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2話 ヒロイン登場まで待てないモブキャラ。






朝、目が覚めると私はいつもどおり牢屋のような小部屋にいた。

焦って扉を押したが、鍵がかかっていたり、またチェーンが巻き付けられているなんてことはなく、ちゃんと開いた。


ほっとしてベットに腰を下ろす。

それにしても飲まず食わずで2週間って生きれるもんなの?。もしかしたら期間はもっと長かったのかもしれないっていうのに。


死んでるんじゃね?。そう思っても女の人も私にもちゃんと脈があった。


「@#*¥%…#¥@。」




女の人が部屋に入ってきた。女の人は少し老いていて、ベテランなのかもしれない。お母さんみたいな落ち着いた雰囲気で安心する。



でもやっぱり何言ってるのかは分からん!



尋ねてくる女の人に対して分からない、と小首を傾げる。

女の人はそれを察したみたいで、次からは絵本を持ってきて読み聞かせてくれるようになった。過酷だった飯抜き生活も、よく持ってきてくれる残飯と飲み物のおかげで難なく過ごている。















そんな生活で2ヶ月が経った。


安心したら少しずつ日常に余裕ができるようになった。

ゲームがない…。暇だ…。何しよう。外出たい。



ある程度言葉は理解できるようになったし、少しずつ状況も見えてきた。

いつもご飯を持ってきてくれるのはメアリー・ハリスさん。

朝早くと夕方の2回会いに来てくれる。休みの日はずっと一緒にいてくれる。

茶色の髪に黄色い目は日本人の感覚がある私には珍しく思えた。

私はお嬢様と呼ばれている。

貴族か何かなのかな。てっきり奴隷かと思ったんだけど。





この前、感謝の意味も込めて「ママ」って呼んでみたらメアリーは涙目になってしまった。



「貴女様のお母様はもっと素敵な方なのですよ。」



そう言いながら私の頭を撫でた。

ほう…どうやら私はかなりの訳ありらしい。





ある日、

「私の名前ってなあに?」

初々しい発音でそう聞くと、はたまた涙目で



「貴女様の名前はですね、貴女の母上様が思いを込めて付けられたのですよ。」


「そうなの?」


「ええ、左様でございます。」




クローディア・エレヴァンス。


それが私の今世の名前だった。いかにも、この漆黒の目と髪に合いそうな名前だ。

エレヴァンスは家名で、私は公爵家らしい。公爵家といったら王族の次ぐらいに偉い地位なんじゃないの? 前世の記憶がそう告げる。じゃあ、なんで私は監禁状態なわけ? 






「黒髪黒目って珍しいとか?」






ライトノベルとか乙女ゲームでそんな設定があったようなかったような。

メアリーに聞いてみると案の定話してくれた。



「黒髪黒目の子は厄災の子と呼ばれているのです。黒の子はいわゆる不吉の象徴。

髪と目の色が黒なだけで、お嬢様は6年前に生まれてからずっとこの部屋に閉じ込められて…。ああ、お嬢様はこんなに可愛らしい子供だというのに!ううっ…」




お〜お〜、泣かないでおくれ。私は良くしてくれるメアリーがいるだけで十分だから。

私を生かそうとしているメアリーも危ないじゃない?。日本では罪人を匿った人はかなりの罰則があったはず。私は死んでほしいって扱われているのに、それでも助けてくれるなんて、本当にあなたは命の恩人だよぉ…。

泣き崩れるメアリーを見てよしよしと頭を撫でる。



「お嬢様に慰められるなんて、感激です…‼︎」



そりゃ、メアリーが思ってるよりも年は離れてないからね。少しは分かるつもりだよ?。6歳だけど、中身が10歳も上なんて誰も思わないでしょうけど。




「それに1年前にアナスタシア様がお亡くなりになってからは、食事すら出してもらえないなんて…。旦那様は本当に酷すぎる………!」



わおぅ! 1年も断食してたのかこの体…。


アナスタシア様っていうのはお母さんのことかな?。お母さんのおかげでここまで生きてこれたんだね…。

それに比べて、本当に旦那様とかいうやつ最悪だな!。おそらく父親なんだろうけど、髪色と目の色だけで子供の人生切り捨てるとか、なんていうやつだ!。父親とは認めん‼︎。




「新しくやってきた奥様もお嬢様も本当に身勝手で…!。

ここにこんなに痩せ細っている義妹様がいるというのに、見て見ぬフリをして…自分たちだけが贅沢をして…。

アナスタシア様とは、全く持って違うわ!」



意地悪なお義母様とお義姉様がいるのね。あるあるだわ。なるほど…。



「すみません、お嬢様。つまらない話でしたね。どうか忘れてください。」

「ううん、いいよ。それより、私には新しいおかあさまとおねえさまがいるの?」

「そうでございます。

奥様はナイジェ様、娘様は、お嬢様のひ一つ上になるレミリア様でございます。」




私よりひとつ上のレミリアお義姉様か。

レミリア…。レミリア・エレヴァンス…。あれ?、どこかで聞いたことがあるような…。




「黒髪黒目だというだけで、お嬢様は学園にも通えず、社交界も出られないなんて…。こんなにお美しいのに、そんなのあんまりです…!」


仕方がないね。社会はそう簡単に変わらない。

もし黒髪黒目じゃなくて、普通の貴族だったならドレスを着てパーティーとかにでていたのかな。ドレスはオタク女子高生には抵抗があるけど、クローディアちゃんがドレスを着たら、さぞ可愛いことだろう。



ん、?待てよ。


「がくえん?」



学校があるの? 学園っていったら魔法学園とかありそうじゃない?

