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11話 影(1)

本日2話目です。よろしくお願いします。




王都に入り、街の景色も随分変わった。すげー。まじの中世西洋じゃん。

そして暫くすると王宮に着いた。ティナを肩に乗せて馬車を降りる。

乙女ゲームの画面で見た景色と全く同じ。だけど、実物は思っていたよりも、ずっと大きかった。

んな!? でかすぎでしょう。

そう思いながら黙々とクライブについていった。







コンコンコン。




「騎士団第7隊、クライブです。かの方をお連れしました。」


「入れ。」



クライブの半歩後ろから国王の謁見の間へと足を運んだ。


えええ! いきなり国王の前に連れていかれてもお辞儀の仕方とか全然分かんないよ!? しかも肩にティア乗せたままだよ!? 

打ち首にされる!? それは嫌だ! 

その思いが伝わったのかティアは私の肩からぴょんと降りて、私の隣にお行儀良く座った。国王もティアを気にしている様子はない。それどころかティアに目も向けていない。許容範囲内だったか、よ、良かった…。


必死に乙女ゲームの国王に謁見するスチルを思い出し、見様見真似で頭を下げた。

ええい! 違うかったらなんとでも言え! 



国王は一瞬目を見開いて、にっこり笑った。




「なにもそんなに緊張しなくてよい。頭をあげよ。依頼したのはこちらだしな。その敬礼はどこで覚えた? なかなか肝の座っているお嬢さんだ。」



間違ったかと思い、ちらりと横を見た。しかしクライブも私と全く同じ体勢で敬礼をとっていた。


あああっ!! 私、女じゃん。思いっきり男の敬礼をとっちゃったよ。恥ずかしい…。

挨拶で挽回だ。挨拶だけはちゃんとしよう。



「お初にお目にかかります。クロと申します。以後お見知りおきを。」


「私は知っていると思うが、このサーナイト王国国王グレイ・クラーク・サディアスだ。依頼を受けてくれて嬉しく思う。」




うわー、美形。超美形。

ここに来てから皆美形だったから、並じゃ反応しなくなったけど、この国王、シーク並にイケメンだ。シークとは違ってダンディな感じが大人を装わせる。さすが、攻略対象の父親。この人も威圧がすごい。いろんな威圧で頭が地面に埋まりそうだ。




「内容は聞いているか? 第7騎士団に入って欲しいとのことなのだが。」


「はい。存じ上げております。」


「第7隊の説明は受けたか? まあ後で詳しく教えてもらうとして、本題なのだが、君がその第7隊の隊長をやってくれないか?」


「…は?」




しまった。国王相手に素が出てしまった。

なにしてるんだ、私。

いや、なんて言った? 第7隊の隊長? どうなったらこんなまだ幼い見ず知らずの子供にいきなり隊長を任せるという選択肢が出てくるの? 私にそんな才覚があると思う? ありえん。

素が出てもおかしくないと思う。



「戸惑うのも無理はない。ただ受けた手前、断るのはよしてもらおうか。それにこちらでも名一杯のサポートはする。クライブ、この子が団長で異議はあるか?」


「ないです。私は十分な実力をお持ちだと判断いたしました。」


「だそうだ。安心して隊長を名乗るがいい。」



ふえ!? まじか。 

本当にこんな子供が隊長やっていいの? 国が崩壊とかしない? 


意味が分からなかったが、断る選択肢はすでに切り落とされた。この王様、かなりの策略家だ。子供相手に本気でひっかけにくるなんてずるい。頷く他ないじゃないか。




「つ、慎んでお受けいたします。」



と同時に内心では叫んでいた。ざ、ふざけんなーーーー!!!











これから生活する部屋と、騎士団舎の案内をしてもらって自分の寝床についた。部屋が広すぎて驚いたが、「隊長なんだから当然です。」と言いくるめられた。

第7隊の説明もしてもらったが、だいたいの認識はあっていた。やっぱり汚いことまでやらされるピンチヒッターってところだろう。

少数精鋭で、外部に情報を漏らさないようにしなければならない。騎士団・魔法師団内は割と自由でいいみたい。


明日は隊員と他の隊長たちとのご対面だ。

ああ〜気が重い。私がそんな役目につけるのだろうか。クライブが途中までサポートしてくれるからまだマシだというものの。


夕食も喉に通らず早々とベットに寝転がっていた。






「にゃお!」



大人しくしていてくれたティアにご褒美のお菓子をあげる。美味しそうにもぐもぐと口に含んでいた。


はぁぁぁ! ティアだけが癒しだよ! ずっともふもふさせておくれ。


私も戸惑いながら菓子を口につける。


国王はなんて私に軽々しいの。あまり期待を寄せないで欲しい。今食べているこのお菓子、実はというと国王からの贈り物なんだよ? 

国王からの贈り物の意味って知ってる? これ以上にない親愛の証なんだよ? 



