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唯一無二の異能者  作者: 陽炎
中学校編
29/57

苦労の連発

「カーテンがボロボロだぁ!」


「お前のせいだ」


「壁が傷だらけだぁ!」


「お前のせいだ」


「テレビに穴が開いてるよ!」


「お前のせいだ」


「見て見て、扉が無くなってるよ!?」


「お前のせいだ」


「なんでハルト君はそんなに黒焦げで傷だらけなの?」


「ぜ・ん・ぶ、お前のせいだ!」


「そんなぁ〜!」


朝っぱらから早々にこんな会話をするのには、訳がある。


どういう訳かコイツは深夜に酒を飲み、酔っていたらしい。


暗いのが怖くてすぐ泣きだす様な奴が良く一階のリビングまで降りてこれたものだ、感心するぞ。


「…で、なんでお前酒なんか飲んだんだよ?」


「ごめんなさい、記憶にありません…」


彼女はペタンと座り込み、もじもじしながらそう口にした。


この通り、彼女は昨日の出来事を何も覚えていないのである。


「はぁ、もういい。さっさと飯を食え、冷めるぞ」


「えっ、良いの!?」


さっきまで反省した面をしていたのが嘘かのように明るい表情を見せる彼女。


「好きにしろ」


すると彼女は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、自分の席に着いて飯を食べ始めた。


本当にコイツは反省しているのだろうか…


「ねぇ、ハルト君。あのお酒の入った瓶は誰の物だったの?…お母さんとか?」


飯を頬張りながら彼女は僕に問い掛けた。


「あれは母親のコレクションみたいなものだ、だから一応問題は無いが…何故冷蔵庫に入れて無い飲み物を飲むんだよお前は」


「それについては…ごめんなさい」


口で謝ってはいるものの、箸が止まっていない。食うのを辞めていない。


この光景を見るとやはり彼女は大食いなのでは無いかと思わざるを得ない…か?


因みに今日の朝ご飯はサケの切り身に白ご飯、ブロッコリーにレタス、赤味噌の味噌汁(豆腐とネギ入り)だ。


至って普通の朝飯なのだが、最近の御時世では「パン」を朝食に食べる人もいるらしい。


全く可笑しな話だ。パンの一つや二つで十分なカロリー、栄養素を摂取出来るとでも思っているのだろうか。


おまけにパンに「ジャム」なんかの甘いものを塗りたくって食している奴もいるらしいじゃないか。


確かに糖分は頭の回転に良い働きをするが、パンの上に甘いものをドバドバかけて食べるのは如何なものだろうか。


大体そもそも存在自体が糖分のような物を食べるから過剰摂取になる訳で…


「あの〜、ハルト君?」


「どうした、今僕は真剣に抗議してるんだ。話なら後で…」


「えっと…駅、乗り遅れちゃう」


「はっ?」


僕は時計を見た。


何という事だ、時刻はもう7時を上回っているじゃないか!


