じのくれ!」


「あいよー! ただしおばちゃんって言ったから割増料金な!」




私がいつもここで昼食をとっていると、なぜか必ず彼が隣に座る。

彼はSランク冒険者のギノフォードだ。年は10歳ほど離れていて、ここ数ヶ月前に出会ってからの縁だ。シークと同じランクだからかなり強いんだと思う。この雰囲気からは全然強者って感じはしないけど。わざとそういう雰囲気をだしてるのかもしれない。

でも、性格が少し難ありだ。なんといったって毎日毎日この下りを繰り返しているのだ。


鬱陶しい。学習せんかい。

離れてって言っても全く離れようとしない。

なんで、こんなに私懐くわけ?



「なんでクロは良くて俺は駄目なんだよ。全く意味が分からないぜ。」


ぶつぶつ文句を言うギノフォードを他所に、出てきた食事をいただく。





んんー! やっぱり美味しいわ〜! 

働いた後のご飯ってなんでこんなにも美味しいんだろう。



「ププ。クロの顔がトロけてる。」


「煩い。」


「いい顔して食べるね〜。見てるこっちは幸せだよ。それに比べてあんたは…。

ギノフォード! 分かったかい? これがクロとの違いだよ!」



食堂のおばちゃんに一喝されてギノフォードがしゅんと黙る。


おお! 拗ねたところはなかなか絵になる…



「ずりーぞ、幼稚体型が。」


「天性のものだもん。仕方がないでしょ? 

それに私は幼稚体型じゃない。これから発達するの。」



前言撤回だ。一言多いんじゃ。美形なのに可愛くない。勿体無い。

もう少し性格をまっすぐにしてくれれば普通に尊敬できるのに。



おばちゃんがニコニコしながらつまらない2人の会話を聞いている。


「仲良しさんだね〜。」


「「良くないし(ねーし)。」」


「「っ! なによ(なんだよ)。」」


2フレーズも被り、苛立たちげにそっぽを向く。

ふんだ!

本人が仲良くないと断言するなら隣に座らなきゃいいのに。もしかしてあれか? ツンデレというやつか? 可愛くねーぞ、こんにゃろう。





さっさと昼食を済ませて、街へ出かけよう。子供達と遊ぶんだ〜! 

食器を片付け、おばちゃんに「ごちそうさま。」と言った。ギノフォードは無視して食堂から出る。











「くしゅん!」


花粉症かな? 平気だったと思うんだけど。どこかで私の噂話でもしてるのかも。今や私の話がでる度にくしゃみをしていたら、1日中くしゃみが止まらないだろうね。凄い有名人になったもんだ。






















