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4話 始まる(1)







シークと共に私は魔の森を歩いていた。

途中、魔物に何回か遭遇したが、その度にシークが一撃で撃退していった。

え、いつ着くの?。むしろさらに森の奥に進んでない?。


「そうだよ。僕の家は魔の森の中にあるんだ。」


「え? そうなの? 危なくないの?」


「大丈夫だよ。僕が作った頑丈な結界を張ってあるからね。寝ている間に襲われたりすることは無いよ。」




案の定、シークと私はさらに森の奥へと進んでいた。入るだけで許可がいる魔の森に住んでいるなんて、どれだけ強いんだ…。思わず舌を巻いた。




「私もシークさんみたいに強くなれる?」


「なれるよ。でもクロはもう充分に強いと思うけどな。」


「私、弱いよ?。なんにも出来ない。」


「そうかい? なら修行をつけてあげるよ。僕の修行は厳しいからね。」



そんな会話をしながら足を進めていた。

シークは色んな事を話してくれた。シークは20代に見えるけど、実際にはもう37歳だった。

若くね!? とても驚いた。

昔は王都で王宮に仕えていたらしい。冒険者をやっていた時期もあって、ランクはSまで上り詰めたそうだ。

すんげー! おったまげたわ。

今はというと、魔の森の番人として森を見守りながら、ゆっくりスローライフをしているそうだ。

本当に凄い人に拾ってもらった。黒の子だと知られたらどうなるのか、考えただけでも恐ろしい。きっと私を殺すなんて造作もないことなのだろう。


シークはいい人だ。優しくて、強くて、頼りになる。

少し話しただけでもそう感じた。本当にこの人は黒の子を軽蔑して、私を殺すのだろうか。そんな人だとは思いづらかった。シークには私を殺させたくない。そのためにも強くなろうと心に決めた。












「ほら、着いたよ。」



おおー!

木々が覆い茂るなかで、少し開けた所に出た。そこには少し古くてこじんまりしていたけれど、木でできた感じが日本の家を思い出させた。姿形は違うが、匂いと雰囲気は前世と全く同じで、心にすっぽり収まった。



「少しぼろいけど、いい家でしょ? 気に入ってるんだ。」

「私、この家好き。」

「それは良かった。」



シークは私の部屋を用意してくれた。

その部屋は窓から日傘しこみ、幻想的だった。あの牢屋のような部屋とは違って、ベットは綺麗だし、家具もちゃんと置いてある。大きくはなくても住むには程よい空間だった。

これぞ家だー! 枕をボフボフと叩いた。






「もう夕方だね。狩ってきた魔物があるし、ご飯にしようか。」

「私、手伝うよ。」


魔物の肉を解体して焼いていく。解体はグロテスクで吐きそうだったけど、何とか堪えて肉を火にかざした。

なんだかんだでできた食事を口につける。


これ、牛じゃん。美味すぎなんだけど!。

魔物を食べるのには少し抵抗があったが、案外とても美味しかった。ここで牛が食べれるなんて…!!



「どうしたの!?」



目尻に異変を感じて下を見ると、机の上には涙が小さい池を作っていた。



「うわ、あ、あれ、」



高校生だというのに情けない。ろくに食べていないんだろうと思われただろうか。

大丈夫だから! メアリーが来てからはちゃんと少しは食べれていたし。

それでも体は感情に正直で、涙が止まることはなかった。



「無理しちゃだめだからね。」



微笑んでいるシークの顔が間近に迫り、大きくて硬い指がぎこちなく動く。

シークに涙を拭かせてしまった。

うう…。本当に美形は心臓に悪い。












次の日から私はシークと修行を始めた。

シークが使うのは主に短剣。暗殺者アサシンのような戦い方だ。通りですらっとしているわけで。

私もシークと同じように短剣を使って訓練を始めた。女の子だから大剣を振るう程の力はつきにくいと思うし、何よりクローディアちゃんには似合わなすぎる。



強くなるためにはまずは体力作り。

1日に10キロ以上走って走って走りまくる。走る時には足音を鳴らさず、気配も消して走らないと、魔物に見つかってしまうからとても大変。まさに命懸けだ。それでも魔物と遭遇した時は笛を吹けばシークが転移魔法で助けに来てくれる。

魔法万歳ー!!

6年間ずっと1歩も外に出たことがない箱入り娘には厳しかったけど、だんだん慣れてきた。前世の自分ではとてもできなかっただろう。絶対に走りきる前に途中で挫折している。でも今は違う。強くなるためには避けて通れない道だ。めげずに頑張るのだ!









それが終わったら、シークとのスピードを上げるための練習。






「行くよ。…はっ!」





「! くっ!」


「五感を全部使って! どこからくるか感じとる!」

「はいっ!」


「そして全身を集中する!」

「はいっ!」



相手の様子と魔力を感じとって、素早く避ける。

シークは目隠ししていても私を見つけて攻撃を繰り返してくる。ハンデとして左手だけしか使っていなくても簡単に頭を叩かれてしまう。この人の反射神経の恐ろしさを知る。



「そこっ!」


「あぅっ!」


今日も頭を叩かれてしまった。

いった〜!! こんなに強く叩いたら、たんこぶできちゃうよ…。

それでも手加減はしてくれない。



「少し時間、伸びたんじゃない?」


「シークが強すぎて初めの方は1分も持たなかったもんね。」


「5分超えてきたって成長だね。」



その後も訓練をし続けて、お昼が過ぎた頃。お昼ご飯を食べたら、夕飯と次の日のご飯の材料調達に出掛ける。


私はシークについていって、木の実や果物をとっていく。たまに毒が入っているのもとってくるから、早く覚えてくれと笑われる。

記憶力は中々だと思うんだけど、見分け方が分かりづらくて苦労する。



「毒が感知できないもんね。覚えるしかないな。」



シークは感知できるの!? まじか、やばくね? 本当にシークは別次元の人間みたい。なんでそんなに凄いの?



