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唯一無二の異能者  作者: 陽炎
幼少期
14/57

卒業、本番。

「…うーん、眩しい」


…暖かな日差しが寝ぼけている僕を容赦なく襲った。


「あー、えっと、ここは…僕の家?」


全体が少し痛いが、気になるほどでも無かった。


…だが何故か後頭部だけは腫れたように痛む。


「イテテ…回復、回復」


僕は手を後頭部に付け、風を呼び起こした。


「ふぅ…」


どうやら痛みは引いたらしい。


…アレ?僕、回復魔法なんて使えたっけ…?


…ぐるるるる


「…腹減ったな、飯でも食うか」


きっと回復魔法を使えたのは気のせいだろう。


だって僕の魔法は霧を出す事だけなんだから。


そう自分を言い聞かせながらリビングに向かった。


「さぁ〜て、今日は何にしようかな」


ルンルン気分でキッチンに向かおうとすると、リビングのソファーから何やら人影が見えた。


「…だれか、いる?」


恐る恐るソファーまで近付くと、そこには…


保険の先生が横たわっていた。


「…先生?」


どうやら爆睡してるらしい…並大抵の事では起きなかった。


しばらく先生の寝顔を見つめていると、彼女はまぶたをゆっくりと開いた。


「…んん」


よだれがちょっと出ていて子供っぽい。


…容姿は全く子供っぽくないが。


「…先生、何故ここにいるんですか?」


とりあえず状況の確認をする為、彼女を起こす事にした。


「…ん、なんだ…君か。どうかしたのか?」


「いや、どうかしたのか?…じゃないですよ先生、なんでこんな所で寝てるんですか」


ハッキリと申し上げると、寝てる事より家に入り込んでいる事の方が状況的にやばいのだが…。


「あぁ…昨日君をここまで送った後、ちょっと美琴に挨拶しに行っててな…もう夜中だったし、ここで寝泊まりさせて貰う事にしたんだよ」


「美琴…?誰ですか、それ?」


「親の名前も知らんのか〜…?そんなんだといざって時に困るぞ?」


僕の…親?


いや、そんなわけがない…


灰になった母親に挨拶だなんて。


そもそも僕は遺体を何処にやったかも言ってないし。


…だとしたら、父親?


いや、それはあり得ないだろう。


第一、父親の名前が「美琴」な訳ないだろうし…多分。


…ではこの人は一体何を言っているのだろうか。


気になった。


「あの…僕、昨日何かしましたか?」


「あぁ…、昨日の君は凄かったな。魔法もすぐに使いこなせるようになって、工夫も出来るようになって…ホントに「魔法中等学校」に進学する覚悟があると、私に身をもって教えてくれた」


「えっ…?」


「しかも私の剣にも怯む事無く立ち向かったんだ。君の強さは私がほしょぅ…っていうか、どうした?そんな顔して」


「あ、いや…なんかごめんなさい。僕、昨日の事全然覚えて無くて…。ハッキリ言うと、「魔法中等学校」に進学するとかなんとか…そういうの、全然分からなくて…」


「…あ〜そうかそうか、そうだな。無理もない。なんせ君は後頭部をえらく損傷してたからな」


後頭部に損傷…?だから起きた時痛かったのか。


「でも…確証が無い。だから先生の言ってる事、信用出来ません」


後頭部の痛みなど勝手に出て来るものだ。


あの白髪頭みたいに、人の考えを読める能力が彼女にも使えたとするならば、後頭部が痛んだ事もお見通しってわけだ。


だとしたら、彼女の思惑はなんだ…?


…考えられるのはひとつ、「魔法中等学校」への強制入学。


彼女がもし、虐めグループのリーダー的存在で、そのグループの連中と同じ学校に行かせようとしていたら…?


可能性は、無くは無い。


「確証が無い…ねぇ。じゃあ、これを見たら少しは信じてくれるかな?」


そう言うと彼女は両手を合わせた。


…そして、右手で何かを掴み、引っ張りだした。


「それは…剣ですか?」


白く輝く刃の周りには、精電気のようなものと、白い光を放っていた。


…この引き出し方、剣の特徴、電気…どこかで見覚えがある。


確か、昨日…の、夜…魔法を教わったついでに…そう、確か先生と勝負をしたはずだ。


そして最後の最後で、霧が使えなくて地面に頭部をぶつけたんだっけ…。


「…ありがとうございます、思い出せました」


「そう、なら良かった」


僕の記憶が戻ったかどうか確認した後、彼女は剣を投げ捨てた。


…投げ捨てた剣は、自然消滅した。


「あの、なんで記憶を蘇らせるのに剣を…?」


「君にとってトラウマなんじゃないかと思ってね」


「それは逆効果なのでは…?」


「確かに、人はトラウマを真っ先に記憶から消したがる。…だが、例え完全に忘れていても不意にぶり返す事があるだろう?そういう事だ」


「でもそれだけで全部の記憶が蘇る事ってあるんですかね?まぁ実際、全部蘇ってますけどね」


「…君の場合、おそらくだが昨日の一日そのものがトラウマだったのだろう。集団で虐められ、進学先も変更させられ、挙句の果てに私に殺されそうになったんだからな…トラウマにならない方がどうかしてる」


「はぁ…」


「まっ、そんでもってトラウマになった昨日の出来事の中に当てはまる「鍵」になるキーワードを言うか、現物を見せる事によって、君のトラウマになった事で施錠させられていた記憶がドミノ形式に開いていくって訳さ。…まぁ、失敗する事もあるけどね」


「…なるほど」


「…さて、記憶も戻った所で、君にはいくつか守ってもらわなくてはいけない事がある」


「なんでしょう」


彼女はひとつ大きな深呼吸をして、真剣な眼差しで話を続けた。


「まず一つ目、君はもう中学校の入学式まで学校に来なくて良い。来るな」


「僕は毎日学校休んでるようなものですけどね」


「二つ目、魔法の鍛練は怠るな。使い続ければ使い続けるほど可能性が広がるからな」


「まぁ、出来てもたかが知れてますけどね。純粋な攻撃魔法無いし…」


「そして最後、名前を覚える練習をしろ」


「えっ…?」


彼女の意外な発言に、思わず動揺してしまった。


「…名前を覚えるだけでも、随分と変わるものだぞ」


「…分かりました」


「ふふっ、良い子だ。…じゃあ私はもう帰るからな。卒業式の日には君の家に賞状持ってくるから」


「りょ、了解です…」


「じゃあな」


そう言って彼女はソファーから立ち上がり、歩いて帰って行った。


…名前を覚えない事、何故先生は知っていたのだろうか。


とにもかくにも、僕の長い長い春休みが始まりを告げた。


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