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3話 魔の森で出会った恩人。






「はっ!はぁ!かぁはっ…!」




息を切らしながら森の中を歩いていた。足に草木は刺さるし、体の体温は極度に上昇していて苦しい。

少し開けた土地で腰を下ろす。



「っは、はぁ! 疲れた…。もうここまで来れば大丈夫でしょ。」



さっきまでいた大きな屋敷はもう見えなくなって、辺りは見渡す限りの木々のみ。空気は澄んでいて、心地よい。


まだ、油断している暇はない。人に会う前に髪を染めてしまわないと!









耳をすませて、川を探す。今後のためにも、水は確保しておきたい。


「あっちか!」


水が流れる音の方に向かって足を進めた。



これからどう生活して行こう?

確かこの世界には魔物がいるはず。乙女ゲームのストーリーの中でヒロインが逆ハーレムモードに進むと、攻略対象達と魔王を倒すイベントがあった。他のモードでも魔物と戦う場面があったような気がする。オタク友達が「このスチル最高!これのためにこのゲームを始めたようなものなんだから!」と、自慢しに来たのを覚えている。


このゲーム、死ぬ直前までRPGと並列してプレイしてたんだよな。そのおかげで覚えていることは多い。運が良かった。


普通に考えて、この森って人に会うよりも魔物に遭遇する確率の方が高いんじゃね…!? 戦えって言われても勝てる気がしない。

 どうか魔物さん出てこないでください!





祈りながら手早に髪に瑠璃色を塗りつけていく。鏡がわりに川を覗き込み、丁寧に長い黒髪をといた。


ちゃんと手入れしたら、絶対綺麗だと思うんだけどなぁ。出来れば染めたくない。何年も監禁されていたから髪は長くボサボサで肌は薄汚くなっている。お風呂さえ入ることができるなら…。

でも、そんなことを考えている暇はない。この世界にお風呂があるのか分からないし、髪を染めることは必須。私が見つかれば、討伐対象となって殺されてしまうってメアリーも言ってたもんね。この美しい黒髪を披露できないなんて、本当にもったいない。




全ての髪を染め終わって瑠璃色だらけになった手を川で濯ぐ。

水に映る私の髪は綺麗に染まっていた。我ながら上出来である。










気付けば太陽は上りきっていた。


食糧はどうしよう。寝床もないしな。魔物に襲われる可能性も高い…。1日ぐらい何も食べなくても生きてはいけるんだろうけど、(なぜか1年断食しても死んでなかったからね。)前世の自分がご飯を欲しがっている。流石に前世でもサバイバル生活はした試しはない。小さい子供にしても、元ゲーオタ女子高生にしても刺激が激しすぎる。


これ日中に人に会えなかったら詰んでるな…。会ったとしても染めてるのがばれたら詰むし、公爵家に捜索されている可能性もある…。


ああー!どうすりゃいいんだよおおお!


呼び出してくれたのに、中身こんな役立たずでごめんよ、クローディアちゃん。
















私は人に会うべく、この広い森を歩き回った。

奇跡的に魔物には未だ遭遇していない。と同時に人にも遭遇しない。街とかあったよね?。あの牢屋みたいな部屋からも街は見えたし、そう遠くはないはずなんだけど。



「私、方向音痴だった…。」



前世でも遊園地とかテーマパークではいつも迷子で、よく家族や友人を困らせていた。今はそれが懐かしい。

お母さん…、お父さん…、もう会えないんだね。


うるうると喉の奥から何かがこみ上げてくる。それを抑えるように唇を噛みしめた。

寂しい、怖い、このまま人に会えなかったらどうしよう。

転生先の私は皆に嫌われていて、いじめられっ子になった気分だった。黒髪黒目は前世では普通だった。でもこの世界では違った。ヒロインが来て初めて黒髪黒目の偏見は消えていく。ヒロインがいないと何にもできない。



そんなの関係ない! ヒロインに頼らなくても私が黒髪黒目の偏見を消して、今度こそ恋愛して幸せになってのんびり長生きするんだから! 



無理矢理、気を奮い立たせて、涙を押さえ込む。再び気を取り直して、先に進もうとした。







ビクッッ‼︎





きつい日差しが照りつけている中、肌寒い風が吹いた。背筋が凍り、膝が震え始めた。

な、何…?

視界にも耳にも感じないけれど、ひしひしと肌で感じる何かは大きな脅威であることを示していた。








「グオオオッッッッッ!!!!!」





大きな声を出しながら背後から魔物が飛びかかってきた。それを間一髪で避ける。


あ、あぶな…!。避けれなかったら、絶対に死んでた…。


睨み付けてくる魔物を睨み返しながら距離をとる。

やばいやばいやばい。逃げ切れる気がしない。倒せる気もしない。


唯一思いついた打破策は、脱走するときに追手を撃退できた力。それが今もできるなら、倒せるかもしれない。



ええい、とにかくいでよ! 不思議な力!!