もしかしてこの世界って魔法があるとか…? 

いや、流石にそんなファンタジーなのはRPGとか乙女ゲームだけか。




「ええ。この国には魔法を学べる、王立サーナイト学園があるのですよ。」



魔法、まじであんのかーい! なら私も魔法使えるのかな…。転生して良かったーー!




「ん? サーナイトがくえん? レミリア…。」



なんか前世でプレイしたゲームの中にそんな感じの単語なかった?。あれは確か…。


『サーナイト学園〜乙女と7人の王子達〜』。それの悪役令嬢が確かレミリア・エレヴァンス。


オタク友達に「RPG要素のある乙女ゲームだからやって見て!」と押し付けられたゲームの設定と一致している。そのゲームは剣と魔法の世界の物語で、実際にやってみたら乙女ゲーム要素が強かったけど、まあまあ楽しめたんだっけな。








え、ここまさかその乙女ゲームの世界なの?。




じゃあ私の位置は??

クローディア・エレヴァンス…。確か途中、ヒロインに助けられるキャラにそんな名前があったような気がする。



「モブじゃん、、!」



しかも登場するのはかなり後半の方。


確かゲームの設定だと学園に入学するのは12歳で17歳で卒業。で、18歳で成人だっけ?。

クローディア救出イベントが始まるのは14歳の2年生だったような気がする。

私が今、6歳でレミリアが7歳。ヒロインもレミリアと同い年だから、学園に入学してイベントが始まるのはあと7年後!?。

それまでここにずっといなきゃいけないの!?。


無理だ…。絶対無理。ゲーム無しで7年間生きろなんて酷すぎる。せっかくのファンタジー世界なのに楽しむ時間がなくなっちゃう!







こうなったら、自分でここから脱出しないと。

そう思い、メアリーに話しかけた。







「メアリー。私、そと行きたい。」



「それは危険です、お嬢様。大丈夫です。食事はこっそり持って来れるのでご安心を。」


メアリーも危険をおかしてここまで来ているのだ。私がいなければこんな危険を犯す必要はなくなる。解放してあげたいと思っているのは嘘ではない。



「くろがみくろめだから?。」



「…そうでございます。お嬢様が外に出られると…その、すぐさま討伐されてしまいます。」



討伐!? 黒髪黒目の子は殺されるの!? そんなに私は危険度高いの!? 酷すぎじゃない!?


だからといって諦める私ではない。

髪を染められたら黒髪黒目は誤魔化せるはず。



「かみ、そめる!。」



「そ、それはあまりにも危険でございます!。」



「メアリーがきけんよりいい。」


メアリーが危険なのは嫌だよ!。それに私が暇で暇で仕方がないんだ!。


「そんなことありません!。お嬢様の命が1番であります!。」



暫く押し問答を続けたが譲ってくれそうにない。

くぅー!

メアリーの協力がなければ自力で抜け出すしかなくなる。ここで引くわけにはいかないのだ!

そのまま私が引かないでいると、メアリーは折れた。



「わかりました。実行するかは別として、とりあえず染料を次の休みの日に街で買ってまいります。」


「ほんと!? ありがとう!」



無事説得(?)を終えた私は1週間後、無事に染料を手に入れた。

色は綺麗な瑠璃色。染め方の手順もバッチリ習得した。


メアリーが私にくれた大事なもの。その喜びを噛みしめながら、その日の夜は染料を抱いて眠ったのだった。











「お嬢様!大変です!」





朝一番、まだ日が昇って間もない頃。いつもはそろりと訪ねてくるメアリーが珍しくドタバタと息を切らしながら扉を開けた。




「メアリー?どうしたの?」



「今すぐ逃げてください! 私がお嬢様の所へ通っていることがバレてしまったのです! もうすぐに私は捕まってしまいます! 私が捕まってはお嬢様は決してここを出られなくなります!」




私はその意味が分からない子供ではなかった。

メアリーがここに通っていることが分かってしまえば、せっかく開けた扉は再びチェーンで繋がれ、さらに強固な警備になって、ここから出られなくなることは分かっていた。下手をしたら殺されるかもしれないことも。この国はそれぐらいに黒髪黒目への執着が強いのだ。




