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14話 影 (4)

本日2話目です。いつもありがとうございます。






「ああ〜、疲れた…。」



私はやっと第2師隊から解放され、我が第7隊の隊室に向かっていた。


クライブとユキがやらかして私が行くことになった第2師隊だけど、本当に凄かった。


私が訓練に立ち会ってからの3時間、ずっと私を観察しまくり。私が魔法を使うたびに歓声が上がり、その仕組みを尋ねてきた。

始めはこんな子供がっていう軽蔑の顔をしていたけど終わる頃には信仰者のようになっていた。

隊全員がムジナと同じ系統の人間だったのだ。ムジナまでとはいかないけど。ムジナ、あれは異常だから。

みんな魔法の腕が鍛えられていて私にもいい訓練になった。

次々に手合わせを申し込まれて魔力は使いっぱなしだったので、どっと疲れが溜まった。

でも、あれだけ使ったのにもう魔力半分は回復したんだけど。私の体すげーな。



やっと辿り着いた隊室のソファーでごろんと寝転がる。

ティアが私を慰めるように上に乗った。









「にゃ〜ん。」

「ティア、今日はどこに行ってたの?」

「にゃお、にゃお。」

「ずっと私の側にいたって? 嘘だ〜。」

「にゃーにゃ!!」

「だって見当たらなかったよ?」

「にゃふん…。」

「ちょっといかないで! 拗ねないでよぉ。」








勝手に会話が成立しているが、私の単なる想像である。

でも大体合ってると思うんだよね。



最近、ティアは私の肩に乗ってるのかと思いきや、姿が見えなかったりする。

それでも寝る時にはどことなく現れるからそこまで気にしていない。散歩でもしてるのかな、って思って聞いたらずっと側にいたって言うし。(多分)

隠れてついてきてるのかと思って魔法を使って探してみても見つかるわけでもないし。まあ無事にこうやって私を毎日癒しにきてくれるから問題はない。




「よう、クロ。帰ってきてたのか。」


「お疲れ、カラス。私もさっき帰ってきたところだよ。」



カラスも私と同じく、今日は非番なのに働いてきた者同士だ。

隊の中でカラスだけがまともな感性をしていると言える。昨日打ち解けてからというもの、本当に助かっている。


書類を一緒に整理してくれたり、部屋の掃除をしてくれたり、今日だって本来なら非番だったのにも関わらず文句一つ言わず働いてくれる。他の隊員がやらかさないかを見張ってくれているのもカラスだ。


なんて面倒見のいい…!! 私は感動だよっ!!

思わず副隊長に任命したが私の目は狂っていなかった。





「ああ、そうだ。さっきそこで王弟殿下が呼んでいらっしゃったぞ? 後で執務室に来てほしいって…」


「わかった! ありがとう! 今すぐ行ってくる!」


「おいっ! 今行ったら…」




私はカラスの言葉を最後まで聞かず、疲れている体を急いで叩き起こし隊室を飛び出した。


暇になったら遊びに来いって言っていたのを忘れていた。

まだ再会してからシークとは話しに話せていない。もっと言いたいことがいっぱいあるのに。


それにしてもなんの用だろう。向こうから呼ぶということは公的な用なのだろうか。

うぅ〜。公的な用じゃなかったらいいのに。



そんなんことを考えながらシークの元へと走った。会いたいのには変わりない。書類の書き方とかも教えて欲しかったし。何よりあの問題児たちの愚痴を聞いてほしい…!!




騎士団の舎の中を飛ぶように駆けた。

シークの執務室はもう一つ向こうの建物だ。


遠いなぁ。

渡り廊下を全速力で走る。

廊下は走ってはいけませんなんてルールは気にしない。そんなのこっちの世界にはないのかもしれないけど。










すると、長い渡り廊下の先から騎士団では珍しい、私より少し大きめの身長の子供が歩いてきた。



子供?



あの舎に入れる人間は限られている。

騎士や魔法師で入れるのは、団長と隊長、もしくは国王か王弟に呼び出された者。貴族は許可があれば入れるが基本無断で入れる場所ではない。


ましてや私以外に子供が?

王族の執務室がある舎なので、警備の衛兵も立っている。



有り得るとすれば、…





「王族。私より年上の王太子か…。」




よりによって今なぜここに!?