ギルドに行くとカミラ爺が何やら苦い顔をして男の人と言い争っていた。

クレーマーでも相手にしてるのかな。ギルドマスターも荷が重いもんで。大変そうだ。




「こんにちはー! 久しぶりですね。皆さん元気にしてました?」


「おや、妖精ちゃんじゃないか! 今日も子供達のところかい?」


依頼を達成して帰ってきた冒険者たちと挨拶を交わした。




「妖精っ!?」




その時、カミラ爺と対峙していた男が妖精という言葉に反応を示した。

え、なになに。やっぱり私の話でもしてたの?! いや、なんで? クレーマーには関係ないっしょ。

今にもこちらに迫ってきそうな勢いである。少し足が後ずさった。



「やめなさい。無理強いはいけない。」


「は、すみません。」


「はぁ…。クロ、来なさい。」



カミラ爺に呼びれ、爺と男の元へ向かう。

この男…。強い。強者の雰囲気がむんむんする。その場に共にいるだけで感じる凄い威圧感。ゾクゾクして背筋が痒い。

へ〜、面白い。本気のシークの他にこんなゾクゾクを感じるなんて。不意に向けられるわずかな殺気に心臓が飛び跳ねる。

初対面の少女にいきなり殺気とはいい度胸じゃない。



成長途中でまだまだ低い背丈で男を睨みつけた。


「何か私に用ですか。」



男はじっと私を見つめた後、漏らしていたわずかな殺気を抑え深く頭を垂れた。



「初めまして。王立騎士団第7隊所属のクライブ・ナミネートと申します。試すようなことをして申し訳ありません。」


「初めまして。クロです。クライブさんはとても強いのですね。」


「自己紹介は済んだようじゃな。クライブさん、こちらのクロこそが噂の森の妖精じゃ。詳しいことは中で話そう。ついてまいれ。」





カミラ爺がギルドマスターの執務室に私たちを案内する。


冷静を装ったつもりだったが、バクバクと心臓はひっきりなしに悲鳴を上げていた。

なぜ王立騎士団が!? しかも第7隊所属の騎士。

第7隊といえば、乙女ゲー厶の裏設定にあった、幻の騎士たちだ。正規の騎士団が表立って出来ない仕事を裏でこなしていく、超エリートの集まりで「影」の部隊の者である時にこの第7隊という名義を使う。

「影」とは暗殺者のような顔も素性も顕にせず、ただ静かに素早くどんな汚い任務でも与えられたものは確実にやり遂げる。

そんな秘密だらけの部隊という設定だった。


乙女ゲームではストーリーが進む中で選択肢を間違えて思わぬ方向に進んだ時にこの第7隊の騎士が全てを終わらせていてくれた。おかげで国が傾くことは無いが、無茶な仕事を任せられていた。

いわゆる、設定の辻褄を合わせるためだけにあったような隊である。ヒロインが逆ハーレムルートに進まないルートでは、この第7隊が魔王を倒しに行っていたような気がする。

ご苦労さんです。頑張ってください、ハイ。


そんな騎士がなぜここに? なんで私の話をしてるの? 私に顔も名前も所属も晒しちゃってんじゃん。そうか、私がそんなこと知らないであろうと思ってるからか。

私、転生少女だった。ごめんしゃい。色々知ってます。





カミラ爺の案内でギルドマスターの執務室の椅子に腰をかける。向かい側に騎士も座った。


「クロ、実はじゃな。お前に指名の依頼が前から来ていて、今までずっとクロは非公式の冒険者だからと断っていたんじゃよ。いくら毎日魔物を狩ってきていても、依頼としては受諾していないからね。

それから、何回も断るうちに痺れを切らしてやってきたみたいな感じで今に至る。」


ん〜なるほど。カミラ爺が全部断ってくれてたのね。本当に気の利くギルドマスターだわ。

それほど難しい依頼なの? それ、絶対私じゃないといけない? 第7団の騎士が直々におでましってそうそうないと思うよ?



「ここだけの話、国王陛下の内密な御依頼です。内容だけでも聞いてくれませんでしょうか。」


「いいですよ。内容は聞きます。」



「簡潔に言ってしまえば、騎士団に入ってもらいたいというものです。特に第7団に。」



はっ? 今なんて言った? 第7団に私を入れたい? 国王陛下が?

いやいや、そんなわけ〜…。



「騎士団内での任務の詳しい内容は言えませんが、これはある方の推薦です。私も今日まではあなたを無理に騎士団に入れるなんて早すぎると思っていましたが、会ってみて確信しました。あなたは団に必要な人物です。本当にお強い。是非ともご検討頂けたらと。」



そりゃあ、私はまだ幼い女の子だからね。お荷物だと思うし、最初は反対するだろう。流石、この騎士は見る目があるね。



「クロ、断ってもいいんじゃよ。何をとるにもお主の自由じゃ。」


心配そうにカミラ爺が私を案ずる。


「一つ聞いてもいいですか?」


「はい。答えられる範囲なら。」


「それって王都で働くってことですよね?」



王都はシークがいる場所だ。もしかしたら会えるかもしれない。そんな気持ちが心を躍らせていた。


実際、ここからも出てみたかったし、みんなとのお別れは寂しいけど私自身もっと大きな世界を見てみたい。ありのままの自分でいるために。

そして願わくば、攻略対象を一度でいいから拝みたい! ヒロインが現実世界でどんな道を歩むのか、この目で見届けたい!



