下準備と三人組
僕は復讐をする為に、まず「魔法」以外の事で努力する事にした。
それは正しく「勉強」とか言う奴である。
今の現代では魔法が異様に重視されるようになっている為、勉強出来る奴が悲惨なまでに少ないのだ。
昔の名残で学勉も進学するにあたって一応必要な部類になってはいる。
その為、勉強してトップになれば案外何処にでも行けるという、まさに「魔法に疎い奴の為の救済処置」と呼ぶに相応しい、そんな裏の入学方法があった。
僕はその裏の入学方法で有名校に入り、まずは良い学校に行けなかった奴等を嘲笑ってやろうという子供の悪戯程度の事を考えていたが…やはりそう上手くはいかなかった。
わざと僕を一番後ろの真ん中の席に席替えさせ、その前の席に決まってクラスで一番でかい奴を越させたり、先生が教室から出たのを見計らって、僕のノートを魔法で燃やされたり切り刻まれたりびしょ濡れにしたり…勉強道具を隠されたりするのは当たり前で、勉強する時間を与えてくれなかった。
なので僕は学校には来るが授業を受けず、テストはわざと当日に休み、後日個室で受けた。
テストの答案はいつも次のテストの日に個室で受け取る事にした。
その結果、クラスの連中は僕の事を魔法も勉強も出来ない本物のゴミだと言われるようになった。
まぁ、授業も受けない、テストも当日受けに来ない、ただの出席日数稼ぎ、となれば成績が悪いと思われても仕方ない事なのだが。
…これで下準備は完了したと言っても良いだろう。
「後は無事に有名校に行けるかどうか、だな。」
と意気込んだのも束の間、学校に向かう途中に生徒三人に絡まれた。
「ふぅん?お前が有名校に、ねぇ?」
…誰だこいつ。
「笑わせるのも大概にしろよな、お前じゃ無理だっての…ククク」
…こいつも見た事の無い顔面をしている。
「お前には小卒がお似合いだぜ?ギャハハハハ!」
…独特な笑い方する奴だな。
ま、言われるだけってのもなんだし、取り敢えず睨みつけておこう。
「あん?なんだお前、魔法適正ゼロの脳筋の癖して俺ら特待生三人組に喧嘩売る気か?」
「わからねぇ奴には指導してやんねぇとなぁ?…クスクス」
「俺様の魔法でお前のその汚ねぇ顔面綺麗に焼いてやるよ!ギャハハ!」
全員が別のマンガかアニメに影響されたせいか、統率が取れていないっぽいな。
…にしても失態だ。魔法は一切使えないのに。
このままでは本当に毛細血管まで綺麗に焼かれてしまう。何とか策を練らないと…。
「何考えこんでんだよ!いくぞオラァ!覚悟決めろオラァ!」
先手を切ったのはヤクザ物に影響された妙に細長い男だ。
奴が右手の人差し指を僕目掛けて立てると、奴の指先から無色透明の液体がジョウロ感覚で流れ出す。
「…何処が強いんだ、それ。」
しまった。余りにも戦闘能力としては貧弱すぎて、つい挑発してしまった。
この言葉には、流石のヤクザ役も激怒した。
「おいてめぇ舐めてんじゃねぇぞ!?この能力はなぁ、将来水道代が浮きますねって言われるぐらい良い能力なんだぞ!なんなら飲んでみるか?うめぇからよぉ!」
感情的になってしまったヤクザ役を、にやけてた奴がなだめに入る。
「落ち着け特待生第三号。お前の能力には俺らも感謝してるからよぉ…。」
「うぐ、すまねぇ第ニ号。後は頼んだ…」
「任せておけ三号。お前の尻拭いは俺がやっておくからな。…おい、そこのお前、言っておくが奴は特待生三人組の中でも最弱。奴を倒したからって調子に乗るなよ?」
さて、次は絶え間無く微笑を浮かべるヤバい奴のご登場だ。
「くらえ!我が家に伝わる命の伝統!ヒーリング!」
奴がそう発した直後、柔らかな風が奴自身を包み込んだ。
「どうだ!これで俺は無敵も同然!さぁ、かかって来い!」
「お前、僕が攻撃手段無いの分かってて言ってるのか?だとしたら面白い奴だな」
「しまったあぁぁぁ!そうだったあぁぁぁ!」
逆に為す術が無くなった微笑野郎は崩れ落ち、三号と同じポーズを取った。