彼は攻略対象(メインキャラクター)の一人。

サーナイト王国の王太子アラン・クラーク・サディアス。

確か乙女ゲームで見た王太子は、金髪翡翠目のキリッとしたクール系のイケメン。優しく壮大な考えの持ち主で、父親である国王とよく似て強く賢く、属性は火・水・土の珍しい三属性を持っていた。



まだゲームは始まっていない年だ。

つまり幼少期の攻略対象を拝められるってこと!? ちょっと待って。まだ心の準備が…。





『騎士団・魔法師団以外で情報を漏らしてはいけない。』



その時、シークの言葉が頭に過ぎる。

そうだ。私たちの存在は外にバレてはいけない。王族なら例外か? いや、シークがいうなら王子も駄目なんだろう。

こんなところに私のような子供がいたら絶対に不審に思われる。見つかって問い詰められたりするわけにはいかない。面識も持たない方が安全だ。




しかしどうしよう? ?

身を隠すにも隠せる場所はない。




あわあわと慌てていると、目の前にティアが現れた。

パニックになる私を前にティアはじっと王太子を見つめていた。




ティア! 今来ちゃダメだよ! 何してるの!? というか、いつの間に来てたんだ!

えーい! もう天井にでも張り付けばいいか!









行動に移す間もなく、王太子はすぐそこまで来てしまった。


終わったかも…。これはうまく誤魔化すしかない。



そう思ったのは一瞬で、その次には不思議な違和感を感じた。

目の前から歩いてくるお顔の麗しい王太子は何やらぼんやりとしている。目の焦点がどこかふらふらとさまよっていた。



はい? どういうこと?

まるで私とティアのことなんか見えていないような…。


王太子はそのまま私たちの存在などなかったかのように横を通り過ぎた。


私たちを無視したってこと? いや、一国の王太子が不審者を見逃すなんてありえないでしょう。






暫く突っ立ったままぽかんと一人考えていると、目の前にいたはずのティアの姿が見えなくなった。


「あれ? ティア!? どこにいるの!?」


必死になって声を上げる。

今目の前で起きた不思議現象は確実に私の力ではない。明らかに王太子の様子がおかしかった。原因があるとすれば、突如現れて消えたティア。




私は急いで騎士団の舎の隣にある王立図書館へと行先を変えた。




















ーーーーーーー




王立図書館。


そこは国内一の在庫数を誇るどでかい図書館だ。世界中の本がここに集められている。


私も初めての訪問だった。

だが乙女ゲームで図書館には誰でも入れることを知っていたので、心配はなかった。


急いで隊服から私服に着替え、図書館に足を踏み入れる。

本棚は天井まで届いていて、下から眺めてもどれがどれなのか分からない。司書さんに案内してもらい、私は動物のことが書いてある本棚を覗いた。






調べるのはティアのこと。


猫というだけでティアのことは何も知らない。

ご飯は私があげなくても自分でネズミなどを狩っているようだし、そこまで世話を焼いていなかった。


だけどよく考えてみれば、不思議な点が多い。

まず温泉に入る猫なんて聞いたことがないし、森育ちだからといっても影が薄すぎる。私でさえ感じられないほどに静かに移動して、周りの目にはまるで見えていないような反応。だって今までもティアのことであれこれ言われた試しはない。


普通ならコメントがあるでしょう。なんていったってティアはこんなにも可愛いんだから。肩に乗っている時も触らせてほしいの一言すら聞いていない。



それにあの私まで相手に見えていないというような異常現象。明らかに何かあることを示していた。



「んん! これか?」



見つけたのはティアのように黒い毛を持つ黒猫のページ。だけどティアに当てはまることは一切載っていない。







違う! これも違う! 



違う違う違う! ああ〜! どこにあるの!














かれこれ2時間ぐらいずっと探し続けた。私の周りには読み散らかした本の山。司書さんが面倒そうに一つ一つ直している。もはやそんな姿も目に入らないぐらい必死になって探していた。






私はとうとう突っ伏してしまった。いくら探しても出てきやしない。時間の無駄のように思えてきた。







気を取り直して次の本に手を伸ばそうとした時、誰かに腕を掴まれた。






(マスター)、司書が困ってるよ。』








え?何?





振り向くと私の座高と同じぐらいのサイズをした獣がいた。


大きい猫? いや、トラ? ライオン?