なんで私に贈るんだ…。もっと贈るべき相手が他にいるだろう。王子とかさ…。いるでしょ。

まだ私には分からないだろうと思っての判断だったのか。

私、分かってるんですけど。迷惑なもんだ。



「はあああああ…。」


考えても無駄だと思い、盛大なため息をついて目を閉じた。

案の定、その夜はなかなか寝付けなかった。


















遂に、遂にきてしまった。隊長会議…。


会議会場の前。

この扉の向こうには、騎士団と魔法師団の団長2人と総勢13人の隊長たちがいる。それに両団を管轄している総督である王弟殿下も。

この先にこの国のトップオブトップが勢揃いしているのだと思うと足が竦んだ。

プレッシャーが凄い。蕁麻疹が出そうだ。今すぐ倒れてしまいたい。


だけど、倒れる訳にはいかない。王弟の存在が気になるのだ。

王弟殿下は乙女ゲームには出てきていなかった。存在もさっき知ったところだ。設定を全て覚えているわけではないから断言はできないけど、表立って出てくることはなかったと思う。

そもそも総督なんていなかったし。


シナリオが狂っている。

私、ゲームには関わっていないよね? まだゲーム自体も始まってないし。是非ともシナリオから外れた者同士、顔を拝みたいところだ。いや、でも王弟殿下…。


身分差がありすぎて、頭がクラクラする。もはや私が公爵令嬢だということを失念していた。








私は冷や汗を流しながら扉の前に仁王立ちする。

クライブの付き添いもここまで。ここから先は一人だ。正確にはプラス1匹だが。



「にゃおん!」

「ティアが頼もしい…。」



よし! 私ならいける。私にはティアがついている。失敗したらその時はその時だ。存分にティアに慰めて貰えばいい。国王にも認められたんだ。堂々と行かなきゃまだ見ぬ隊員たちに失礼だ。


気を取り直していざ出陣!

心を決めて重い扉を開けた。











しーーーん










え、なによ、この沈黙。

私が入っても誰も反応することなくただ静まり返っていた。

なるほど。トップオブトップは民衆とは対応が違うということか。



私にはさっきからビシバシと鋭い殺気が注がれていたのだ。

酷いもんだ! そっちが呼んだっていうのに、いきなり威嚇かよ! そっちがその気なら喜んで対抗してやる。

少しムキなって、私も全開に殺気を放った。ピリピリした空気が部屋中に広がる。






暫くすると隊長の一人が声を上げた。

「だんちょー。全員揃ったみたいですぜー。」

「王弟殿下の御前だぞ。言葉を弁えろ。」






その言葉で少し空気が和んだ時を見計らい、自分の席だと思われる席に着いた。

うう…。机が高い。いや、私が小さいのか。



何処かからくすりと笑いが聞こえた。


笑うな! そこ! 

思わず私は殺気を強めた。空気が再びゾワっとした。





私はそんなのお構いなしに、これじゃ隊長らの顔を見渡せないと思い、正座をして椅子に座りなおした。

膝の上にティアが移る。隊長たちもティアを気にする様子はない。猫を入れても怒られないか不安だったけど、これは大丈夫そうだ。


あ〜絶対に痺れるな。魔力をよく流しておこう。そう思いながらティアを一撫でした。







「それでは隊長会議を始める。」



遠くから王弟殿下のよく通る声が会議を進行させた。

んん? 王弟殿下の声、どこかで聞いたことがあるような…。



「以前連絡したが、今日から新しく騎士団に第7隊が加わった。今日は第7隊長とは皆初めての対面だろう。第7隊長、簡潔に自己紹介を頼む。」




急に声がかかり一斉に私の元に視線が集まる。

私は極力冷静を装いつつ、椅子の上に膝立ちした。だって、立つよりこうした方が高くなるんだから仕方がないでしょ。


少し目線が高くなり、辺りがより鮮明に見えた。

隊長や団長らは皆強者のオーラが溢れ出ていた。焦りは高まる一方だ。










その時、一番奥に視線をずらすとよく見慣れたあの顔があった。


目があってその顔はこくりと頷いた。

ドクンッと心臓が飛び跳ねる。






ここに、いたんだ…。

涙が出そうな感情を押し留め、バクバクなる心臓を一息ついて落ち着かせる。



そして、お腹から大きく声を出した。







「今日から第7隊長を務めることになりました、クロと言います。10歳になりました。

私は3年間、王弟殿下に教えを請いた後、エレヴァンス公領ウェールズの冒険者ギルドでSランク冒険者をしていました。

団のことはまだまだつかぬところがありますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。」






最後まで噛まずに言い切れて安心し、再び腰を下ろす。


周りの空気が一瞬ザワッと揺れた。

これは成功したということで良いのかな? 全員、眉一つ動かないから全く感情が読めない。


鉄仮面か! 少女を怖がらせないでほしい。




「今彼女が言ったことは事実だ。先ほどの殺気で感じただろうが、私よりも強い。幼いからと言って軽蔑しないように。では報告を始める…」



会議ではここ一週間の隊の成果や次の週の予定を確認して、起こった事件や対応しなければならない仕事を分担する。見つかった問題点や改善点、意見交換は刑事ドラマの一場面のようだ。




私は話などほとんど聞いていなかった。だってだって、1年間ずっと会いたかった人物が今すぐそこにいる。早く終われと切に願ってやまなかった。


早く! 早く終わってよ!