「また今度教えてあげるよ。ふふっ。クロは顔にでやすいね。」

「意地悪!」






シークは魔物を次々に狩っていく。

その横で私は戦いを観察している。たまに弱い魔物なら戦わせてくれるのだが、この森にでる魔物はほとんどが高位ランクの魔物で、それほど役が回ってくることはない。

いつか倒してやるかんな! 魔物め!










調達が終わったら今度は魔法の練習。


じゃなくて、魔法の練習という名の魔力操作の練習。魔力操作ができると、魔力が暴走することなく魔法が使えるようになるんだって。魔法を使うための下準備みたいなものらしい。





「人にはね、誰にでも魔力が入るコップみたいなのがあるんだ。それを魔法袋(ダム)って人は呼ぶ。

例えば、仮に流れる水が魔力とする。体の中で、コップに水が溜まっていって満杯になったら水が止まるんだ。そして魔法を使えばその水は減る。減ったらまたコップに水が一定のスピードで溜まりだす。それが魔力なんだ。」

「ふむふむ。」



「本当に分かってる??」


シークが疑いながら顔を覗き込んでくる。

高校生の頭脳をなめちゃいかん。これでも中身は16なのだ。


「分かってるよ! なら魔力暴走っていうのはどういうことなの?」



「魔力暴走っていうのはね。コップに水が満杯になったのにそれでもなお、水が止まらなくなることをいうんだ。」


「なるほどー。」


「水が多すぎるとどうなる?」


「コップから水が溢れる!」


「正解。溢れた水は体の中でどこにいけばいいか分からなくなって、最終的に本人の意思とは反して、魔力が魔力回路を通り、魔法が発動されちゃうんだ。」


「どうして水が溢れだすなんてことが起こるの?」


「いい質問だね。原因は人それぞれだけど、精神や身体が極度に弱っていたり、他には魔力が使い慣れていなかったり…。魔力暴走が起きてしまったら、最悪の場合死に至ることもあるんだ…。コントロールさえ出来れば何ともないんだけどね。

そうだ! 魔力暴走は平民より貴族の方が起きやすいんだ。なぜだと思う?」


平民より貴族の方が、か…。

貴族と平民の違いといえば、魔力の大きさだったと思う。魔力の量は遺伝するから貴族はずっと大きい魔力を保ち続ける。

前世持ちだからな…。ずるしちゃうみたいでなんか居た堪れない。


「魔力が貴族の方が多いから!」


「! 正解だよ。驚いた。クロは賢いんだね。」


ふふん。当然の結果だ!







「クロは不思議だよね。」


んん? それはどういう意味だい、シークさんや。何気に賢いことが気になっているのか、もしやすると髪の事とか…?。


「クロは平民なんでしょ?。なぜ僕が魔力操作を教えるか、分かる?」


私は一応貴族だけど、シークには知られていない。だから、私を平民と思っているシークが、私の持つ貴族の魔力の多さを不思議に感じても可笑しくない。

私の魔力が平民にしては多いっていう話かな?







「君には、魔力袋(ダム)が無いんだ。」

「は?」






魔力袋(ダム)が無い?。そんな馬鹿な。それは魔力がないのと等しいんじゃあ…。予想外の答えにあんぐり口を開けた。



「ちがうよ。魔力はある。魔法は使える。ただ、魔力袋(ダム)だけがないんだ。」


「じゃ、じゃあさ。私の魔力ってどこにいってるの?」


「そこなんだよ。」


どうしたものかと頭を抱える。

魔力袋(ダム)がない?。でも魔力はある?。どういうこっちゃ。

頭がぐちゃぐちゃだ。



「魔力回路っていうのは全身に張り巡らされていてね。そこに魔力を通して移動させ、外に出すときに魔法に変換させるんだ。」



ほうほう。それがどうした?




「そこにね、溜まっていってるみたいなんだ。尋常じゃない速さで。」






頭がフリーズしてしまった。

魔力回路に魔力が溜まる? 尋常じゃない速さで?



うーん。どういうことだ?。

頭の情報整理能力をフルに使ってシークの言うことの意味を考える。

あー! 勉強はそんなに得意じゃないんだけど!





「まとめると、私には魔力袋(ダム)がなくてその代わりに魔力が凄い速さで魔力回路に溜まってるってこと?」


「そうだね。今も溜まり続けている。」



今も? 魔力は使っていないのに?

そんな疑問を読み取ったようにシークが答える。



魔力袋(ダム)がないから魔力の多さに制限がないんだ。魔力回路がいっぱいになるまで、魔力の補給が止まらないんだろうね。」



うわぁー、なんじゃそりゃ。

魔力回路は全身にあるから中々溜まらないんだね。それって水道管がゴミで詰まってるみたいになってるんじゃ…。私の体そんなんで大丈夫なの? 思い切り動かしてみてもなんら違和感はない。



「ちなみに私の魔力量ってどれぐらい多いの?」




おそるおそる聞いてみると、シークは満面の笑みで答えた。



「この国で1番の魔力量の持ち主は、今の第1王子だけど、魔力が満タンに溜まったクロはだいたいその20倍だろうね。」




「ま、まじか…。」

まさかそこまでとは思わなかった。

私、チートかもしれません。




「とりあえず、いつ魔力暴走が起きてもおかしくない状況だってことを理解して魔力操作できるように頑張ってね。」

「あいあいさー!」


この日を境に魔力操作の練習をより一層、力をいれて頑張る私だった。












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