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真珠の姫君~海に捧げる子守歌~  作者: とも
第一章 緩やかな時
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~緩やかな時~5.

マリエッタは時折、考える。長い年月を生きながら、自分のすべきことは何なのかと。毎日毎日変わらぬ暮らしの中で、繰り返されていく穏やかな時間。

自分以外に、その様なことを考える者は、少なくとも彼女が知る限りいなかった。


いつか出会った、人の少年。


ほんの僅かな時間しか会っていなかったのに、彼は彼女の心に鮮やかに色を残した。


それはまるで暗い海を照らす太陽の光のようで。そして夜空を彩る、星のようで。

過ぎ行く時の中に、いつまでも彼女の心の片すみに灯りをともすこととなった。


*************


マリエッタは、16歳になっていた。

その日は何だか、いつもと違っていた。胸騒ぎがする。


「ねえ、外は大きな嵐が来るみたいよ」

海の底では上層の荒れは影響がない。その為、海の生き物達もより影響が少ないところに集まって来ていた。


ーーいつも嵐が来ても、こんなに不安になることなんてないのに。


マリエッタは、仲間達の輪からそっと抜け出し、少しずつ荒れが酷くなる海上を目指した。


カッと昼間のように辺りを照らす稲光に、彼女は恐ろしい光景を見た。


彼女が浮上したその場所では三隻の船が、まるで小さな木の葉のように荒波に揉まれて、今にも横倒しになるかという瀬戸際であった。

しかもうち一隻は、嵐だというのに大きな炎に包まれていた。


ーー何?何が起きてるの?


初めて見るその光景に、しばし呆然としてしまう。

マリエッタを正気に戻したのは、一瞬後。


炎に呑まれた中央の船から、爆音が響いた。刹那、何かが降ってきて大きな水柱があがる。


ーー人?!


考えるよりはやく、水中に潜っていた。


暗い海の中で、無我夢中でその手を掴んだ。急いで水面に上がると、風雨で船の甲板から飛ばされたと思われる物に、一緒につかまった。


「あなた大丈夫?」

自分が助けた人間に、波に揺られながら叫んだ。

その人が咳込みながらこちらを向いた時、また、雷が二人の間に横たわる闇を消し去った。


ーーえ?

彼女が思うのと同時に、彼もまた目を見開いた。


「マ、リエッタ……?」


ーーウィル?!


5年振りの邂逅を果たした時、一際高い波が二人を襲った。


「危ない!」


いずれかの船の手すりが折れたのか、全ての物が荒れ狂う波に逆らえる筈もなく、二人に向かって降ってきたーー




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