~緩やかな時~6.
ここだけネタを紛失したため、思い出しながら書いてます。ちょっと失速(^^;
マリエッタは、自分に向かって来る波に、生まれて初めて恐怖した。木切れを含んだ大きなその波は、これまで感じたことのないような悪意を乗せているように感じたのだ。
無意識に寄せていた確かな海への信頼の外の、自分の意識が及ばない、強い“悪意”。
それがこの非日常の場を、支配していた。
その場の空気に圧倒されていたマリエッタは、反応が遅れてしまった。
迫り来る波は目前だった。
そして波に呑み込まれる寸前、温かな何かに包まれていた。
音が、消える。
温もり、も消える。
次に海上に顔を出した時、ウィルの姿はなかった。雷鳴と、雨と、船上の喧騒。
ーー離された!!
何に、などと考える暇はなかった。このような海で、視界など役に立たない。再び海に潜ったマリエッタは、自分の意識を集中させた。
自分の周囲の生き物の気配へと。
かくしてそれはすぐに感じ取れた。
すぐにその気配のもとにたどり着き、抱え込むと、そのまま出来るだけ遠くに離れた。
ウィルのために、一度海面に浮き上がる。海上で見た彼の顔は蒼白で、頭から血が流れていた。目が開く様子もない。
ーーここは危険だ。
少し離れたものの、空気ににピリピリとした悪意がまだ感じられて、彼女はこれ以上この場に居たくなかった。
意識のない少年を抱えて、彼女は、猛スピードで泳ぎ出した。