「やばい!おい、橘さん!急ぐぞ!」


僕は箸を机に叩きつけ、彼女の方を見た。


「じ、自分で言っておいてなんですけど…まだ食べ終わって無いので」


「んな事は知らんわ!さっさと支度するぞ!」


彼女の箸を奪い取り、腕を引っ張って洗面台まで連れて行った。


「歯を磨け、早く!」


「うぇ〜ん、まだ食べ終わって無いのにぃ〜」


彼女に歯磨きを先にさせる事によって「食欲」を根こそぎ捨て去る事が出来る。


よって後は強制する事無く自分で勝手に身支度を済ませてくれると考えた。


まぁ、飯食った後は歯を磨くのが常識なんだが…


そんなこんなで無事に支度を終えた。


「現時刻は7時半…ここから駅まで走って約30分、電車に揺られる事10分、そして駅から学校まで走って約20分…学校始まるのが8時半だから…ギリギリだな」


「おーい!早く行こーよー!」


僕の心配を他所に彼女は玄関の外ではしゃいでいた。


「たくっ…今行くから待ってろ」


僕は玄関の扉の鍵を閉め、彼女の元へと向かった。


「もうっ、遅いよ!?遅刻したらどうするの!」


彼女はむくれた顔をした。


「そうだな…多分このまま行ったら遅刻は確定だろうな」


「えぇ!?じゃあどうするの…?」


彼女は今にも泣き出しそうな声で僕に問い掛けた。


彼女は学校でもかなりの人気があるらしいし、悪評が付くのは出来るだけ避けたいのだろう。


…いや、その理由だと辻褄が合わないな。今のは考え無かった事にしよう。


「まぁ、落ち着け。何も遅刻が確定した訳じゃない」


「えっ…?」


僕はズボンのポケットの中から鍵を取り出した。


「…乗るか?」


「……うんっ!」


ーーーーーーーーーーーー


「うわぁ〜!涼し〜い!」


「ど、どうだ…?自転車の乗り心地は…」


「とっーても!気持ち良いよ〜!」


「そ、そいつはぁ…良かったな…」


今、僕は自転車を猛スピードで漕いでいる最中だ。


彼女は後ろで横向きに座っている。


これは「二人乗り」という禁断の技だ。


そんな禁断の技を駆使しながらも、颯爽と田んぼ道を駆けていく。


しばらく行くと、魔法小等学校、伊万里ヶ丘公園と続き、やがて伊万里駅が見えて来た。


「ハァ…ハァ…後ちょっとで駅だな」


「そうだね」


「ちょっと…今何時か見てくれないか?」


「あ、うん!えっ〜とね…今は7時40分だよ」


「良し、今ならまだ7時45分発の電車に間に合う!飛ばすぞ!」


「えっ!?ひゃあ!!」


僕は長年にわたり見知らぬ内に鍛え上げられた足の腿の筋肉を使い、ペダルを勢いに任せて漕ぎまくった。


ーーーーーーーーーーーー


「つ、着いた…」


「大丈夫?少し休んだ方が…」


「大丈夫だ!それよりもう時間がない、行くぞ!」


僕は汗だくになった身体で彼女の手を引っ張り、駅のホームまで向かった。


「わぁ、すっごい人集りだね…」


ホームに入るないなや、大量の人達が辺り一面を覆い尽くしていた。


「ちっ、通勤ラッシュか…橘さん、手を絶対に離すなよ」


「うん…」


「行くぞぉ!!」


猛ダッシュで人混みの中に入り込み、周囲を掻き分けながら学校行きの電車まで向かった。


…電車の近くまで来たのは良いが、人が多過ぎて電車の出入り口が見当たらない。


電車周辺を歩いて探し回っていると、突然彼女が声を掛けて来た。


「あ、ハルト君!あれ!」


彼女の指指した方向には、確かに電車の出入り口があった。


「まだ開いてる!いけるぞ!」


周囲の人混みを謝りながら掻き分け、何とか電車の中に入り込む事が出来た。


「はぁ、はぁ…今の時刻は「7時44分」か。ギリギリセーフだったな」


安心したのも束の間、何か違和感を感じた。


「あれ…?橘さん?」


さっきまで手の内に感じていた温もりがいつの間にか無くなっていた。


恐らく電車に乗る前に謝って手を離してしまったのだろう。


だが、彼女もここに出入り口があるのを知っている筈。


ここは無闇に飛び出すより待った方が鮮明な判断だろう。



「は、ハルト君〜、どこ行っちゃったの〜…」


電車の入り口を教える時までは手を握っていたのに、いつの間にか離してしまっていた。


そのせいで私は彼とはぐれてしまい、おまけに人集りに呑まれてしまったのだ。


ここが今何処なのかも分からない。


なるべく入り口に近付こうとはしているが、一向に見える気配が無い。


「もう諦めるしかないかな…」


その場で立ち止まり、立ち尽くしていると…


正面から、手の先だけがこちらに向かって見えるぐらいに伸びていた。


「何…この手」


その手の平に優しく手を置くと、勢いよく引っ張られた。


「うひゃあ!?」


その手に連れられて人混みを抜けた先にはーーー





電車の出入り口と私の手を握りしめた「彼」の姿があった。




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