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5話 始まる(2)

途中から視点が変わります。ブックマークありがとうございます!






前言撤回しようと思います!

私はチートじゃありませんでした!!!!

魔力はとてつもなく多くても、使う技術がなければ意味がない! 今や私は宝の持ち腐れ状態だ。

そう思いながら私は家の前で芝生に寝転んでいた。魔法の練習で集中を切らしてしまったのだ。






私は無事に魔力操作を習得し、次のステップへと進んでいた。

ここ数日、髪の染料がなくなってきて焦っていた私は、シークとある賭けをした。

一週間以内にとある魔法を完璧にできるようになったら、1つお願いを聞くというものだ。

私はその賭けに勝って1人で街に行く権利と染料を買うお小遣いを分取ろうと思っていた。だが、その魔法は思いの外難しくて賭けを始めて3日目の今日でも成功する見込みはない。

かといってこちらは死活問題だ。染料を買いに行けなければ死ぬ。そう、確実に死ぬ。


その賭けをしている間は、剣の訓練やランニングは少なめにしてもらっていた。なので今は太陽がギラギラ照りつける真昼。今から夜までずっと練習しないといけないのに始めた初っ端からこの体たらくだ。賭けはかなり厳しい。



シークという先生も、仕事を頼まれたらしくて王都に行っている。

つまり、シークが帰ってくる1週間後までは自己練習。食事は狩った魔物を置いていってくれたから生活には問題ないんだけど、寂しい。静かすぎて寂しい。

私が来るまでここでシークが1人寂しく住んでいたことに改めて気がついた。よくここに1人で住もうと思ったもんだよ。寂しすぎて死ぬわ。











私がチートじゃないと言ったのにはもう一つ理由がある。


魔力操作を習得し魔法の練習をするため、冒険者ギルドに魔法の適性検査と冒険者登録に行ったときの話だ。















「あら、シーク! お久しぶり!」


「ああ、久しぶりだね。早速なんだが、この子の冒険者登録と適性検査をお願いしたい。」



シークは受付嬢の方に軽く挨拶をした。

う、美しい…! 前世の私が持ちえなかった豊富な胸と、スタイリッシュなボディラインに綺麗な顔立ち。これぞ受付嬢…。

彼女は鼻歌を歌い、うきうきとしながら準備に取り掛かっている。




「シークだって?」

「まさかあの【閃光の騎士】がいるのか?」

「嘘だろ…。あの伝説が本当に存在するのか…?」




周りの冒険者たちがシークの名前を聞いた途端に騒めき始めた。


【閃光の騎士】!? シーク、めっちゃかっこいい二つ名持ってるじゃん! しかも伝説って言われてるよ? さすが私のシーク!

いや、誰のものでもないけど!




「あなたがシークの言ってる子ね。シークの考えることは未だに分からないわ…。君、冒険者登録するからそこに座ってくれる?」




受付嬢の方に誘導されて席につく。椅子が高い…。私がちっさいのか…。早く大きくなりたい。



「冒険者登録を始めるわね。まず、シークとはどういう関係なの?」



おいおいおねーさん、聞く内容間違ってない? そんな情報絶対に冒険者登録にはいらないと思う…。


「クロです! 7さいです! シークとは…師匠と弟子?みたいな関係です!」


「やだー!可愛いすぎない!? ギルドの癒し決定ね…。とりあえず、登録しておくわね。冒険者ギルドの使い方や規則はシークに教えてもらうとして…。それじゃあ適性検査をしましょう。」


「はい!」



よしよしと頭を撫でられ、口の中に飴ちゃんを放り込まれる。ほんのりとりんごの味がした。認められたようで嬉しくなった。所詮私も子供だ。



いよいよだ。やっと魔法が使えるようになる! 

興奮しながら目の前の針に指を刺して血を垂らす。ちょっと痛いけど、我慢我慢。うー、じんじんするよー。

適性検査はギルドに置いてある魔道具で行う。魔力検査もあるらしいけど、私は魔力が多いと分かっているので、目立たないように適性検査だけを行うことにした。そりゃ国一番の王子の20倍もの魔力の判定が出たら大騒ぎだわな。そもそも魔力袋(ダム)がないから判定できないかもしれないしね。何事もないのが1番だ。





ブァァンッー


うおー! 音鳴ったぞー! 私は何属性だろう?