念じても念じても私の期待に応える力は出なかった。ヘビのような姿をした大きな魔物はすぐそこで私を見据えている。いつ襲われても可笑しくない。

やっぱりそう簡単にでるものじゃないよね…。ぅー、どうしよう!

もう死ぬのは嫌なんだってーー!!





バシッ!



辺りに大きな音を響かせながら、力は発動した。

やった! 願いが叶った! と思ったのも束の間。

念じていたその力は魔物ではなく、私の体を痛めつけた。衝撃で体が後ろに吹っ飛ぶ。

な、どうして〜! 力の働く向き間違っとる〜!!


吹っ飛んだ先に魔物が勢い良く飛びかかってきた。

迫り来る魔物に私はなす術もなく、死を覚悟した。







ザシュッ!!!






ところが、突如現れた者によって大きな魔物は一瞬で帰らぬものと姿を変えた。






「大丈夫!?」






一撃で倒した……!?

この技、本物…!? 『煌めき一閃』だよね!? めっちゃかっこいいじゃん!!

もはや、助かって良かったどころではなかった。

その技は、魔王にとどめを刺す時に攻略対象全員で放つのと同じ技だった。攻略対象が、ゲームの終盤の方からでしか放てない必殺技。それをこんなところで見れるなんて!。この人、めっちゃ強いんじゃない!?。


画面の上で出てきた技が、現実世界で繰り広げられていることに感激して、目をキラキラさせながら様子を見つめる。



「おーい、聞いてる?」


真正面から助けてくれた背の高い男の人が尋ねてくる。

やっと、人間に会えたんだった!

お久しぶりです〜!!!!


ここに来てからというもの、まともに人間と会って話すことがなかったので、久しぶりに話しかけられることに嬉しさを覚えた。

しかもかなりの美形じゃない?。

琥珀色の短髪にキリッとした目の男の人。すらっとした体は細くてもしっかり鍛えられていた。

メアリーも美人だったけど、この世界、顔面偏差値高いよね…。乙女ゲームの世界だから当然なのか…。




「えーと、言葉が分からない?」

「ううん! わかる!」



感傷に浸りすぎて返事をすることも忘れていた。通じるかどうかも怪しい発音で言葉を発する。

脱走するときも通じたから大丈夫だと思うけど、メアリーとしかちゃんとした会話をしていなかったので、本当にこの世界の人間と話せるか少し不安だ。



「そうか。君はどうしてここにいるのかい?」


「あ、う、えっ〜と…。」



通じたのは良かったが、咄嗟のことに理由を考えていなかった。どう説明しようかな。公爵家の人間だって分かったら連れ戻されるかもしれないし…。




「ここは魔の森だよ。子供が来ちゃ危ない。おじさんと君のお家へ帰ろう。送ってあげるよ。」


「やだ! もどらない!」


あの屋敷だけは絶対に無理!。あそこにもう一度戻るとか、考えただけで鳥肌がたつ!。


「どうして?」


「…。」


優しそうな目で私を見据える。

ここが本当に魔の森ならそれは本当に危ない。設定は確か、普通の森よりも魔物の数が多く、かつ強い魔物がうじゃうじゃいるため、許可あるものしか基本立ち入れないようになっている森だ。もし無断で入ったとしてもそれは単なる自殺行為。

そんなところにいたのか私は…。



「おうち、いやなの。ごはんくれない。外で遊べない。だから私逃げてきた。」



年相応の片言で話す。

そういえば、お義母さんの前で思いっきり大人みたいに喋っちゃったけど、セーフだと信じたい。

転生のことは秘密にしておきたいのだ。





「でも、お母さん心配してるかもしれないよ。」



「お母さんいない! お父さんたち、私をころそうとした! しにたくないの!」



嘘は言っていない。本当のお母さんは死んでるらしいし、お母さんが死んでからは食事すらもらえていない。殺そうとしたも同然だ。



「そうかい…。ならおじさんと一緒に来る? ご飯もちゃんとあるし、乱暴もしない。 どう?」


「ほんとう…? 一緒にいってもいいの?」



一緒に行きたいのは山々だ。一刻も早く魔の森を抜け出したいし、これからのご飯と寝床も確保できていない。

それでも黒の子だと知れた時、私は殺されてしまうのではないかと怯えてしまう。もしかすると、もうばれているのではないか。自然と疑ってしまう。彼が強い人なら尚更だ。

しかし、ついていく他に生き残れる術はない。


なるようになればいい! 私ならできる! ばれないように、ばれても殺されないように強くなればいいだけだ!

勇気を出せ、私!



「ああ、もちろんさ。僕はシーク。君は?」


「あ、えっとね、ク、クロ!」


「よろしくね、クロ。」


「うん! シークさんよろしく!」






シークの手を取り、私はシークの向かう先へと足を進めた。





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