「で、でも!」


「窓から出てください!この高さなら大怪我にはならないはず。染料は近くの森に入ってそこで塗ってください!そこならそんなに早くは見つかりません!」


メアリーは、私の言葉を遮って雑に染料を私のポケットに突っ込んだ。





「メアリーは? メアリーはどうするの?」


「私はここに残ります。お嬢様が隠れるぐらいの時間は稼げます!」


「だめだよ!そんなの嫌だ!」


「クローディア様…。」


抵抗を聞くこともなく、優しく微笑んだメアリーは泣きそうな私を窓の方へ押しやり、自分は扉の方からくる追手を足止めしに行った。






「ーーーーいたぞ!やはりあそこだ!」

「「はっ!」」

遠くから追手の声が聞こえ始める。


「クローディア様早くお逃げください!」

「う、うん!」



「待て! 逃しはしないぞ! 動くな!」

「奥様。もしものため、戦闘許可を。」

「構いませんわ。」

「はっ。行くぞ!」




物騒な会話が近づいてくると同時に私の心拍数も上がっていく。突然の緊急事態に冷や汗を流した。


本当にメアリーを置いていくの?。私に毎日ご飯を持ってきてくれた、言葉を教えてくれた、私のたった1人の味方となってくれたメアリー。

命の恩人だというのに、最後の最後まで迷惑をかけた挙句、見捨てていくの?。




「奥様!」

「あら、まだ無駄足掻きするつもりかしら、メアリー?。早く降参した方が身の為じゃなくて?。」

「…。」

「何よ、その目は!。いくらあの女の専属だったからといって、あの忌々しい黒の子を庇うなんて、許されることではありませんわ。」




そんなこと出来るわけがない!。

私のせいでメアリーが罪人になってしまう。そんなの耐えられない。メアリーは優しくてお母さんみたいで、もらった恩も数えきれないほどにある。こんな時に助けないでどうする。こんなところでその人生を無駄にさせるにはいかない!

ならば…!




「メアリー、うらぎったの…!。せっかく使えると思ったのに。結局そっちにつくのね!。おどした私がばかだった!!。」





離れていても聞こえるように大きな声で罵倒する。

困惑した顔のメアリーにそっと目配せすると、脱出しようとして窓に手をかけた。

これでメアリーの罪はなくなるはず。全部私が悪いの。そう、私のせいにすればいいのよ!。


「待ちなさい! 忌々しき厄災の子よ、動いたらこの女の命はなくてよ!!!」



追手は私のところまであと十歩強。飛び降りるには十分に時間はある。怖くない。全ては自由を手に入れるため。


それでも自分だけ助かるのは有り得ない!。そんなのちっとも嬉しくない。メアリーは殺させないんだから!




「そのじじょはおどして使ってただけって言ったのに。だから、そんなことしてもむだだよ、ざんねんだったね。これじゃ、ゆうしゅうなじじょがひとりへるだけだよ。」



「なっ…、。お前が私に口答えするなんて…! 無礼者! 今すぐその女もろともあの子を殺してしまいなさい!」


その言葉が放たれた瞬間、怒りがわなわなと込み上げてきた。

メアリーの首に剣が落とされようとしている。

私はどこで会話を間違えたっていうの!? こんなはずじゃなかった! どうすればいい!? 肝心な時に何も出来ないなんて…。


メアリーを殺すなんて許せない! それだけは絶対に許さないんだから!







「っふざけんなっっ!!!!!!」




ダンっっっ!!!!





爆発するような音がなって、気がついた時にはメアリーに向かっていた剣は壁に食い込み、追手は公爵夫人とメアリー以外は殴られたような跡を残して気絶していた。



「なっ!どういうこと!?」



公爵夫人の気がそれている内に再び窓に手をかけ、空に向かって飛ぶ。

青く澄み渡った空に心地よい風が吹き付ける。部屋の中でずっと過ごしていた体に新鮮な空気を感じた。

浮遊感に包まれながら、近くの木に突っ込んだ。あまりの勢いに枝がボキボキッと折れて、スピードを落としながら地面に足をおろす。

そこからは一直線に森の奥へとひたすら走った。ろくに運動をしていない小さな体をめいいっぱい動かして、息が上がっても、足がもつれても、とにかく走った。




メアリー、大丈夫かな。殺されたりしてないよね。私のせいで牢屋とか入ってたらどうしよう。

メアリーと別れるのは寂しい。だけど、きっといつか会えるよね。




じゃあねメアリー、どうか元気で。




メアリーの無事を願いながら森の中を走るのだった。






























ーーーーーーーー







「この私があの子供を逃がすなんて…。公爵様になんて顔向けすればいいのかしら…!。忌々しい黒の子…覚えていなさい。」


エレヴァンス公爵夫人は目の前の倒れる衛兵たちを見て、苦言を吐いた。

元々公爵家に厄災の子が生まれるなんて前代未聞。世間の批判を浴びないよう隠していた黒の子を排除するべく、ここまで来たのに、逆に外へ放ってしまった。

もし、黒の子が公爵の子だと知れ渡れば、公爵家の評判はがた落ち。高くまで上り詰めた地位が揺らぐ。そんなことは絶対に避けたかったのである。



「メアリー。この衛兵たちが目を覚ましたら、このことは他言無用だと伝えなさい。どこかで漏らしでもしたら関わった者全員処刑ということも忘れないことよ。」


「承知致しました。奥様。」


「それでこの件は不問にいたしますわ。」


「…ありがたき幸せ。」



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