乙女ゲームでも数回しか出てきていないモブだったから、詳しいクローディアの特徴は知らない。モブの詳細なんて誰が全部覚えられるかっつーの! 転生するって分かってたらもっとやりこんでいたでしょうけど。

魔力が王子よりも多いことも最近知った。あの時はびっくりしたなー。







さて、どうなったかな? 魔道具を覗き込むと緑の色が浮かんでいた。



「えーとクロちゃんの属性は、風、ね。」



お? それだけ? なんか複数属性持ってるのを期待してたんだけど、期待しすぎた? やだ、なんか恥ずかしい。

魔力が多いからってチートを期待してました、ごめんなさい。






「風か…。」


風なら私の魔力なら街1つ吹き飛ばせる位の竜巻がおこせるかもしれない。洗濯物も早く乾かせるかも。空も飛べたりする? 動作を速くしてさらにスピードアップとかも出来そう! 楽しみになってきたー!

厨二病めいた考えを働かせたことで、興奮で体がふるふると震える。

早く練習したいー!




「落ち込なないで、クロ。風は人気のない一見地味な属性だけど、そこそこ役に立つんだよ。」



振り返ってみると、シークが哀れみの目で私を見つめていた。目の前の受付嬢も気まずそうだ。


あれ? なんで? 風って人気ないの? 地味? 風は地味なの? そこそこってなんだ、そこそこって。風に失礼だよ!(←よく分からない)




「それじゃあ、帰ろっか。」



シークに手を取られてギルドを後にする。なんだかシークは悲しそうな顔をしている。私に同情してるの? いや、そもそも私悲しんでないんだけど!。私の厨二病思考は大きな誤解を与えたらしい。

この雰囲気をどうにかしないと。




「ねね、新しい服と靴買ってよ。小さくなったし。」



何も気にしてそうにない無垢な笑顔を被ってシークを見上げた。

するとシークはいつも通りの笑顔を浮かべて頷いた。



イケメンだ…。イケメンと手を繋いでデート…。

いや、私はそんなことを考える歳ではない! 純粋無垢な7歳よ! お兄ちゃんの手をとって可愛く歩く、精神年齢がちょっと高いだけの子供だよ!





そんな感じで私にとってはイケメンとデートできたという最高な1日が終わり、その次の日から賭けが始まった。






ということで私の属性は風だったので、意外にチートじゃありませんでしたー!












そしてシークから課された魔法というのは風魔法の『突風』という技。

始めは魔力を魔法に変換するのが難しくて、風車が回る位の風しか出なかったんだけど、コツを掴んでからは加減ができなくなった。

一生懸命練習してるんだけど、魔力多すぎるからか『突風』じゃなくて『暴風』になっちゃうんだよね。こんなんで許してくれるかな。威力が大きけりゃ許してくれるかもしれないけど、言われたのは『突風』だからなー。『暴風』じゃ、戦う時も仲間を巻き込んでしまうから、狙いを定められるようにしないといけない。


よし! 頑張るぞ! 早く習得して竜巻だっておこせるようになってやるんだから! 空だって飛べるようになってやる! 帰ってきたシークにぎゃふんと言わせてやるためにも!

ぎゃふんとか言ってる人見たことないけど。って、自分で突っ込みいれてる場合か!