ずっと念仏のように頭の中で繰り返しながら、自分の隊が回ってくるまではひたすら右から左に話を聞く。回ってきても今日から始動するわけだから、次の週から何をすればいいかを聞けばいいだけだ。

会議が終わるまでの時間が今までになく異様に長く感じた。
















「騎士団第7隊は後から連絡する。会議が終わったらここに残ってくれ。今日の会議は以上だ。皆のもの、ご苦労だった。今週も精を出して頑張ってほしい。それでは解散。」








そう締め括られて会議が終わった。


徐々に隊長たちが部屋から退室していく。

私は今か今かと飛びつく時機を待った。

バタンと扉が閉まり、残るは私と彼と騎士団・魔法師団の両団長のみになった。

彼は優しい笑みで腕を広げた。






シークっ!


『飛行』で一直線に机の上を通り、シークの胸に飛び込む。即座にシークの後ろに手を回した。






「久しぶり、クロ。元気にやっていたみたいだね。」



私は知らず知らずのうちに涙が頰をつたらせていた。

やっと会えた、シーク。嬉しい。じわじわと暖かいものが胸に広がった。



シークが王弟だったなんて。そんな驚きはとっくに消化していた。


シークが王弟なら全てに辻褄が合う。転移属性があるのも、あんなに強いのも、動作一つ一つにどこか気品があるのも、仕事と言っていたのも肯ける。パズルのピースが埋まったような感覚だった。




「ううっ。会いたかったぁ。」


「あれ、こんなに泣き虫さんだっけ? 第7隊長が情けないなぁ。」


「そう言いながら、シークだって涙目じゃん。あ、今は王弟殿下か。」


「クロはシークでいいんだよ。僕もかなり我慢しているんだ。痛いところをつかないでほしいな。」




私たちは再会した喜びを噛みしめた。たった1年離れていただけでこんなに懐かしく感じる。シークと過ごした日々が次々と思い出された。



「でも、ここにきたということは君は今日から僕の臣下だからね。感動の再会はここまでにして話をしようか。」


「はい。」



シークは私に騎士団長と魔法師団長を紹介した。


「俺は騎士団団長、オルガだ。よろしくな、小さな第7隊長さん。」

「私は魔法師団長のマーガレットよぉ。可愛い女の子が来てくれて嬉しいわぁ。」


「クロです! よろしくお願いします!」



会議中は威厳を感じる2人だったが、今は私に優しく笑いかけ快く私を迎えてくれた。騎士団長に魔法師団長。これからお世話になりそうだ。知り合いは多ければ多いほど嬉しいし、安心する。



「王弟殿下がこんなにでれでれになるなんてレアすぎるわぁ。」

「今日の会議はいつになく早口で適当だったもんな。」



「え、あれ? そうなんですか?」


「いらないことは言わなくていいよ。僕だってそういうことぐらいある。」



シークが照れ臭そうに2人を睨み、私を強く引き寄せ抱き締めた。

はっ…前のシークよりデレが増してる…やっぱりイケメンは変わらない。

鼻血出そう…。



そんなことを考えているとシークは額にキスをしてから、今週の予定を話し始めた。

んんん!?!? ボンっと顔が熱くなった。

なんていう女たらし。スキンシップが激しすぎる。


パニックになる頭を無理矢理落ち着かせ、真剣に話に耳を傾けた。







「今週の予定だけど、第7隊は他の騎士団や魔法師団の補助に回ってほしい。闇の日は騎士団第1隊に2人、魔法師団第2隊に2人。火の日は…」



この世界には前世みたいに1週間は7日なんだけど、呼び方が違う。月〜日ではなく、闇の日から始まって、火・水・風・光・土・日と続く。少しずつ違っていてなんか面倒。

しっかりメモをとった。



「これで終わりだ。覚えた? 非番とかはそっちで決めて。できるよね?」



こんなことできる少女、私ぐらいしかいないよ? なに「できるよね?」って簡単に言っちゃってるのよ。まあ、できるんだけど。



「任せといて。そこは何とかする。」


「じゃあ終わりだね。暇になったら僕の執務室においで。困ったことがあったら、僕か騎士団長か魔法師団長のところにくるんだよ? 」



こくんと両団長が笑顔で頷く。頼もしい味方が増えた。



手を振って別れを告げた。今日からはすぐにシークに会えると思うと機嫌が良くなった。ティアを再び肩に乗せてクライブと合流する。



「ある方の推薦って、王弟殿下だったんですね。」


「今頃気づいたんですか? それを聞いた時は私も驚きましたよ。」


「ん? なんでです?」


















ーーーーーーー

一方、両団長は感嘆の息を漏らしていた。



「あの嬢ちゃん凄かったな。王弟殿下に弟子がいるなんて思いもしなかったが。」

「そうねぇ〜。それも隊長たち全員の殺気を相殺した挙句押し返すなんて想定外よぉ。」

「ありゃぁ、将来大物になりそうだ。」

「私は愛でる子が増えて嬉しいわぁ。」




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