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2話 心美と花

 気分転換のつもりで来たコンビニは、むしろ逆効果だった。


「あら、キャプテンじゃない」

 パンコーナーで今日の昼食を選んでいた時に急に背後から話しかけられた。部活を引退した私の事を「キャプテン」なんて呼ぶ人は一人しかいない。


「心美、久しぶり」

 部活引退前の時と同じように、できるだけ意識して応答する。いや、たぶん嫌な顔をしてしまっていた。それでも心美はそんなこと今さら気にしないといった感じだ。


 あいかわらず熱心にケアされているロングヘアをたなびかせている。前川心美。心美なんて名前とは似ても似つかない女。取り巻きの女の子と何かこそこそ話している。


 こんな時間にコンビニに来なければよかった。もじゃもじゃ野郎を思い出して舌打ちをする。


「冬休みに会うなんて偶然だね。これからどこか行くの?」

 そのまま別れることもできなさそうなので話を広げてみる。

「ええ、明日クリスマスのパーティをやろうと思っていて、そのための作戦会議を花ちゃんと話していたの」

 取り巻きの子、花ちゃんって言うんだ。初めて知った。

「いいねえ。推薦組は冬休みを満喫できて」

「まあね。まあでも普段の学校の授業や部活を精いっぱい頑張っていたから、その努力が今報われているだけのことよ」


 嘘つけ。学校の授業だって、部活だって頑張っていたのはあんたじゃなくて私の方だ。あんたはただ周りの人に媚を売り続けていただけじゃない。私が一生懸命頑張っている横でいつもふわふわしながら、最終的に私が欲しいものは全部持っていく。

 早稲田への推薦だって、あんたが受けるって言ってなければ私が合格することになっていたはずなのに。


「確かに、いろんな人へのあいさつ運動がんばっていたもんね~」

 やっと出せた全力の一言。

「そう!そのおかげで早稲田大学に合格できたの。今からもう新生活が楽しみで仕方ないの」

 心美も負けじと満面の笑み。さすが、一筋縄ではいかない。

 二人でそっと微笑み合うが、その間には沈黙が広がっていた。


 お互い心の中までは笑っていない。そんなことお互いにわかっている。

 取り巻きの花ちゃんの目が泳ぎ始める。心美の胸くらいまでしか身長のないちょこんとした花ちゃん。心美の取り巻きということ以外、特に特徴のない女の子。大学は心美と違うところに行くのかな。

 その後は、いったいどんなふうに生きていくんだろう。新たにご主人様を探すのかな。それってさみしくないのかな。


 もういいや。


 私はパンを適当に数個手に取って、それじゃあとその場を離れようとする。

「待って」

 心美が引きとめる。まだ何か言いたいことでもあるというのか。


 心美は口をムズムズさせている。何かすごい大事なことを言おうとしているのではないか、と聞き耳を立ててしまった。

 

 でも、心美が口を開いた瞬間、それがすべて演技だったと分かった。

「私、建介君に告白したの」

「はあ?」


 私は思わずパンを強く握ってしまう。

「だから、私、建介君に『好きです』って告白したの」

「いや、それはわかってる。なんで?人の彼氏なんですけど」

 思わず語気が強くなってしまった。


 心美はてへっなんて言いながら、申し訳なさそうな表情を投げかける。


 ごめんね、やっぱり気持ちを抑えきれなかったの、なんてことを今度は恋する乙女の表情で訴えてくるに決まっている。全部計算されている。


「だって、建介君と志保ってもうそんなに仲良くないでしょ?」

 返ってきた答えは予想と違った。


「え?」


「『志保は受験ばっかりで全然相手してくれない』ってよく建介君グチを漏らしているから。それじゃあ志保と一緒にいるより私と一緒になった方が、建介君を満足させてあげられるよって伝えたくて」

「はあ?だからって非常識なんじゃないの。人の彼氏を、よりにもよって3年間一緒に部活やって来た仲間の彼氏奪おうとするとか。頭おかしいよ」


「私は欲しいもののためならなんだってするよ」

 心美はゆっくりと、でもはっきりとした口調で言った。

 挑発的な目をこちらに向けながらも、その瞳の中には私に対する本気さがうかがえた。


「あんたのそういうところ、ほんっと嫌い」

「別に何を言われてもいいよっ。私は欲しいもののためなら使えるもの全部費やしても取りに行く。早稲田の推薦だって、建介君が早稲田に行くって言ってたから取りに行った。それを志保がもらえるはずのものだったと知っていても」

「最低」

「最低?自分の受験勉強のことばっかりしか考えないで、建介君のことを考えてあげないあなたの方が最低よ」


「あんたがいなければ今頃もっと違う日々を過ごせていたわよ」

 怒鳴り声をあげてしまった。視界が潤んでいく。周囲の視線がこちらに集まって来る。


「とにかく、私は建介君奪いとってやるから」

 それだけ言い残すと心美と取り巻きは行ってしまった。


 ほてっていく瞳を必死に食い止めて、私はレジでよく知らないパンをいくつか買った。パンはもう原型をとどめていなかった。

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