思わず目をパチクリさせる。

暫く見つめていると自分に懐いている猫と同じような模様が背中に入っていることに気がついた。



「もしかして…ティア?」


『もしかしなくてもティアだよ。何言ってるのさ、(マスター)。』


その仕草と匂いはやっぱりティアの物で。このはっきり聞こえるティアの声は幻聴だろうか。


「ティアって雄だったの。」


『? オスでもメスでもないよ?』


「え? は?」



私はティアをじーっと見つめた。雄でも雌でもない動物。変わっていて不思議な力を持つ動物。それは…魔物もしくは…



「ティアって聖獣?」


『そうだよ! よく分かったね!』


「まじか…。」



私が探していたのは動物の本棚。対してお目当てのティアは聖獣。

見つかるはずがない。

聖獣の本棚はもっと別の場所だ。今までの努力が無駄になったことに思わず落胆した。




ティアって聖獣だったんだ。

猫にしか見えなかったのに。おかしいなとは思っていたけど。

魔物のような邪悪な雰囲気も纏っていなかったし、聖獣だなんて思いも知らず、普通に温泉に一緒に入ってたけど! 

やばいことしてたんだな、私。一歩間違えてティアが怒れば、きっと灰にされてたよ。考えただけでゾッとする。恐ろしや…。




全てが解決したところで本の片付けに取り掛かる。風魔法を使ってホイホイと本棚に本を押し込めていく。




「ねえ、なんでいきなり大きくなったの? 言葉も本格的に分かるようになったし。」



『それはね。僕の力が全部覚醒したからだよ。

(マスター)と一緒に神秘の泉に入って力を蓄えていたんだ。溺れるかもしれないって戸惑っていたところを助けてくれたから(マスター)のおかげだね。

それに魔力量の多い(マスター)に名前をつけてもらえたから、本来よりも随分早く覚醒できたんだ。

それと言葉が通じるようになったのも僕の力が原因だよ。そうでなくても大体通じてたでしょ?』



神秘の泉!? あの温泉そんな力があるの!? 確かに疲れはとれるし、肌も髪もすべすべだったけど。

人には分からない力が働いていたのだろう。




「そうだったんだ…。覚醒って具体的にはどんな…?」



『僕は光魔法の『幻覚』が完璧に使えるようになったんだ! 

今までは、運頼みで自分のことしか幻覚を見せられなかったけど、他の物や人や景色も見せることもできるんだよ! それに体が大きくなって攻撃力も上がったんだ。突然のことでその瞬間は、(マスター)には見せられなかったけど、全部(マスター)のおかげなんだよ! ありがとう!』




「お、おお! おめでとう! ちなみにマスターって何…?」




『契約してるから(マスター)だよ? 名前をつけてくれたじゃん。』



な、名前をつけることが契約だったなんて。乙女ゲームの設定にあったっけ? どちらにせよ、そんなことまで覚えてられるはずがない!!


『あ、ちなみに僕の姿も声も周りの人間たちには感じられないからね、(マスター)。』


「は?」



それを早く言ってくれ。私は1人でぶつぶつ喋っている痛い子供に写ってるじゃない!

私は一冊だけ本を借り、慌てて王立図書館を出る。とにかく人気の少ないところにいかないと。



『基本的に僕の姿はいつも皆には見えてないはずだよ? 一部の人を除いてだけど。』



「皆見えてないの!? 私やクライブやヒハイルは見えてるよね?。シークも見えてたかな。


…あれ? 私以外全員火属性じゃない?」




『そうなんだぁ。僕は猫だから、火属性の人間の周りは暖かいし気が緩むんだよね。魔法を使っていなくて、僕が見えるのは火属性の人間だけだよ。他の人間は使っていなくても見えないんだ。(マスター)は契約主だから別だけどね。』



猫は暖かい所が好きだもんね。

じゃあ、私は色んな所で何も無い空間を撫でたり話しかけたりしてたのね。悲しい…。絶対に痛い子に見られた…。このダメージは大きい。



『大丈夫だって。ヒハイルも同じだよ? 一人じゃないから。』


「大丈夫じゃない!!」


ヒハイルと私はちょっと立場が違うの! 世界が違うというかなんというか…。

とりあえず改善していこう…。


だけど、大きくなっても可愛いことには変わりないティアの背中を見たら、やっぱりもふもふしたくなって、ティアにしがみついた。


(マスター)、重い。毛がぐしゃぐしゃになる。』


「失礼な! 不可抗力だよ。」



私は魔法で体を軽くしながらティアに乗って隊室へ戻った。成長したティアのおかげで変な目で見られることはなかったし。その代わりその分の魔力とられたけど。ティアになら魔力ぐらいいくらでもあげちゃうよ〜。



頼もしい仲間がさらに頼もしくなった時だった。













ーーーーーーー


借りた一冊の本。

そこには黒髪黒目の厄災の子の情報が載っていた。何か役に立てばいいなと思って借りた一冊の本。

私はその本が1ページだけ破れていることに気が付かなかった。

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