ーーーーーーー





ここは、どこだ? 皆は…。


「ううっ…。」


俺はニーベル。今は冒険者をしている。

家がつまらなくなって定期的にこうして冒険するのが唯一の楽しみだ。ずっと外で冒険したい。

だが、それが今は早く帰りたいという願望にかわりつつある。

俺は【青い流星】というパーティのリーダーで、昔俺と同い年位の仲間とパーティを組んでから、今や最年少のBランクパーティとして名を馳せている。




今日は魔の森近くに魔物の討伐に来ていた。

勝つのには容易いCランク魔物の討伐が依頼だったのだが、運悪くAランクの魔物に遭遇してしまい、傷を負ってしまった事態である。

俺が囮になって仲間は上手く逃がしたが、無事に森を抜けられたかは心配だ。他の魔物と遭遇しなかっただろうか。


くそっ! もう少し慎重に行くべきだったか。俺が行方不明だとかなりまずい。あいつらが騒ぎ立てても可笑しくない。あー、やっちまったな。

それよりもこの傷を早く止血しないと。

ふらふらと歩きながらどこか休める場所を探した。






「ねー、君どうしたの?」



声がした方に振り向くとそこには俺より少し小さい少女がいた。


嘘だ…。気配も足音にも気づけなかった。傷を負って体が鈍っているからだろうか。いや、そんなことは言い訳でしかない。

もうかなり森の奥に来ている。なぜここに1人幼い女の子がいるんだ。



「わわ! 怪我してるじゃん。」



少女は素早く自分のハンカチーフを水で濡らし、俺の傷を縛った。


血が怖くないのか? そんなに早く女の子が止血の手当ができるものなのか? 俺やパーティの仲間たちでも手間取るというのに。



「なんか話してよ。喋れないの?」



手当をし終わって少女は俺の顔を覗き込んだ。下から見上げる少女の瞳は漆黒で、全てが見透かされているような気がした。



「…ありがとう。」


「どういたしまして!」



ドキッ!

女の子はにこりと優雅に笑った。その笑みは俺の心をくすぐった。

か、可愛い…。









「もう日が暮れるね。ここにいて大丈夫なの?」



「いや、かなりまずい。お前も帰らないと親が心配するんじゃないか?」



「親ね…。別にいないから。一緒に住んでる人はいるけど、今日は出かけてるし。」



「こんな深い森に来て1人で帰れるのか?」



「大丈夫。家は近くにあるよ。」



「近くに…?」









「それより日が暮れる前に森を抜けないといけないんでしょ? 早くしないと傷も悪化するよ。」



「…そうだな。」



手を貸してもらった人に無理矢理聞くことでもないかと思い、口を噤む。少女はすでに俺の前を歩き出していた。

街までの行き方が分かるのか…?

俺は半信半疑で少女の後ろをついていく。

すると不意に少女の足がピタッと止まった。急に止まったものだからつまずきそうになりながら、俺も足を止める。どうしたのかと様子を伺った。



「わかってるつもりだけど、間違えたらごめんね。私、方向音痴だから。」



ほうこうおんち? どういう意味だ? 外国の言葉か? 母国なのだろうか。

少女は振り向いて、一言よく分からない断りを入れた後、また背を向けて歩き出した。




それから30分ほど歩き続けた。

すると、木しかなかった景色の中に街の明かりが写った。人々の声も次第に近づいてくる。

本当に日が暮れる前に森を抜けられた。



「あそこが冒険者ギルド。ここまで来れば大丈夫ね。私も帰る。またねー。」


「え、あ! 待て…。」




声をかけた時には少女は再び森の中に消えてしまっていた。

やってしまった。

プライベートには踏み込まないようにしていたが、名前すら聞かず別れてしまうなんてことをしてしまった。可愛いらしくて幼い見た目とは裏腹にどこか知的で凛とした少女。彼女は一体何者なのだろうか。

もしかすると、森の妖精なんじゃないか。

もう会えないと思うと、胸の奥の方がチクッと痛む。なんなんだ、この気持ちは。

俺は少女が巻いてくれたハンカチーフを見つめる。ハンカチーフには綺麗な花の柄が刺繍されていた。

さて、この持ち主を帰ってゆっくり探すとするか。

後ろ髪を引かれるような思いで、俺は仲間がいるであろう冒険者ギルドに向かった。

















「そういえば、なぜ冒険者ギルドに行きたいって分かったんだ?」


この歳で冒険者をしていると言っても信じられないことが多いのに。やっぱり、森の妖精かもしれないな。




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