「…お前、魔法適正ゼロの癖に俺ら特待生三人組の三号とニ号を倒すとは、なかなかやるじゃねぇか。」
最後に立ちはだかったのは、今にでも突っ込んで来そうな脳筋野郎だ。
…流石特待生のボスだけあって、他の二人とは違うオーラを感じる。
「予め教えといてやる。俺様の魔法は火の属性魔法。
威力は牛の肉を一瞬でミディアムに出来るぐらいだ」
「予めって言ってもお前、最初らへんに僕の顔面を焼くとか言ってたじゃねーか」
「ギャハハハハ!そうだったか?まぁ良いだろ、どうせ能力に変わりはねーんだからよ」
奴にはいつの間にか笑みが戻っていた。
余裕が生まれたという事なのだろうか。
「ほらいくぜ?せいぜい逃げ回るこったな、ギャハハ!」
挑発的な言葉と同時に青い炎が押し寄せる。
緊張と動揺で倒れ込む事しか出来なかった僕は、多少火傷を負ってしまった。
「あっつ…」
「しゃがんで火を避けたか、だが!」
地面に伏した僕の真上から蒼炎を浴びせた。
「熱あぁぁぁぁ!!!」
絶叫しながら地面をのたうち回る。
「フハハハハ!どうした、早く魔法を使わないと本当にミディアムにしちまうぞ?」
どうやら奴は僕が魔法を使いたがらないだけだと思っているらしい。
「お、お前は…、僕に、魔法が使えるとでも…思って、いる…のか…?」
背中の火傷を我慢しながら、奴に問いかけた。
「当たり前だ、なんつったってお前、この世に魔法使えねぇ奴なんかいないからよぉ。」
「嘘…だ」
「嘘じゃねぇさ。その証拠として三号、二号がいるんだからよぉ」
「あ、あいつら…が?」
「おうよ、あいつら、保育園の時は全然能力開花して無くてよぉ、三号は水玉が指の先っちょに付くだけだったし、二号なんか風も起こせねぇから「魔法適正ゼロ」って言われてたんだぜ?」
…正直、驚いた。
僕と同じような人が他にもいたなんて。
奴等も、僕と同様に酷い虐めを受けたのだろうか。
(そんな事より、今は打開策を考えないと。)
気持ちを入れ替えようとするが…
…ダメだ、色々な感情が邪魔をして、良い案を見出せない。
考えても、考えても、あいつの話が脳裏をよぎった。
そんな時。
「なぁ、お前はどうしたいんだよ」
「な、何を…」
「魔法の事に決まってる。そんまま諦めちまうのか?それとも三号や二号みたいに使えるようになりたいのか?どっちだ」
「そ、そりゃあ…使いたい、けど。無理な物は無理だ。出来っこない、さ」
「ハッキリしやがれこのボンクラが!」
彼の言葉と同時に発された炎は、蒼炎から紅蓮の炎へと変化していた。
そしてその炎は僕の身体全体を覆い、風のように消え去った。
「あ、熱、い…?」
熱さは感じたのだが、蒼炎の時より柔らかく、優しい炎になっていた。
「お前は!ずっとやられっぱなしで良いのか!やり返さなくて良いのか!このままずっと、永遠に!魔法で
焼かれ、濡らされ、切り裂かれ、虐められて!なあ、どうなんだよ!」
彼の言葉と一緒に浴びせられる炎は、言霊そのものであり、僕の身体にも、心にも深く刻まれていった。
「僕、だって…」
「あぁ!?」
「僕だって…!」
「聞こえねぇなぁ!!」
「僕だって、魔法が使えるように、なりたいんだあぁぁぁ!」
その瞬間、黒い煙が手の平から勢いよく飛び出し、全ての炎を掻き消して彼に命中した。
「だ、出せた…僕の、魔法」
だが、同然の如く彼は生きている。
苦しんでいる様子も無い。
どうやらこの能力だけでは復讐する事は出来ないらしい。
「ごほっごほっ、良く、出来たじゃねぇか…」
考え事をしている内に、彼は立ち上がり、声を発した。
「はぁ、はぁ。まだ、やるのか…?」
久しぶりに魔法を使ったせいか、一気に疲れが溢れ出た。
今にでも倒れてしまいそうだ。
「いんや、もういいさ。おい、お前ら!引き上げるぞ!」
そう言い残すと、三号と二号を両腕で担いでその場を後にした。
「なんだったんだ…奴等は」
その言葉を最後に、僕はその場で倒れ込んだ。