「そうですね。無論、衣食住は保証しますが王都での住み込みになるかと。」



ただ、みんなと離れるのだけが名残惜しい。

その思いが最後まで私の心を引っ張っていた。



バンッッッ!

「妖精ちゃん! 私たちのことは心配しなくていいわ! 自分の好きな道に進みなさい。あなた、ここ1年間の功績を依頼として受諾したらSランクは悠に超えているのよ! どこでもやっていけるに決まっているわ!」



勢いよく扉を開けてラティアさんが入ってきた。そこにいるのは知っていた。返事次第で嫌われてしまうのではないかと恐ろしく感じていた私の心をラティアさんは意図も簡単に吹き飛ばした。

ラティアさん…。カッコよすぎじゃないですか。



「その依頼、受けます。」




騎士はほっとしたように頭を下げた。


「心から感謝する。」


「良かったのう。」

「やるじゃん。そうこなくっちゃね。」

























ーーーーーーー



「クロおねーちゃん、ほんとうに行っちゃうの?」

「ほんとにほんとに会えないの?」


私はしゃがみ込み、泣きそうな子供達の頭を撫でた。


「ごめんね、みんな。いきなり出ていくことになって。みんなのことは絶対忘れない。みんなも私のこと覚えててね。たまに遊びにくるから。」


そう言って別れを告げる。







「クロちゃんも成長したね〜。」

「あんなに小さな子供だったのに今は大きく見えるわ。成長って早いものね。」


「ありがとうございます。また会いにきますね。」



私はお世話になった街の人たちに一人一人挨拶をして行った。もういつ帰ってこれるか分からない。シークもこんな気持ちだったのだろうか。









「…ギノフォード。」


食堂に行ったところでギノフォードと鉢合わせた。



「聞いたぜ、妖精ちゃん。王都に行くんだってな。」


「身勝手でごめんなさい。今までありがとうございました。でも、縁って言ってもただあんたが横に座ってただけなんですけど。」


「ふふっ。お礼なんかいらないぜ。会えないと決まったわけでもないしな。自由にすればいいさ。妖精は気まぐれだからな。」


「そういうと思いましたよ。まあ…

彼にはよろしく言っといてください。」


「! …おう。」



よろしくと言った相手はハンカチをあげた美少年のこと。

おそらくギノフォードとは繋がりがあるだろうとは普段の会話から思っていた。そうでなければ構う理由がないしね。

今の反応で確信した。立派な主従関係を築いていた。早くそう言ってくれたら良かったのに。何か事情があったのだろうが。





他の冒険者のみんなにも別れを告げて、荷物と共に王都行きの馬車に乗った。

ここから王都までは2日かかる。遠いな。シークなら転移でひょいひょい行くのだろうけど。会えるかな…。



「クロ、またいつでも帰ってくるのじゃぞ。」

「そうよ。私たちはいつでもクロの味方だから。ついでにこれも持って行きなさい。」



手元に渡されたのはゴールドに輝いたSランク冒険者カードだった。ラティアさん…! カミラ爺…!

その言葉は私の全てを知っても同じように言ってくれるのかな…。自分のことは隠しに隠してきた。家のことも髪と目のことも。何も気にすることなく暖かく接してくれた。皆、屈託のない笑みで毎日を明るくしてくれた。その笑顔を見るたびにチクチクと良心が痛んだ。


恩を仇で返すことのないよう精一杯頑張っていきます! その秘密を伝えることができる日までどうかお元気で。




「…別れは全て済ませましたか。」


「はい。大丈夫です。出発してください。」




別れを惜しみながらも、次なる展開に空を仰ぐ私だった。

ここからが始まりだ!


心地よい揺れに身を包みながら目的地への到着を待った。

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